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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
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Act 14. 滑らかな舌

「―――ま、待ってくれ」



 小首をかしげる兄と私。

 アホ面の騎士達。


 長い沈黙を破ったのは、騎士(毒抜き)で、片手を挙げて、兄を制する。



「カルム第一王子が黒熊だと、幻聴が聞こえたのだが?」

「僭越ながら、私にも聞こえました」

「俺もです~」



 私と兄はお互いの顔を見合わせて、なんだか噛み合わない会話に挑むことになった――というか、兄(単体)がね。


 私のコミュニケーション能力の低さを舐めるなよ…って、自慢にもなりませんが。



「いや、貴方の耳は正常だぞ。事情を聞いたのは、俺なんだが?」



 兄は片方の眉根を器用に寄せると、顎を指でなぞる。



「あ~…お前さんら、もしかして、カルム王子が、熊になっていることを知らないのか?」

「何を言うっ!その黒熊は、カルム王子を殺した張本人ではないか!!」



 激昂した騎士(目つき悪)に驚いて、私は思わず兄の後ろに下がる。


 まだ剣を抜いていないだけ、理性が残っているようだが、騎士に初心者盗賊が適うはずもない。


 こわ~…超、こわ~。

 むやみやたらに怒鳴る人、苦手だし。



「ハーンさん、悪いんだが、落ち着いてくれるか。ミコが怒声に驚いてる」



 っつーか、びびってるんですけど。

 自分、小心者ですから。



「ハーン、下がれ」

「っ、く」



 ぎり、と唇をかみ締めると、騎士(毒抜き)の言葉に忌々しそうに最後尾へと戻った。


 んん~…話を整理すると、その第一王子が死んでいることが前提であり、黒熊が殺害した犯人の有力候補ということなのだろう。


 

「ちょーっと、いい?」

「なんだ?」

「なんで、黒熊が王子だって思ったの~?」



 先ほどの騎士(チャラい)も笑みを潜めて、真面目な顔で兄と向き合う。


 どうやら本当に、彼らは熊が王子だとは知らなかったみたいだ。

 というか、ファンタジー世界だから何でもありだよね、っていう考えが、違ったのだろうか?


 獣人とか普通にいそうでしょ?

 魔石あるんだから、魔法あるんじゃないの?


 なかったら職業一覧にはのらんでしょ。


 

「いや、順を追って話そう。俺が、お前さんらの所に突っ込む前にゴブリンと一戦したというのはいったな?」

「うん、きーたよ」

「その時に、2体同時に相手をすることになって、一撃くらいそうになったところを助けてもらった。実際、俺は普通の熊だと思って、戦闘体制だったんだ」



 見た目には普通の熊だったしね。

 戦いになってたら、戦士レベル5だった兄は、熊手で撃沈していただろうけど。



「だが、熊は襲ってこなかった。睨みあいになったんだが、こいつが意思の疎通を試みたら、普通にこっちの言葉が通じたんだ。まぁ、さすがに熊語は分からなかったが」



 いや、普通の人は分からないから。

 分かったら、軽くひく。


 怖いよ、兄がうがうが言って、普通に熊と喋ったら。


 騎士達と、兄がこちらを振り返り、僅かに目配せ。

 黙っていろという合図だが、他人と会話するのはしんどいので大歓迎である。


 っつーか、さっきから私、ほとんど喋ってないし、あははは、ダメダメ人間……ふぅ。



「んで、俺が王子から貰ったネックレスと、熊のネックレスが同じだったから疑問に思って、色々質問したってところかな」



 どうやら、眼鏡の件はハショッたらしい。

 まぁ、いいものだしね。くれーとか言われても、やだーっていうけど。



「では名前は?なぜ、この国を知らない貴方が、王子の名を?」



 おっと、鋭い突っ込みです。

 兄、大ダメージ。

 

 爽やかな笑顔のままで、顔にはほとんどでてないけど、困っているらしい。



「それは、こいつがちょっとした特技をもっているからさ」



 ぽん、と兄が無責任にも私の頭を叩いた。

 完全なる責任転換である。



「特技、っていうと?」

「人様の名前と年齢を当てられる程度のな」



 私が睨みつけると、兄が仕方がないだろとでもいいたげに、軽く肩を竦めてみせて、傍観者の私を巻き込みやがった。

 

 つまり、聞かれても、名前と年齢以上は答えるなということだろうか。

 私は慌てて、3人のステータスを表示させる。


 

「ならば、私の年齢は。二人の苗字と年齢を言えるのかね」

「32才。チャイラ=アマデウス、26才。ハーン、苗字なし、22才」



 兄の背中から少し顔を出して、ステータスを読上げると、騎士(チャラい&目つき悪)が驚きの顔をして、目を見張っている騎士(毒抜き)を見つめる。



「……ジークの旦那、意外と若かったんですね」



 ごほん、と咳払いで茶を濁したが、騎士(毒抜き)は、どう考えても四十台の貫禄がある。

 一応、正解はしたが、全面的に信頼した、というわけではなさそうだ。


 そりゃそうだ。


 信頼したら、したで、逆にこっちが色々疑っちゃうって。



「仮にそうだとして、なぜ呪われている、と?」

「え?あんたらの世界じゃ、人が熊に簡単になるのか?」

「獣人ならば、稀にいると聞きますが、王子は違います。だから聞いているのです」

「いや、人から熊になるんだから、全面的に呪われているのかと思っただけで、他意はないんだが……」



 はい、嘘ー。

 さも、俺の思い込みだったんだ、という空気を漂わせているのだが、嘘ですよ。


 兄はもっと美形だったら、アカデミー賞とってたかもね~、ぐらいの俳優ばりの演技力である。


 人の良さそうな好青年風だから、信じちゃうんだよね、普通の人は。

 誰に似たんだかわからないけど。

 

 彼らも、戸惑いつつ信じかけているし。


 あぁ、ここに口三寸で丸め込まれてる犠牲者が、増えていく。


 身内ですら、時々丸め込まれるから。う、うぅ。



「きっと最初から俺らのことを知っていたんですよっ」

「だが、旦那の名前は、知ってても、年齢、俺らですら知らない情報だよねぇ。たぶん、団長くらいしか知らないだろうし」



 ぐ、とつまった騎士(目つき悪)。



「俺は、こいつを、信じない」



 って、何故か睨まれる私。

 だから、怖いんだって、その目つきが。

 

 それにさ~、胡散臭いのは、どう見たって兄でしょうが。失敬な。


 後は別に信じられなくても、赤の他人なので、痛くも痒くもないのですけどね~。怖いけど。


 

「ハーン」

「ですがっ」



 どうやら、騎士(毒抜き)に、騎士(目つき悪)は、頭が上がらないらしい。

 やーい、やーい、もっと言ってやれ騎士(毒抜き)。



「もし、彼らの言うことが本当ならば、我らは、最初から思い違いをしていたのかもしれない。ゼルスター王子にもう一度話を聞く必要がある」

「そういや、王子、殺された場面は見てないっていってたね」

「あぁ、遺留品から、我らが勝手に推測しただけだ――言われてみれば、王子の純銀羽の一枚は、見つかっていない。熊が、我らを襲ってこなかった理由も納得がいく」



 なんか、やや込み入った事情があるらしい。

 私達としては、ただ拾った怪我人の保護者に引き取ってもらおうと、呼びに来ただけだから。


 赤の他人のお家の事情まで、面倒なので別に深入りしようとは思わな―――



「ふぅむ、聞く限り、込み入ったじじょっ、いて、いたたっ」



 ――って、一歩踏み込んじゃった、兄!!

 

 慌てて背中をバンバン、叩いてとめる。

 うち今、異世界来たって大変なんだよねの、真っ最中でしょ。


 家族会議連発の緊急事態なんだよ?


 わかってるんですか、この兄め。


 これから、両親と姉に事情を説明して、帰還に向けて皆頑張ろうね~的な流れになって、大変なことになるんでしょ!


 姉は現代っ子だから、スルーするかもしれないけど、両親は説明するのも難しいんだよ?!


 んでもって、なんかこう試練とかクリアーして、帰るんでしょ?!


 王道のパターン的に。


 いや、家族全員って時点で、王道じゃないなぁ……うん。


 ともかく、忙しくなるでしょ!

 私、二週間後にも学校始まってるから!


 騎士達あっちもゴチャゴチャしてるけど、こっちも大変でしょうに。


 という思いを込めて、さらに叩くと、兄が一歩下がって、私にアイアンクローで距離をとる。


 

「ぎゃっ!」



 前よりもずっと馬鹿力になったせいで、めちゃめちゃ痛いんですけど。

 割れる!頭蓋骨割れるから!!


 

「いや~でも、ほら、なんとなーく、関わっちゃたし」



 何度も言うが、その場の勢いとか、ノリで、家族を巻き込むんぢゃないよ!

 

 あーた、忘れたとはいわせんぞ!


 そのノリのせいで、地元の暴走族40人vs岸田家一家5人、みたいなデスマッチ的な空気になって、死にかけたんだぞ…そう、主に私が!


 それに、あっちは緊急事態で、生死にかかわるほどじゃないでしょ?

 うち、明日の生活も大ピンチって感じなんだからね。



「ほうっておくと目覚めが悪いだろ―――って、まぁお前はいつも寝起き悪いけど、あっはは」



 あっはは、じゃないわい!話逸らすなっつーの。

 

 姉に説明しようものなら『死ね』って、止められなかった私の眼鏡に指紋つけるに決まってるよ!

 油脂つけて、嫌がらせするんだよ!


 がたがた、ぶるぶる。


 眼鏡拭きすら与えられず、視界の隅に指紋がちらついている。


 あぁ、考えただけで恐ろしい。



 って、あれ、なんか見覚えのある形が遥か彼方に見えるような、見えないような――…黒の塊が。



「そんなに睨んでも―――?どうした?」



 観客がいても主役たちがいないのでは話にならない。


 私は、影の方向に指を刺す。



「本人に、聞けば…いいんじゃ、ないですか?」



 やば、年上だった。

 敬語が遅れちゃったけど、まぁ、いいか。

 

 はっとした様子で、騎士達が私のさした指の方向に視線を送り、兄も同様に目を凝らす。


 そこには、遥かな木陰から顔を覗かせる黒熊の姿があった。 


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