Act 25. 精霊は見えませんが…??
殺意を覚えたり覚えなかったりで、丸1日分の食料を使った。
ホットサンドという軽い食事ではあるが、プラス4人――熊も人でよかったんだっけ?――のお陰で、食料は、カップラーメンを抜けば、3日間ぐらいは食いつなげるか。
節約しても、生ものがあるから、いくら母でも5日も賄えないだろう。
別に兄以外は並みの食欲だが、兄の胃袋は、時と場合によって、尋常じゃない量を食べるからなぁ。
いや、一般的な男はそんなものなのだろうか??
私も、2つのホットサンドを平らげて、魔法瓶に残る紅茶を啜り、息をついた。
30分近く、ずっとホットサンドを焼き続けていた。
自分で言い出した事ながら、面倒な。
あとで食器類も洗わなければいけないので、汚れ物のコーナーに纏めて突っ込んでおく。
ホットサンドメーカーは拭いておけばいいか。
「あの道具に挟めるだけでパンの柔らかさ、カリカリ感がでると?その『さんどいっち』とやらは、具材がシンプルなのにあれほどとは」
「それに~、あの酸味の利いたクリーム色のソースみたいなのって、食べたことないよ~」
「ええ、凄く白い鶏肉のようなものと相性がいいですね」
背後で凄いホットサンド論争が起きてる。
クリーム色のソース?マヨネーズ?なのか?というか、食ったことないって…あまり食事関係に期待はしないでおこう。
白い鶏肉っぽいのって、シーチキンのことだろうか。
弟王子ですら、興奮気味ってどうよ?
大体、お城とかって、毎食、満漢全席――偏見ですけど――がでてきたりするんじゃないのかいな。
「パンは元々買ってきたものだからわからないが、クリーム色のソースのようなやつはマヨネーズだな」
「まよねーず?」
「あ~…えと、卵と酢で作った調味料みたいなものか?」
正確には、卵、酢、油、塩だけどね。
うちは、姉が少しだけどアトピーがあるから食事には気を使ってるし、マヨネーズとかケチャップくらいなら平気で作っちゃうもんね。結構時間かかるけど。
でも、母の作るマヨネーズの方が美味しい気がする。
ジャムは匹敵するくらいまで入ったと思うんだけど、甘さは好みが分かれるから微妙。
「あと、白い鶏肉ってのは、ツナだな。え~…海の魚を保存食用に加工したやつだ」
さすがに兄も、当たり前のようにあるものを、説明するのはひどく難しいものだ。
それでも、分かる範囲で丁重に説明していく。
「『つな』は魚なんですか…川と湖がありますが、海、となると…ふぅ」
がっくりと、肩を落とした王子がため息をつくほどなのだから、魚介系の心配もしよう。
魚は川魚とか、ばっかりだろう。
まちがっても、タコ、イカ類が店頭に並んでいないようだ。
あ~がっかり。
たこ焼きが食べたくなったらどうするんだよ。
「べつに、鶏肉でもホットサンドはいけるぞ?まぁ、誰かさんの気が向けば、だが」
いや、お前も作れるだろ?朝自分で作って食べてってるし。
王子、期待された目で見られても、私、家族と動物と女子供以外のためには、動かない主義だから。
んん?王子は14歳だから子供…いや、カップラーメンの恨みがあるからな。駄目。
食べ物の恨みは恐ろしいんだからね。
ちなみに、でかい野郎どもを労う気持ちは欠片もないぞ。
熊がどうしてもって、材料用意するんだったら、一回ぐらい作ってもいいけど――って、言葉通じないけど。
だが、熊以外は断る!
「――…母のほうが美味い」
ぼそり、と呟くと、背中に集中していた視線は、助手席へと向かう。
半開きの熊の口の中に半分にしたエクレアを突っ込む。
残念だが、自腹なのでコンビニで買ってきたこれは自分の分しかないのだよ。野郎ども。
いまや、コンビニとはいえ、クオリティーが高い。
うまいか?うむ、当然だ。
美食の(自称)私の舌をうならせるぐらいのものなのだよ。熊君。
私は母に詰め寄りそうな雰囲気で会話をしている皆に背を向けたまま、デザートを食しつつ、横を見ると、熊も口を両手で押さえて、もっしゃもっしゃと咀嚼しながら、視線だけで私を見た。
指を一本立てて、口に当てて『秘密』だと伝えると、こくこく頷いている。
というか、このジェスチャーで秘密の意思表示が一緒だなんて、異世界なのに凄いな。
どちらにしても、熊はしゃべれないけど。
あんまり暴れられたら、ばれる。
ん?カスタードクリームがついてたのか、熊が私の頬をペロペロしてくる。
可愛いなぁ。
よしよし。もう大丈夫かな?
じゃ、私、自分の席に戻るから。
よしよし、後生の別れじゃないが、熊毛とはおさらばせねば。
後部座席――は、騎士が身を乗り出すとびっくりするので、足置き場の窪みに体をはめ込んで、体育座り。
このフィット感がいいよね。
狭いところ、最高。逆に広いと落ち着かないし。
トラの敷物に一層掻き寄せて、包まる。
異世界にきたってことで、興奮しすぎていたせいか、テンションがようやく落ち着いた。
やっぱり、母がいつも言っているように、空腹ってのはよくない。
兄が何に苦しんでいるのか理解できないけど、何が起こるかわからないので、不測の事態に備えて、いろいろやっておこうと思う。
主にステータスを弄りたい。
いや、ただ自分のステータスを眺めて、うっとりしたいだけだけど。
レベルが連続してアップしたから、ボーナスポイントが増えているし、職業欄もちょっと増えていたので、思いきって――こっそり、サブ職業を変えてみようかなぁ。
兄も、騎士たちと話しこんでいて、私のコミュニケーション能力ではぶっちゃけ入っていけない。
己のステータスを表示させる。
【岸田 真実子(18)】 職業:盗賊(Lv5) サブ職業:専門学生(Lv12.)
HP:112/242
MP:34/149
【筋力】 22
【俊敏】 78(+5)
【知性】 19
【直感】 131
【器用】 26(+3)
【意思】 18
【魅力】 21
【幸運】 87(+11)
【技能】 [悪運] [調査] [一枚の壁]
[集中][虫の知らせ][敵索]
[五感強化][俊足]
【補正】 母の慈愛 父の加護 パティカ神の加護
【EXP:4761】 【次のレベルアップまで:11】
【ボーナスポイント】 371P
おお~~~。
なんか、私、ちょっと強くなったよね。きっと。
HPもMPも倍とはいわないけど、結構あがったし、ステータスも、ちょびっとずつあがってるし。
たぶん、盗賊の特殊技能だと思うんだけど、『俊足』ってのが増えてるし。
あと、ちょっとだけ、ステータスの補正も入ってるし、これがパティカ神の加護とかのせいだろう。
なんだろう――素早さと、運があがっているって、碌な神様じゃない気もしなくもない。
聞きたいけど、騎士と兄が話しこんでるから、今は無理だな。
あ、必殺技使えるようになってる。
【スマッシュ】 消費MP 10
連続2回攻撃をすると、クリティカルヒットになる。
中距離系の職業だし、まぁ、こんなもんかぁ。
近距離戦向きの戦士の『クロスエッジ』に比べるのが悪いか。
レベル5だし。
後、習得できる技能が増えたのはいいね。
【集中Lv2】 20P
【五感強化Lv2】 35P
【虫の知らせLv2】 35P
【敵索Lv2】 60P
【調査Lv2】 50P
NEW 【盗みLv1】 15P
NEW 【気配遮断LV1】 40P
NEW 【必中LV1】 30P
NEW 【鍵開けLv1】 20P
あー、うん。ちょっと期待した私が馬鹿だった。
完全に盗賊スキルじゃない?
この最後の三つを選択すると、盗賊か暗殺者系、一直線のような気がするんだけど。
うん、保留しよう。保留。
あれ、ステータス一部光ってるけど、なにこれ――あぁ、そっか、さっきの蜜柑っぽいな。
そういや、父と母のステータスも光ってたっけ。
神託と書かれているけど…新しいウィンドウ画面が開かれる。
NEW 【イシュタル神からのお知らせです】 必読 ☆三
なに、この迷惑メールみたいなやつ。
すごく開ける気うせるけど、なんか見ないと見ないで気になるな。
【タイトル】イシュタル神からのお知らせです。
このたびは、【イシュタルの祝福のオレンジ】をご試食いただきましてありがとうございます。
シュルルの木を見つけた貴方。なんて幸運な方でしょう!
栄養満点、滋養強壮。病気知らずですよ?今流行の魔枯病なんて、い・ち・こ・ろ☆
よろしければ感想くださいv
今後の生産に反映させていただきます。
祈祷を送りますか YES OR NO
……。
…………。
なんか、こう、久々にイラっとさせられたというか。
なに、あのオレンジは、実験的な感じなの?イシュタル神、神なのにアフォ的な存在なの?
っつーか、母さんに食べさせちゃったでしょうが!
母に謝れ、母にとは神相手にかけずに、控えめに一言。
「……殺意を覚えるほど、酸っぱい」
以下の分を送りますかという続けての文面に、私は迷わずYESボタンを押した。
落ち着くために、ステータスを放置。
しようと思ったのだが、ものの数秒で、ちゃららーんと嫌な音がする。
みれば、光るウィンドウ画面が出現し【返信】と書いてある。
NEW 【返信:イシュタル神からのお知らせです】 必読 ☆三
くっ、神め!は、早い!お前、どれだけ暇人なんなんだよ――いや暇神なんだよ。
それとも自動なのかいな?
私は苛立ちに任せて、ボタンを押す。
【タイトル】返信:イシュタル神からのお知らせです。
やだぁ~☆味じゃなくて効果ですよー。
あれ、なんで、生で食べる人、多いんですかね?
ちょー不思議です(=0=;)
でも返信ありがとうございましたー。
初めての返信の記念と通常返信ボーナス送っておきますvv有効につかってねぇv
か、顔文字使ってきやがった。
っつーか、なにボーナスって!嫌な予感がするんですけど。
慌てて全体ログを立ち上げると、イシュタル神の加護という項目で、プラスされている。
――― ボーナスポイントが、100加算されました。
よかった。なんか、特に変なのはない。
安堵に胸を下ろすも、全体ログがまだ続いていた。
――― 補正[イシュタル神の加護] が与えられました。
――― 技能[精霊ホイホイ] を覚えました。
せ、精霊ホイホイ?!なにこれ!よからぬ名前に戦慄が走る。
なに?このゴキ●リホイホイ的な感じで名前付けちゃってるんですかい!?
すごーく気になるんですけど!!
くっ、これが神のなせる業なのか―――この、すごい好奇心をそそる感じが。
[精霊ホイホイ]
精霊と契約を結ぶ際に、多くの種類の精霊が集まる。
自然と精霊の加護が与えられる。
ん。名前のわりに、普通だ。
よかった。
うっかり、精霊を集めて倒しちゃう的な要素が入ってなくて―――人知れず、精霊が周囲で倒されているのなんて、なんか目覚め悪いし。
つーか、名前変えろよ。普通に吃驚するから。
しかも、マナゲットってゴロ悪いね。
「ん?」
うん?――なんか、蝿が飛んでいるような音がするんですけど、注意深く周囲を見渡すも、なにもない。
ちゃんと、虫除けスプレーはつけてきたんだけどな。おかしいなぁ。
とりあえず、スプレー出すか。
鳥肌。
なんだ―――今、誰か私の髪の毛を触ったような??
気のせいかなぁ。気持ち悪い。
ん?どうした熊、荷台から両手を振ってるけど。
ごめんな。うがうがじゃわからないんだ――つーか、ファンタジーなんだから、人語しゃべれ。
いや、無茶か。
小首を傾げると、結局あきらめたらしい。
兄との話しに夢中の騎士(チャラい)をゆさゆさと背後から揺さぶる。
「ん??どうしたの、王子―――うぉわっ?!!!!」
なんですか?
人の顔を見て、あからさまに驚くってマナー違反じゃありませんか。
っつーか、さっき何度も見たでしょうが。
「どうした、チャイラ」
「ど、どうしたのって、すごいことになってるけど!?」
ありえないと言わんばかりに、首を左右に振っている。
「すごい、チカチカしてるよ!多分、色んな精霊が集まってるんだと思うんだけど!?」
………精霊ホイホイか。
そんなに集まってたのかぁ…まったく、分からないんだけど。
もしかして、この虫の羽音というか、耳鳴りみたいなのは精霊の仕業ですか?
まったく見えないんですけど、音だけって気持ち悪いなぁ。
他の人には見えないらしく、慌てているのは、騎士(チャラい)だけなのだが。
あと、熊。
「ミコ?」
いや、私は何も。兄よ。そんな呆れた顔をされても、困る。
文句なら、イシュタル神に言ってくれませんか。
先ほどのメールっぽいを表示させて、全体ログを表示させて[精霊ホイホイ]を指差す。
「―――お茶目な神様だな」
兄の顔が笑っているけど、目が笑ってないよ。
たぶん、チャイラは精霊の光をぼんやりと感じれたりします。
あと、熊王子も。