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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
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閑話 【とある騎士の不運】


 すっかり胃が空っぽになった。



 前に馬車の倍は早いという狼車ろうしゃというものに乗ったことがあるが、その時もハーンは、こうして仲間に背中を摩ってもらっていた記憶がおぼろげながらある。


 ……鎧越しにだが。


 狼車よりも揺れは少ないものの、速度はもっと速い時があるほどだ。


 もともと自分で操る馬以外に受け付けない体質の自分には合わないのだ。

 ならば、元の場所においてきた馬を探せばいい。


 他の者の馬はゴブリンにやられたが、逃がした己の馬は、口笛で呼びかければ、すぐに戻ってくる。


 後から追いかける、乗る気はないと何度行っても伝わらない。


 そういった討論をしていると『くるま』の持ち主家族の無口な弟が、見当たらないと言い出して、長女はひどく慌てた様子だった。


 『くるま』の中では素っ気無い感じだったが、騒ぐ様子が年相応に見えた。



 5人の流離人ルエイト



 本当であれ、偽者であれ、これらがイシュルスに入れば、王宮内は騒ぎになるだろう。


 そうでなくとも、両親は大人しいようだが、長男は武術経験がないというのに、ゴブリンを倒せるほどの恐ろしい才を秘めており、長女の異国の顔立ちだは整っており、華やかな美貌と呼んでも差し支えないほどで、人目を引き―――ごほんっ、一般論だが――困っている表情に何とかしてやりたい、と思わせる。


 い、いや、この家族は怪しい!

 信じてはいけない!!


 きっと王子を助けたのだって、裏があるはずだ!

 


 そうしている合間に、騎士たちが動き出そうとするまでもなく、弟は戻ってきた。


 その姿に、にっこりと、長女が満面の笑った。





 ……なぜかわからないが、背筋が凍る。





 一昔前に、第一騎士団の鍛錬に参加したことがあったが、その団長と手合わせをする寸前のような強烈な恐怖を感じた。


 一瞬にして、弟に見たこともない武術の技をかけた。


 背後から、弟の体を横に折り曲げて、さらに追い討ちをかけるように―――っ!!!




 捲れあがった裾の短いスカート。


 露になる肌色の薄い布越しの踝、脹脛、太もも―――淡いピンクの花柄と白レース。





「へ、へぶぅううっ」




 ハーンは奇妙な奇声を上げて、真後ろに倒れこむ。

 その軌跡に沿って、ゴブリンとは違う朱色の血液が飛び散った。


 

 

  ・


  ・

 

  ・


  ・


  ・




「っ…ぅ…」



 横たえる俺の視界には、低い天井が見える。


 ついでに左右に人の気配があり、王子と、仲間と、熊……そうか、俺は鼻血を出して気絶したのか。


 そして、やはり『くるま』とやらに寝かされているのだろう。


 なんと、情けない姿だ。

 この助けられた人生を王子に捧げると決めてたという―――……



「王子に蜜柑あげたら、熊、もふもふしていいって」

「ぐぁっ!!」



 長女の声が聞こえたと思ったら、視界に影が過ぎる。

 頭に激痛が走り、意識が遠ざかった。




  ・


  ・

 

  ・


  ・


  ・




「…ぅ…」



 目が覚めた途端に、頭が痛み、触れるとコブになっていた。


 木目調の天井。

 見覚えのある調度品。


 どうやら、騎士寮に戻されたようだ。

 

 だが、なぜ、玄関先の廊下に転がされているのかが分からない?


 多分だが、適当に放り出されたのだろう。

 コブを作り、鼻血を出した程度の致命的な怪我のない騎士――不本意ながら、無口な弟の回復薬を飲んだためだろう――が医務室に運ばれるとは、思ってなどいない。


 辺りはずいぶん暗く、随分時間が経過しているのだろう。




 あぁ……王子、王子は無事なのだろうか。




 なぜかわからないが騎士寮は妙に慌しく、頭を押えながら、廊下でゆっくりと体を起こした。



「やべーぞ、やべーぞ!緊急召集なんて、聞いてねぇよ!!」



 聞きなれた声。

 がちゃがちゃと、鎧に身を包む人間が走る音。

 


 振り返れば、眼前には鎧に包まれた膝。

 





 ごきゃっ

 





 そんな音を聞きながら、ハーンは、本日三度目の意識を飛ばした。


ハーンよ。永遠に…って、死んでないけど。

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