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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
33/119

Act 32. 迷子です

 赤毛の宰相の話し合いは、さしたる長いものではなかった。



 すでに彼のところに報告がいっているのか、大凡は把握しているらしい。



 先に口火を切ったのは宰相で、まずは騎士達と王子たちを救出したことに対する短い感謝。

 どのような経緯で、来たのか簡単に確認をした。


 もちろん、対応は兄がすべてを担っており、父は放任のままであった。

 よっぽどのことがない限り、自主性を重んじる―――というか、母に被害が行かない限りは、さして行動を起こしたり、口を挟んだりはしない人だ。


 兄は相変わらず簡潔ではあるが、嘘もなく理性的に言葉を発していた。


 だが、最初の二つの話が、会話を滑らかにするための白々しい口上だったのは、私でも分かった。



 まー、だいたい狸と狐どもの化かしあいだよ。

 主に兄が、狐―――宰相は、ゴリラって感じだけど、言葉を聞く限りは、頭も回るような感じだ。



 すぐに、本題へ入った。



「さて、最後に数日後にゴブリンの群れが到達するという話だが」

「可能性の話ですが。確率は高いかと。私どもが信用に足りないのは自覚していますが、せめて確認だけをお願いします」

「すでに、実行済みだ」



 どうやら、国の危険が迫っている可能性があって放置するほどアホな奴ではないようだ。


 そういった後、宰相は口元に手を当てて暫し考え込んでいる。



「近年…いや、今年に入っての魔物の増加は、目に余るものがある。だが、ゴブリンが群れを成すとは信じがたい。ましてや我が国は、強固な城壁と少数とはいえ精鋭の騎士は誉れ高い」



 いや、それゴブリンが知ってるのかい。

 人間同士の話じゃないの。


 それにその精鋭の騎士たちは、30以上のゴブリンに3人で苦戦していましたけども?


 精鋭っていうぐらいだから、一騎当千は必須じゃない?


 まぁ、この国の人口がどのくらいいるのかは知らないけどさ。

 あ、もしかして、まだまだ強い騎士が……え、さっきの団長クラスがうじゃうじゃと??


 こ、こわい。

 それは是非ともやめてほしい。


 でも、あんだけ立派な城壁があれば、大丈夫、か?

 うーん、耐久性があっても、長期戦に持ち込まれたらどっちが不利なんだろう。



「その点は先ほど、確認できましたが、数にはかなわないでしょう。戦争は数が基本です。万が一、城壁が壊されれば、騎士たちは、市民を守りながら戦うことになる。籠城戦となった場合ですが、たとえば同盟国に支援要請するとしても、時間がかかる。兵糧も多く失うでしょうし、混乱した国民が暴動を起こす可能性とてある」



 1人3体の敵がいて、後ろに守る人2人、とかだったら、絶対無理。

 私なら自分の命を守るのも精一杯ってところか、庇って戦ってたら全滅の可能性もあるけど。


 難しいところだよね。


 籠城戦って、篭るってことだよね。

 国民全員の食事がまかなえるかどうか……まぁ、国庫から出すんだろうけど、持久戦は先が見えないから、最善とは言いがたいだろうし。



「…数は」

「最低でも2千以上」



 2千以上かぁ。

 うーむ。学校二つ分ぐらいのゴブリンが押し寄せてくるということだろうか。


 でも、ここも小さい町ってわけじゃないからねぇ。


 意外と余裕なんじゃないの?

 別にわざわざ警告する必要もなかったんじゃなかろうか。



「君の根拠は」

「逆算です。私が人並みの将軍なら、隠密で行動している部隊に人為的な被害がでた場合、出た被害の倍を宛がいます。騎士達と私が倒した数は40強。元々60近く送りこまれたとして、その数を振り分けられるほどの大軍ということになる。定石です」

「ふむ…」



 ……多分、ゴブリンと戦って数数えながら計算、してたんだろうな。


 やっぱりチートかこの男。

 この理系は…いや、これだから兄は、のほうがいいか。



「考えられる予測日数は」

「仲間の死骸を見つけて、こちらが完全に対応する前に攻め込む意思があるなら、5日以内には到着するでしょう。全軍の足並みをそろえなければ、もっと早い」



 宰相は僅かに、想定しているのか、沈黙が続く。


 兄の凄さがようやく分かったらしく――というか、両親と姉は今更ながら、剣呑な雰囲気を感じ取ったのか、困ったような様子である。


 本当に戦争が起こるのだろうか、といった様子である。


 現代日本人には危機感が足りないというが、まったくもって、私にもない。


 早く逃げないと、とか、なぜか、そこまで思わない。

 多分、それは家族がいるからだろうけど。


 それにゴブリンにしたって、生きて襲ってきた所を体感したのは、兄と私だけなのだ。

 両親も姉も、現実味も欠けることだろう。



 それはさておき、私的には、この国がどうなろうと知ったこっちゃない。

 どうせ、縁も所縁もないないところだ。


 ましては兄は恩を売ったらしいが、兄が恩があるわけじゃない。


 さっさと、魔石をお金に交換して、旅の準備をしたら、比較的安全な場へと避難。

 途中で、ゴブリンの群れを通ることになっても、時速百キロで走る鉄の塊をゴブリンが防げるともおもえないし、兄がそんな道を通るとは思えない。


 すぐに兄が抜け穴をみつけるだろう。

 

 ゴチャゴチャと話し込んではいるが、早く終わらないかなー。


 両親も姉も異世界に来たことで、いっぱいいっぱいの感じだし、私は口出しするほど頭よくないし、別にこれなら、やっぱ、兄一人でよかったんじゃないですかね。


 早く、お風呂に入って、眠りたい。



 希望を込めて、ちらり、と扉を眺め―――あれ?



 扉に何故か、いつもより小さい矢印がついている。

 

 取得可能な物についていたのとは色が違うので、見落としていたようだが、なぜ矢印が『赤い』?

 

 兄と宰相も、こっちには気がついていない。

 両親も姉も、その成り行きを眺めているらしい。



 う~ん……なんだろう。



 じぃー、とちょっと近寄って扉を眺めてみる。


 別に何かポスター的なものが貼っているわけでもなく、黒味がかった木製の重厚な扉ではあるが、なんの変哲もない感じ。


 まさか、この扉がアイテムってわけじゃなさそうだし。


 とりあえず、近寄ってみる。


 そうであったとしても、持ち運びはできんし――あ、あれか?城は王様の持ち物だから、とったら犯罪者になるよ、という意味合いの『赤』の矢印か?


 いや、でもそれなら最初から、矢印つけなければいいんじゃない?


 手を伸ばして、矢印の部分に触れた―――んだけど、凄く、冷たくない?この扉??


 


 


 ぱしゅん。






 

 なんか、缶のプルタブ――あの指入れる輪の部分ね――を開けたような音。


 それが響いたな、とか、思ったら、光。

 溢れるような光の帯が足元から一瞬に、目の前を覆った。


 あまりの強さに、目を細めた。んで。





 ―――薄暗い部屋。





 先ほどの書斎よりも4倍ほどデカイ上に、天井が尋常ならざる高さだ。

 二階建ての吹き抜け並みの天井だ。

 

 そこに額縁が多く並んでいて――――まぁ、ここは書斎じゃないわけだ。書斎じゃないのね。書斎どこいったんでございましょうか??


 大事な事なので、3回言いました。

 試験にでるので、赤丸チェック…じゃないってっ!!



 拝啓、数秒前まで一緒にいた我が愛しの岸田ファミリーよ。


 どうやら、もしかしなくても、これって、魔法世界じゃよくある瞬間移動魔法テレポートとかってやつですかね??


 手を伸ばして、驚いて肩をすくめたままの間抜けな格好で、低く低く呻いた。





 ここ、どこやねん……



基本的に何事兄任せ的な岸田一家…迷子になるのは、いっつも末っ子だよね。

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