7話
この曲は。全九曲からなる非常に難解なもので。技術だけではなく、感情、そして当時のロシアを取り巻く社会情勢を学ばなければならない、とする音楽評論家もいるほど。前の八曲を重苦しい短調、終曲のみ長調という調性は非常に異質なもの。ラフマニノフという人物の深さを物語るものでもある。
そしてテーブルの上に用意したのは、花器と花を数種類。店内にはアレンジメント以外にももちろん、まだ仕入れたばかりの生花が数多くある。頻繁にランジス市場に早朝向かい、店主の父であるオーナーが買い付けており、そこから花を選ぶ。
まずシャノンの目に飛び込んできたのは、ひと目ではそれとわからない代物。
「おぉ、綺麗だね。てか。フラワーベース。すごくない? なにこれ、可愛い」
手にとって見てみる。それは女性の人型の人形で、頭には穴の空いたシルクハットを被っており、そこに上から花を飾る模様。それを様々な角度で覗く。
一見すると花器には見えず、実際に蝋燭を立てたりフルーツを乗せたりと様々な用途で使用できるインテリア。そもそもがティーカップやバスケットでもアレンジメントを作ったりするため、縛りなどないのが面白い点でもある。
興味を持ってくれたのはベルとしても嬉しい。解説を続ける。
「デンマークのビヨン・ヴィンブラッドというブランドのものだそうです。可愛いですよね、私も最初は驚きました。でも職業、というテーマだったので。つまり、人間というものがまずあって。アイディアは頭から、脳から発生するものであって」
そこから生まれるものこそが仕事、職業。捉えどころのない人間という存在。だから『海とカモメ』のような、漠然とした曲が浮かんだのかもしれない。イ短調の物悲しい音が。




