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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
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Act 33. 赤の晩餐

 次に目が覚めた時は、随分と日が傾いていた。


 早朝から狩りでかけていたが、時間の流れが速いような遅いような――――――濃い一日だったのでどちらともつかない感じであったが、すぐに全身に走る筋肉痛のような感覚に、意識が流れていく。


 さすがに、あの泥だらけの姿で清潔なベッドに寝かせられないと判断したのだろう。


 比較的汚れのない外套が被せられたソファーに横になっていた。


 しかも王宮内に準備された私の部屋ではないようで、同じような構造ながら置いてある荷物が違い、持ち主はすぐにお風呂から寝室に戻ってきた。



「起きたのね」



 姉に慣れない人なら、たぶん姉とはわからないだろう。


 年齢より年上に見える綺麗系の面立ちは、鎧のような化粧が落ちているため、逆に若々しさがあり、母に似通った愛らしさがあった。

 

 この顔の時は不機嫌でも、怒りを露わにしても可愛いと言われるのがオチだろう。

 それを嫌がって、化粧に頼っているのだろうけど。 

 

 私にしてみれば、怒った姉はどちらにしても怖いという認識だが、他の方はそうでもないらしい。 


 考えてみれば、母も本気で怒っていない時、超可愛い。

 漫画だったら背後に『ぷんぷん』と擬音がついているに違いない。


 反面、マジ怒りはにっこりと笑顔にはちがいないが、背後に暗雲が立ち込め、ひれ伏したくなるような圧迫感が生まれるのだから、不思議でしょうがない。



「お風呂、まだ温かいから入りなさい。替えの服も中にあるから」



 頷いて『うぃ』と適当に返事すると、すれ違いざまに軽く尻を叩かれ、振り返ると何故か確かめる様にじっと見つめられた。



「………他に、怪我はないのよね?」

「ん?うん」



 不機嫌そうな顔はしているものの、それ以上何も言ってこなかったので、風呂に向かった。


 考えてみれば、女王蜂に攫われたにしては元気すぎるからか―――――そこらは、超頑張った!としか言いようがないのだけど、微かに『生きて帰らないと、殺される!?』とちらっと思ったような気がしなくもない。うん、まぁ、死んでる時点で殺される事などないのだけど。


 結論からいえば、汗と泥と血で風呂床が凄いことに。

 タイルの床で良かったよ、本当。


 魔法が使える異世界というだけあって、たぶん姉が直してくれたであろう傷は、ぱっと見わからないほど傷跡が綺麗になっている。 


 イシュルス女王蜂にやられた肩口の傷だけ酷かった。


 というか、あの時はテンパっていたのか、記憶が鮮明ではないので、どうして傷口が直っているのかもすらよく覚えていない。私の火傷を直した時の、姉の使った魔法しか回復魔法なぞ知らないが、それを使用……したような気がもする。


 まだちょっと肌が突っ張ってる気がする。

 



 ――――――なにより、一番の致命傷が前髪だよ!!




 すっかり忙しくて(?)忘れてたけど、屈みのぞき込んだら、超短いよ前髪でぎょっとしたよ。

 

 眉毛が出るほどって、何時ぶりだろう。

 何度引っ張っても伸びるはずのない前髪に涙を流しながら、風呂を上がった。

 

 すでに武装―――――否、化粧を終えた姉がソファーに腰かけ、備え付けらしいお茶を啜っており、それをみてようやく喉の渇きを覚えて、歩み寄った。


 姉の隣に腰かけ、テーブルからコップを取ると、姉自らお茶を注いでくれた。

 外でバリバリ、家でダラダラの姉にしては珍しい。


 たぶん労い的な意味があるのだろう。


 人をこき使う姉が稀になにかしてくれるとめっちゃお得感がある気がした。

 近い感覚でいうと、雨の日に軒下の捨て犬を拾う不良みたいなギャップ、だろうか。


 温くて濃いお茶は今の疲労感には丁度良く一気に煽って、ほっと一息つくと、姉がふと小さく笑った。


 

異世界(こっち)にきてから、一日一日が濃い感じがするわ」



 確かに。

 前はもう一年たったの!?みたいな速さを感じたものだ。

  

 ちなみにドS師匠達一向は城入り口の随分手前で下りたようで、なんとロリコーンたちは城内までしっかりとついてきたらしい。つか、なぜ一緒に入城した―――――――というか、城内の月日を重ねた淑女と、月日の浅い淑女たちを隠した方が良いと思うのだろうが、どうだろうか。


 どことなく嫌な予感しかしないが。


 はぁと二人して大きなため息ついて、母にしてもらおうと思ったが夕食作っているということなので姉に髪型を軽くそろえてもらった。


 さっきよりはマシになったと思うが、運動部系男子並みの短さである。


 なんやかんやでダラダラしながら雑談していると、夕食の呼び出しがかかり、重い身体を引き摺りながら、食卓へと向かった。


 


 + + + + 




 最初は割と楽しそうに――――――おい兄!私と角の生えた兎とのやりとり省いてくれよ!しかたないじゃん!兎、可愛いんだから!―――――岸田家の三兄妹冒険の話を聞いていた微笑ましそうに叔父と父であったが、イシュルス蜂あたりから、頬を引き攣らせていた。


 相変わらずの家族団欒であったが、ロリコーン達どうなったんだ。


 確かにゴブリン戦では命の恩人ってところも多少はあるが、イシュルス蜂の厄介事を運んできたのは奴らだというのに、城内に滞在が許されたのだろうか。最終的にイシュルス蜂に突っ込むと決めたのはこちら側だから文句は言えないけど。


 つか、ゴブリン兵士が反対側の森から来てるんだよ!って報告は確実に叔父に入っているはずだというのに、余裕っぽいのがまたなんとも言えない。


 こやつ、もしかして最初からあっち側からも知ってて、放り出したんじゃねぇだろうな!

 とか若干勘繰りたくなるのも仕方がない。


 ないと思うけど―――――まさか、ないよね叔父。可愛い子は死地に送れとか、岸田家の家訓に入ってたりしないよね?


 だとしたら、そのリス並に膨らんでいる頬をぶん殴りたいと思うんだけど。

 最初の日と違って、昨日今日とモリモリ食うようになったな……普通、今まで小食だったら、胃袋が受け付けない様になるんじゃなかろうかね。


 そのせいか、若干ご機嫌だな、叔父。


 ついでに本日はイベイベ叔母さんも騎士隊長殿もいらっしゃらんし。


 なんだろう………騎士団長殿に関しては『イベイベ叔母がいないなら自分も行かない』とかのような、気がしなくもない。

 なんかデジャブる、アイラブ母の父と。




「……よく生きて帰ってこれたな」




 叔父よ、驚きのあまり標準語になってるから。


 後、主に私(の前髪)を凝視して、しみじみ言うのやめてもらえませんかね。

 なんだか『あれ?やっぱり私、普通二回ぐらい死んでても可笑しくないイベント発生してるよね?』とか思っちゃったりするから。

 

 さすがにイシュルス女王蜂に追い回され、なんか攫われて、赤いドラゴンに追い掛け回されてた時はSAN値ゴリゴリ削れてましたけど!!

 しかも兄姉に出会えた!と思ったら、目の前に再びゴブリン兵士ときたもんだ。


 食事の肴にしては、悲惨すぎる。


 『うふふ、ドラゴンのお肉残念ね』と笑っているのが母だけという感じだ。

 まさか兄の話を楽しい空想話かなにかだと思っているのだったら、末っ子、超泣きますけども。

    

 ただ救いなのが、母のオムライスが超美味いということである。


 手作りケチャップまいうまいうだ―――――ということで、たぶん王家の台所にケチャップを伝授したようで、今日の夕食はケチャップ料理祭りになっている。


 ………やたら食卓が赤い。


 鶏肉?の煮込みや、麺ものと絡んだナポリタンっぽいもの、ロールキャベツの入ったトマトスープ?として使われているのには野菜がタップリ。

 

 つか、調理場に一つ伝授すると、何故にいっぺんに試そうとする。

 劇的に美味しいけど、バリエーションは豊富だけども、マヨネーズといい同じ調子の味だと飽きちゃう気がするんだが、どことなく調理場のテンションの高さが窺える。


 なんか今頃、料理長が新しい料理を学んで、神に祈っているような気がするのは気のせいだろう。

 猛烈にケチャップ作りの練習とか、してたりしそうな。


 ともかく、今日は物凄い働いた感があるので、お腹が空いていたのだ。

 いい仕事だったかどうかは別として。


 

「そや、皆暇やろ。食後に面貸したってや」



 岸田家族が不思議そうに首を傾げると、叔父は珍しく邪気のない顔で微笑んだ。

 穏やかというか、デレデレというか、そんな感じだ。




「ミイたんのお蔭で、今日は超いいねん―――――マドレーヌ」




 どうやら生で食べていたらしいマドレーヌだが、徐々に効き始めているらしく、本日は発作が起きていないらしい。


 そこに一緒に叔父の妻(!!)がいるらしいので会えるようだ。


 一番嬉しそうにしているのはやはり弟王子だった。


 マドレーヌは母親似美人らしく―――――よかったな、叔父に似なくて!叔父もイケメンっていや、イケメンですけど、目つき悪いから!―――――どちらかというと弟王子タイプらしい。


 まったく話に出てこないが、熊王子は依然として熊のままか。 

 個人的に、そちらの方が断然いいけど、王家の後継者が熊のままとかどうなんだろう。


  

 岸田家一同は、食事終わりと共に、マドレーヌの寝室へと向かう事になった。



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