6話
ベルの指と耳に残る名残。どこか捉えどころのないその。一枚。
「ラフマニノフの『音の絵』という曲です。その中の『海とカモメ』」
「カモメ?」
全く今の状況と関連性のなさそうなワードが飛び出し、シャノンは首を傾げた。カモメ、ってのは鳥。花。鳥。そういえば、と思い出したことがある。
一九六三年、旧ソ連の最初の女性宇宙飛行士、ワレンチナ・テレシコワが残した言葉「ヤー・チャイカ」。私はカモメ。正確には「こちらカモメ号」という乗機の意味だったらしいが、女性ということもあってか深い言葉として世の中に解釈された。ということがふと、頭に降りてきた。そのカモメ?
うーん、と唇を突き出し、ベルはその理由を説明する。
「なんていうか……花をイメージした時に、自然と湧き上がってくる曲を弾いちゃうんです。なんかそっちの方がいい、ってベアトリスさん……店主さんからは言われていて」
「それが今回はその曲だった、と。なるほど?」
合点はいった。いや、よくわからないけど。言いたいことはシャノンにはなんとなくわかってきた。なんかそういう、才能というか特性みたいなものがあるのだろう。なにかと五感が結びつく、みたいな。
それは言葉にはできない感覚。ゆえにベルにもはっきりとはわからないものなのだがひとまずは。
「はい、それで、できました。本当に、簡単な感じですけども」
じっくりと、時間をかけたらまた違う曲だったのかもしれない。しかし、直感は案外侮れない。だいたい正しいって言うし。
迷いなく花を、花器を選ぶ。ちょっと前まで迷って迷って、結局聞いたりして。でも、自分の中に降りてきた感覚。それを信じること。それだけでいいこと。答えなど最初からないのだから。




