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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
一日目 【真実子の長い一日】
13/119

Act 12. 戦闘終了

「あ~…年には堪える」



 あんた、まだ25歳でしょうが。

 地面に座り込んだ兄に突っ込みを入れたかったが、人目があることを思い出して自重する。


 つっこみ的な視線だけ送っとくと、兄は気が付いたらしく、ヒラヒラと手を振った。



「いやそうだけど、マジで疲れてんだよ。へろへろ――ミコ、お前は怪我ないのか?」



 こくり、と頷く。


 MPを使ったせいか、ちょっと頭が重くて、ふらふらするが。

 肉体的なダメージはせいぜい、掠り傷で、兄ほどの大きな怪我はない。


 兄はポロシャツがところどころ切れているし、紫色の血で奇妙な斑模様を描いているようだ。



「ん、よろしい。じゃ、兄さん背負って帰ってくれ」

「野たれ死ね」



 誰が背負うか。私が、潰れるだろうが。


 だがHP表示が黄色くなってるのは事実だ。

 まぁ、散々レベルが上がったので、元々の体力が尋常じゃなくなってるけど。


 仕方なしに、パーカーの帽子の部分にストックしていた最後の一本である回復薬を投げると、「ほんと、不味いんだよな、これ」とぼやきながらも、飲み干した。


 兄のHP30が回復する。

 それでも気休めでしかなかったようで、黄色のままだ。



「まずーい、もう一杯」



 お決まりの台詞に、無視を決め込んで、回復薬を探す。


 最終的に、レベルが13になった兄のHPは900近くあり、当初の倍以上ある。


 ちょろちょろと、ゴブリンの死体の山を散策しながら、見つけた戦利品である【体力回復薬ポーション】をぽいぽい投げる。


 うーむ、血の海というのはこういうことだろうか。

 紫の血だけど。


 しかも、臭い。血の匂いではないが、臭い。


 兄ほどではないが、私もレベルが最終的に5になったためか、矢印も親指なみの太さがある。


 うん、微妙な変化だなー。


 

「ん、オッケー」



 連続6本近く飲み干して、300近くなる。

 黄色からは脱出したようだ。


 私はもう少しちょろちょろして、回復薬を拾うと、まだ周囲を警戒していた騎士(毒抜き)と目が合った。


 兄には強めに投げつけていたが、騎士には取りやすいように弧を描くように投げる。

 騎士(毒抜き)は少し驚いたように受け取った。



「――よいのか?」

「あぁ、いいんじゃないのか?ゴブリンは、もう必要ないだろうしな。俺は岸田雅美。ファーストネームが雅美で、ファミリーネームが岸田。あっちが真実子」

「リシギャー殿」



 だから、誰だよそれ。

 

 さすがに兄が、苦笑を浮かべる。



「すみません、サミィでいいです。サミィ=キィシガ」

「では、サミィ殿」



 って、サミィだと一発で言えるんだ。

 どうゆう翻訳機能がついているんだろう、私たちって。



「私はジークホーク=アルケルト。イシュルスの騎士だ。赤毛がチャイラ。茶毛がハーン。このたびは、ご助力感謝する」



 ジークホークと名乗った一番偉いらしい騎士(毒抜き)が礼儀正しく頭を下げる。

 それに対して、兄は気にしていないと、ヒラヒラ手を振る。



「ま、困ったときはお互い様だ」



 と、出来立ての岸田家訓を口にして茶を濁す。


 よっこらしょ、と相変わらず爺くさい掛け声で兄は起き上がると、私は二本目を騎士(目つき悪い)に投げると、ほかの方向を向いていたのにもかかわらず迅速に受け取った。


 騎士(毒抜き)を困った様子で見ている。


 なんだろ?死体から奪った回復薬なぞ、飲めるかヴォッケとか言うきか?

 さっき飲んでなかった?緊急事態のみ飲む、とか?


 

「あ、はいは~い、俺も欲しい――って、あぶなっ!」



 拾った回復薬を騎士(チャラい)には強めで投げつけるが、あっさりと受け取りやがった。

 ちっ。勢いで、割ればよかったのに。



「ありがと~。でも、なんか俺だけ扱い悪くない?」



 その礼に頷いて、ちょっと探す範囲を広げて、物色を続ける。

 

 騎士(チャラい)はまるでコーヒー牛乳でも飲むかのように、腰に手を当てて一気に飲み干した。



「悪いなぁ、ミコは人の好き嫌いが激しくてな。回復薬寄越してるから、感謝してるはずだ」

「そーなんだぁ。お兄さんの剣の腕も、荒削りだけど凄かったね。途中で、なんだっけ、くろすえっじ?だっけ、威力が半端なないねぇ。冒険者かな?」



 思わず、私は噴出す。


 荒削りどころか、数時間前まで、戦士ですらなかった人間なのだから、仕方がないだろう。

 これで冒険者なら、誰でも今日から冒険者である。



「笑うな、ミコ。仕方がないだろ、剣なんて握ったことないんだ――俺は、冒険者じゃない」

「ま、まて、お前、剣を握ったことがないのか!?」



 これには、無言を貫いていた騎士(目つき悪い)が声を荒げる。


 兄はヒラヒラと手を振って応える。



「ないない。俺の国は平和だから、あんまり命のやり取りなんてしない。真剣なんて手にとる機会すらないぞ。ここに来る前に襲われたんで、仕方なく応戦したのが初めてだ――金属バットで応戦したから、剣は握ってないことになるのか?」

「――……今日が、初めて、ということか」

「なんという、規格外な」



 あ~…兄チートだからね。よく聞くよ、その台詞。

 


「えーと、冒険者じゃないってことは、なんでここら辺に来たの?ザーロ神殿目当て?」

「ざーろ神殿?」

「違う、みたいだね?」



 兄が眉根を寄せると、騎士(チャラい)は察したようで小首をかしげた。



「俺たちは、あんた達を探していたんだ」



 兄は首から下げていた弟王子から譲り受けた【イシュ加護の純銀羽の一枚】を取り出した。 

 騎士(目つき悪)が過敏な反応をしてみせる。



「そ、それは!!」

「王子の?」

「ん、ゼルスター王子が怪我して」

「王子、王子は無事か!」

「足に怪我して動けないが、命に別状はないと思うが、手当てはした」

「そ、うか」



 声を荒げた騎士(目つき悪)は、詰めた息を吐き出して、額に手を当てた。

 騎士(チャラい)も騎士(毒抜き)も安堵の色をみせたのだから、よほど慕われている王子なのだろう。


 まぁ、悪い子には見えなかったが。



「俺の家の車で保護してるんだが、あんた達に場所を伝えて欲しいといわれてなぁ―――まさか、まだ戦闘中だとは思わなかったが、ははは」

 


 ははは、じゃない!死ぬかと思ったよ!!


 レンチ投げたろか。この兄。

 今なら、戦闘の傷と偽装できるんじゃないのか?



「じゃ、王子の所に案内してもらってもいいかい?」

「あぁ、ミコ――レンチは止めろ、レンチは――何本か、王子に」



 私はくるり、と背中を向けて、すでにパーカーの帽子に五つほど突っ込んだ回復薬を見せる。

 ちょっと重みで首が絞まるけどね。


 というか、ポケットがすでに魔石と戦利品でパンパンなのだ。


 よしよし、といわんばかりに、頭をポンポンと撫でるが、むかつくので腹に一発拳を入れようとしたが、すげなく兄に受け止められてしまった。


 くっ、無駄に能力が高くなりすぎて、こんな至近距離でも、あたらないなんて。


 仕方なしに、ゲシゲシと足を蹴ってみるが、HPが減る様子はない。

 むぅっ…頑丈すぎやしないか?



「よし、じゃぁ、いきますか」



 それを合図に、一番最初に兄が進み、その後を私、騎士達と続いた。


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