27話
ドイツはベルリン。テンペルホーフ=シェーネベルク区にあるカフェ〈ヴァルト〉にて。
「ラフマニノフとか。モーツァルトとか。この仕事ってなんかそういうのと絡めたりしてる? てか、クラシックとか聴くほう? 『海とカモメ』って知ってる?」
間接照明の灯る、全席ソファの店内。対面に座る、店の制服に身を包んだ少女に対し、シャノン・シャペルは力強く問いかけた。ここ最近、クラシックを聴く機会が増えている。クラシックの知識が増えると喜ぶ自分がいる。なら。最初から話題にだしてみよう、ということ。だが。
「モーツァルトっスか? ウィーンにそれをモチーフにした紅茶があるっスね。これがまたほんのりとナッツやスパイスが効いてて美味しいんですよ。でですね。ボクが思う一番美味しい飲み方なんスけど——」
「あー……ごめん。なんか、ごめん」
「?」
ここからが紅茶の面白いところなのに。そんなキョトンとした表情の少女と、矢継ぎ早すぎてひとり突っ走ってしまったことを戒めるシャノン。
少女が「でですねぇ」と話をそのまま続行。しようとしたところで。
「『海とカモメ』はラフマニノフの曲だよ。彼の中で最も難解と言われている曲のひとつ。当時のロシアの情勢も知っておかないと弾けない、とする研究者もいて——」
「いや、キミも詳しいんかい」
もうひとりの対面に座る少女が口を開いた。ジェイド・カスターニュ。ベルギー出身、パリ在住。ベルと同じ学校に通っている。なんでこう、出会う人間出会う人間がクラシックに精通してるかね。てか、なんでパリの人間とベルリンで出会ってる? そんなシャノンの心の響き。
注文したコーヒーに口をつけながら、ジェイドが首を傾げる。
「キミ『も』? 私は少し過去に齧っていただけですよ。ちょっと知っている程度」
ちょっとだけ。ヴィオラを弾いていたことがある程度。早い段階で自分は『そっち』じゃないと悟った。




