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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
16/119

Act 15. 熊王子とクイズ大会

「え?」



 間抜けな一音を発したのは騎士(チャラい)だった。

 視力を凝らしているらしく、指の差した方向に、目を細めている。


 そうか――そういえば、私、さっき五感強化したから、普通よりも視力がよくなっているのかもしれないんだったけ。


 太い幹に手をついて、顔だけ、ちらちらとうかがうように覗き込む黒熊の姿がある。


 うん、体はまったく隠れてない。

 隠れてないよ、熊。



「あ、いた」



 先に兄が見つけたらしい。


 のんびりした顔なのに、頭の上に黄色い!が浮かんだ。


 視線があうと、まずっといった感じで顔を引っ込める――うん、熊じゃなかったらストーカー認定しているけど、熊なのでカワユス。


 この意味は、可愛いから許すの略だ。


 全員見つけたらしく、騎士たちの頭の上には黄色の!!の浮かんだまま、固まって動かない。


 だめじゃん、確認しろよ。

 っつーか、動け。



「ミコ」



 ほら、兄が痺れきらして、私に面倒ごと擦り付けてくるし。



「……呼びますか?」

「あ、え?あぁ、そう、ですね。お願い、できますか?」

「……斬ったり、しません?」



 騎士(毒抜き)を見つめると、彼は茫洋と頷いた。

 とはいえ、驚いているだけで、嘘をついているようにはみえない。



「あちらから攻撃がない限りは、お約束いたします」



 ちら、と兄を見ると、肩を竦めてた。

 行く気はないらしい。


 仕方なしに、茂みを掻き分けて進む。


 たどり着くと、黒熊は木の幹から、ちらちらと出しながら、待っていたようだ。

 


「あっちの話、聞こえてた?」



 耳がピコピコしてるから、多分聞こえていたのだろうと思う。


 と、一応確認すると、うが、と黒熊は静かに頷いた。

 やっぱり、野生なので、耳がいいらしい。  



「嘘ついてるようには思えないけど……どうする?話し通じるかわかんないけど、行くんだったら1回、行きたくないなら2回返事してくれる」



 うが、と一度返事。


 だが、気分は優れないようで、ひどく動きがノロノロしてる――と、思ったらわき腹辺りに、怪我してるし。


 熊のHPをみると、黄色になっているし。


 そういや、ビックウルフと戦ってたんだっけ。

 そして生き残るって、どれだけ強いんだよ、この熊は。



「ごめん。怪我治療できないけど、上向いて、口あけて?体力回復薬、不味いけど、飲まないよりマシでしょ」



 私はパーカーの帽子から二本ほど、回復薬を取り出すと、おずおずと上を向いて口をあけた黒熊に液体を流し込んだ。

 

 すると、HPは黄色から脱出したようで、3分の1程度になった。


 やはり不味かったようで、鼻の頭に皺を寄せている。

 その顔は恐ろしいのに、不味くて顔を顰めるなんて、人間らしくて、なんか和む。



「よしよし。よくがんばったね。口直しに飴あげるから、機嫌直して?はい、あーん」



 私はポケットから、飴玉を取り出して、包装紙を剥く。


 中から出てきたオレンジ味の飴を、あー、と大人しく口を開けた熊の分厚い舌の上に乗せてやる。


 うが、と驚いたように瞳を丸くしたかどうかはわからないが、一唸りして、ころころと、口の中で小さな飴玉を転がして、数秒。


 がり、ばりばり、と小気味よい篭った音が響く。



 ……。

 ………。



 うん、しょうがないよね、相手熊だから。


 

「じゃ、行こう」



 私が促すと、熊は先ほどよりは軽快な足取り。

 歩みだした私の背後を、まるで桃太郎に仕える犬のように従順に追ってきた。



「おかえり」



 兄の労い?に対して『ただいま』と、その背中に張り付こうと思ったのだが、くん、と背中が引っ張られて、振り返ると、黒熊が私のパーカーを引っ張っていた。


 首を小さく横に振って、某CMのチワワ並みの潤んだ瞳で上目遣い。



 くっ!可愛いじゃないか!



 多分、心細いから近くにいてってことなんだろうけど―――メンドイなぁと、思いながらその場所に留まると、黒熊はほっとしたように、パーカーを放す。


 なんか、騎士、熊と、間に挟まれるのて微妙。


 背後で熊が、私越しに、ちらちら、と顔を出したり引っ込めたりしている。

 

 姿だけは、ライオンや、トラと並ぶ、百獣の王の姿というのだから、物凄い違和感だ。



「意思の疎通ができるんですよね」



 こくり、と私が頷く。

 その背後で、肯定するように一唸り。



「単刀直入に聞きますが、この方の話どおり、貴方は王子なんですか?」



 肯定の一唸り。


 どよどよ、といっても三人だけの騎士があからさまに動揺を見せる。

 なにか、小声で話しあっているが、耳がぴくぴくしてるから、熊には聞こえているようだ。


 

「では、【イシュ加護の純銀羽の一枚】を見せていただいてもよろしいですか」



 熊は喉元の毛並みに埋もれている【イシュ加護の純銀羽の一枚】を爪で慎重に取り出した。


 ざわざわ、といっても騎士三人だが、動揺を隠さない。

 また、三人で頭をつき合わせて、相談中。



「本当に王子なら、質問に答えられるよね。正しかったら一鳴き、違うと思ったら二鳴き――王子が、屋根に上って、うっかり落ちたのは、14歳の誕生日である」



 うが、うが、と否定の二鳴き。


 っつーか、屋根に上って、落ちたって、どこかで聞いたことのあるフレーズだな。兄。なぁ、兄!

 下敷きになった可愛そうな妹がいたよね。妹!


 恨めしい瞳を兄にぶつけると、口笛吹いて、明後日の方向に視線を彷徨わせる。



「正解。正しくは13歳。そのせいで、どれだけ騎士団長に扱かれたか……」

「では、第二問だ!王子がうっかり壊した庭の石像は太陽王アシュフレッシュ様である」



 うが。と肯定の一鳴き。


 つーか、舌噛みそう名前だな、太陽王。



「む、正解だ」



 庭の石像って、どうやって壊すんだ。

 ってか、うっかり、ってどれだけうっかりしなんだよ王子。


 しかも、テレビのクイズ番組みたいなノリになってきちゃってるけど。

 


「次は私か。そうだな……王子が寝ぼけて、うっかり刺したのは、フェリックスである」



 うが、と一鳴き。声も弱弱しくなってきてるぞ、黒熊。


 切りかかったんだ。うっかり、刺した。

 王子……なんて、恐ろしい人。


 てか、お前は八兵衛か!うっかりしすぎだろう!うちの兄なら、二時間ぐらい突っ込みいれてるぞ!



「正解です。では、こっそり出て行った下町で、うっかり誘拐されたのは、13歳である」

 


 ぅ、が…最早、黒熊の声は、消え入りそうである。



「やりますね…全員倒して、街中引きずってきたんですよね、七人―――では、スティア王に向けられた暗殺者を、つまみ食いの途中で、うっかり素手で倒したのは、謁見室だ」



 うが、うが…力のない二鳴き。


 王子…13で誘拐されたら、大人しく、助け待ってようよ。

 なぜに、倒して、引きずる?


 

「ええ、あれは、廊下でしたね…」



 うっかり――…?


 なんか、もう話の内容が、うっかりを通り越して、あふぉ?もしくはアホ?


 完全なる人事だけど、大丈夫なんですか、あなた方の未来の王様って……私なら、早急に引越しを考えているところである。


 あからさまに怪訝そうに熊を眺めると、何かいいたげに、うがうがと横に首を振って、身振り手振りで弁明しようとしているらしいが、まったく分からない。


 首を横に振ると、がっくりと肩を落とす、項垂れる熊。



「たしかに、確認した限りは、王子のような、気も」

「本当に王子なんですかね?」

「この獣が王子であるはずがない!呪われて熊になったということを認めても、中身は違うに違いない!」



 あれだけ他人様の前で恥をかかされておいて、上がった信頼度は微々たるものらしい。


 項垂れる哀愁漂う黒熊の肩を、慰めるように叩く。

 泣いてはいなかったが、ぐったりと私の腹の辺りに顔をうずめているので、よしよしと撫でてやった。



 うん、こんな部下だったら、オー●ンジ、オー●ンジーとかに電話かけちゃうよね。



 上司も上司なら、部下も部下だな。

 総合判断で、どっちもどっちって感じですよね。 



「あ~とりあえず、納得がいったら、日が沈む前に、車に戻りたいんだが」



 兄が促して、帰還することとなったが、その間中、王子の恥ずかしい話暴露クイズ大会が恙無く、続いていた。


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