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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
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Act 13. 異邦人と騎士

 一番前を歩きながら、兄が事情をさっくりと説明する。


 道に飛び出してきた王子にびっくりして追っていたらしいゴブリンを跳ねて倒したことこと。

 王子は全身傷だらけで、足を怪我したこと。

 医者ではないが、看護師が手当てをしたので、多少は安心してほしいということ。

 剣は折れているし、動けないのでワゴン車においてきて、逸れた仲間を探す役目をかってでたこと。

 命を救ったお礼に【イシュ加護の純銀羽の一枚】を貰ったこと。


 騎士たちの所まで来るときは、20分ぐらいかかったから、帰り道も時間がかかるだろう。



「あのさ、色々、聞きたいことあるんだけど…」


 

 おおむね間違いのない話を沈黙して三人は聞いていたが、背後で騎士(チャラい)が少し困惑を滲ませた音で疑問を発した。



「まず、『くるま』ってなに?『わごんしゃ』って、馬車、なのかな?」



 え。と私は目を丸くして振り返った兄と顔を見合わせた。

 そして、兄は「あ~」と間抜けな一音を発しながら、指先で顎を撫でる。


 そう。あまりの事態に、自分たちが異世界に来ている(らしい)ということを、私たちはすっかり失念して、自分たちの感覚で話を進めていた。


 当然、騎士が徘徊する時代に、ハイテクノロジーである車が存在するはずもない。


 世界でも自動車が発明されたのは19世紀末という話だから、この世界の文明はそれ以前のものとなる。

 ここが地球と同じ発達をとげている可能性としての話で、正確ではないだろう。

 


「自動車、といってもわかんないよなぁ…」



 兄が困ったように、説明のために、頭を回転させているようだ。

 当たり前にあるもののほうが、説明が難しい。



「馬を使わない、鉄製の荷馬車なんだ。自動で動く荷馬車、半自立型の移動手段…というか。ワゴン車は、その車の種類だ」



 うん、よくわからん。

 なんだよ、半自立型の移動手段って。鉄製の荷馬車ってどーよ。


 やっぱり、騎士(チャラい)が興味深々で食いついてくる。



「馬を使わない荷馬車なのに、人を乗せて走るってこと?牛とか狼とかでもなく?」


 

 むしろ、牛とか狼も馬車にしてるんだ。


 そっちのほうが凄いよ。


 馬車はどっかのテーマパークとかでしか乗ったことがない。

 それも、物凄い遅いやつしか。



「まぁ、大まかにいうとな。馬の代わりにエンジンっていう、原動力があるんだが、そいつにガソリンを入れて、こちらで操縦して走らせるんだ――見たほうが、早いだろうし、それは後々説明するよ」



 納得がいかないようで、その話を引っ込めたが、騎士(毒抜き)が、根本的な質問をする。



「見たところ、ここらの出身ではないようですが、貴殿らは、どちらからいらしたのだ?」



 顔立ちが完全に違うしね。

 外人と日本人ぐらいの差があるよ。



「日本ってところからだ」

「に、ほん?」



 あっさりと、兄は答えたが、騎士(毒抜き)は、たどたどしく鸚鵡返しする。

 やはり、この場所には日本がないのだろう。


 パターンとしては和国とかで、侍の時代が存在するとかかな?


 逡巡した騎士(毒抜き)は、すぐさま聞きなれない呪文の羅列を口に出した。



「――……ハムビラ、ショーディス、タクラ、コエーフチリア、チナ、ロローズのこのどれかに聞き覚えは?」



 兄も私も、小首を傾げて、騎士(毒抜き)を振り返る。

 

 呆けた表情の私たちが理解していないことを察すると騎士たちは困惑げな顔を返してきた。

 それに、兄が察したのか口を開く。



「その様子だと、普通なら誰もが知っていること――話の流れからすると、国か?」

「近隣の大国と、この大陸の名前です」



 そりゃ、私たちが知るわけがない。

 今、自分たちが、いるのがどこなのかも分かっていないのだから。



「逆に聞くが、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア、オーストラリア、地球、とこの何かに聞き覚え、あるか?」



 誰もが首を横に振る。


 分かっていたとはいえ、がっくりと肩を落としてしまった。

 兄も、小さく息を吐いた。



「そっか。というか、そもそも、ここはどこなんだ?」

「チナ大陸の西方のイシュルス国付近の、静かなるイシュルスの森です」

「イシュルスの森、か」

「いえ、静かなるイシュルスの森です。街道の反対側が叫ぶイシュルスの森となってます」



 ……どっちも変わんなくない?っつーかなんで、似たような名前付けるわけ。

 静かでも叫んでも、どっちでもよくない?ってか、街道で左右に分けないで纏めてイシュルスの森でいいんじゃない?



「あ、うん、静かなるイシュルスの森ね」



 兄も、どっちでもいい、と思ったようで、かなり投げやりに答える。



「で、街道をいけば、国に入るということか」

「王国には続いていますが、この辺りからでしたら徒歩では、最低でも丸二日はかかります。女子供がいるのでしたら、三日。馬を休ませながら走って、一日と半日いったところでしょうか」

「ん~…車で3時間かかるぐらいか」



 理数系である兄が、どうやら頭の中で計算したのなら、間違いないだろう。


 しかし、今まで6時間近く走ってきたのに、さらに3時間移動となると、体に堪えるものがある。

 私は寝てただけだけど、彼らが車に乗るなら、絶対寝れない。

 

 

「さ、3時間?その『くるま』とやらで3時間で着くのですか?」

「距離で180キロぐらいだろう?時速60キロで走れば、そのくらいでつくはずだ。道が悪いから、もう少しかかるかもしれないが」

「3時間…3時間で…」



 ぶつぶつと騎士(目つき悪)は青い顔をして呟いている。


 親切にも彼らを新幹線に乗せてあげたい、と思ったのは私だけだろうか?

 

 きっと、面白い反応が返ってくるだろう。


 私も、ロープウェイにはじめて乗ったときは、こんな風に青ざめて、うろたえていたのだろう。

 姉が楽しそうに私を無理やり乗せた気持ちがわかった。


 

「その、失礼だと思うのですが、リョケンはお持ちか?」

「リョケン?なんだそれ?」



 数秒の沈黙の後、困った様子で騎士(チャラい)が代わりに答える。



「リョケンってのは、自国で発行された書類で、ほかの国に入国の際に必要な書類なんだけど、そんなの持ってない??」

「リョケン、あぁ、旅券か。パスポートだな。持ってない――というか、俺たちも事情を把握してるわけじゃないが、この大陸のものじゃない。俺たちは迷子、なんだろうな」



 ふぅ、と気だるそうなため息と共に、兄が『どうしたもんか』と珍しく弱弱しく吐き出した。


 きっと、両親と姉の説明に骨が折れるだろう。

 私たちだって、ゴブリンとの戦闘に、巻き込まれていなければ、完全に理解するのは、だいぶ後になったはずだ。



「ま、お前さんらは国まで送り届けるから安心してくれ。そこからは後で家族会議だな」



 その弱弱しさを霧散させて、兄がカラッと答える。


 まぁ、考えてもしょうがないし、どちらにせよ、後々考えなければならないけど。

 


「は、はぁ…ありがとうございます」



 それよりも、怪我人が優先だ。


 いくら、回復薬で体力が回復しても、怪我が完治したわけではないのだ。


 王子もそうだし、騎士達もゴブリンとの長期戦で、みるからにボロボロである。

 先ほどの矢が刺さっていたところだって、姉に見せないと。


 んん??…あれ、なんか、忘れてるような?

 なんか、こう、大事なことだったような気もしなくもなく――…



 ………、………。 

 …………?

 ……!



「あっ」



 ポン、と私は手のひらに拳で打つ。

 自分には見えないだけで、頭の上に電球マークに光ったエフェクトがあるかもしれない。



「雅兄、熊」

「あっ!ヤベ…完全に忘れてたな」



 兄の頭上には、黄色の巨大な『!』マークのエフェクトが出現する。

 珍しいことに兄も、気が抜けて完全に忘れていたようだ。


 まぁ、激戦だったからなぁ。



「―――っ熊、ですか?」



 急に背後の騎士たちの気配が変わった。

 なんだか、妙に殺気立っているような感じがして、私たちは振り返る。


 騎士達も足を止め、騎士(目つき悪)に至っては、警戒が増して、剣の柄に手までかけている。


 

「そうそう。お前さんらに突っ込むまで一緒にいたんだが、馬鹿でかい狼が出てきてな。そいつに突っ込んでったまま、置いてきちまった」



 うん、完全に記憶から消え去っていたね。


 だが、勘だが、ビックウルフよりは、熊のほうが強いような気がする。

 なにせ、ゴブリンに、熊手一撃で撃沈させてたから。



「お前さんらの所の王子だろ、カルム=フォン=イシュルスってのは――なんで、熊なんだ?」





「「「は??」」」






 びゅうぅう、と強烈な風が吹いて、目が点となったような間抜け面で、騎士達が固まった。


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