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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
102/119

Act 31. 前門のゴブリン軍団、後門のドラゴン

 振り向きたくなかった。振り向きたくなかった。振り向くべきではなかった。


 大事な事なので三回言っておこう。


 一瞬、真面目に息ができなかった――――当然苦しくなって息吸ったけど。

 本気でこれはヤバすぎて兄姉の所に連れてけないけど、かといって一人で対処できない気がしてきた。


 たぶん、叔父片目瞑った本気モードにも勝るとも劣らない。


 

 岸田母フラグ――――――皆大好きドラゴンである。



 デカい、強い、ヤバいの素敵な三拍子の揃ったファンタジー世界に来たら、エルフ、ユニコーンに並んで、会ってみ(以下略)。


 できることなら味方同士で会いたかったんだが。

 どうみても友好的ではあるまい。


 かといって、鍋にできるほどの力が私にあると思うな、母ぁ。


 敵対行動などしていないと思うが、もしかして山の方に飛んで行ってたから縄張りに突っ込んだとかだろうか……まさか相打ち覚悟で、ここまで狙って飛んできたんじゃないよね、女王蜂!?


 もしくは、出産後で気性が荒くなっているとか。

 

 けたたましい咆哮を上げている事から、言語は通じなさそうな感じだ。


 ドラゴンの事情はよくわからないが、ともかく一人で絶対に倒せない相手であることは、とてもよくわかった。怒れるイシュルスの森とかじゃなくて、ベリーハードモードのイシュルスの森と改名すべきだ。


 っつーか、敵多すぎるわ!!


 前に兄敵対勢力Cに追いかけられていた所に、叔父敵対勢力Xに遭遇して死ぬような目にあったわ!叔父敵対勢力と兄敵対勢力が、どっち拉致るかで戦い出して助かったけども!


 今度は私の敵に追いかけられている所に、兄姉の敵だよ!


 異世界でも結局似たような人生を送る気がしてならないのだが何故だろう。

 

 おっと、目から心の汗が――――って、あれ?いや、まてよ?




 + + +

 


 

 某市内在住の岸田家末っ子(現在地異世界)さんから質問です。


 

 Q 兄姉がゴブリン兵士の軍勢と戦っていて劣勢です。ついでに私の背後からドラゴンが迫っています。どうしたらよろしいですか?




 + + +

 

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図というのは、こういうのをいうのだろう。



 ゴブリン軍団のど真ん中に踊り出た私に、彼らが攻撃してきたのは数十秒程度だった。


 加速して軍団の間を駆け抜けるだけの無害な人間よりも、その背後から迫りくる全長3メートルは確実にあるドラゴンの意識をごっそりと持ってかれた。


 

 そりゃそうだ。


 背後から、明らかに高位レベルのモンスターである。



 完全にMMORPGとかのモンスター・プレイヤー・キルという悪質なゲームスタイル?があることを思い出しつつ、振り返らずに進んでいく。


 たとえ、ぶちとか、ぶしゃーとか、轟々という音の後に雄叫びと断末路が聞こえるよ。


 私にドラゴンは倒せない。

 兄姉+αも、そんな余力はない。


 この場所で一番、戦闘力を保有しているのは―――――そう、ゴブリン軍団である。


 なので、ゴブリンにドラゴンぶつけてみた。


 

 ゴブリン兵士、頑張れ!

 めっちゃ頑張って、ドラゴン倒せ!



 という無茶ブリをしつつ、軍団の中を通り抜けてしまったが、ちらりと背後に視線を向ける。なんと逃げ回るだけかと思ったら、ゴブリン兵士がドラゴンに応戦しているではないか。素晴らしい。


 ドラゴンは足止めされる状態だ。

 攻撃しかけて、ヘイト値を集めたゴブリンに夢中だ。


 戦域から外れた安全地帯なため、落ち着いて戦況を眺める。


 予想通り、すぐにゴブリン兵士の一部は恐怖から、敵前逃亡しなすった……というか、よく戦おうと思ったな残りのゴブリン兵士。


 もしかすると、初日にあったゴブリン兵士たちより強いのか?


 暴れるドラゴンの全貌が初めて見えたが、赤黒い鱗のティラノザウルスに角と翼が生えた的な感じだった。


 鱗のため弓や剣ではほとんどダメージはなく、腹の部分だけ鱗が無くて色が薄くて弱点っぽいのだが、懐に入る前に吐く炎と浮いている前足に叩きのめされるという感じだろうか。


 ついでに羽ばたつかせるだけで、風の刃みたいなの発生しているよ。うん。


 ゴブリン兵にも重騎兵のようなものがいるが、盾で火炎放射を防いでるみたいだが、木製は一発で燃え上がり、鉄製は数度で使い物にならないようだ。


 でも意外と、すぐ鎮火するんだよね。

 魔法的な炎って、やっぱり普通の炎となにかが違うんだろうか?


 

 あ~……それにしても、幾らなんでもゴブリン兵士には荷が重いよなぁ。


 最初の方のドラゴンに気が付かないでゴブリン兵士もいた様で、途中まで通った道が18禁モザイクが欲しいぐらいの凄惨さといったらなかったが。


 後、ぱくってね。うん、食べちゃったね。ドラゴンのギザギザの歯のついた口からゴブリンの足が。


 幼少期にライオンがお肉がぶらーんとした鹿っぽい足を口に銜えて歩く所をTVで見た時ぐらいショックだわー。

 ひくわー、超ひくわー。

 そりゃ、ゴブリン兵士もへっぴり腰になっちゃうわー。


 だが当初の思惑通り、兄姉に向かっていたゴブリン兵士の数は激減。

 しかも兄と互角で戦っていたっぽい司令官が抜けて、ドラゴンと対峙しているため、すぐに兄たちも脱するだろう。


 つうか、敵ながらあっぱれだよ、司令官!


 炎と風の刃の回避能力が高すぎて、ほとんど傷ついてないし、超贔屓目でみたらドラゴン押してるよ!ナイスファイト、司令官!


 兄を劣勢に追いこむだけあって、どS師匠並に剣の腕はかなり凄いらしく、時折魔法も放っている。残念ながら、炎系統の魔法の使い手?なのか色の違う黒っぽい炎を出すし、耐性があるのかもしれない。


 有効的な一打はないけど、負けるという感じもしないというか。

 

 うーむ、残念ながら、あの司令官の調子だとゴブリン兵は結構生き残ってしまうかもなぁ。 


 とはいえ、現時点で二割は確実にドラゴン死で、一割重症、二割くらい逃亡って感じか?

 むしろ、もっとゴブリン逃げるかと思ったけど、意外と粘るね。


 後のは司令官次第といったところだ。


 軍勢は多すぎて撤退に時間が掛かるだろうし、あと一割ぐらいは削られると思うが、倒す時間によって兄姉に対する追っても変わってくるからなぁ。


 ゆっくり戦っていてくれたまえ、司令官。


 殿残して引くにしても、兄姉に構っている余裕などないだろう。うん。


 超、頑張ったな私。

 

 兄姉に視線を戻すと、此方には気が付いていないようだったがラ・イオと妖精さん、スキンヘッドがゴブリン兵の薄くなった所を突破し、ジークと兄がどS師匠が殿っぽい感じで、撤退しだしている。


 私が突っ込んだゴブリン軍団の場所と兄姉の場所は真逆にしといてよかった。

 あんまり距離は離れてないけど、離れてないよりはマシだろう。

  

 あれぐらいの人数なら、突破できるはずだ。


 女王の魔石から魔力を吸い上げて、息を吐く。


 今こそ、この(無駄に)叔父に鍛えられた豪速球!

 なんかちょっともったいない気がするけど、手にしていたイシュルス女王蜂の魔石を握りしめ、振りかぶって、外角高めストレート!!


 投げると同時に、女王蜂の羽に乗ってダッシュ。


 凄い魔力使用しているのか、走行がヨロヨロしてしまったので木の後ろに隠れたけども。



 ごごごご、と背後から風音とは思えぬ音。



 ちらりと見えたのは、まるで台風の中心地帯のような、ドラゴンの身の丈すら凌ぐ巨大な風の柱が出現して、風の刃でメッタメタ+巻き上げられる空中を彷徨うゴブリンの姿。

 

 傷を負ったドラゴンの咆哮と吐血して地面に膝をつく司令官―――――うーん、ストライク。


 バッターややアウトってか、デットボールで乱闘狙いです。


 姿を隠したのがよかったのか、『おい、今の攻撃お前か!それともお前か!』という感じで、ドラゴン大暴れでゴブリン撃破である。


 魔力かなり吸い上げても、この威力って。

 もし魔力を吸い上げてなかったら、あれに私も巻き込まれてたんじゃ……ちょっと無謀だったか、私よ。

 


 まあ、ともかく……兄姉にはさしたる被害はなかくてよかった。

 ちょっとひやりとした――――ごほん、ごほん。


 このまま兄姉を視野に入れながら、ゴブリン兵が居なくなるまで外回りで追いかけよう。

 

 走行に必要な魔力の女王の魔石(バッテリー)が無くなったので、結構きつくなってきたけど、さすがに追いつきはするだろう。


 さすがに兄姉+αも吃驚していたが、すぐに好機と見たようだ。



 兄姉を追ってくる斥候みたいな身軽なゴブリン兵は、どS師匠の魔法と姉の弓矢が火を噴くぜ。

 

 姉の弓って一撃必殺みたいで、カッコいい―――――カッコいいけど、なんか、私にも向かってきている気がするんですけど!!!


 周囲見渡したけど、もう敵いないでしょ!


 ちょっと離れたところから、兵士が居なくなるまで待ってたけど、まさかの敵認識!?


 無駄に姉の目が良すぎて、結構遠いところにいる私も中途半端に見えちゃったのか……ゴブリン兵の影っぽいものが遠くに見えたから、とりあえず一本放っといたわ(キリッ)みたいな!マジか!

 

 ちょっ!ま!ちぃっ!


 追尾機能が執拗に追ってくるんですけど!?

 味方だと頼もしいけど、敵だと物凄い恐ろしいな、おい!


 細かく木々を縫うように走っているのに、同じコースをたどってくるとか……やるな、姉の矢よ!つうか、はぇ!はえよ!


 今、時速最高速度出てるけど、追ってくる速度の方が早いよ!?



 当たる……このままだと、当たるって!



 寧ろ当たって軽傷に持ち込むしかない。振り返って、心臓一直線で飛んでくる姉の光の矢に対して、咄嗟に親方ドワーフBの籠手でガードした。


 小さなハンマーで、殴りつけられたような衝撃。




「―――――ぐ、はぁあっ」




 息が詰まって、二メートルぐらい吹っ飛んだ。

 辛うじて、女王蜂の羽が動いていたので勢いをやや殺してくれたが、それがなかったら腕貫いていたかもしれない。


 親方ドワーフBの籠手は頑丈だったが、これで両方ともへこんでしまった。

 

 なんつー厄日だ、今日は。

 

 このまましばらく転がっていたいが、兄姉を見失いそうだし、ゴブリン兵士に遭遇したら危険なので、女王蜂の羽に乗り、女王の魔石と百人切呪詛刀ひゃくにんぎりじゅそとうを拾って、ヨロヨロと半泣きで追いかけた。


 姉の弓が当たった腕……超痛い。わざとじゃないのはわかってる。



 だから、姉ェ……後 で お ぼ え て い ろ。



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