21話
約八分。短いようで長いようで。久しぶりに弾いたステイシーとしても、最後のその時とはまた違った景色が見えて。
「どうでしょうか? ラフマニノフは私も好きなので、結構弾きますよ。その中でも『海とカモメ』は解釈が難しい——」
「それ」
「それ?」
発言に引っかかりを覚えたシャノン。反応するステイシーは、なんとなく自身の両手を見つめる。
モヤっとしたものがシャノンの胸につっかえていて。
「私はさ。今、聴いてて頭の中になんていうか……そう! あれ、プライベートビーチ的なとこを、高台の窓から空飛ぶカモメを見てる、っていう絵が浮かんだんだけどさ。そんなイメージで弾いた?」
「いえ全然」
「あれ?」
思いっきりステイシーに否定され、シャノンは首を傾げる。結構自信あったんだけど。めっちゃ飛んでたし。カモメ。
弾き終わったステイシーの表情に若干の曇り。楽しい、という感情よりも、辛さのほうが滲み出てきて。
「……この曲は怒りや悲しみ……のようなものが渦巻いていると思っています。当時のロシアの体制に対する、ラフマニノフの想い、というか。左手の音形で穏やかな波を表現し、上下を行き来する旋律が孤独なカモメを」
直接口にできなかったこと。伝えたかったこと。それをひっそりと音に。隠して。今のような自由のない世界。どんなだったのだろう。書物を読んでも。映像を観ても。結局、わからないことだらけで。
寂しい、淋しい。そう言われたら……そうかも? なんてシャノンも振り返る。
「なんか、素人が口出しちゃってごめんね」
微笑みながらステイシーは首を横に振る。
「いえ、むしろ色々な解釈をしていただけるのは……光栄なことです。だってそれだけ、幅のある演奏ができたということだから。ひとつの絵しか浮かばないよりもずっと」
「そしてそれを可能にしてるのが調律師ってこと。ステイシー・べアールという人物が紡ぎたい音。彼女の音を知り、彼女が最も表現力豊かに演奏できるように。ラフマニノフであれば、あえて一般的な調律を避けたり」
胸を張るレダ。調律師という職。生き方。それを誇りつつ、一点だけ付け足す。




