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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
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Act 35. マドレーヌの決断

「でも調度良かった。マドレーヌ姫、少しばかり試したいことがあるんだけど、いいかな?」




 きらっとどこからか取り出した私の眼鏡―――――って返してもらってなかった!―――――を光らせて、相変わらずの胡散臭い笑顔を浮かべていた。


 きょとんとしたマドレーヌであるが、素直に頷いた。

 おおう。いくらなんでも、内容も聞かない内から頷いちゃアカンぜよ。


 寧ろ『ワテの天使に、ナニすんねん』とか、なんか不機嫌そうになった叔父のほうがネチネチ兄に説明を求めているぐらいだ。


 岸田家族はいつものことだなぁと静観し、叔父の身内とはいえあけすけな態度にだろうか、王妃は瞳を瞬かせた後、思案げにマドレーヌに視線を送っていた。


 もうちょっと危機感持ったほうがよいぞマドレーヌちゃん。

 我が岸田家の人間に話を一々素直に言うこと聞いていたら身がもたないから、軽く生死の境目を彷徨う羽目になるからね(体験談)。


 兄が周囲に聞き耳を立てている人間を居ないことを叔父に確認して、わざわざ魔法で叔父自ら結界をはらせた後に『ちょっと面倒な事になるかもしれないが』と前置きしてから、少し困ったように告げた。




「ゼルスターから聞いたんだけど、教会の【恩恵】ってあるんだろう?」

「ん?……せやな。あるで」




 兄の躊躇めいた態度に、叔父が怪訝そうな顔で頷いた。



 …………そういうことか。



 微かにため息のように声を上げて、思わず半歩下がった私を叔父が一瞥するが、兄の言葉がマドレーヌと関連しているためか、視線は兄へと移った。


 兄のやろうとしていることをうっすらと察して、瞳を逸らして、そうっと父の後ろに避難した。


 背後に回った私に上半身を捻って振り返える父は、叔父と似たような表情を浮かべている。



 

「ん?ミコ?」

「反省中」




 父の背に手をついて、地面を眺める。


 大切そうな話の雰囲気を壊さないように小声で話しかけてくる父に、同じくヒソヒソと小さく声を帰して、力なく首を横に降っていた。 

 

 そんな可能性にも気が付かなかったのだ、私は。


 自分の事でイッパイイッパイで、気にかかっているとはいえマドレーヌの事まで考えが行き届いていなかったと言わざる得ない。




「俺()できる」



 

 数秒だったが、数十秒だったがわからない。


 ただ逡巡した叔父が僅かに鋭く息を吸った音がした。


 父が肉壁になっているため私は見えないはずなのだが、片目を閉じた叔父の鋭すぎる視線を父越しに感じた気がした。

 

 兄の最小限の言葉の二重の意味と私の動揺と反省を、敏い叔父は正しく拾い上げたのだろう。


 表向きには文面から考えるに教会のお偉いさんもできるけど『俺もできる』という意味――――――――そして、裏側ではミコもできるけど『俺もできる』という意味。


 


「劇的な公効果があるかは保証できないけど、現時点でノーリスクで緩和ぐらいはできるはずだよ。まぁ、本当はもう少し病気を調べてからって思ったんだけど」       

「……―――マガツ病を緩和できると?」


 


 掠れた声で真っ先に反応をしたのは叔父でもマドレーヌでもない、王妃だった。

 

 形振り構わず飛びつきそうなほど身を乗り出したが、叔父が王妃の細い二の腕を掴むと、はっとしたように謝罪して、すこし下がった。


 


「雅美ちゃん」

「ごめん――――――――申し訳ありません。思慮不足で」




 前半は叔父に後半は王妃とマドレーヌに向けられて、兄は王妃の態度に珍しく気まずそうにガシガシと乱暴に髪の毛を掻きむしっていたが、母に尻を叩かれると頭を下げた。

 

 現時点で完治しないとされる病気を子供がかかっている。


 それを治せるかも、緩和できるかもと言われて親が動揺しないはずがない。

 先ほどまで夫婦漫才をしていた人には見えない。



 

「いいのです。私はかまいません。どうか教えていただけますか?ここで試そうとしたということは、簡単な事だと解釈しても?」

「………ここでできるし難しくはないよ。多少リスクもあるし、成功するかわからないから」




 と、兄が説明の口火を切った。

 

 内容としては自分がマドレーヌにしたいというのは、【恩恵】を教会の代わりに行うということだ。


 マドレーヌの兄に当たる弟王子にすら私ができたので、兄は姉にもポイント振らせていたし、マドレーヌにできないという可能性は限りなく低いだろう。


 もしかすると姉に振らせていたのも、もしかするとマドレーヌの事を見越しての予行演習だったのかも知れない。


 恩恵が私にもできるとわかってから、言外するなとゼルスターと一緒に強く念押しされた。


 そして私に来る精神的なダメージすらも弱めようとしたに違いない。私しかできなかったら閃いた兄に言われるがまま実行して、万が一全く改善されなかったり悪化した時に避難されるということ避けたのだろう。


 仕方がないとはいえ、相手が割りきってくれるかはわからない。

 話は聞いていたかもしれないが、初対面もいいとこだ。


 

 ゲームに疎い姉も体験しているとはいえ、実際に言葉にすると不安を感じているのか、翻訳を求めるように訪ねてきたので、簡単に説明した。



 要約するとボーナスポイントを操作して、MPにポイントを振り分けようという試みなのだ。


 魔力を失うマガツ病に対する力技というわけだ。


 ただ、これはMPの比率に対して失われるのか、数秒間に1ポイントという形で固定で失われていくかはわからないので、本当に効くかどうかは分からない。


 しかし後者である場合は、劇的とまではいかないが、かなりの余力ができるだろう。

 前者であっても、特段悪化するわけでもない。


 ローリターンの可能性があるけども、ノーリスクに等しい。


 


「完全にノーリスクってわけやないんやったら、許可できへん」

「ですが、低いリスクならば」




 叔父と王妃が相談モードに入るよりも先に、兄がそれを止めるように制した。




「どうとるかにもよりますが、未来が無限の可能性というわけではなくなります」

「つまり、どないや意味で、や?」

「最初に行っておくけど、これは俺の考えで、解釈ってことになるけど」




 前置きして兄はボーナスポイントは、その人の持つ潜在能力だ、と。


 つまり10のポイントがある人は勉強や鍛錬などの鍛えた部分に、知能1ポイント、体力2ポイントと入っていき、通常の成長にプラスされて入るものだ、と。


 しかし、大半の人はその全てを活用できずに眠らせたまま………らしい。


 弟王子ことゼルはかなりのポイントがあったけど、それってつまりポテンシャルが高く、ポイント入れた後では潜在能力を余すことなく使用しているということだろうか。




「ええぇと、つまり魔力が多くなるだけで、普通に生きる分には問題はないと?」




 どうやら幼いながら理解しているらしく、難しそうな顔で聞いていたマドレーヌも戸惑ったように声を掛けて、兄はソレに静かに頷いた。


 しかし考えてみてほしい。


 私が言うのも可笑しな話だが、岸田家の血筋ならばチート。


 他の人と比較をしていないので確認はできていないが、弟王子のボーナスポイントは多かった。

 たぶんだけど、私のも多かったのだと思う。


 それって、やはり不思議な事に岸田家の血筋はポテンシャルが高いのだから、マドレーヌだって病気でなければチートになっている可能性だってあったのだ。


 潜在能力の全てを病気の緩和に持っていくということになる。


 叔父はマドレーヌと視線を合わせるように、ベッドサイドに膝をついた。




「………なぁ、マドレーヌ、嫌か?ワテとしては、ええと思う。雅美ちゃんは信頼できる人間やし、そうそう悪いこともあらへんやろう。父親としては、幸せになってくれればそれだけでええ。お前が幸せだと思うように返事したって?」




 マドレーヌに言い聞かせるというよりは、自分に言い聞かせているようにゆっくりと叔父は語りかけている。


 その後ろでマドレーヌの決断を待つ王妃は、祈るように両手を組んでいた。

 



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