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~その頃の兄②~ 四人目は?

「あたしは、エレナ・アルナワーズ。見ての通り剣士だよ。よろしくね、勇者さま」


「私は、魔術師。トリーシャ・シルビエンテ……よろしく」


 聖剣を抜いたことで、オレは名実共に勇者と認められた。

 そこで王城の玉座の間に呼び出されたオレと姫さんが引き合わされたのが、目の前で簡潔に挨拶を交わす二人の女性だった。


 エレナと名乗った剣士は、鮮やかな赤の長髪に赤い瞳。背はオレより少し低いくらいなので、女子としては高いほうかもしれない。

 軽装の鎧に身を包み、腰にはショートソードと円盾を提げている。盾で守りつつ剣で斬りつけるスタイルなのだろう。


 トリーシャのほうは、短く切ったエメラルドグリーンの髪と、顔に掛けた眼鏡が特徴的な、背の低い少女だった。眼鏡の奥からは髪と同じ色の瞳がこちらを覗いていた。

 頭には大きなとんがり帽子。小柄な身体をローブで覆っている。どちらも色は黒だ。自身で名乗った通り、いかにも魔術師という風体だった。


(この二人はもしや、ファンタジー世界でお馴染みの冒険者か……!)


 内心でテンション爆上がりのオレだったが、第一印象が肝心と心を静め、努めてクールに挨拶を返す。


「ああ、よろしく。オレは、一ノ瀬(いちのせ)――……いや」


 日本にいる時と同じように名乗ろうとしてから、ふと思い直す。ここはこの世界の流儀に(なら)うほうがいいかもしれない。


「オレは、アキト。アキト・イチノセだ」


「アキトさま、だね」


「アキトでいいぜ。オレもエレナって呼ばせてもらう」


「そう? それじゃ、よろしくね、アキト」


 すぐに適応し、快活な笑顔を見せるエレナ。かなり人懐っこい性格みたいだ。


「私も、同じように呼ばせてもらう……アキト」


「おう。よろしくな、トリーシャ」


 かなり背が低い――150㎝いってないかもしれない――彼女に、子供に対するように笑顔を向けてしまうが……


「……言っておくけど、私は大人。こう見えて二十歳を超えてるから」


「マジで!? ……さん付けで呼んだほうがいいかな?」


「トリーシャでいい。……これからしばらくよろしく」


「ん、なら、そう呼ばせてもらうよ。……って、しばらく?」


 そういや、紹介された理由もまだ聞かされてないな、と一瞬思ったが。


(このタイミングで勇者オレと冒険者を引き合わせる目的なんて、一つしかないよな)


 それを裏付けるように、王様が(おごそ)かに口を開く。


「うむ、すぐに打ち解けたようで何よりだ。これより諸君ら四名には、このアムレート王国を侵略せんとする魔物の国の王、〈邪王〉ザッハークの討伐へと旅立ってもらわねばならぬのだから」


 やっぱりそうか。これからこの四人で勇者パーティーを結成するわけだな。ふむふむ、敵は定番の魔王じゃなくて邪王か。まあ一字違いだし大した差じゃないだろ……ん? 四人?

 疑問に思ったオレは、玉座の間に集まった仲間を数えていく。


 一、オレ。二、エレナ。三、トリーシャ。……四人目は?


「――私も同行します」


 内心の疑問に答えるように声を上げたのは、ここまで王様の傍らに静かに控えていた姫さんだった。


「同行するって……姫さんが?」


「はい。私はこう見えて高位の神官です。魔物との戦いはもちろん、癒し手としてもお役に立てます。決してアキト様の足は引っ張りません」


「いや、でも……敵の親玉倒しに行くなんて任務、普通の旅より危険なものになるんじゃないのか? 姫さんが自分で出なくても――」


「その危険な旅に、そしてこの世界にアキト様を招いてしまったのは、他ならぬ私自身です。ならば、その責任を取らせていただきたいのです」


 姫さんの口調は穏やかではあったが、強い決意を感じさせるものでもあった。オレが何を言っても引く気はなさそうだ。思わず王様に視線を向けるが……


「……私も、娘を死地に送り込むのは避けたい。止めようともした。だが、同行する意志は固くてな……。それに、戦況は現在かろうじて拮抗しておるが、あまり芳しくはない。此度の〈邪王〉討伐が失敗に終われば、どのみち我が王国に未来はないだろう。ならば城に籠っていても同じことだ、と逆に説得されてしまってな」


 説得されたんかい。しかもそこまで状況は切羽詰まってたのか。

 今さらになって事の重大さが胸を締め付けてくる。ここはゲームや漫画、小説の世界ではなく、現実に滅亡の危機に見舞われている危険な土地なんだ。オレが失敗すれば、目の前の彼女らも命を落としてしまうかもしれない……


(なら、やるしかないだろ)


 緊張と恐怖を抱きながらも、それ以上に湧き上がってくる興奮と使命感がオレに前を向かせる。王様と目が合う。彼は一度深く頷くと、こちらに向けて深々と頭を下げた。


「異世界の勇者、アキト・イチノセ殿。どうかこの国と娘をよろしく頼む」


 一国の王が、どこの馬の骨とも知れないただの高校生に誠意を込めて頭を下げている。それに応え、オレは決意と共に返答した。


「はい。きっとこの国を救い、姫さんも護ってみせます」

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