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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
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Act 36. 強制連行

 あまり身体が強くないマドレーヌに対して、時間を取らせるのもあれだということで、三十分ほどで私たちはさっくりと引き上げることにした。


 新たに見た穏やかそうな従妹と叔母に対して、上手くやっていける………と、いいなぁ。仲良くしてくれるだろうか。日本では身分差などあんまり感じたことがないので粗相だけはしないようにしよう。


 少なくとも、気がついたら従兄弟が王族だなんてありえない事だ。


 初対面の異世界人で熊王子の次ぐらいに好感度が高かったといっても過言ではない。


 マドレーヌは父親以外の異世界人な従兄弟家族である私たちに興味津々という感じだった。


 ちなみに可愛い物好きな母にマドレーヌは馬鹿受けだった。

 仕切りに着せ替え人形にしたいようなそぶりを見せたので大分、気に入ったのだろう。


 母が気に入った人間に悪人はあんまりいないので、裏表のない子なんじゃないかな、と思うが、母の基準はいつでも謎だから断言はできないけど。


 姉はいつものツンツンを脱ぎ捨ててデレデレだった。

 あ、そういえば姉も結構子供が好きだった。

 一人で子供がお使いする番組には釘付けだったりするし、子供には目線を合わせるタイプである。


 父は微笑ましそうに事を見守っていた。

 顔は怖いし、声はでかいので、よく子供には怖がられるのを自覚して音量を落としていたぐらいだが、その内慣れてきたら音量を落とすのを忘れて大声に成るに違いない。


 兄は子供好きなのかは分からないが、なぜかこの男が一番子供受けしたりするんだよ。


 え、私?胸を逸らして声高らかに言おう――――得意ではない。


 マドレーヌとかルイみたいな私を怖がらない女の子はいんだけど、おなごに泣かれる。

 後、なぜか男の子がなぁ……泣かれるほど怖がられたりするのはわかるんだけど、なぜかわからんけど物凄い友達扱い?というか部下扱いされるんだよなぁ。怖がられるのは口数少ないし、あんまり表情に出さないようにしているからだろうけど、友達扱いされる意味が未だに分からない。


 ともかく大抵は、この不思議な二択である。



 お開きの雰囲気で、去り際に名残惜しそうにマドレーヌが、なにか言いたそうに私を見つめているような気がした。


 考えてみれば会話らしい会話に参加していないのは私だけだろう。

 傍観していた父ですら、一言二言新しい家族に声をかけていたのだというのに不甲斐ない。


 家族には思考回路をテレパシー並に悟られっぱなしの私ではあるが、周囲の人間には『何を考えているかわからない』と大評判の私だ。


 時々、初対面の相手とか目があったら謝られたりするし、そこらへんを気にしたのかもしれない。


 彼女たちになんら不満はないのであるから、アピールも大切だろう。


 しかし何を言えばいいのかわからない。

 去り際に突然近づいていって、言葉をかけるのもなんだか可笑しいだろう。


 考えた末に『またね』と小さく声を掛けて、ひらひらと小さく手を振ってみた。

 笑顔は引き攣っていないことを祈ろう。


 マドレーヌは目を見開いて驚いたようだったが、こくこくと頷いて照れたような微笑みを浮かべて、同じように遠慮がちに手を振り返してきた。ちょうカワユス。イシュルスの天使やわ。


 あんまり迷惑を掛けない様にしなければ。


 今日みたいな内々の人間しか居ないならいいけど、王族なんだから人目があるところで気軽にタメ口とか聞いたら、たぶん迷惑がかかるんじゃないかなぁと思う。


 マドレーヌも就寝するようで、一言二言隣で待機していた侍女と入れ替わりで王妃も寝室を退出した。

 結構早い時間だけど、夜更かしはさせないようにしているらしい。


 まだ体感時間としては、八時すぎてないようなきがするんだけど。


 両親と叔父が言葉を交わし、それに加わるように兄と姉は今後のマドレーヌの方針を簡単に打ち合わせしている。


 が、それらを聞きつつも会話に参加できないまま、先程までの反省を引きずってしょんぼりしていると、同じように隣で胸の前で手を握りしめ、少し項垂れているような王妃。


 叔父と並んでいたから気が付かなかったが、意外に背が高かったようだった。


 どこにも王妃がしょんぼりするような原因が分からず見つめていると、此方に気がついたようでなにか声をかけようと思ったのだが。


 ふっ、さすが………コミュ症の私は喉元で言葉を詰まらせてしまった。

 

 音にならない吃音を零した私に、むしろ王妃が『お疲れですか?』と丁重に声をかけてくるほどだ。

 むしろ私が王妃に掛けたほうがよい台詞である。


 顔色はあまりいいとはいえない。


 直接言葉を交わす試みは初めてなので、どうしていいかわからない。


 騎士団長とかイベイベ叔母ならば、私が言葉を発せなくても、発してもどっちでも良さそうな空気――――――もう寧ろ私は空気と思われているのかもしれないが――――を醸しているので気にはならないのだが、どうも私が言葉を発しないことに王妃は心配げな視線を投げてくるので、逆にどうしてよいかわからない。


 できれば友好的な関係を築きたいから、なおさら焦る。


 とりあえず今日一日で滅茶苦茶疲れてはいたが変に含みがあってもと言葉の裏を取られてもと色々考えた結果、数秒の間が開いてしまったが『少し』と辛うじて返事して頷く。


 納得したのかしてないのか『そうですか』と、視線をマドレーヌの視線へと流した。


 その宝石みたいな双眸は物憂げで、目元は赤い。




「よくなると、いいですね」




 どんな声を掛けていいか分からず、私が当たり障りなく声をかけると、王妃は困ったように笑った。

 それから答えを求めていないように、独り事の様に呟く。




「わたくしは、知らず知らずの内にあの子を追い詰めていたのでしょうか」




 少しでも改善されるなら、と――――――――――マドレーヌは兄の提案を受けた。


 それから王妃に視線を向けて、『健康に生まれてこれず、迷惑をかけてごめんなさい』と小さく謝罪したのだ。驚愕して目を見開いた王妃は涙を流して、逆に謝罪し続けた。


 きっと感受性が強くて、優しくて素直な人なのだろう。

 むしろマドレーヌよりも追い詰められていたのは、王妃のようにも思えるけども。




「違う、と思う」




 と、私は反射的に、王妃の独り事に答えていた。


 どうしてかわからないがマドレーヌは追い詰められたのではなく、自分で自分を追い詰めたのではないかと、勝手だが思ってしまった。  


 王妃が訝しげに、されど答えを求めるように視線を投げてくる。


 たぶんだけど、と前置きしてから私は言葉を選ぶようにゆっくりと口にした。




「周りの人が強くて素晴らしい人だから……優しくて、自分を愛してくれるから……自分も健康にならなければ、いけない気がしたんじゃ………家族と同じぐらいの素晴らしい人に、と」




 私はいつからだっただろう。


 兄や姉、父も母も、叔父も普通の人よりも、ずっと優秀で部分的には天才的な鱗片を輝かせているということを自覚したのは。


 幼い頃は彼らになんら疑問も抱かなかったし、他に血のつながりのある従兄弟なんかいなかったから、比較の使用がなかったのだと思う。


 運動会などの競技で、一位をもぎ取ってくる父や母には誇らしく思っていたし、小学校の頃は兄や姉の流れる評判を聞くと自分の事のように嬉しかった。


 友人などの家族と接することも有り、友人たちも私の家族に接することも有り。


 周囲の大人たちの影や、子供たちの無邪気な反応から、すぐに自分の家族が世間一般のものと違うのだと理解した。



 そこから劣等感が目覚めるのはすぐだった。 



 兄や姉は特に努力をしているようにも見えないのになんでも器用にこなし、一方で結構な努力をしても兄姉ほどにはできない。


 別に急かされても、望まれてもいなかっただろうに。


 それでも、その時の私は兄や姉と同じぐらいなんでもできる人間でなければ、岸田家の家族ではないと、自分だけが岸田家に相応しくはないと、言われているような気がして嫌だったのだ。


 大切にされていたし、家族が大切だったから。


 私さえ居なければ完璧な家だと、言われてしまうことが悲しかった。


 


「家族の愛情に応えられるように……でも、そんなに簡単にできることじゃなくて、きっとマドレーヌちゃんも、歯がゆい思いをしたんじゃない、でしょうか」




 健康になろうと、病気を治そうと思っているのに成果がでなくて。


 誰かの期待に答えようと、ひたすら頑張っているのだろう―――――――その期待という重圧をかけていたのは自分だということに気が付かずに。


 頑張れば褒めてくれるけど、むしろ父も母も私にソコまで何かを強く求めたことなどない。

 というか、兄や姉にも求めたことはなかっただろう。 


 基本のびのび教育だと思われるので、本人が言い出すまで習い事とか塾とか行かされることもなかったぐらいだし。 


 でもきっと、マドレーヌも似たような焦燥を感じていたんじゃないかと思う。

 なんか弟王子も兄に対して劣等感抱いていたっぽかったし。


 まぁ、違うかもしれないんだけど。




「そんな、事、思う必要なんて………」

「ないです―――――けど、言ってあげればいいんだと思います。『生まれてきてくれただけで十分だ。お前が幸せになれば、それが親孝行だ』って。彼女に」

 



 昔、父に掛けられた言葉が、ほろりと崩れたように出てきた。

 こんな話をするまで、忘れてしまうほど日常の他愛の一幕だったかもしれないが、その時の言葉が衝撃だった。


 そんなこと考えたことすらなかったから。


 王族であるマドレーヌが自分自身にかける重みはいかほどなのか、私にはわからない。

 ただ言われなければわからないことは、意外に多いのだ。


 焦点の合わない様子で王妃は茫洋と此方を眺めていたが、それが私ではない金髪の少女を写しているような気がした。




「………生意気な事言って、すみません」




 ゆっくりと王妃は瞬いて、今度はしっかりと私に視線を合わせた。

 王妃は幼少から培われたであろう骨身に染みた優美な仕草で、首を横に振った。




「やっぱり、年が近いからわか―――」

「18歳です」




 口下手とは思えないほど、ビシャリと王妃の言葉を遮って、思わず突っ込んでしまった。



 弟王子にも勘違いされてたけども!

 大丈夫だよね、私!


 東洋人が若く見えるっていう、アジアンマジックとか、アレですよね!?



 どうやら、かわれた?のか、穏やかに王妃は笑ってみせた。


 先ほどよりは自然のように見えたが、それがわかるほど長く付き合ってはいないので、真実のほどはわからないけど――――――原因は絶対に叔父の気がする。うん。後で髭抜こう。




「レジィーが可愛がるわけね。ありがとう、ミィコさん」 

「いえ……その、言葉が苦手なので……上手く伝えられなくて、すみません」

「ちゃんと伝わりましたよ」




 王妃の真摯な視線に、なんだか気恥ずかしくて首を横に振った。


 ついでに微妙にニヨニヨしている母の生暖かい視線からも逃げるように父の背後に移動した。

 無意味に、その背中に何度か軽く頭突きをかました。

 

 私の後には、身振り手振りを交える母と幾分顔色が良くなった王妃が微笑みを浮かべて、なにやら熱心に会話していた。


 なんか『鍋』とか『ドラゴン』とか聞こえたような気がしたが、心を無にしてスルーした。


 ちょっと嫌な汗が流れたが、いつか食卓に兄か叔父が狩ってきたドラゴン鍋かもしくは熊鍋が出てくるんじゃないかと想像したら、ちょっと笑えた。


 


 + + +




 体感時間が八時を過ぎた辺りで、それぞれ岸田一家と叔父一家は話が続くらしい。


 母親同士ということもあってか、意気投合したらしい母と王妃が穏やかに友好を深めるために今時間から軽くお茶をするらしい。



「ミコ。食後だから、少なめでいいのよぅ」



 なにが!?まさか、この時間からする茶請けを用意しろ、と!?


 いや、イベイベ叔母に持っていくお菓子は作るけども、夜中に食べると脂肪に変わるから食べないわぁ………とかいいつつ、食べてた。普通にかりんとう食べながら『ダイエットは明日から~♪』とか歌ってた。


 九時過ぎにお菓子食べて太っても、脂肪消費のための散歩に付き合わないんだからね!コミュ症には朝のご近所さんへの挨拶はレベル高いんだから!


 ふい、と顔を反らすと父と叔父が角でゴニョゴニョしていた。


 途中から違う話になったようで、小声だったから内容は伺い知れなかったが、ちょっと深刻そうな感じだ――――――というか、かなり珍しいのだが父が真面目な表情で声を掛けられた叔父が思案げでタジタジしている。


 大体、叔父がヤンチャして、父がしょうがないなぁと言いつつ付き合うとか尻拭いするようなスタンス(と私は思っている)兄弟なのだが、実は父の方が力関係が強いとか……そうだったら面白いけど。ぷぷ。


 でも懐が深い?から滅多に怒ることないけど、怒ると怖いんだよ。

 なんか昔に叔父をフルボッコならぬハーフボッコにしたような話も寝物語りに聞いたことあるし。


 すぐに変な雰囲気は霧散して、叔父の自室で酒を嗜むらしい事になったようだ。




「イベイベの所、行く前にワイの部屋にも寄ってや。つまみにお菓子でもええし、御裾分けしたって」



 

 などとひらひら手を振って宣ったので、飛び膝蹴りをかましておいた。

 まぁ、予想通り、かる~く片手で止められたけどね。


 ドア開いてたから、めっちゃ門番と侍女にびっくりされたけど、叔父が少し声を上げて楽しそうに笑っているので止められなかった。けど門番が瞬時にタックル体制になってたので怖かった。きっと暗殺者だと認定されたら、身体を張って止めるのだろう……やばい、叔父が王族って感じが全然しないから、人前でフランクに振る舞っちゃうじゃないか。


 兄と姉はマドレーヌの病気関連の書籍を探しに侍女をつれて図書館へ行くようで、手伝おうかと声をかけようと思って口を開こうとした瞬間、兄が両腕を交錯させ×の合図できっぱりと告げた。




「だが断る」




 まだ何も言ってないよね!せめて声ぐらい出させて!!


 たぶんラバーブの練習があるから気を使ってくれたのだろう――――――くっ、それにしたって、蝋燭倒して本燃やしたりしないよ!姉はなんと失敬な輩だ!ちなみに本を燃やしたのは叔父だ!けして私ではない!


 そんな感じで、各々マドレーヌの部屋の前で離散した。


 とりあえず私もお菓子作りの為に調理室に向かおうとマドレーヌの部屋をでたら、すでにスタンバっていたらしいジークが各人を頭を下げてお見送りしていた。


 電気どころか、蝋燭もないのに、意外に明るい廊下ではバッチリ見えておりましたよ。

 

  

 


「調理場まで、ご案内させていただきます」  




 各人の前なのでキリっとしているようだが調理場の部分に若干力がこもっているよ、ジークさん。


 唐突な出現に驚きはしたが、私を迷子にさせないために叔父が呼んだような気もするが、自主的にやってきたような気もする。


 王族の部屋がある階層を降りると、ニコニコと笑みを浮かべた料理長もスタンバっていた。

 すでに夕飯時は終わったであろう時間なのに、調理服(せんとうふく)を身につけている。




「ささ、調理場は万全の準備でございます」


 

 

 ってか、準備万端って何が!お菓子だよ!普通のお菓子しか作らないんだよ!という、脳内ツッコミに岸田家族が居ないので答えが返ってくることはなく、左右に挟まれて進む。


 これって案内じゃなくて連行ではないかと、ちょっと思った。

    



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