19話
結局のところ、誰も音楽の正解なんてわからない。少なくとも、レダはそう思っている。
「聴いていると、なんとなく絵とかが浮かんでくる。でもひとりひとり感覚なんて違うわけだから、花束が見える人もいれば、お花畑という人もいるだろう。だから著名なコンクールでも、審査員で意見が分かれるわけ」
とても便利な言葉『解釈』。こうやって高説を垂れているが、その基準も人によって違うので、とてもひと口には言えない。色々経験してきて、ひとまずたどり着いた場所。
そこに。
「どうでしょう? もう終わりそうですか?」
ガチャ、とドアを開けて入ってきた女性。このピアノの所有者、ステイシー・べアール。部屋着でゆったりとした雰囲気を纏いつつも、早く弾きたい欲に駆られて。
ピアノの調律について。フォトグラファーの人物が取材をしたい、ということだったので、特に断る理由もなく引き受けた。どういう風に仕上がるのかも多少は気になる。
声をかけられたレダは頷く。
「あぁ、あとは微調整だね。弾いてみて。ここをこうしたい、というのがあれば言ってね」
「はい、わかりました」
「……あのさ」
了承したステイシーに、若干の言いづらさを含みながらシャノンは声をかけた。頭の中に色々なものが渦巻きながら。
足を止め、ステイシーは目線を合わせる。
「はい?」
「『海とカモメ』。弾ける?」
シャノンが口にしたのは、先ほども話題に出した曲。なんだか。他の音楽家の人達は、どう思ってるのか知りたくて。初めてクラシックというもので考えている、かも。
ふふ、とステイシーは笑みを浮かべて。
「ラフマニノフですか? 弾けますよ、試弾してみましょうか」
と言って、ゆっくりとイスに座る。高さ、オッケー。鍵盤の蓋を開ける。おもちゃ箱を開ける感覚に近い。今から楽しい時間が始まる。譜面はなくても指が覚えている。弾くだけなら。そう、難しい曲ではない。




