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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
19/119

Act 18. 魔石と金

 後部座席から身を乗り出してきた騎士(毒抜き)に、私は同じぐらい下がる。


 その場所がなくなったので、父の座席の後ろの所に座る。

 あまりにも過敏な反応に、姉が笑った。



「びっくりしすぎ、サ●エさん並に体浮き上がってたし」



 うっせ!本当にビックリしたんだよ。


 ドラマ中の人間が、いきなり自分の名前を呼んだら、ビックリするでしょうが!

 登場人物の名前と、自分の名前がかぶっただけでも怖いんだから。



「あ、申し訳ない…その、先ほど、なんというか、ゴブリンを倒していたのは、地系統の攻撃魔法ではなかろうか?もしかして、ミィコ殿は魔法使いなのだろうか?だとしたら、今の話のように、魔術を学問として、広める考えには賛同していただけるだろうか?もし教師として、教壇に立つとしたらどのような条件を求められるだろうか?」



 鼻息荒く、矢継ぎ早に言われても…怖いから。

 前提からして間違ってるし、とりあえず後部座席から乗り出した身を引っ込めやがれ。


 後、下の名前で呼ぶことを誰が許可したんじゃい!



「だ、旦那…ちょっと落ち着いて、目血走って怖いから」



 その私の不愉快さに気がついたのか、騎士(チャラい)が騎士(毒抜き)を背後から引っ張って、戻す。


 私は畳んでおいたトラの毛皮を模した化学繊維を手にして、身を包む。

 

 兄は、ぽん、と拳を手のひらに打ち付けている。

 頭に!マークがついている。



「そういえば、なんかそんな事もしてたな。まさかお前、俺に内緒で――」



 ぶんぶん、と大きく首を横に振る。


 さすがに、勝手に魔法使いとかになってないし、元々、職種に魔法系の仕事なかったから!

 あったら速攻でなってたと思うけど。



「だよなぁ~…となると、こいつか?」



 と、魔石を人差し指と親指で摘みあげて、不思議そうに眺め、視線をこちらに戻した。

 どうやら、説明を要求されているようだった。


 眼鏡のことに触れず、説明するために、頭を回転させる。



「………投げるものなかったから、投げたら…ぶしゃ、って勝手になった」

「なにぶしゃって、ぶしゃって効果音おかしくない?」



 いや、怪訝そうにするな姉よ。

 本当に地面から槍みたいに尖った石が、ぶしゃってなって、ゴブリン倒れていたんだってば。


 ちら、と荷台の騎士たちを見ると、おっかない顔で、ワナワナと震えていた。


 あれ?目血走ってる人、増えてない??



「な、投げたっ――待ってください!この魔石を投げたんですか!!言っておきますが、それはサミィ殿が持っている大きさですら、上手く売れば小金貨ですよ!?」

「……なに、しょーきんか、って?」



 小首を傾げる姉の最もな質問に――相変わらず、金の事となると、無意識に反応してるよ。


 多分、お金の単位だと思うけどもしかして、でも結構なお値段なの?

 そういえば、さっきのステータスので販売可能とかいってたけど、金額はビルだったような気がするんですけど。



「え?」



 後部座席が、微妙な沈黙が訪れる。


 兄は自分たちが異世界人であることを言ってはいるが、彼らも頭から信じてもいなかっただろう。

 旅人か、商人だと、思っていたに違いない。


 車だって、他の国の文明とかで解釈したんじゃないだろうか。



「っと…金貨ってことは金の単位か?悪いな俺たちのところは金の単位は『円』だからなぁ」

「えん??」



 察した兄が苦笑を浮かべ、騎士たちがありえない、と首を横に振っている。



「一応、世界共通金銭単位…なのですが」

「お――…じゃ、これひとつ売れば、家族で2、3日、食べていけるか?」

「2、3日どころか半月は余裕で食べていけるよ――これ、みて?」



 と、騎士(チャラい)がごそごそと鎧の隙間から手を突っ込んで、硬貨みたいなものを取り出して、身を乗り出すと、私の座っていた場所にいくつか並べた。


 兄弟三人で、頭をつき合わせて覗きこむ。


 数は五枚。

 大きいものが五百円玉ぐらい、小さいのが百円玉ぐらい。


 表面と裏には、細工がされているらしく、やや傷ついて磨耗してるが、人の顔のようなものと、ミミズののたくったような文字っぽいものが書かれている。



「これが『(ビル』。小銅貨。一番小さな金額ね。これがひとつあると、パン一切れが買えるかな。五枚くらいあると、お店で軽い食事ができるよ」



 百円玉の大きさの銅のコインで、おっさんの横顔が彫られたコインを指差す。


 ぷぷぷっ。

 ちょっと、父に似てるし。強面具合が。

 

 へー、とか、ほー、とか兄と姉が感心しているが、気がついていないらしい。

 真面目に騎士チャラいの金銭講座を受けているので、控えるか。


 パン一切れってことは、百八円―――いや、めんどくさいから頭の中で百円でいいか。


 きっと私の能力じゃあ計算できないし。

 基本、文系だし―――高校時代から、5教科以外・・は得意なんだけど。

 

 美術とか、音楽とか、体育とか。



「この小銅貨が十枚集まって、大銅貨」



 指でつつかれたのが、五百円玉の大きさの銅のコインで、桜の花みたいなものが彫られている。


 つまり、千円札みたいな役割??



「で、次。銀貨は大きさが1つだけ。これも大銅貨が十枚分」



 百円玉の大きさで、銀のコインで、髪の長い綺麗な女の人の横顔が彫られている。


 えーと、千円が十枚ってことだから、一万円札代わりかな。



「この銀貨が十枚で、小金貨一枚」



 つまり、金貨は…じゅ、十万円!?

 この、ちょっと、変わった模様の入った金色の百円玉もどきが……?



「で、小金貨十枚で大金貨一枚」



 き、きたぁあああ~~~~~大金貨が、百万円!!


 うわ、うわ、この金色の五百円玉もどきが、百万円………あれ、ん?ちょっと、お待ちなさいな。



「ひゃ、ひゃく……これが?百万円分なの!?」

「こいつが…う~む」



 どうやら姉も兄も小銅貨=100円に換算したようだ。



「一応、これより、もうひとつ上で、水晶貨っていう透明な硬貨があるんだけど、さすがに俺も持ってないんだよね。大金貨十枚分で一枚」



 えぇえええ、まだ上あり――ってことは、い、いっせんまんえん!??

 

 さすがに、兄も姉も引きつって沈黙してしまった。


 コイン一枚で、一千万って、新感覚ね。ひぃえ~…一生、使うことはないだろうけど、そんなものを持って歩く人の気がしれないんですけど。



「……いや、大金貨を普通にもって歩いてるだけで、十分だろう」



 呆れたように、騎士(毒抜き)は首を横に振り、さっとこちらに視線を戻して、真剣な顔をする。



「その『ひゃくまんえん』ってのは、わかんないけど、魔石が高価ということを察していただけましたか?」



 猛烈に首を立てにふる、私達。


 この目の前にある五枚のコインで、えーと、えーと……ひゃく、いや、え、えええ~~~!!

 さらっと、目の前に出しちゃう騎士(チャラい)は、もしかしてお金持ち!?


 兄は手のひらの、指の先程度の魔石を凝視している。


 そりゃ、手の中に十万円が、ころり、と転がっている――って、私のポケットは、どのぐらい入っているの感じなの??


 こう、財布に一万円以上入ってると、意味もなくソワソワする小心者だぞ、私は。


 もしかしなくても、尋常ではない金額はポケットに入っている…??



 こわっ!やべぇ、冷や汗出てきた。 



 ゴブリンと退治したときと同じぐらい、手汗も物凄いんですけど!



「ミコ」



 姉がにっこりと、日頃見せない満面の笑顔を見せて、私に手を差し出した。


 うわ、眩しい!!

 なぜ今、後光のエフェクト!!??


 天使のように愛らしく、美しい笑顔だというのに、瞳は猛禽類の輝き。



「私にもちょうだい」



 あっさりと言ってのけた姉に、騎士が驚愕の顔を見せたが、私はポケットから一掴み、4個の大小の違いはあるが、ビー球のような緑の魔石を姉の手に乗せた。


 うん、私、命惜しいから。



「やったー これで、四十万ね」



 うっとりとした表情で、姉が魔石を眺めている。


 その背後には、ハートマークのエフェクトが乱舞しているが、私はそれどころではない。


 それでもポケットに残る重みに、私はうろたえるまま、コンビニの袋を探す。

 小さな袋に、がっつがつ、魔石を突っ込んでいく。


 数は分からないが、コンビニ袋は、半分ほど魔石で満ちていた。


 だって、ゴブリンの死体…数が半端じゃなかったから。


 うん、パーカーの両方のポケットと、ズボンの2箇所のポケットにかなり入れたよ。

 

 その口を二重に縛ると、兄の顔に無理やり押し付ける。


 家族の中では、金銭感覚はまともなほうだし、多分、襲われても奪われたりはしないだろう。


 兄、チートだし。

 戦士レベルすごいし。


 今になって思ったが、私、十万相当の高価なものをバンバン、ゴブリンに投げつけてたんだ――総額いくら使ったんだろう。



 ……。

 ………、……。



 ……おっかなくて、思い出したくない。忘れろ、潔く忘れるんだ私!がんばれ、私!!



 がたがた、ぶるぶる、する私に兄が、大爆笑する。


 18年と短くはない人生を送っているが、これほど散財した記憶はない。

 お年玉を溜め込んで、思い切ってパソコンを買った時だって、一式で12万ぐらいだったはずだ。



「ははは、預かっておく。こっちは返すぞ。何個か持ってろ。なんかあった時には使えばいい」



 十万だよ、十万!

 私のバイトの二ヶ月分と、ほとんど変わらないんだよ!



「命の方が大事だろ?つかっちまえ。江戸っ子は宵越しの金をもたないっていうし」



 いや、江戸っ子じゃないんですけど―――首を横に振ると、兄は姉を指差す。



「ほら、由唯なんて、すぐに換金して、ウィンドウショッピングする気、満々だぞ?宝くじでも当たった気分で、湯水のようにつかっとけ。自分で稼いでない金は、さして自分の身にならんだろうし」



 うふふふ、とトリップする姉を、微妙に尊敬をしていいか悩みつつ、とりあえず3個だけ、受け取った。


 こんだけ大金があったら、即貯金派なんで――もしくはゲーム買い捲り。


 でも、金額が大きすぎる。

 臨時のボーナス一、二万という話ではないのだ。


 唸りながら、ポケットにしぶしぶしまいながら―――はっと、更なる問題を思い出した。


 兄が座席の下の貴重品入れに突っ込もうとしてたのを止める。



「なんだ、もう、二、三個持っとくか」



 ぶんぶん、と首を横に振り、全力で拒否する。


 そして、尻側のポケットから、最後にもうひとつ。

 最初に拾ったボスゴブリンの近くに落ちてた、魔石を取り出した。


 複数の後部座席の騎士たちが、悲鳴を上げる。



「み、見たことありません、こんな大きな魔石っ!」

「王子もですか?わ、私もです――…これひとつで、質素に暮らせば、一人、一生暮らせます」

「魔石成金って言葉もあるくらいだからねぇ~」



 ぎゃっ!恐ろしいこといわないで!

 

 普通の魔石の二倍ぐらいだろうか、赤子の拳ほど、というのだろうか。

 ともかく普通の魔石よりも、大きくて色も濃い気がする。



「こ、れは……」



 受け取る兄の様子が、わずかにおかしい。

 どうしたのだろう??


 ぽつり、と兄が真顔でつぶやく。



「いや、これって、俺でも使えるのか……これだと魔法効果って、どれくらい続くんだろうな。範囲は大きさに合わせてか?それとも時間がながくなるのだろうか…」



 と不吉なことを呟いており、騎士たちが懸命に実験しないでくれと、長々説得を続けていた。


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