3話
花と同時に、ベルはここで音楽の理論のようなものについて、店主から教えを受けている。
「はい、ピアノに深く潜るというか、上手く弾くこと以上に『なぜ弾くか』『なにを表現したいか』をより強く考えるようになりました。ベアトリスさんのおかげで」
それまでに掴んでいた、漠然とした自分なりの音楽論。どこか心地悪くて。ここでは技術についてはあまり教えてくれない。ただ、弾く意味。それを。
店主さんの人間性に惚れて、ということ。となると、また新たな疑問がシャノンには浮かぶ。
「なるほどね。じゃあでも花とか、ピアノに影響ないの? 手とか荒れそうだし、あまり冷やさないほうがいいんでしょ?」
ジストニアとか。レイノー症候群とか聞いたことある。全然気にしないプロもいるそうだけど、なんかそういう雰囲気でもないような。
もちろん、ベルとしてもそういった病気が頭をよぎらないわけではない。むしろかなり気にしてはいるほう。それでも。
「そうなんですけど、さっきもお伝えしたとおり、上手く弾くことはそれほど重要じゃなくて。指じゃなくて、頭で。心で弾くことが大事、だと思うので」
今の自分に至るまでの道。紆余曲折色々あった。楽しいこと、辛いこと。でもそれがベル・グランヴァルを作り上げていて。なにかひとつ違っていただけで、ここにいなかったかもしれない。今のこの状況はなかったかもしれない。そう考えると。愛おしい。
ほっとしているような、緊張しているような。複雑なその表情。だがそれがシャノンには美しく映る。
「へぇー。いいね、一枚いただき」
カメラを構えてパシャリ。そしてその次の驚いたような仕草も。可愛らしい。私にもこういう時代……あったっけ?
写真撮られるのは嫌いではないけども。なんだか今のベルにはむず痒くもある。
「うーん……それで、アレンジメントというのは」
本題へ。できることは限られてくる。頭のスイッチを入れ替えて、そっちのモードへ。




