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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
17/119

Act 16. 感動の再会とレッドフォックス

 もう、お腹いっぱいです。


 王子がおねしょを11歳までしてて、うっかり変質者と間違って貴族をぶん殴って、うっかり騎士団長の鳩尾に膝蹴りをかましてて、牢獄入れられたんだよね。


 うっかり、3歳の弟王子をあやす為に、高い高いをしたら、天井にぶつけちゃったんだよね。

 お母さんに怒られて、花瓶で殴られたのも、わかったから。


 お父さんと剣の稽古で殺されかけたり、女装した男に惚れられて虎視眈々と尻を狙われ―――エトセトラ、エトセトラ。


 人事ながら、同情を禁じえないよ。


 涙なくしては語れないというか…うん。

 ハンカチ必須だわ。話題の感動超大作でも、こんなに泣かなかったぞ、私は。


 その上、現在進行形で呪われて熊になっちゃって、それを部下に疑われまくっているなんて。


 波乱万丈の人生だね。


 時々、兄の大爆笑の合いの手が入り、一層不憫に感じる。

 この人は、フランダー●の犬だろうが、人情映画だろうが、お構いなしに大爆笑だけど。

 


「いや~…久々に笑った。素敵な部下を持ったな、熊王子」



 追い討ちをかけるように、半笑いの兄(一般市民)に慰められる熊王子。


 よろよろと、私の背後で項垂れてる熊。

 かわいそうに。


 あ、うっすら涙にじんでるのかい熊。

 ごめん、生憎ハンカチ代わりの手拭は騎士(毒抜き)の腕に巻かれているから。



 さらに15分ほど歩いて、たどり着いたワゴン車。


 すでに私たちが出発してから、1時間以上経過しているので、心配――姉はしてないか――を両親がしているので安心させてやりたい。


 うちは若干、家族みんなが過保護な気質があるからね。

 

 末っ子としては、両親を―――ん?すごく車と距離が遠いんだけど、こっちが風下のせいか、風に混ざって、いい匂いするんですけど。


 なんか、こう、出汁的な?食欲をそそる様な?



「どうした?」



 私の異変に気がついた兄が眉間に皺をよせて、声をかけるが、それに答える余裕もなく、ワゴン車に向かって、私は走り出した。


 まて、という兄の言葉もそっちのけである。


 この匂い!五感が鋭くなっている私に感じたのは―――非常食の赤いき●ね!!



「おお、ミコ、おかえり。遅かっ――まさかのスルー?!」



 なんか、私に気がついたらしく、ゴチャゴチャ横から話しかけてきた父も黙殺しかと


 速攻でドアを開くと、其処には前代未聞!

 私が自腹で買ってきた赤いき●ねをプラスチックフォークで啜る王子の姿が!!

 美形は、麺すすってても美形だなおい!


 王子はびっくりした顔で、縮れ麺を啜るのをやめて、目をパチクリしている。


 よろり、と足元から力が抜けて、地面に座り込む。

 


「あぁ…私の、赤いキ●ネが……」



 追いついた兄が事情を察したらしく、ぽんぽん、と肩を叩く。


 

「まぁ、諦めろ。たかが1つじゃないか、まだあるんだろう?」



 ほかのカップラーメンはあるけど、赤いキ●ネはストックが後1つしかないんだよ!

 八つ当たりに、立ち上がって兄の胸をぼこぼこに殴るが、にやにやという顔つきをやめない。


 く、くそう!私のカップラーメン!!



「え、あの、ミィコさん?」



 てめぇに、名前なんざ、呼ばれたくないわい!怪我人じゃなかったら、筋力最大値まであげて、ジャイアントスイングで、木に叩きつけんぞ、ごうぅら!!


 

「お―ミコ、待て待て!ステイ!」



 犬かっ、私は!


 せっかく重い思いをして持ってきた回復薬を、パーカーのフードから取り出して、そこらに叩きつけようとするのを兄が背後から羽交い絞めにして止められた。


 くっ、こんな奴に誰が、回復薬(死体漁りした)を渡すか!


 といいたかったが、手に持ってたのも、フードに入ってたのも兄に、すげなく回収された。


 忌々しい!兄の戦士としての能力が、ここでは心底、恨めしい!

 くっ、私たちは、三時のおやつを食べないで、お前のために仲間を連れ帰ってやったというのに!(主に頑張ったのは兄だけど)


 王子を睨みつけると、怯んだように身を引く。


 が、次に背後にいる騎士たちが目に入ったのか、子供のように――事実彼は子供だろうけど――無邪気な笑みを浮かべた。


 

「っ、よかった!ありがとうございます!サミィさん!」

「いいってことよ」

「王子!ご無事で!」

「皆も無事―――無事、か?」



 王子は思わず、聞きなおしてしまっている。


 よく考えると、騎士たちは全身ぼろぼろで、大量のゴブリンの返り血を浴びているらしく、紫色の液体が固まって、グロイ状態になっている。


 うん、ちょっとホラー的な要素も入ってるかな。


 母が見かねて、騎士たちにタオルを差し出した―――それ、もう洗っても使えないと思うよ。


 ってか、私と兄の格好もひどいけど、兄がざっくりタオルで体を拭いて、シャツを着なおしているので、私はお絞りで軽く手を拭いて終わった。


 至近距離でゴブリンの血を浴びてる兄ほどひどくはない。



「はっ!無事であります」

「そうか!よかった…本当に、よかった」



 王子は安堵の息を吐き出しながら、騎士三人に声をかけている。

 

 私はイライラしながら、荷台を底上げして作った四つの収納ボックスの中の一つの食料庫と化している一角を空けると、少し減っているものの、大体無事だった。


 他のは知らないが、とりあえず自分が名前を書いてる奴は、残っている。


 

「あ、そうだ――ついでに、お前さんの兄貴も拾ってきたぞ」



 ひと段落するところを、見計らって兄が、声をかける。

 きょとんとした王子は、横から聞こえる父の絶叫に、肩を揺らした。



「うぉおおおった!!!熊がぁああっ!!」

「あら、おっきい」



 ついで、母さんが口に手を当てて笑いながら、父の背後から、熊を観察している。


 珍しく姉も息を詰めて、驚いた様子だったが、私や兄を一瞥して、一瞬止めた爪の甘皮の手入れを再開していた。


 姉、さすが豪胆ですね。



「あ、兄の仇っ!!」

「お待ちください、王子」



 超シリアスモードで、巨大な黒熊を発見した王子が起き上がろうとするのを、騎士たちが制する。


 とりあえず、赤いき●ねとフォークを手放せ王子。

 仇討ちには必要ないぞ。


 そして、車内に充満する、出汁のいい匂いがより一層、殺意を増加させる。


 食い物の恨みが恐ろしい、って、知ってるんだろうか?



「なぜ、止めるのだ!兄の仇を討つのが我らが悲願!」

「その熊こそが、カルム王子なのです」

「そうだ!熊こそが――……」



 そう叫んで、数秒の間を置いて、王子はでっかい瞳をぱちくりさせている。



「え?」

「王子、もう一度確認したいのですが、カルム王子が殺害された場面は見ていないのですよね?」

「あ、え、うん…僕は、気絶してたから、起きたら、巨大な熊が鎧を弄ってて――…」




 呪われた瞬間を見てない。

  ↓

 起きたら熊がいて、兄がいない。

  ↓

 熊しきりに兄の鎧を弄る。

  ↓

 熊が兄を殺した。



 とかいう4段活用で、思い込んで、切りかかったとか、そういうオチなのだろう。


 

 

「――本当に、兄、なのですか?」

「はい、残念ながら、先ほど確認しましたが、私たちが知る王子の記憶と照らし合わた結果、間違いは御座いませんでした。王子と同じ、【イシュ加護の純銀羽の一枚】もお持ちでした」

「兄が…っ、熊…――」



 放心している王子を哀れむ騎士たちを横目に、父と母が何かの相談をしてる。


 はん、同情などしてやらないぜ!

 お前の胃袋の成分が赤いき●ねであるうちはな!



「ねぇ、お父さん」

「なんだい、ハニー?」

「あれ、熊鍋にすると、何人分かしら?」



 無垢な少女のような、きらきらとした目で、黒熊を見つめている。

 彼らは私たちの話を全く聞いていなかったらしい。


 うん、ごめんね、熊王子――母さん、中国人じゃないけど、机と椅子以外、足が四本あるやつは基本的に何でも食べるから。


 イナゴとか、イナゴとか、イナゴとか。

 口から足が出てるのを見た私は13歳の時に寝込んだ記憶があるよ……。



 両親の会話が聞こえていたらしい熊は、兄の後ろで自分の両耳を押さえて、ガタガタと震えていた。

 人間だったら、青ざめていただろう。


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