18話
無言で噛み締めるシャノンだが、数秒ののち、おもむろに口を開く。
「……海とカモメ」
「? ラフマニノフの?」
突然、曲名が聞こえたのでレダは聞き返す。なんの脈絡もなく。でも、それで思いつくのはひとつだけ。あのロシアの巨匠。オクターブプラス五度の手の大きさという彼。
唇を尖らせながら、シャノンは吐露する。
「そう。なんかさ、心の中に引っかかってんだよね。ベルちゃんにさ、テーマ『職業』でアレンジメント作ってもらって。その時に、彼女の頭の中に浮かんだのがその曲なんだって」
そう言うと、携帯で撮影した花を画面に開いた。フォトグラファーだけど、携帯で撮る時は撮る。手軽だし。
レダは覗き込むと、難しい顔をして頷く。
「僕は花には詳しくないからなんとも言えないけど、あの曲は非常に難しい曲だからね。人によって解釈が大きく変わる。彼女には……どう映ったんだろうね」
ひとつのワードにシャノンは反応する。
「その解釈ってのさ。クラシックとか調べたらたまに出てくるんだけど、具体的にはどういうこと? ピアノで出来ることって、強弱変えて弾いたり、速さ変えて弾いたりくらいなもんでしょ?」
なんとなく。クラシックに関する本を数冊、実は読んでみた。そこでちょくちょく出てくる『解釈』という言葉。受け取り方、とかそういう意味なんだろうけど。なんだかはっきりしなくて気持ち悪い。
僕の持論だけど、と頭につけてレダは解説する。
「曲はね、作曲者の感情だったり意図だったりを凝縮させたものだから。ラフマニノフにはラフマニノフの弾き方、というものがあるんだよ。解釈はその枠組みの中で、強弱や速さなどだけで弾き手が聴き手にイメージさせる力……というのかな」
「つまり……聴き手次第ってこと?」
今の話の流れを掴むと、シャノンにとってはそう聞こえてくる。そうとしか思えない。でもそれじゃ。全員が一致って無理では?




