17話
「ま、でも上を目指そうとする人がいる限り、なくならない仕事だと思うよ。やはり電子とそうじゃない生の音は、はっきりと違うから。慌てない慌てない」
安心したり悲しんだり。コロコロと気分が浮き沈むレダは確信している。電子ピアノは、生のピアノの音を録音して再現しているに過ぎない。言ってしまえばコピー。そのコピー元のピアノが、弾く側の好みの調律をされている保証などない、というのもある。
ふむふむ、とシャノンは前屈みになる。聞く姿勢を強調。
「そこんとこ詳しく」
花の時も思ったが、全く知らない世界。そういうものの話をしている時は、正直ちんぷんかんぷんで興味が湧くか心配だったが、心配などなんのその。引き込まれる。音の世界。結構好きかも。
普通の人は判別つかないと思うけど。そう、定義した上でレダは語る。
「電子の変わらない音、というのは良くも悪くもあってね。大きなホールとかで演奏するなら、そこの反響に合わせた調律をしなければならない。ピアニストや作曲家の癖も考慮に入れてね。電子はそれができない。そもそもが調律できないからね」
中音から高音にかけてのピアノの鍵盤は、ひとつにつき基本的に三本の弦が張ってあり、それを叩くことで音が出る。しかし時が経つにつれ、木の縮小などでズレが生じてきてしまうのだが、それを整えるのが調律。一本なら狂わないのでは? と聞かれることもあるが、それだと音量が足りないし、音が貧相でつまらない。ゆえに三。低音は一本ないし二本の巻線の部分もある。
電子は叩くものではないのでそのズレは生まれないのだが、タッチの感覚の違いやピアニストに合わせた調律はできない。お互いにメリット・デメリットが存在する。
「それに、一回弾いただけで調律は狂うこともある。あのフランツ・リストは、一度のリサイタルでピアノを壊してしまうほどの激しさだったらしいし。僕でも無理かもね」
お手上げ、という風にレダは諦めの境地で肩をすくめた。木で作られている時点で限界。だがピアノの音色には木が必要。どっちも、は不可能。




