15話
調律師による違い。ピンとこないシャノン。
「鍵盤が軽いとか、そういう話?」
「そういう話もあるけど、あの子の場合は特別でね。おそらくあのグレン・グールドですら到達できなかった場所に手が届く——」
立ち上がると、レダは言葉を溜め、天井の先を見据えた。
芝居がかった行動に、シャノンは首を傾げる。
「ん?」
たっぷりと間を空け、険しい表情のままレダは続きを語りだす。
「にはまだ数十年早いけど、可能性としてはあるんじゃない? ってところ。そのための手伝いだよ、僕達調律師は」
あくまで影の存在である、ということ。二十世紀を代表するピアニストと肩を並べる、というのは並大抵のことではないけども。伝説を超えるには、自分達は必要不可欠であること。それは間違いないから。
その横顔。シャノンはありがたくカメラでいただく。
「つまり、調律師ってのは……まとめると」
「縁の下の力持ち。土台と言ってもいい。だけどねぇ。困ってるのがねぇ」
「困ってること」
難しい表情に変わったレダに対し、シャノンは次の言葉を待つ。
再度イスに、脱力したようにレダは座る。重力に負けるように。
「電子ピアノがかなり増えてるからね。あれは調律がいらないから。ずっと同じ音が出せる。そうなると、僕達の仕事も減っちゃうんだよこれが」
まいったね、とため息。しかも日進月歩、より生の音に近づいてきているわけで。技術の革新の恐ろしさを日々体感している。
切実な叫びを聞き、シャノンは深くイスにもたれかかる。
「なるほどねぇ、食い扶持がなくなる、と」
「なくなることはないと思うけどね。少し悲しくもあるわけで」
「というと?」
一応の希望はあるという含みを持たせるレダに、さっぱり思いつかないシャノン。世の中お金じゃない、とは言ってもお金がないと生活できないわけで。日々のモチベーションにもなるし。




