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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
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Act 34. 叔父嫁、叔父娘

 脳裏になにか作ってあげようかなぁと思ったのだが、調子がいいといっても顔を出さないほどだから、どうしようか。


 女の子らしいから、お菓子が嫌いということはあるまい。


 叔父に聞いてみたら、食事は制限されているわけじゃないが、あんまり食欲があるわけじゃないので、その内作ってくれと返され、マドレーヌならわてが食べるとドヤ顔で言われた。


 うん、ちょっとイラっとした。


 ………今日はマドレーヌ以外を作ろうか検討中だ。


 つか、未だに叔父に妻が本当に存在するのか疑っている所である。

 たしかに弟王子もいるけども、妻がいるという新手の幻覚見てるんじゃないよね、叔父よ。


 イベイベ叔母と血が繋がってるなら間違いなく美人であるはずが、叔父から『わての奥さん、ちょいと要領悪いけど優しくて美人さんや。腰抜かしたらあかんで』と行く途中で軽く惚気られた。


 すごい!叔父が!あの人嫌いの叔父が!

 ちょとデレてるじゃん!


 『マドレーヌは天使やで』なんて、更にデレた!ってか、キャラ崩壊してなないか叔父よ!?目尻下がりまくりじゃん!


 考えてみれば人嫌いだが、子供には比較的優しかった気がする。(当者比1.3倍、岸田兄を除く)


 子供には嫌われていたが、嫌いじゃなかったのだろう。


 そうそう、叔父は小さい頃は私の世話もしていて……うん、子供嫌いだったかもな。

 子供好きなら肩に担いだり、小脇に抱えたりしないだろう。風呂に落として溺れかけさせたり、ベビーカーを時速20キロぐらいで走行しようなどと無茶はしまい。うん。よくベビーカー壊れなかったな。時速20キロで走行するなど、さすがに想定していまい。


 『はっはっはっ、可愛がられてたな!俺もよく最速のベビーカーの魔改造を……』と、よく父に聞かされたよ。


 でもベビーカーについては後々、叔父が『早く走るとミイたん、泣き止んだんやで!?』と弁明されたけど。それって、単純に吃驚して、声がでなかっただけじゃないんですかね……そんなこと言うから、子供兄が母に私の面倒見といてとか言われたら、ママチャリの籠に私を入れて、蓋をして坂道走行することになったんだとか。


 なんか感慨深い。いや失礼ながら一生独身貴族を謳歌するのかと思っていた。本当。


 食事が終わり、皆で暫し歩く事数分ほど―――――我が家など居間から自室まで数秒というのに、城広すぎだろというツッコミは飲み込んでおこう。


 元々敷地が広々としているし、こうゆう作りなんだろう。

 気分的には海外の城に観光である。


 結構複雑な道順は敵とか攻めてきても一気に制圧されないためとかなのではないかと思う。

 とはいえ、ここまで敵が乗り込んで来たら、意味ないだろうけどね。

 後は増築したせいだ、とかだろうか。


 部屋の前の門番のような騎士が、遠目で叔父の姿を認めたらしく、すぐさま部屋をノックして中に呼びかけている。


 叔父が部屋の前についた時には扉が開かれ、騎士と侍女が頭を下げて待機している。


 なんやら超プロフェッショナルな仕事っぷりに感心しつつ、大所帯でぞろぞろと部屋に入り、最後に入った私が後ろ手で扉を閉めようとしたら、侍女が俊敏に扉を締めようとした手と重なって吃驚した―――――というか、侍女も吃驚していた。


 まさかの自動ドアならぬ、手動ドアまで完備でした。 


 お互い若干気まずいような恥ずかしさを感じ固まったが、私が閉めますねというふうに目礼してきたので、お任せした。


 つか、この異世界に美人多すぎや。



 一つ目の部屋はソファーやテーブルなどの客間のような雰囲気で、実家の居間よりも遥かに広い。


 学校の教室ぐらいか、更にでかいらしく、調度品は華やかというほどではないが、花柄やレースの使用されたクッションや壁に掛けられた絵から辛うじて少女の部屋かなという事がわかる程度だ。


 密かにこだわっているのか、猫足アンティーク調度品が可愛い。

 

 女の子の部屋だなぁ、って感じがする。

 私の部屋とは大違いだ。


 更にもう一つ扉があり其方が寝室のようだ。


 ぞろぞろと岸田家のメンツがぞろぞろと入ってもゆとりがあり、また教室がある様な感覚だ。

 ただ壁の半分ほどを占めている本棚と、王族テンプレ的な天蓋ベッドがかなりデカいので、広さをそれほどは感じない。


 更に奥に続くドアがあるが、衣装ダンスがない事を考えると、ウォークインクローゼットなんじゃないかと勝手に思っている。

 

 一番最後から入ると父と母の間から、ベッドの横の椅子から金髪碧眼の外人が立ち上がった。


 気品のある立ち振る舞い、どことなくイベイベ叔母と似ているが彼女よりも柔らかい。


 なんか予想していた通り金髪の縦巻きロールとまではいかなかったが、毛先が軽くウエーブが掛かっているし、ふんわりと一纏めにしているのか洋灯(ランプ)を背にしているせいか、後光が差しているように感じた。


 叔父さんの奥さんなのだろう。


 しかし、高飛車な『王妃』という感じではなく、大地に根を張る大木のような印象があり、どちらかというと『国母』という言葉がふさわしいような気がした。


 ただ少しだけやつれており、顔色もいいとは言えないし、微笑みも翳っている。

 そのせいか老いているように感じるが、それでも三児の母親とは思えない。


 いったら、家の母もそうだけど。


 我が家の母が可愛い感じだが、叔父さんの奥さんは綺麗系である。

 クールビューティのイベイベ叔母をマイルドにした感じだ。




「こっちの別嬪さんが嫁さんでエレアノール、こっちの可愛い子ちゃんが娘のマドレーヌやで」




 うわぁ……大雑把な上に、叔父の嫁って聞くと非常に違和感を感じるよ。

 どことなく、不思議な感じだ。感慨深いっていうのか。


 あの人嫌いでだいぶ反骨精神旺盛な叔父と、どんな紆余曲折を経て、夫婦になったんだろうと―――――そして、子供が三人生まれるほど一緒にいれたのだろうかと。岸田家の七不思議の一つに挙げられるだろう。


 きっと英雄伝など目ではないくらいの、一大スペクタクルな物語に違いない。

 



「挨拶が遅れた上に、御足労いただき申し訳ありません。レジィーが妻エレアノールと申します。娘は身体が弱いため、ベッドから失礼致します。長女のマドレーヌと申します」




 穏やかな口調は王族というには高慢さもなくシンプルで、不思議と好意を抱かせる女性だった。


 隣のベッドで起き上がったマドレーヌは己の名前を告げて、小さく頭を下げた。


 こちらも色彩は金髪碧眼である。

 叔父とこの綺麗な白人女性の間の子というだけあって、微笑む顔は確実に天使。マジ天使。

 ちょっとふっくらした頬をぷにぷにしたいという衝動すら起きる。


 母親とよく似た透き通るような白肌で、これを見ると弟王子は少しだけ黄色人種の肌に近いかもしれない。それでも十分に色白の部類だろうが。

 

 少しだけ青ざめた肌が、ルイの様子を思い出させる。


 ルイはビクスドールな見かけによらずお転婆という印象だが、マドレーヌはマジ天使でもの静かで聡明そうな印象だろうか。

 

 こちらも自然と父が代表して、挨拶をして次々に紹介されていく。

 やっぱり岸田家の人間の名前は結局が発音難しいようで、私も『ミコ』のままだった。とほほ。


 ひと通りの挨拶と軽い言葉のやりとりが終わると、叔父妻(おうひさま)は私に目を向けて、あのイシュルス的なオレンジに対して、大変お礼を言われた上に頭を下げられて焦った。


 いやいや偶然ですから。

 ぜひぜひ何かお礼をさせてくれと言われて断ったのだが、ぜひぜひと意外と押しが強かった。




「ええやん、ミィたん。どうせわてのマイマネーやで。それにただより高いもんないやろ」




 あ、それなら遠慮なく。いや、でもそのマイマネーの元をたどると国民の税金じ――――――げふん。げつん。なんでもないので、笑顔で威圧せんといてください。


 ちゃんと王様して稼いだ金だと言いたいのだろう。

 まぁ、一国の王が並の公務員の給金ということはないだろうけども。




「ラバーブ」

「ちゃらで、ええんか……ってか演奏料で払うんやないのかいな」

「絃」

「絃って安上がりやなぁ――――他にないんか」




 え?地味に馬鹿にされている?

 ラバーブでいっぱいいっぱいで考えてみれば、絃買い忘れちゃったけどさ!

 

 私の中の野望がむくむくと湧き上がる。


 いや、いわれてみれば、異世界に来てからの禁断症状に近い。

 これは唯の我儘だから封印していた。




「モフモフしたい」

「あぁ、動物触りたいんかい」



 

 くく、この右手に封印されたモフリ好きの魂が疼くぜ。


 まぁ、封印ってか触れる動物がほとんどいなかった……というか、魔物だったな。うん。後ロリコーンは私の中で癒しの動物の部類に分類されない。有害指定。熊王子は一応王子で人間だからなぁ。うん熊のままで全然いいけど。


 叔父さんの家は昔?日本では兎とか鶏とか色々な動物が居たんだよね。 


 怪我した動物で食えないのは、治療して野生に戻していたりとかしてたからね。え、食べられる動物?無論丸焼きで美味しく召し上がっていただろう。叔父の唯一できる料理?である。不味そうなやつも野生に戻されていたけども。




「………困りますわ。祝福のオレンジはイシュルスにしかない上にその存在すらほとんどされていないほどの稀少品。薬の原材料として相当な値打ちもので、普通に献上されたとしても。それも数個ですからね。相場的には最低でも最高級品のラバーブとか、最高で勲章、一代限りの騎士称号なのですが」




 困ったという言葉とは裏腹に、叔父妻(おうひさま)はなんだか穏やかに微笑んでいる。


 叔父の身内ならば、岸田家の身内みたいなものだ。

 専門職の姉が私や兄を治療して現金請求してこないとの一緒で、精々、後日ケーキ奢らせるか、パシリにされるか程度の事ではないだろうか。


 そもそも、拾っただけだし。

 私にしてみれは、ただの酸っぱいオレンジである。  



 

「そやなぁ、小型の大人しいドラゴンとか」




 いや、それ絶対フサフサしてないやん!つうか、もうドラゴンはいいよ!


 どれだけ母のフラグを引き摺っているんだ。


 叔父の口から聞く、小型の大人しいとかは安心できないのは、その基準が叔父だからだろう。

 翻訳すると『ドラゴンの中では小さいタイプで(つまり、予想として馬以上はあると思われる)ドラゴンの中では大人しい(並大抵の動物は叔父を前にすると大人しくなる……というか怯える)』ということだろう。


 それが私に安全かと言われれば、確実に違うはずだ。

 叔父の保護した野犬?は、めっちゃ虎視眈々と私を食料として狙ってた。

 



「それはふさふさしていないのでは……犬系はどうでしょう」

「犬かぃな」




 よかった。奥さん真面だ。

 それに、犬とかならナデナデもしたい放題ではないか。

 

 猫と違って意外と肉球固いんだけど、触らせてくれるといいな。


 毛があればこの際なんでもいい。

 腕が捥げそうになろうとも、サラッサラになるまでブラッシング可!という意気込みである!


 え、なに姉……鼻息荒いとか、ドン引きで言わない!




「どないなの送るん?」

「そうですね、相場的に……オルトロスとはいわずとも、ケルベロスぐらいは」




 そうそう。頭が二つ三つあると、倍フサフサ出来ていいよね―――――って、おいっ!おいっ!


 それきっとモンスターだよね!普通の犬じゃないよね!

 てか、頭一つでいいよ!どこぞのアイスクリーム屋みたいに、親切に増やさなくていいから!




「いやいや、そんなんA級魔物やのうて――――レーブ・フェンリルとか、シャドックとかの方がええんやないか?」

「まぁ、高位精霊ですね。ですがビックテルン・ウルフのほうが可愛いではありませんか」




 なぜか父母が耐え切れない様に口元を抑えて、忍び笑いしだした。

 よくわからないが、なんかツボには嵌まったらしい。


 たぶん異世界魔物?なのだろう。


 なんやらよくわかんないけど、その二人の掛け合いが面白かったのかもしれない。


 雰囲気的に、うん、なんかケルベロスやオルトロスの上を行く犬系の化物なのだろうということは、薄々理解できた。


 ………あるぇえ、私、報酬貰えるんじゃないの?錯覚だった?




「じゃ、ヴュンリルとかかいな」

「それでは報酬じゃなく、刑罰ではありませんか」




 べしと、叔父妻(おうひさま)が、この上なく上品で流れる様な動作の裏手でツッコミを入れて、叔父夫妻がやり遂げたような顔で方や紳士のように胸に手を当て、方やスカートの端を取って、軽く頭を下げる。


 新手の夫婦漫才か!

 なんかちゃんちゃんって感じで終わったけど!?


 耐え切れずに内心、叔父夫妻にツッコミを入れてしまった。


 つうか、異世界ジョークわかんないから!と思ったが父と母は楽しそうに笑っているし、くすくすと天使(マドレーヌ)が微笑んでいた。


 真剣に聞いていた私は一体なんだったのか。


 兄はなにやら思う所はあるものの大人な対応で微苦笑、姉は痛みだしたのか頭を抑えて苦悩、私は内心ツッコミ入れつつ、ぽかーんと間抜け面を晒している事だろう。




「おぉ、やっとマドレーヌ以外の笑う観客ができたで」

「本当ですわね……ゼルスターには怒られるし、カルムには無表情のまま拍手されましたもの」




 岸田夫妻の反応に、叔父夫妻はご満悦である。


 うん、よくわからんがゼルスターが王子なのに不憫キャラということが良く分かった。

 なんだか凄く親近感が湧いたよ。ただの世間知らず系天然かと思ったが。


 そしてカルムってたぶん熊王子だろうが無表情で拍手って……それはそれで怖い上に、お笑い芸人を精神的に抹殺するタイプだな。

 お笑い番組を息を詰めて、無表情無言で見ている(らしい)私に言われたくはないだろうが。




「精進が必要や。夫婦漫才の道は長いで」




 とか、いいつつ『まぁ』と頬を染めた別嬪な嫁(おうひさま)の肩を抱き、天井を指さして無駄に瞳をキラキラさせている岸田叔父(おうさま)


 違う意味で腰抜かしそうだ。

 

 身内に見せるだけのおチャラけた姿で、冗談だと信じたい。

 いや、信じているよ。叔父夫妻。


 その指先の方向を見つめながら、イシュルスの国の未来を案じたのは、たぶん私だけではないはずだ。




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