表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Photo d'existence 【フォトデギジスタンス】  作者: じゅん
レダ・ゲンスブール
21/30

21話

 約八分。短いようで長いようで。久しぶりに弾いたステイシーとしても、最後のその時とはまた違った景色が見えて。


「どうでしょうか? ラフマニノフは私も好きなので、結構弾きますよ。その中でも『海とカモメ』は解釈が難しい——」


「それ」


「それ?」


 発言に引っかかりを覚えたシャノン。反応するステイシーは、なんとなく自身の両手を見つめる。


 モヤっとしたものがシャノンの胸につっかえていて。


「私はさ。今、聴いてて頭の中になんていうか……そう! あれ、プライベートビーチ的なとこを、高台の窓から空飛ぶカモメを見てる、っていう絵が浮かんだんだけどさ。そんなイメージで弾いた?」


「いえ全然」


「あれ?」


 思いっきりステイシーに否定され、シャノンは首を傾げる。結構自信あったんだけど。めっちゃ飛んでたし。カモメ。


 弾き終わったステイシーの表情に若干の曇り。楽しい、という感情よりも、辛さのほうが滲み出てきて。


「……この曲は怒りや悲しみ……のようなものが渦巻いていると思っています。当時のロシアの体制に対する、ラフマニノフの想い、というか。左手の音形で穏やかな波を表現し、上下を行き来する旋律が孤独なカモメを」


 直接口にできなかったこと。伝えたかったこと。それをひっそりと音に。隠して。今のような自由のない世界。どんなだったのだろう。書物を読んでも。映像を観ても。結局、わからないことだらけで。


 寂しい、淋しい。そう言われたら……そうかも? なんてシャノンも振り返る。


「なんか、素人が口出しちゃってごめんね」


 微笑みながらステイシーは首を横に振る。


「いえ、むしろ色々な解釈をしていただけるのは……光栄なことです。だってそれだけ、幅のある演奏ができたということだから。ひとつの絵しか浮かばないよりもずっと」


「そしてそれを可能にしてるのが調律師ってこと。ステイシー・べアールという人物が紡ぎたい音。彼女の音を知り、彼女が最も表現力豊かに演奏できるように。ラフマニノフであれば、あえて一般的な調律を避けたり」


 胸を張るレダ。調律師という職。生き方。それを誇りつつ、一点だけ付け足す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ