Act 30. 城壁都市イシュルス
私たちが、門を潜ったのは、さらに30分ほどしてからだった。
ごごごご、と効果音を発しながら開いたが、開放しきるまえにぴたり、と門は動きを止める。
本当に車が通れるかどうかのスペースしか開いていない。
狭っ。
その隙間から、さきほどの第1団長と、複数の騎士たちが、完全なる戦闘態勢で、馬にまたがった状態で数名でてくる。
緊迫した空気が流れた。
第1団長の人差し指と中指を立て、上下に振る手合図で進んだ。
言葉は交わしてないが、軍隊とかでも隠密行動の最中に、あんな手話みたいのするのを前に戦争映画で見たことがあるような気がする。
あんな感じだ。
「すみませんが、極力音を立てぬように、迅速にお願いします」
どっちか、かたっぽだけにしとけよ。
父が反比例する言葉に、わずかにう、と喉を詰まらせたのが分かる。
しかし、その反論も許さぬほど、騎士’sの顔は切迫しているようで、父は困った様子だったが、頷いた。
そのまま父が、一速にいれた。
人と歩くような同じ速度ぐらいなのは、多分、開いた門が異常に狭かったためだろう。
車のエンジン音に驚き馬が嘶く。
カーテンの隙間から、ちらりと外を覗くと、ごつい顔したスキンヘッドの騎士が、音に反応してうろたえる馬を御しながら、私を見下ろしていた。
鈍い私でも友好的ではないことがわかる。
というか、ほかの騎士の視線も似たり寄ったりである。
びっくりして、勢いよくカーテンを閉める。
「超アウェイ?」
振り返ると、反対側のカーテンから外を覗いていた兄が振り返る。
相変わらず、嫌味なほど清清しい笑みを浮かべた。
「まー、人それぞれだろ。客人でもなく、旅人でもない奴が、法律破ったんだ。お前だって自分の町に宇宙人が円盤乗ってきて、銃刀法違反してたら、まずひくだろ?」
私たち、宇宙人的な扱いなの?
なに?銃刀法違反って、レーザービームとか、そんな感じですかいな。
円盤から突如として、頭でっかちで黒目のくりっとした体の細い銀色の宇宙人が、大通りのど真ん中に光臨しているところを想像する。
……ひくっていうか、シュールな映像であった。
ん~…でもまぁ、害がなければ、多分普通に通り過ぎるけどね。
宇宙人だって、なんの前触れもなく大衆の前に立てば、遠巻きになるだろうし、好奇の視線にさらされるか。そりゃそうだ。
一応なんとなくは理解し、兄に頷き、カーテンの隙間から、外の世界に戻る。
城壁の門のアーチを潜り、少し開けた場所から、町――都市というか、都かな?――に入った。
幸い、なのか分からないが、夜なので門が閉まっているため出入りはなかったようで、付近は人が少なかった。
前座席に来ていた騎士が、父を指差しで、方向案内している。
車が入門し、今度は門から外に出ていた騎士たちが戻ってくると、門が閉められた。
ゆっくりと馬の速度に合わせ、道を走る。
少しいけば、人々の姿がぽつら、ぽつら、と見えてきた。
ヘッドライトだけのあかりなのでハッキリはしないが、やはり現代的な洋服を着ている人間はおらず、中世にでてくるような姿だった。
男はシャツにベストにズボン。時々帽子をかぶってるものがいる。
女は踝までのスカートに、袖までのブラウスのようなものか、やはりスカートの丈の長いワンピースのようなものを着ていた。
騎士たちの誘導(護送?)がきいているのか、ちらほらいた人も避けていく様子だ。
馬がきたら普通は避けるか。
それが国を守ってる騎士なら尚更だろう。
それにど真ん中には、馬をつかってない馬車が通ってるわけだから、ちょっとした好奇心がそそられるというわけだろう。
ちら、ちら、と人の視線も感じる。
「町、すご。本物っぽい」
「えーと、本物ですが…??」
とりあえず、無言の家族を代表して、声を上げると、王子が横槍。
そうなんだけどさ。
実感がわいてこなかったが、やはり目の前の出来事は現実なのだろうと印象付ける。
数多の人が住んでるとわかる生活感。
自分の意思で身勝手に動く人々。
たった一つの台詞のために永遠に、動かないゲームの人間のような人なんで実際は独りもいない。
当然といえば当然だ。
ゲームは主人公のための、物語なのだ。
ヒントキャラクターにいちいち生活されてたら、永遠にエンディングはやってこない。
「ってか、騎士邪魔」
ぶーぶー。
外から見たときよりずっと多くの松明があり明るいのだが、馬上の騎士が邪魔くさく、あまり町並みを見ることはできない。
というか、馬上の騎士、前を向け。
こちらにちらちら視線を送るんじゃないってば。緊張するじゃん。
都は、かなりの広さがあるのか、道幅が広い。
二階建て、三階建ての三角屋根の建物が密集していて、通りに面している家は、一階が殆ど、店らしく多くの看板がぶら下がっていた。
ひとつひとつの店は大きくはなく、夜なので、ほとんどがやってなかった。
街灯のようなものもあるが、都も心なしか薄暗い。
幾つかの大きな道と、小さな道があり、途中で大きな銅像がある広場のような場所に出て、銅像を曲がって、ひたすらまっすぐに進んでいく。
綺麗に碁盤の目、というわけではなさそうだ。
うん、迷うな。
映画とかのセットにはない質感である。
画面越しと、現実というやつなのだろうか??
でも、この世界はまるで――…
「モロRPGっぽいね」
「魔法もあるって話だからなぁ」
「中世ヨーロッパ?」
「まぁ、古代じゃないだろうな。馬の蹄鉄が開発されたのが、2、3世紀だったはずだし、時間の概念が細かくないことを考えると、10世紀未満って所だな。うろ覚えだが」
超、アバウトだな、兄。
かなりの開きがあるけど、たしかに中世ってどんな時代なのか、私は知らず、兄が『5世紀かから15世紀の間』ぐらいだと加えてくれた。
あ、あっちの方に、城がある。
うわー、でかー。
暗くてはっきりとみえないのに、月夜に浮かび上がるシルエットが巨大だというのはわかる。
「だが、魔法があるから文明的に俺たちの世界のヨーロッパの中世とは、地形のぐあいからも風土が発展して、似て異なる文化が根付いているだろうし…もしかすると、部分的に発達している所もあるかもしれないなぁ」
こともなさげに告げるけど、結構すごい事だね。
緩やかに流れていく景色を眺めながら、私は首をひねった。
「……兄?」
「ん?」
「そういえば、何処行くの?」
宿場とかじゃないの?
なんか、ひたすら真直ぐに進んでいるような気がするんですけど?
兄は城においてくとしても。
ずいぶん前に、噴水らしき場所を通り過ぎてから、どんどん、店っぽかったのが減っていって、ついには高級住宅街っぽいところに入っている……気がする。
家の良し悪しはわからないけど、若干ごちゃごちゃしていたような町並みが、庭付きの豪邸がチラホラ見えているんでございますが。
「いわれてみれば、そうね?ホテルとかじゃないの?兄さんを城においてから?」
「ええと、宿にはむかってないよ。というか、君達、無一文でしょ?」
「たしか、円は使えないって、いってたわね~」
と母の相槌にそういえば、と思い出す。
ふふふ、おじさんの家にいくだけだもん、お菓子とか、調味料とか買いだめがほとんどで、金もってないし、持ってても必要ない山奥だからな。
どっちにしても、四千円も財布に入ってないと思う。使えないけど。
「一応、僕の家に向かってるんですが」
と、弟王子が、困ったように小首をかしげている。
「僕の」
「家?」
姉の呟きに、私が続いて呟く。
僕=王子。
王子の家=お城。
「はぁ?城?本当に城にいくわけ?そんなに簡単に、一般人いれていいわけ?」
さすがに先ほどのやりとりは冗談だと思っていたらしい姉が、戸惑いを持って声を荒げる。
っつーか、私も宿だと。
そうか、それでこの物々しい警備体制っていうか、騎士の集団。
これは護衛ってか、一緒にお城に帰ってるのね。
うーわー、気がつきもせず、普通に観光気分だったよ。
「え~と、皆様は僕の命の恩人、ですから」
「気がついていなかったのか?」
兄は外を眺めていて顔は見えないが、声は苦笑しているのか、呆れた音を含んでいる。
悪かったな、それどころじゃなかったよ。観光で。
だってさー、私海外いったことないし。
うちの高校、しょぼかったから、修学旅行は国内だったしー。しかも近場。
「最初に言ってよね」
姉の最もな言葉に、珍しく母も頷いていた。
改めて外を眺めると、眼前に迫ってきた壁―――ん?壁??城壁??
「おー、二重城壁か……」
再び、高い城壁がどどーん、と現れるが、最初の城壁よりもやや低く、距離も大してないようだ。
にしても、城壁の中に城壁ってすごい。
またしても城壁のアーチを潜る。
開けた道から見えるのは、古城の尖鋭と、厳重な警備体制。
ひどく物々しい空気を醸し出している。
ぴりぴりしてるっていうか……あと10分ぐらいいたら、胃に穴が開きそうだ。
「この都は、伝説によると古代では魔法技術を駆使して、空を飛んでいた空中都市だったと伝わってるんですよ。それが落下して、多くが地下に埋まってしまったので、残った壁だけを修復して城壁として住むようになったらしいんです」
王子が満面の笑顔で答えた。
よっぽど、この都が好きなのだろう。そう思わせる顔だった。
故郷となるわけだから、嫌いな人間は少ないとは思うけど…誇りに思うのもちょっとわかる。
しかし、空中都市かぁ……ちょっとしたロマンだね。
「へぇ~…すごいわねぇ」
「ほほう、歴史ある魔法都市ってわけか……遺跡が残ってる、と地面を掘る阿呆がいそうだな」
「ははは、実は結構昔に、一獲千金を狙った冒険者たちが穴を掘って大変だったと言われたます。勿論、王宮の調べでは、地下5メートルまでなにもなかったんですけどね」
兄が子供のように目を輝かせて、王子の話に耳を傾ける。
姉も少しは興味がわいてきたのか?
ちゃんと聞いているようだ。
「僕たちの祖先がその空中都市の住人だったという話ですが、残念ながら前に大火に見舞われて、文献は消失してしまったので、たしか、というわけではないんですけどね」
「伝説の空中都市の子孫ってわけか」
「はい…僕は、そう信じてます」
うわ~、いい笑顔しちゃうね。若いって素晴らしいね。
「ん?」
って、あれ??
なんだろう、あれ。
城の庭と思しきところに、なんか骨組みの塔みたいのが立ってるけど……??
その天辺に、何かがくるくる回っている。
まるで、鳥みたいな形の……暗いからハッキリしないけど、なんか見覚えがあるような、ないような。
すぐに城の影に隠れちゃった。
「どうした?」
「……なんでもない」
気のせい、かな?
まぁ、いいや。
先頭を走っていた騎士達が道を開けた。
「あ、あそこですね。馬車を収納している納屋なんですが、そこに入れてもらえれば」
と、扉が開けられた馬鹿でかい倉庫のようなところに、車を進入させて、開いてる場所にバックしていれた。
すると、車がバックすることに王子は一々驚いていた。
するだろう。車だから。
バックしなかったら、故障してるよ、それ。
まぁ、馬が自らバックしたりしないから…いやしないと思うから、珍しいのかもしれないが。
近くには厩舎があるのか、エンジン音に驚いて嘶いているのが聞こえる。
そうして暫くぶりに、私たちは外にでる。
体を伸ばしていると、兄は荷台の後ろを開けてできて、続いて弟王子、熊王子が――近くにやってきてた騎士が硬直する姿が笑える――降りていく。
まだ転がっている騎士(目つき悪)は、同僚の騎士らしい男たちに担がれて城に消えていった。
それから倉庫のような場所からでると、騎士たちの集団が出迎えた。
勿論…大歓迎という空気はない。
出迎えや、警護というよりは、完全なる護送だ。
うう~ん、怖いよね。
私は、ささっと姉の背後に隠れてみた。
「―――ようこそ、我がイシュ城へ」
ぴりぴりとした空気を感じながら……弟王子はまったく気がついていないのか、にっこりと微笑を浮かべていた。
読みやすくなってるかなー。
なってるといいなー。