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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どうにもならない恋でした

ボーイズラブandハッピーエンドです。読んで頂ければうれしいです。

 さとるの好きな勇希は母子家庭で育った。


 父親は離婚していて、どこにいるかわからない。

 母親は再婚して、20歳歳下の妹がいた。

 実家に帰ると4歳の妹が懐いて来て、可愛くて仕方無かった。 



 だから、勇希は恭子に子供が出来て、彼女が産むと言った時、子供を父親のいない子にしたくなくて結婚を決意した。

「自分に父親がいなくて淋しかったから、、、」

そう言って、悟を捨てた。


 

 悟と勇希は同性だった。悟は昔から自覚があったが勇希は違った。3年前に悟が思い切って告白した時、恋人がいない勇希は悟と付き合ってみる事にした。

 悟は我儘も言わず、声を荒げて喧嘩をするタイプでも無かった。それは勇希も同じで、3年間付き合っていたが、大きな喧嘩は無かった。

 付き合っていた3年間は長い方だと思う。職場の仲の良い先輩と四人で何度も旅行に行き、社員旅行も行った。会社の飲み会も片方が欠ける事は無い。

 2人はいつも一緒に行動していたし、それが当たり前だった。


 しかし、勇希が25歳になる前、悟は勇希が女性との結婚を考えているなら、ゆっくりゆっくり勇希から離れて行こうと考えた。

 付き合っている時も、たまに頭をぎる事だった。

 幸せだな、と思う瞬間、いつか勇希は女性と結婚するんだ、、、と考える。

 いきなり別れる自信は無かった。

 愛していたから。

 愛していたからこそ、勇希のこれからを考えて決めた事だった。

 まずは、会う時間を減らす。毎日会っていたのに、1週間の内、1日は会わない事にした。

 翌週には2日会うのを止めた。



 恭子は、彼の浮気が原因で恋人と別れたばかりだった。恭子は悟とは真逆の言いたい事をはっきり言うタイプだ。

 別れた彼氏と復縁したくて、毎日毎晩発信する。



 恭子と勇希は2人で飲みに行き、慰め合った。

勇希は恭子の一途さが可愛く見えた。悟は静かなタイプだったけど、恭子は情熱的だった。別れた後も相手の事を思い、泣いたり怒ったりする恭子が新鮮だった。

 恭子は勇希に優しさを感じた、スタイルも良く、優しい顔は我儘を言っても受け止めてくれる安心感があった。2人は急激に惹かれ合った。



 勇希は恭子を守りたいと思い、悟に別れを告げる。

「恭子と付き合うのに、悟と付き合ったままだと恭子に悪い。身の回りを綺麗にしてから付き合いたいんだ」

夜中の通話でそう言われて、悟は了承した。

(身の回りを綺麗にって、、、僕は汚いって事か、、、)

 勇希からの通話に、別れようと考えていた悟はイヤだとも、別れたく無いとも言えなかった。


 しかし、どうして選りに選って恭子は勇希を選んだのか、、、。悟はそう考えながら泣いた。

 恭子が浮気された時、色々話しを聞いたのは悟と勇希だった。

 浮気をされ、イヤな思いをして涙を流した筈なのに、何故同僚の彼氏に手を出せるのか、悟にはわからない。恭子が嫌った女と同じ事をして平気でいられる心境が理解出来なかった。



 三人は同じ職場で、同僚達は悟と勇希が付き合っている事を知っている。恭子が浮気され、彼氏と別れた事もみんな知っていた。

 


*****



 一度だけ、悟は別れた後に、勇希のアパートまで行った。アパートの近くで、勇希と恭子が2人でいる所を見た時、自分を抑えられなくなった。

 毎晩寝る事も出来ず、酒を飲んだ後だった。

 カッとなって、コンビニで買ったスイーツを道路に叩きつけて帰った。

 後ろで勇希が悟の名前を叫んだ。

 でも、追いかけてくる事は無かった。


 勇希が追いかけて来ない事で、逆に諦めが付いた。元々別れを覚悟していたのだ。時間を掛けて、少しずつ離れて行く予定が、突然別れが来ただけ、そう思う事にした。

 それでも淋しい気持ちは無くならない。

 職場では2人を見ない様にした。



*****



 恭子は気が強い上にお喋りだった。勇希は2人で飲みに行っている時には気付かなかった。

 良い所しか見えて無かった。

 しかし、一緒に過ごす様になって2週間程経つと、色々見え始める。

 休日2人で過ごしていると、いつまでもお喋りをしていて、何度も返事を求められた。

「ねぇ?聞いてる?返事してよ」

勇希はゆっくり休む事も出来なかった。

 悟は2人きりの時もあまり話しをしない、今思えば、穏やかな2人だった。


 勇希は悟と恭子の違いに気付き、悟を選んだ。



 勇希から着信があった。

「やっぱりやり直したい、、、」

悟は静かに聞いた。嬉しかった。

「でも、、、恭子が妊娠している」

信じられなかった。

「たった一回しかしてないのに、、、」

悟はその一言が忘れられなくなった。

「悟の所に戻りたい、、、だけど、父親のいない子供にしたくない、、、」


 

 恭子に別れ話しをしようとした所に

「妊娠したの」

と言われた。勇希は愕然とした。

「私も30歳手前だし、堕したくない」

勇希は結婚を決意したのだ。



 勇希はスマホの向こう側で泣いた。

「ごめん、本当にごめん。俺が馬鹿だった。でも、悟の所に戻れない、、、」

悟は何も言えずにただ泣いた。泣くしか無かった。

 勇希が恭子と付き合いたいと言って、たった1ヶ月程しか経っていなかった。

 子供さえ出来なければ、2人はやり直せたのに、、、。



*****



暫くして

「経理の杉山さん、辞めるんだって?」

勇希の上司に聞かれた。

「その様ですね」

悟は、どうせこの人も知ってるんだろうと思った。

 小さい職場だから、部署を超えての飲み会はよくあった。だから、社員の殆どが顔を知っているし、仲が良かった。

「大丈夫?」

(ほらね、、、)

「今日、飲みに行こうか」

悟は島部長の顔を見た。

「ご馳走してくれますか?」

緩く笑う。

「いいよ」

島は悟の肩を一度軽く叩き、仕事に戻った。


 ガラス張りの隣の部屋では、恭子が勇希の席に来て、何やら話していた。仕事の話しとわかっていても、悟は恭子の嬉しそうな顔を見たく無かった。

 勇希は、島が悟と話しをしているのを見ても何も出来なかった。別れてから、職場では一度も悟に近づく事は無かった。恭子が知ったら、何を言われるかわからないからだ。



 島と飲みに行ったからと言って、話題が勇希と恭子の話しになる事はなかった。くだらない話しをして、面白い話しを聞き、久しぶりに楽しいお酒を飲んだ。

「また、一緒に飲もう」

と別れ際言われ

「ありがとう、ございます。今日は楽しかったです」

とお礼を言う。



 悟は1人の部屋に帰ると、冷蔵庫から酎ハイを取り出す。他には何も無い。

 勇希と別れてから、夜は酎ハイしか飲んでいない。食事を摂る気にならなかった。

 今日は島と一緒だったから、何とか食べる事が出来た。


 カーテンを開けた灯りの無い部屋。さっきまで、あんなに楽しかったのにもう頭の中は勇希の事でいっぱいだった。



*****



 仕事が終わり、タイムカードを押して会社を出ようとしたら、外は雨だった。

 (少し前までは小降りだったのに、、、)

と思いながら、悟は折りたたみ傘を探す。

「やだ、雨、結構降ってる!勇希、早く早く!」

 2人の横を勇希と恭子が傘をさして、駐車場に向かう。仲良く一つの傘に入っていた。

「タイミングが悪いな、、、」

つい口に出た。

「タイミング良かった」

隣に島が立っていた。島がニヤリと笑う。

「飲みに行かない?」

悟はフッと笑う。

「ご馳走様です」

島が悟の背中をトンと促す様に叩く。



 会社の飲み会や送別会の幹事はいつも悟だった。

飲みに行くのが好きで、みんなでワイワイするのが好きだった。

 若い頃から幹事を買って出て、送別会なども仕切っていた。

 だからこそ、悟は恭子の送別会だけはやらなかった。

「杉山さん、送別会も無く退社したらしいよ、、、」

島と2人で呑んでいる時、教えてもらった。

 別に悟が幹事をやらなければ、他の誰かがやれば良いだけだった。それなのに、5年以上勤めて送別会をやって貰えなかったとは、、、。周りの人は、悟に何も言わなかったけど、悟の気持ちをわかっていた様だった。



 恭子が退職する前、悟は何度も会社を辞めようと思った。

(会社来たくないな、、、)

でも、ここで辞めてしまうのは悔しかった。

 そして、恭子の悪口は一度も言わなかった。

 誰かに愚痴を聞いて欲しかったけれど、悪口を言った途端に悟は恭子に負けた様な、格が落ちた様な気がするから。

 意地になっていたのだ、少しでも恭子より良い子だと思われたい。恭子より悟の方が勇希にはお似合いだったと言われたい。

 お陰で、周りは変な気遣いも無く、イヤな事を聞かれる事は無かった。



*****



 偶然勇希と会った。ドキリとして立ち止まる。

「悟、、、」

悟はニコリと笑う。でも、言葉は出ない。

「俺、このすぐ近くに引越したんだ。ちょっと来ない?」

悟は返事が出来なかった。

「恭子は実家に帰ってるから、、、」

「そうなんだ、、、」

「すぐそこだよ」

勇希に手を繋がれ、心臓が速くなる。

「あの、、、」

「大丈夫、ちょっと寄っていってよ、、、」



 本当にすぐ近くだった。ホンの30メートル程で着いた。

 勇希が鍵を開け、そっと悟の背中を押す。

「お邪魔します、、、」

部屋の中は暗く、台所の小さな窓から外灯が入って来て、辛うじて見える程度だった。

 勇希が悟を後ろから抱き締める。

「ごめん、、、」

それだけで、悟は涙を流した。勇希が悟の向きを変え、正面からもう一度抱き締める。

 懐かしい勇希の匂いがする。

「やっぱり悟が好きだ、、、」

勇希が泣いている。涙を流すのを始めて見た。

「もし、本当に生まれ変わりがあるなら、来世では絶対悟と一緒になりたい、、、」

暗い部屋で、勇希の顔は見えない。でも、勇希の声や仕草が嘘をいていないと言っていた。元々、嘘を吐くタイプでは無いし、付き合っている時も一度も嘘を吐かれた事は無かった。

 悟は、必死にしがみつき勇希の胸で泣いた。返事は、頷く事しか出来ない。

「生まれ変わったら、絶対一緒になろう、、、」

死んだ後の事はわからなかった。でも、わからないからこそ、約束したかった。

 勇希が悟の身体を離し、キスをする。涙が口に入り、しょっぱいキスだった。



 勇希が言う。

 恭子は実家が近い為、週末になるとすぐに実家に帰りたがる。

 勇希はそれが毎週末となるとやはり自由な時間が欲しくなる為、たまにこうして1人になる時間があるらしい。

 折角結婚したのに、恭子が勇希より実家を優先していると思うと、何だか変な気持ちだった。



*****



 島は、週末になると悟を飲みに連れて行く。

「この間、勇希と恭子ちゃんが赤ちゃんを連れて挨拶に来たよ。あの2人、すごく変だった」

悟は、酎ハイを飲みながら静かに聞いた。島は勇希の上司だから、2人で赤ちゃんを見せに行ったんだ、、、と思った。

「隣で自分達の赤ちゃんが泣いてるのに、構ったりあやしたりしないんだ。普通、自分の赤ちゃんが泣いたら様子を気にするよな」

 悟は、妹が赤ちゃんを産んだ時の事を思い出す。

「そうですね、、、」

「あんなに、無関心で、恭子ちゃんなんか俺の話しを聞いて大笑いしてたよ」

悟は島の顔を見た。

(何故、その話しを僕にするんだろう、、、)

素朴な疑問だった。

 ただ、悟は2人の赤ちゃんが産まれる位時間が経っている事が信じられなかった。



 暫くして、勇希が会社を辞めた。



*****



 毎週、金曜日の夜は島と飲みに行く様になった。夕方仕事が終わると、島は悟を迎えに来る。

 いつもの店で呑んで帰る時、横断歩道を渡ろうとしたら、信号が点滅した。

「ほらっ!渡るぞ!」

そう言うと、島が悟の手を握って走り出した。

悟はびっくりして、心臓がドキドキした。

 人と手を繋ぐなんて何年振りだろう。思えば勇希とは手を繋いで歩く事は無かった。

 横断歩道を走って渡り、ホッとすると島が急に抱き締めて来た。

「好きなんだ、付き合わない?」

悟は島の顔を見上げ、瞳を見た。

 島の顔がゆっくりと近づいて来て、そっとキスをした。



 島の事は嫌いでは無かった。でも、まだ、勇希の事を忘れていない、、、。


 このまま、島と付き合っていいのかわからないのに、悟は島と一緒に過ごした。



*****



 悟は島が結婚しているか知らない。何と無く結婚していると思う。でも、デリケートな話しなのでなかなか切り出せない。


 もし、結婚していたら、、、。


 流石に結婚していて

「付き合わない?は無いか、、、」

そう考えて島と付き合う事を決めた。



 島と会うのは金曜日の夜だけだった。たまに平日の夜も会える。

 悟が、島と土日は会っていない事に気が付いたのは、付き合い始めてしばらく経ってからだった。

 その事に気付いてから、悟は島に会うのが怖くなった。島には家庭があるのかも知れない、、、そう考えると、自分が恭子と同じ事をしている様で恐ろしかった。



*****



 季節の変わり目に、悟は熱を出した。有給もあまり使っていないし、上司に朝一で電話して休みをもらう。

 悟は布団に入りウトウトする。

 しばらくしてから、家のインターホンが鳴った。熱があるから、出たく無かった。

 2度目のインターホン。

 3度目のインターホン。

 悟は、時間を確認する為にスマホを見た。

 島から

「コンビニ寄って行く。何か欲しいものある?」

と入っていた。

 悟はパジャマのまま玄関の鍵を開ける。

「熱、出たんだって?」

鍵を掛けながら聞いて来た。

「季節の変わり目は、体調壊しやすくて、、、」

「飲み物と軽く食べる物、買って来た」

「ありがとうございます」

悟は熱の所為か動きがいつもよりのんびりしている。

 台所で買った物を広げ、冷蔵庫にしまう。

「何か食べる?」

悟が熱で潤ませた瞳で見上げる。

「、、、勘弁してくれ」

グイッと引き寄せ、島は悟を抱き締める。そのまま貪る様なキスをすると、悟が熱で力の入らない手で抵抗する。

 やっと島の唇が離れ、悟は島の胸に寄り掛かる。島に支えられベッドまで移動して布団に入ると、何故か島も布団の中に入って来て、そのまま2時間ゆっくり眠った。


 ボーっとする頭で、横で眠る島を見る。島の手が伸びて来て、頬を触る。

「何見てるの?」 

悟は瞬きを一回して首を振る。そのまま目を閉じると、もう一度ウトウトし出した。



 次に目を覚ました時、島はゆっくり布団から抜け出して悟の熱を確認する。額を触り、首の後ろを触り、最後に頬を両手で包み口付けをする。

 チュッと音を立てて離れると

「冷蔵庫にある物、何でも食べて」

そう言って帰って行った。


 熱は大分下がっていた。1人になった部屋で悟は

(淋しいな、、、)

と思った。



*****



「結婚はしていない。離婚して、女の子が2人いる。年が離れていて、下の子はまだ小さいから土日は預かってるんだ、、、」

「そうだったんですね、、、」

悟が聞き出した訳では無かった。何と無く、話の流れで教えて貰った。

 島が結婚していなくてホッとしながらも、離婚した事と子供がいる事を知ってしまった。

 島は自分と同じ人間では無かった。

 やっぱり女性の方が良いと言われて、いつかきっと捨てられるだろう、、、。ふとそんな事を考えた。


「悟?」

「お子さんが僕の事知ったら、嫌がるでしょうね、、、」

ポロっと出た言葉だった。でも本心だった。

 自分の父親の恋人が、一回り以上年下の男なんて嫌だと思う。

「このまま付き合っていて良いんでしょうか、、、」

島から返事は貰えなかった。



*****



「勇希、実家に帰ったらしいよ」

「そうですか、、、」

島の出身地と同じ九州なのは知っていた。

(小さな赤ちゃんを連れて引越したのかな、、、)

大変そうだなと思いながら、でも、母親や妹がいるなら良いのかも知れない。

 ただ、恭子はどうなんだろうと考えて、自分には関係無いとグラスを見つめた。


「子供達に同性で付き合う事について聞いたんだ。あんまり、良い顔はしなかった、、、」

悟はグラスから視線が外せなかった。

 別れ話が出るんだろうか、、、。悟は静かに待った。

 ポロリと涙が出た。

「店なんだから泣くなよ、、、」

島の声は冷たかった。

「すみません、、、」

いつもと違う島に戸惑いながら、涙を堪える。

「悟はいつも良い子だな」

棘のある言い方だった。

「やっぱり子供が1番大事なんだ」

(それはそうでしょ、、、血が繋がってるんだから、、、)

「今日で最後にします、、、別れましょう」

悟は頭を下げて席を立った。

「今までありがとうございました」

悟はにっこり笑った。最後まで良い子でいたかった。


 島は席についたまま、グラスを煽る。


 最近、島は家族の話をよくする様になっていた。

悟は静かに聞いていたけど、多分、無意識の内に家族を大切にしていると伝えていたんだろう。


 悟は店を出て、いつもは曲がらない道を曲がる。

 島が追い掛けて来ても、見つけられない様に、、、。



 島はずっと悩んでいた。悟の

「お子さんが僕の事知ったら、嫌がるでしょうね、、、」

と言う言葉が引っ掛かっていた。

 離婚をしていたから、深くは考えていなかった。ただ、娘達が結婚する時、父親のパートナーが男性だとわかったら、どうなるのだろうか、、、。相手の家族に拒否されないか、、、。その前に娘達に嫌われないか、、、。

 一度、娘に聞いてみた。自分の事とは言わずに、知り合いの話として。

 長女ははっきりと言葉にしなかった。しかし、それが答えだった。

 その日から、悟との時間が楽しいだけでは無くなった。



 もし、悟が別れたく無いと言ったら、、、。

 島は嬉しいと思う気持ちと、子供の気持ちを考えて板挟みになる。


 自分の中に答えがある事に、気付いていた。別れるのが1番良い。



「クソッ!」

島は、会計をして悟を追い掛けた。



*****



 島と悟は会社では秘密の恋だった。だから、悟はいつも通りしていれば良かった。

(勇希の時みたいに、みんなに心配されなくて良かった、、、)

 島も仕事中は話し掛けて来ない。

 昨晩別れた後、島から何度も着信があった。悟は無視をした。何を話せば良いかわからなかったし、何を言われても傷付くのはわかっていた。


「お疲れ様です。お先に失礼します」

島の前を通る時、いつも通り挨拶した。

「昨日、、、無事に帰れたんだ」

言われて、初めて目を合わせた。

「はい、大丈夫でした。失礼します」


悟は一人の部屋へ帰った。



*****



 夜中、島から着信があった。

 悟はただ眺めるだけだった。

 インターホンが鳴り、肩がビクッとなる。

「悟、、、いるんだろう?」

こんな夜更けに近所に迷惑が掛かる、、、。

悟はため息をきながら、ドアを開ける。

「、、、入ってもいいかな?」

「、、、どうぞ、、、」

島が靴を脱いで上がる。


「悟の事は、本当に好きなんだ、、、ただ、、、」

「大丈夫ですよ。子供が大切って、ちゃんとわかってますから」

悟が小さく笑う。

(だって、どうしようもないじゃ無いか、、、。嫌だと言ったら、元に戻れるのかな、、、。そんな事無い、、、)

「ごめん。生まれ変わったら絶対一緒になろう、、、。約束だよ」  


 勇希の言葉を思い出した。

「もし、本当に生まれ変わりがあるなら、来世では絶対悟と一緒になりたい、、、」


(島さん、ごめんなさい。その約束は出来ません。もう、勇希と約束してるから、、、)

悟は返事をしないで微笑むだけだった。涙が溢れて来た。

 島に昨日言われた「泣くなよ」の言葉が蘇る。

 絶対に涙を流さない、、、。



*****



 悟は何か新しい事を始めようと思った。金曜日の夜で、毎週通える何か、、、。習い事とか、何処かの飲み会のサークルでも、何でも良かった。

 一軒のBARの入り口に、男性限定の飲み会のお知らせが貼ってあった。丁度飲みたい気分だし、自分の行動を変えたかった。

「興味ありますか?」

振り向くと、柔和な感じの男性だった。

「興味あります。こーゆうの初めてでどうしたら良いかわからないけど、、、」

「取り敢えず、お店の雰囲気に慣れてみませんか?」

 悟はBARに一人で入った事は無かった。これも練習だと思って店に入る。

 声を掛けてくれたのは、店の従業員だった。

「あの飲み会は1ヶ月に一回開催されていて、ゆるい感じです。飲み仲間を探すみたいですね」

カウンターの一番端に座り話しを聞く。

「男性同士の出会いって、難しいでしょう?」

「あの、、、」 

「つまり、そーゆう出会いの場です」

従業員はにっこり笑った。

「このお店自体は、普通のBARですけどね。お客さんに相談されたんです。出会いの場が欲しいって。今の所、健全な感じですし、興味があったら参加されたら良いですよ」

「そうなんですね、、、。僕にも出会いがあるかな、、、」

「友達を探すと思って参加されたら良いんですよ」

 


 悟は何回か、BARの飲み会に参加した。飲み会のメンバーは七人。年齢も様々だった。

 仲が良くなる内に、飲み会以外でも会う様になり、日曜日にメンバーで遊園地に行った事もあった。

 その内の一人、佐野と頻繁に連絡を取る様になった。



*****



 島と廊下ですれ違う。

「好きな人が出来たの?」

島に聞かれた。

 島と別れてから2ヶ月程経っていた。悟はどうしてわかったんだろうと思った。

「駅裏のBARで飲んでるよね?」

悟はギクッとした。

「背の高い彼、、、」 

佐野は悟よりかなり背が高かった。

「あの、、、僕、約束があるので、、、」 

悟が立ち去ろうとすると、島が悟の頬に手を伸ばす。

「もう、俺の事、嫌いになった?」

顔が近づいて来る。どうしてこんな事をするんだろう、、、。僕を選んでくれなかったのに、、、。

 悟は顔を背向けた。

 ははっ、、、。

 島の乾いた声が聞こえた。

「急いでいるので、失礼します」

悟はその場から逃げた。



*****



 佐野は優しかった。背も高く、頼り甲斐もあった。

「何か心配事でもあるの?」

「無いよ。大丈夫」

「なら良いけど、、、」

「今日は何処で飲む?」 

金曜日の夜だった。

「俺の家でも良い?」

「いいよ」

「じゃ、コンビニで買い物して帰ろう」


 初めて佐野の家に行く。

 コンビニで酒とつまみを買う。

「明日の朝ご飯も買っておこうか?」

佐野が笑う。優しい笑顔だった。

「泊まっても良いの?」

「、、、泊まって欲しい」

「嬉しい」

 


 告白は佐野からだった。佐野は、悟の後から飲み会に参加したメンバーだった。

 メンバーと言っても、参加は自由だし、付き合いが始まれば自然と飲み会からは遠のいて行く。新しいメンバーも度々増えるし、本当に出会いの場だった。

 佐野は、初めて参加した時から悟が気になっていた。自分より小さくて細い。顔もタイプだった。飲み会の時は、クルクルと働くのに人の話しばかり聞いて、自分の話しはあまりしない。

 なんか良いな、、、。そう思う内に、付き合いたいと考える様になった。



「先にシャワー浴びて下さい。着替え用意しておきます」

「あ、、、ありがとう」

悟が何だか緊張している。

佐野は、自分のTシャツとスウェットの下を探す。バスタオルと一緒に風呂場に持って行く。

 ドアをノックして、そっと扉を開ける。

「脱衣場に着替え置きますね」

声を掛けると、悟が風呂場のドアを開けて顔を出す。

「ごめんね」

ガラスが曇りガラスになっているとは言え、刺激的過ぎた。濡れた髪と肌が艶かしい。

 佐野は冷静なフリをして脱衣場を出る。

「まいったな、、、」


悟がバスタオルで髪を拭きながら出て来る。

「さっぱりした」

ベッドに腰掛ける佐野の近くに立ち

「佐野もどうぞ」

と言う。佐野は悟の手を取り横に座らせる。

 そっとキスをして

「ご馳走様」

と言うとシャワーを浴びに行った。

 悟は顔を真っ赤にして照れた。



 佐野がドライヤーを片手に戻って来た。

ベッドサイドにコンセントを差し、

「悟、来て」

と呼ぶ。佐野はベッドに腰掛けて、両脚を開く。

 此処に座れと言う様に床を差し、ドライヤーを振る。悟は佐野の脚の間に収まり、ドライヤーを掛けて貰う。

 悟の髪がサラサラと佐野の指を滑る。たまに、ワザと襟足を乾かすフリをして首筋に触る。

 悟がピクリと反応して、赤くなるのが楽しい。

「はい、お終い」

悟が振り向いて

「お疲れ様」

と言うと、佐野がゆっくり唇を奪う。



*****



「転勤が決まったんだ、、、一緒に行かない?、、、行って欲しい」

佐野に言われて、悟は

「行く!行きたい!」

つい答えてしまった。

「あの、、、それで、何処に転勤なの?」 

佐野は悟が可愛いくて仕方が無い。

「海外、3年。悟には会社を辞めて貰わないといけない」

「着いて行っていいの?」

ふはっ!と佐野が笑う。

「俺から誘ったんだけど」

「うん、そうなんだけどさ、、、」

「悟、パートナーとして、一生一緒にいて欲しい。ダメ?」

「一生?」

「うん」

「一緒に?」

「うん」

「プロポーズみたいだね」

「うん。プロポーズ」

「、、、」

悟は涙をポロポロ流した。

「佐野、大好き。何処にでも着いて行くよ」

そう言って、佐野を抱き締めた。



*****



 海外の空は日本とはちょっと違った。同じ空なのに不思議だった。言葉も通じないし、ルールも判らないけど、佐野と一緒なら関係無かった。焦らず慣れていけば良い。


「透麻、お帰り」

「ただいま」

「明日は休み?」 

「そ、休み」

チュッとキスをしながら言う。

それから、シャワーを浴びに行き、二人で夕食を取る。

 透麻は料理に文句を言わない。慣れない土地で、買い物に行き、慣れない料理をしてくれる。それだけで有り難かった。



 あの恋は、どうにもならない恋だった。でも、あの恋があったから、悟は透麻を大事にしようと思う。

 透麻だけが、今生で悟を選んでくれたから。


みんな幸せだと良いです

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