5話
その柔らかな表情からシャノンは、先ほどまでの申し訳なさが雲散霧消。取り越し苦労、ってやつぅ?
「なんか余裕ありそう? すごいふんわりしたテーマにしちゃったから、悩むのかと思ったけど。てかさ」
「はい?」
いつの間にか閉じていた瞼を開くベル。そしてキョトン、と見つめる。
シャノンが気になったのはその手元。選んでいる際に出ている癖、のようなもの。
「ピアノ、弾いてるみたいだね。なんかさ。優雅っていうか」
そういう教養はないけども。また店内の空気がちょっとだけ変わった気がした。優しい方向に。
その感想通り、花を考える際のベルはクラシック音楽をイメージする。そして今まで聴いてきた曲の中から、自然と合うものをピアノで演奏する。これが彼女の中で一番しっくりくるアレンジメントの方法で。
「そうですね。私は音と花は一緒だと思っています。ベアトリスさんから教えてもらったことなんですけど、アメリカの詩人、エドウィン・カランて人の言葉で『花は、地球の唇から音もなく生まれる大地の音楽』というものがあるんだそうです。なるほど、って思いました」
当然無意識に湧き上がってくる曲なわけで。なんとなくドイツ的なものになるかな、と思ったが聴こえてきたものは全然違って。
その偉人らしき人も知らなければ、言っていることの意味もシャノンにはよくわからない。なので。
「うん? うん?」
と噛み砕けずにいる。唇? 大地? なんの話?
その理解に苦しんでいる姿、なんとなくベルにもわかる。自分も最初はそうだったから。
「まぁ要するに、一緒ってこと、だと思ってます。勝手に」
だけど、きっと人によって解釈は違ってて。それでよくて。答えがないから広がりがある。
若い子がなんだか逞しく見える。シャノンは難しそうな顔で頷いた。
「ふむふむ。てかもうできそうなの? ちなみにさっき弾いてたのはなんて曲?」
言われてもわかんないと思うけど。ベートーヴェンとかならわかる。名前だけ。




