Act 26. 一発殴れますか?
とりあえず、周囲に虫除けスプレーを撒き散らす。
基本的に煩い。
つーか、時折頭触ったり、肩に乗っかってないか?
なんか感触があるんだよね。怖い…怖すぎる…小さな手の感触がいたるところに…透明人間に体を触られて―――セクハラ!セクハラ禁止!
こう幽霊に取り憑かれた人の感じがなんとなく分かる。
いずれ肩こりが起こるであろう重みだ。
やだー。すげー、やだー。
あと、耳の奥が山頂にいるみたいにキーンってなるんだけど。
私がホラー好きじゃないって知ってての狼藉??
「ヴぉはっ!!だめ!そんなことしたら、精霊遠ざかってるし!」
いや、遠ざけてるんですけど。
煩いんですけど。
怖いんですけど。
慌てる騎士(チャラい)はガン無視して、音のする方向にシューと一吹き。
後々、このスキルが、役立つかもしれないが、とりあえず今はいい。
見えないから、私には恐怖しかないよ。
っていうか、みえたらみえたで、恐怖だけども。
始終、誰かに触られたり乗っかられたり、ほっぺをつんつんされる生活なんてやだ。
臭くなってきたので窓を開けておくか。
姉に殺されそうだし、うん、ごめん。
あ~…無言で睨まないで、恐怖死するから、臆病者私。
私のせいじゃないよ!文句なら、神様にいってくれ!神様に!
「ミコは見えてないのか?」
精霊どころか、幽霊すら見たことないから、私。
てか、兄、見えてるのかいな?
凄いな。チート、チートと思っていたけど、実は幽霊まで見えていたんだよね。みたいな。
いたこ――あれ、男の霊媒師ってなんていうんだっけ?
「いや、俺も見えてない……あぁ、そうか、確かに煩いな。っつか、言われてみれば、耳の奥がキーンってなるな。や、虫除けスプレーじゃ撃退できないと思うが」
「いや、その虫避けすぷれーとかで、すごい遠ざかってるんだけど!?」
そうか…精霊って、虫だったんだ。
知らなかった。ってか、私の世界に精霊なんていないから、知ってた方がすごいか。
異世界、新発見だね。
「ミコ、多分だが精霊は昆虫類に分類されないとおもうぞ」
「………精霊は昆虫ではありません」
騎士(毒抜き)が青ざめた様子で、がっくりと肩を落としている。
「ご自分の命が惜しいのでしたら、神官の前で、そのようなことを言わないでください」
私言ってないから。
兄が勝手に、人の心を読んでいってるだけだから。
殺されるのは兄のみだな。
「精霊は、一部の魔力の高い人間にしか見えませんし、教会で神聖視されておりますので」
「すまんすまん。でも思ってたのは、ミコだから。殺されるとしたらミコだけだな」
同じ事思ってるよ。
兄と同じこと思ってるなんて、私なんて嫌なやつなのだろう。
あんなおっかない思考の兄と一緒だなんて。う、うぅ。
あれ、もしかして、騎士(チャラい)は実家がお金持ちな上に、魔力が高い??
それはさておき、耳がキーンとしなくなってきたところで、もう一度、ステータス表示。
【岸田 真実子(18)】 職業:盗賊(Lv5) サブ職業:専門学生(Lv12.)
HP:112/242
MP:34/154(+5)
【筋力】 22
【俊敏】 78(+5)
【知性】 19
【直感】 134(+3)
【器用】 26(+3)
【意思】 18
【魅力】 21
【幸運】 87(+11)
【技能】 [悪運] [調査] [一枚の壁]
[集中][虫の知らせ][敵索]
[五感強化][俊足]
[精霊ホイホイ]
【補正】 母の慈愛 父の加護 パティカ神の加護 イシュタル神の加護
【EXP:4761】 【次のレベルアップまで:11】
【ボーナスポイント】 471P
なんか、技能が3行もあると強そうだ。
しかも、イシュタル神の加護のせいなのか、直感、MPにポイント加算されてるし。
てか、技能のオンオフとかないのかな。
精霊ホイホイいらないんだけど。
まぁ、でも、ふふふ、この数時間で、ステータス倍ぐらいになってない?
直感だけだけど、3桁超えてるし…にやり。
兄を倒すのは無理そうだけど、王子に王家の秘宝を返したから、私だって一発殴るぐらいは――……
【岸田 雅美(25)】 職業:戦士(Lv13) サブ職業:ゲーマー(Lv37)
HP:541/1455 (+50)(+2%)
MP:37/311 (+2%)
【筋力】 132 (+5)(+2%)
【俊敏】 104 (+5)(+2%)
【知性】 121 (+2%)
【直感】 79 (+2%)
【器用】 51 (+3)(+2%)
【精神】 108 (+2%)
【魅力】 112 (+2%)
【幸運】 42 (+7)(+2%)
【技能】 [策略] [不幸中の幸い]
[一枚の壁] [剣技] [守護盾]
[底力] [慧眼] [調査]
[五感強化]
【補正】 母の慈愛 父の加護 マルス神の寵愛 天才補正
【EXP:7928】 【次のレベルアップまで:319】
【ボーナスポイント】 97 P
無理。
絶対、無理。
てか、天才補正ってなに!?
ゴブリンとの戦闘終わったとき、そんなのなかったよね?ね?
私がみてなかっただけ?
ざくっとしかみてなかったけどさ。
私、使えるか使えないかよく分からない技能が8個になって喜んでいる場合じゃないよ!?
兄も技能が増えてる上に、直感と器用と幸運以外、三桁超えてるし――ってか、頭でっかちムキムキマッチョかいな!
HPにいたっては、まさかの千超え!
騎士(目つき悪)のHPを、完全に勝っちゃってるし!
騎士たちだって、さっきレベル上がって最高でも騎士(毒抜き)がレベル26とかなのに、兄、初期職業とはいえもうLv13だよ。
鬼だ。チートだ。なんて羨ましい。
無理だ…兄の本気の一撃で、死ねる自信がある。
くどい様だが、私は盗賊レベル5だから……。
「ははは、気にするな。ミコ。精霊ホイホイも、技能っちゃ、技能だからな」
そう思うなら、爽やかな笑い声を止めろ―――ってか、せめて『マナ・ゲット』って呼んでよ!
ゴロ悪いけど。
「なに、そのゴ●ブリホイホイみたいなの?」
「あぁ、話すと長いんだがなぁ――ミコ、魔石を振り上げるのはやめなさい。お兄ちゃん、逃げ場ないし周囲に被害被るから」
大丈夫、私のコントロールならば、兄のみを抹殺できるから!
超テンション下がるよね。やる気でない。
あ、でも待てよ?
私、まだボーナスポイントあるんだし、それ使えばいいんじゃないの?
よし、兄に魔石を放り投げるのは、後にして―――……
NEW 【盗みLv1】 15P
NEW 【気配遮断LV1】 40P
NEW 【必中LV1】 30P
NEW 【鍵開けLv1】 20P
ふははは、全部、技能を修得してくれるわ~~!!!
なんとなく技能の豪華さ…いや、豪華じゃないけど、多さで兄に勝っておこう。うん。
そこ以外に勝るところないし。
ボーナスポイントは471Pあるから、ドカンと俊敏に22入れてぴったり、100にしよう。
「っていうか、ミコ」
ん、なにかね、姉。
私今忙しいんですけど?
兄を倒すのはあきらめましたが、一発殴るための下準備で――そして、そのまま逃走するという輝かしい未来に向かって。
「なにかぶつぶついいながら、百面相してるわよ?」
え、えええ~~~!!!!!
まぢで??独り言いってるの?百面相してるの、私。
「……気がついてなかったの?っていうのか、今まで自覚なかったの」
全然。
にやにや、ぐらいはしてたかもしれないけど、それ以外の表情は顔には出してないと思ったんですけど、なに、じゃあ、ずっとぶつぶつ言い続けてたのか?
「さっきも、3行とか、兄、殴るとか…」
「お~…??喧嘩なら、ネット販売でも買うぞー?兄弟喧嘩で殴り合いとかも楽しそうだな」
こわっ!!
兄、こわっ!!
にっこりと、人の良さそうな顔をして、目が輝いてるよ。
胡散くさい!胡散くさすぎ!!
楽しそうとかいうなっ!絶対一方的にサンドバックされて終わりだっちゅーねん。
天才補正の持つ戦士レベル13に対して、私――しつこいようだが、レベル5だからね?普通の盗賊の――が喧嘩を売るはずもない。
自分、なんかむかつくんで、兄、殴りたいだけですから。
応戦されたら、3回ぐらい死ぬし。
「やめなさい。ミコ死ぬから」
うん、うん。
姉はわかってるね。
「大体ね、その『ごぶりん』ってのと戦うのは兄さんの勝手だけど、それにミコを巻き込まないでよ」
そうそう、兄は勝手だよね。私、大変迷惑して――って、あんたがレンチ渡して、外に放り出したんだろうが!!誰だよ!兄と一緒に行けっていったやつ!!
元凶はお前だ!
「顔に傷が残ったらどうするのよ。お婿にいけなくなるじゃない」
そうだね、顔に傷は男の勲章――って、え、婿?お嫁にいけない、じゃないの??
姉、何度も言うけど、私、妹だよ。
口は悪いし、家族好きだし、ゲーム好きだし、時々やんちゃもしちゃうけど、股間の間に、ゾウさんはブラブラしてないんだよ?
しかも、なんで、婿入り限定なんですか?
いや、騎士(毒抜き)よ。
そこで嬉しそうに、目を輝かされても。
よしよし、って額の擦り傷を優しくナデナデされても、なんか納得いかないのは私だけですか……?
「いやぁ~…あんなに出てくるとは。別にたいしたことなかったよな、ミコ」
あったよ!!
たいしたことあったよ!
レベル1の盗賊を、弓兵のゴブリン3体と戦わせようとしてたでしょ!
あ、これ、死んだな―――って思ったのは、4,5回どころじゃないし、魔石なかったら死んでたよ!
体力回復薬とか、あんなに大量にゴブリンが持ってなかったら、兄だって死んで―――
……。
…………。
―――んん、私死んでも、兄は普通に生き残ってるような気もするけど。
ともかく、騎士(毒抜き)は確実に死んでたよ。
まったく。
行き当たりばったりとか、その場のノリとかで、突っ走るのやめなさーい、って父に前言われたんでしょ?
まぁ、兄なら、それでもチート能力で乗り切っちゃうだろうけどさー。
はぁああ、チートな兄を持つと苦労するねー。
しかし、なんでゴブリンは、あんなに大量に体力回復薬持ってたんだろう。
ゴブリン、準備よすぎだろ。
これが兄のチート能力の付属というのなら、殴るということを考え直さないといけないかなぁ。
いや、あれほどの集団でゴブリンはみかけないっていうし。
もしかすると、どっかの村でも襲う気で、準備して森の中をうろうろしてたんだろうか?
数えてないけど、30体以上の死体はあったよね?
騎士クラスでも、ゴブリン2,3体でも倒すのが難しい――うん、兄はぼこぼこ倒しておりましたけど――んだから、普通の村人じゃかなわないだろう。
この世界では意外に、ゴブリンは強いらしいし。
子供程度に頭は回るんだって。
スライムと同じくらいの雑魚キャラかと思ってたけど、違ったのね。
…?
あれ…?
いま、なんか、すごく引っかかった。
さらっと、流していい考えじゃ、ない、気がする―――な、んだろ?
すごく、不安になってきた。
ゴブリンはどこかの村を襲う気だとしても、全部、兄と騎士が倒したから大丈夫なはずなのに、不安がとまらない。
これが水に墨を垂らすようにというのだろうか。
もしかして、兄が苦しそうに、してたのに、関係がある……?
家族が城に滞在するのに、快くない原因?
「―――っ!!!」
私は立ち上がり、兄が仕舞った魔石の入ったコンビニの袋に手をかけた。