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みたらし団子

……みんなが第7回投稿してるときに……orz

多分誰も彼もが混乱する。

加えて誤字脱字それを加速!


どうか緩い気持ちで。

いらっしゃいませ。


 いつものように授業があり、ようやく昼休みに入った。

「志ぃ乃おちゃあん」

 不自然なくらいに間延びした声が宮澤の耳を震わせた。

 条件反射のように椅子を立った宮澤。その宮澤の席に後ろから抱きつく影が一つ。しかし、宮澤がいないので背もたれに布団干しされたようにうなだれ、胸あたりから座席で曲がってしまう。

 その上に志乃は座った。

「志乃ちゃあん……重いよお」

「星野さんが抱きつくのが悪い」

 立ち上がり下にいる星野と呼ぶ女子を除けてまた座る宮澤は、鞄から弁当箱を出して机に置く。

「待ってよお」

 慌てて宮澤と対面する椅子に座り、コンビニの袋を宮澤の机に置く。

 それから中にあるのをいそいそと取り出していく。ポテトチップス、じゃがりこ、そしてみたらし団子。

 宮澤は眉を寄せる。

「それは昼ご飯じゃない」

「またまたあ、そうやって私を騙そうと思っても無駄だからねえ。昼に食べるものは昼ご飯でしょ」

 ふふんと自信たっぷりに胸を張る星野、どうやら本気で信じているようだ。

 少しイタズラ心が刺激された宮澤は、何か嘘をついてみたくなったので、頭を回転させて考える。

「ねえ、星野さん」

「なあに、志乃ちゃあん」

「みたらし団子は食用じゃないんだよね」

 ポテトチップスを食べている手が止まった。僅かに震えている。

「あれって実は観賞用よね、確か」

 摘んでいたポテトチップスは床に落ちて、空になった指先を噛んでいる。

「う、うひょれひょ」

 星野の驚愕に対して宮澤は無言で答えた。それを肯定とでも思ったのか、星野はみたらし団子の入った箱をジッと見つめる。

 宮澤は静かに言う。

「まさか、食べてたの」

「え、いや、た、食べてないですよ」

 苦し紛れにそう言う星野が可愛くて、宮澤はみたらし団子のカバーを開けて、一本摘む。

 二個付きが四本のもので、数が多いからという理由で好んで買っているようだが、実際は三個付き三本の方が多いというのは言っても無駄だった。

 未だに混乱している星野の口に一個入れて残りを自分で食べる。

「う、そ」

 そうやって言うと、星野は口の中の団子をもぐもぐと食べて、いきなり立ち上がったかと思えば、そのまま逃げるように走る。

 途中宮澤に会いに来た近衛にぶつかり、それを受けとめようとした近衛が抱きつくような格好になるが、すぐに立ちなおして教室から出て行った。

「また何かしたのか」

「ね、知ってるかな。みたらし団子って観賞用なんだよ」

「……馬鹿か」

「私じゃないよ」

 やれやれという仕草を近衛する近衛は開けっ放しのポテトチップスを摘む。

「ね、近衛君」

「なんだ、宮澤」

「星野さんの抱き心地はどうだったかな」

「女子に触れて喜ばない男子は男子じゃない」

 近衛は即答した。聞かれるのが分かっていたからだろうか。

「でも、宮澤の手の方が俺には何倍も良かった」

 ニッと笑いかけてくる近衛を直視出来ない宮澤は、照れ隠しにみたらし団子を棒ごと近衛の口に押し込み、俯きながら弁当に手をつけ始めた。

 耳を真っ赤にしているのは隠しきれずに。



◆◆◆◆◆◆



「明日絶対みたらし団子買ってきてよお」

 宮澤と近衛の後ろ姿にそう言うと、星野は反対方向に走っていってしまった。駅とは反対側に家があるようなので当然のことだ。

 けれど怒っているのもつかの間、彼女の周りにはものの一分でグループが出来ていて、星野は囲まれて楽しそうに笑っている。

「星野って人気あるよな」

「そうだね。気になるの」

「宮澤が仲良くする数少ない奴だからな」

「ま、星野さんが仲良くしてくれるからね」

 宮澤は星野の周りの集団に目を向けてから目を細める。

「群れようとして集まってるんじゃないの、集まるから群れてるように見えるんだよ、星野さんはね。だから好き」

「言いたいことは分かる」

 言って手を差し出す。

 宮澤が差し出された手を取って、それから歩き始めた。

「あ、今日はあそこが開いてるんじゃないかな」

「そうかもな、行ってみるか」

 二人は定番となった三週間に一回のあの店に行くことにする。

 不思議な雰囲気を漂わせ、白い薔薇の看板を持ったCandyStoreへ。

 二人は手を繋いで歩く。ただ、二人とも恥ずかしさで、手を繋いでいるという感触もままにならないまま歩いていたので、さほど時間を感じることもなくCandyStoreへ到着した。

 そこにいたのは青年だった。

「今日は何かあったのでしょうか。いつもより少し遅い気がします」

 笑って手招きされて、二人で近付き、そのまま導かれるままに店内へ。

 そこには今までにないような不思議な空間が広がっていた。

「あれ……」

 店内はいつものバーのようになっていて、いつもよりも物がなかった。

 そして、いつも青年がいるはずの立ち位置に老齢な男が年齢を感じさせないような出で立ちで立っていた。

「いらっしゃいませ。おや、これは私が言ってよかったのか」

「構いませんよ。勉強させてもらいます」

「上手に言うものだ」

 男は笑って、コップを三つ用意して、それにオレンジジュースを注いで、三人にそれぞれ差し出した。

 それから同時に白い紙を差し出した。

「今日は何を作るんでしょうかね」

 青年は楽しそうに紙を近衛に勧めて、近衛は少し考えた後、すぐに何かを書き始めた。

 それを見ていた宮澤もふと何かを書きたくなってきて、紙に何かを書き始める。

 それぞれ書けたところで、青年にそれを渡した。

 青年はそれを受け取ると、ポケットに入れて、ごそごそと何かを丸めるように動かす。

 それを取り出すと、それはみたらし団子だった。

 すかさず老年のマスターが二人の前にオレンジジュースを差し出した。

「宮澤。あーん」

「あーん」

 宮澤は差し出されたみたらし団子にかぶりつく。

 もぐもぐと口が動いているのが可愛らしいので、近衛はついついほっぺをつついてしまう。

「む。食べてるときに悪戯しないの」

「ごめんごめん」

 笑いながら謝ると、今度は宮澤の方から近衛にみたらし団子を差し出した。

「近衛くん、あーん」

「あーん」

「あーん」

 近衛が口を開けたところでみたらし団子はバック。そのまま宮澤の口の中に入っていった。

「おいしい」

「食べてるときに悪戯しないんじゃないのか」

「食べる前だもん」

 そう言って残りの団子も食べてしまう宮澤。

 青年はさりげなく空いたお皿を取り、握りしめて消す。

「仲のいいことだ」

「いつもこんなものですよ」

 今まで黙って二人のやりとりに耳を傾けていたマスターと青年は、楽しそうに二人を眺めて話す。

 ハッと二人の存在に気付いた耳まで真っ赤になり、俯き加減に視線だけを合わせる。

「き、今日はもう帰ります」

「ごちそうさま」

 手早く帰り支度をして店を出ようとする宮澤と近衛の二人に、マスターは凛と響く声で一方的に喋った。

「男は度胸、女は度量だよ。頑張れよ若者達」

 カラン。

 二人の姿は消えていた。

 残った青年とマスターはしばらく沈黙していた。

 しかし、もう時間がきてしまったようだった。

「楽しませてもらった。また来てみたいものだ」

「いつでもおいでください。ここは誰の物語も受け入れるCandyStoreですから」

「そうさせてもらうよ」

 それだけ言うと、マスターの姿も消えてしまった。

 青年はいつの間にか手に現れた一冊の本を本棚に入れ、それから天井を見上げた。

 今日はここまでにしよう。

 そんな声が響いたか響かなかったか。

 確かなことは一つ。

 世界が閉じられた。

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