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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

遺品

作者: 宇月 撓折
掲載日:2026/01/18

思えば煙草を吸い始めたのは、あなたが死んでからだった。

寝静まった街を眼下に、ふう、と息を吐いた。ため息とも似つかぬそれは、唇から離れれば途端にふわりと毒を撒き散らすのだから面白い。


「お前は吸わねえの?」

なんてあなたが言う度に

「私はいいの。 あなたの吐いた毒を吸ってるから」

なんて返した。ごめんって、と苦笑しながらまた口元へ手を近づけるあなたが心底嫌いだった。

「あのねえ......強制的に寿命が減ってくこっちの身にもなってほしいのだけど?」

「だからごめんって......しょうがないだろ、これがないとやっていけねえ」

そう言ってベランダの柵へだらりと体重をかけるあなた。

「ちょっと、危ないでしょそんな事したら」

「んだよ、ガキじゃねえんだから大丈夫だろって」

心配症だなあ、なんて笑い飛ばすあなた。

「あ、そういえば明日お前の誕生日じゃん」

「......もう今日だけどね」

おめでとー、と適当に呟くあなた。

「じゃあケーキ買ってくるわ! 種類は任せろ!」

「え?どうしたの急に。......いいの?」

「だって誕生日じゃん!ケーキ食いたくね?」

「それあなたが食べたいだけでしょう?......ショートケーキ以外だと嬉しい」

「了解。ショートケーキ買ってくる」

「なんなのもう!」

なんて。

なんて、ああ、幸せだった。胸焼けしそうなほど幸せだった。あなたと、ずっと一緒にいたかった。

端正な顔を歪めて笑うあなたと。

お金に余裕が無くなると泣きついてくるあなたと。

だらしなくていい加減で、全部適当なあなたと。

ぐちゃぐちゃになったショートケーキとプリンタルトを抱えたまま、車に引き摺られたあなたと。


全部全部、

「......もう、叶わないのにね」


ふう、と息を吐いた。いつの間にか日は変わっており、自分の歳も一つ死に近づいていた。おめでとう私、なんて言葉と同時にまた毒を吐く。そんな自分が心底嫌いだった。

あなたの遺したこんな呪いなんかより、今はただ、冷蔵庫に置いたショートケーキとプリンタルトのことで頭がいっぱいだった。

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