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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
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Act 01. 岸田家の人々

すみません、第一章の最初から投稿しなおしました。

岸田一家の名前が少し変更されました。


7月27日現在。

 自宅から高速に入って2時間。

 最寄のインターを降り、国道を3時間のあたりで、ゲームも飽きた。


 兄のパソコンに入ってる18以下お断りの――タイトルを口にするのも憚られる――ゲームのアイテムをこっそりコンプリートしてあげた、優しい末っ子・岸田真実子きしだまみこです。


 家族の中では通称・ミコ。


 ついでに差分のエロイベント回収率100%にしてやったよ。

 泣いて喜ぶがいい、兄よ。


 ぷぷぷ……次、立ち上げた時の兄の顔が見ものだ。



 ノートパソコンを閉じて、魔法瓶に入れてきたアールグレーを飲みながら、一息つく。

 

 少し肌寒いせいか、喉を抜けて、五臓六腑に染み渡る。


 初秋というわりには気温は低い。

 だが、ワゴン車の中で、がんがん暖房をいれることはできない。


 姉である長女・由唯ゆいが『肌が荒れる』という、単純明快かつ、自分勝手な理由から、暖房を強くすることを許可しない―――もし、勝手にしたなら、処刑確実。


 美しい容姿とは別に中身は、やや凶暴だ。

 姉の華やかな外見に惹かれてやってくる日常的ストーカーを一人撃退するほどである。


 命の惜しい家族は、口を閉ざすよりほかない。


 誰も好き好んでジャイアントスイングを食らいたいなんて人いないのだ。


 そのくせ、自分は膝したの薄手の水玉のワンピース、薄手のラメ入りストッキング。

 同じ女でも、パーカーに、ジーパン、スニーカーに眼鏡の私からすると、ある種の尊敬も抱く。



 久々に山中に篭りっきりの仙人的生活の叔父の家に行くという名目の、苦行のキャンプに向けて、体力は少しでも温存したいので、下手に騒ぐことも躊躇われる。

 

 どうせテンションの高い叔父に、揉みくちゃにされるに決まっている。



「どうしたの、兄さん」



 姉が、兄の不自然な様子に気がついたようで、眉根を寄せた。


 むむむ、我が姉ながら、不機嫌そうでも綺麗である。


 姉は母親似の面立ちで、化粧を取ると可愛いぐらいの印象だが、化粧を施しているせいで、華やかな美人といっても差し支えないだろう。



「いや…なんだろう。寒気が」



 長兄・雅美(まさみは、掛けていた縁なしの眼鏡を頭に載せて、目元を揉んだ。

 二冊続けて小説を読み続けていたせいで、疲れたのだろう。


 この男は、ゲームも好きだが、アホみたいに本を読む。


 しかも、尋常じゃない速さ。

 速読というのだろうか、普通の単行本なら、2時間もかからず、読み終わってしまうぐらいだ。


 兄の視線は、背後の荷台でゴロゴロしている私に向いて思わずびく、となってしまう。


 なんにもないよ~とアピールしつつ、わざとらしく口笛を吹く。



「ミコ、また悪戯してるわけ?屈折した愛情表現ね」

「ほほぉう、兄ちゃんは三倍返しだぞー?」



 と、姉は肩を竦めて、兄は爽やかに笑った。


 整った好青年的な面立ちで笑うと、ほかの人には好印象を与えるだろうが、身内である私からすると、内面を知っているだけに、胡散臭い。



「なんで、ホワイトデー並み?普通でよくない?普通でさぁ」

「ミコ。岸田家の家訓では、厚意は倍返し、復讐は三倍返しって、決まってるんだぞ?」

「いつ決めたのさ!?」



 突如として入ってきた父・幸一こういちにつっこみながら、兄にそう教え込んだのは父だな、と妙に納得する。


 強面で、その筋の人と間違えられる父の視線は、迫力がある。

 めちゃくちゃ、母大好きの愛妻家で、日曜大工が好きなお茶目で温厚な人なんだが……微妙に、濃ゆい。


 これと血が繋がっているのかと思うだけで、食欲が萎える。


 しかも、家訓って。

 いくつかあるけど、それ聞いたことないから、多分兄に便乗して即席で作ったのだろう。


 父がこんな性格だから、兄が口を開くと残念な子になっちゃんだね。


 

「あー、もう寝る。寝るから、起こさないでね」

「ミコ。おまえ寝れんのか。寒くないか?」

「寝れる!というか、気合で寝る」



 私は後部座席の後ろの荷台で寝転んだまま、左右に激しく転がった。

 底上げされた床の下に収納があるせいで、すこーし、がたがたするが、人が川の字で寝るには十分なスペースがある。


 特に意味はないが、寝ることを超アピールしてみる。


 この行動は、18歳になっても、子供だといわれる由縁だろう。

 なんでかなー、精神年齢が低いとか、おこちゃまとか言われるの家族だけなんだよね。


 まぁ、他人がいたら、絶対にしないけど。



「兄さん、大丈夫よ。ミコに寝れない場所はないから」

「枕が替わって眠れないのにか――わけわかんない構造の体だな。一度解剖するか」

「「いや、しないで」」



 突拍子もない長男の言葉に、兄の隣に座っていた姉は、私と異口同音で突っ込む。


 きっと、読んでいた小説はマッドサイエンス系のなにかなのだろう。

 好きそうだね、兄は。


 黙っていれば、真面目で好青年そうに見えるのに、口を開くと、聊か残念な人だ。

 でも、外面はいいので近所のおば様には『真実子ちゃんは、いいお兄さんもったわねぇ』とか、よく言われる。


 記憶力のいい上に、全体的に反則のようなチートっぷりで、ちっちゃい頃から神童と一目置かれていたらしく、同じ中学に通いだしても、教師には「岸田の妹」か、といわれる始末だ。


 ええ、そうですとも――だからなに?

 

 チキンハートの私は、へらり、と笑って返事をするだけに留まる。


 同じ中学に通っていた私は、周囲の兄の武勇伝を嫌というほど聞かされてきたし、実際兄の凄さは体感しているので、口を閉じるしかないのだけれど。



「ミィコは一日12時間寝ないと気がすまないのよね。だからもう、立派に育っちゃって…腹回りが」



 ミィコって、猫の名前みたいになってきてるから。

 ちっちゃいイはいらないよ、母。



「そうそう、この立派な三段腹―――って、遺伝!絶対母親似!」


 

 助手席の母・理恵りえから、デブ呼ばわりされ――インドアで、くっちゃねしてるから、否定はできないが――思わず、同じぽっちゃり体系の母親にノリ突っ込みを入れる。


 料理上手で、しっかりと家族の胃袋を握っている母。

 どこか天然でふわふわしてる。


 姉さん女房とは思えない若さのせいのせいか、母というよりは歳の離れた姉に近い。

 実は、私、母の年齢知らないけど、姉さん女房なんだと聞いたことがある。


 すべての思考の根源は、食えるか、食えないか。


 お前は戦隊もののカレー好きのイエローか、と突っ込みはもうやめよう。


 カレーライスを連日連夜、辛口にされたら適わない。

 私は甘口しか食わないんだっちゅーの。



「なにいってんの、お母さんはね、胸が五つあるのよ」

「怖っ!どんな生物?!」



 はっきりいって、想像したら怪物の類である。


 ファンタジーの中でも早々見たことがない。


 怪物「ははーん」とでも名づけようか。

 きっとレアモンスターか、ユニークモンスターとなることだろう。



「要解剖?」

「「やめろ」」



 母を解剖発言する兄はもっと怖い。思わず、姉とつっこむ。



「雅美!母さんを解剖していいのは、父さんだけだ!!」

「うん、ごめん」


「いや、つっこめ、このボケ殺し!」



 あぶねぇ。

 兄の野郎、父のボケをスルーしやがった。



 そもそも、なぜ、解剖されて喜ぶ?意味わかんないし。


 車内、超寒くなるからやめて。

 

 ほら、姉ちゃん、身縮めて、腕さすってるし――母、そこ「もう、お父さんったら……」とかって、頬染めるところじゃないから!


 いらないよ!私、弟、いらないからね!

 末っ子万歳だから!


 2人の世界に入ってしまった両親を横目に、話題を変える。



「あーあ、叔父さん、元気だと嫌だね」

「普通逆じゃない?」



 あ~…これから、さらに格闘家ばりの自給自足の山篭りをしている父親の弟である怜二れいじに会いに行くかと思うと、正直気が重い。


 2年ぶりぐらいということもあって、きっとテンションが高いに違いない。


 やだなぁ、家が忍者屋敷みたいになってたら。

 前回の訪問で、庭先に作っていたらしい罠に引っかかって、逆さまで空中ブランコする羽目になった。


 というより、そこになぜ一家で一週間も泊まりいくかが分からない。


 キャンプなら楽しいだろうが、あれは帰り道が分かっているだけの、ただの遭難だ。


 いい年した若者が、何を好き好んで、叔父の家の庭に野菜を植えなければいけないのだろう。


 車の上に備えられたソーラーパネルにくくりつけられた肥料2袋。

 様々な植物の種は、寝転んだ下の収納に収まっている。



 怜二叔父さんは、身内の贔屓目を抜いても、変人だ。



 この便利な現代社会に背を向けて、自給自足の生活を嗜んでいる―――といえば、かっこいいが所詮は世捨て人である。



「あ―…ついたら、とりあえず、三振するまで終わらないだろうなぁ」



 さすがの兄も、げんなりとした様子で、傍らに置いてある金属バットを眺める。


 野球だけは大好きで、それのためだけにテレビが存在している。


 山奥で電波が届かなかったのだが、父が勝手に電波塔をこっそり作ったのだ。

 なじみの業者から、自腹で鉄筋を仕入れたらしい。


 ……いいのだろうか?


 まぁ、とことん、父も身内には甘い男である。


 もしかすると、ただ作りたかっただけかもしれないが。

 

 最後に会ったときに、風見鶏が盗まれたとかで大騒ぎしていたので、作る算段なのだろう―――がっちゃりと、材料が床下に突っ込まれている。


 っつーか、私なら、風見鶏盗むぐらいなら、庭の野菜を盗む。

 多分、台風とかの時に飛んでいったんじゃないかと思うけど、見つかってないのだから仕方がない。


 おかげで非常食のカップラーメンを何個か家にお留守番させることとなった。



「まぁまぁ、怜二も、自分の可愛い甥っ子と姪っ子と遊びたいんだろうよ」

「父さん、怜二叔父さんは多分、甥っ子と姪っ子『で』遊びたいんだと思うよ。俺ばっかりデットボール狙うし」



 ふふ、兄が焦った顔で、叔父の玉を避けるのはかなり面白い。


 時々木にめり込むほどの玉を兄が避けて、それにムキになった怜二おじさんが、連続で兄にボールを投げ続けるという惨事が起こる。


 兄が山に逃げ込むと、叔父もそれを追い、3時間は帰ってこない。


 恒例のそれを見ると、世界は平和だな、とか思う。



「フォークボールもありえないほど、曲がるしな」

「確かに…あたしも、時々、叔父さんの投げてるボールが光ってるように見えるときあるし」

「うわぁ、摩擦熱で発火とかしてるんじゃないよね?…ふぁあ~…」



 相変わらずな家族に、防寒具としてドン●ホーテでかったトラの形をした絨毯をしき、お気に入りの黒猫の顔の形がデフォルメされた低反発枕に頭を乗せた。


 叔父さんの必殺の魔球口論になった家族の会話は、よいBGMとなり、私は悪夢の一歩を踏み出した。



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