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5話

 あたしは小さい時からひとりぼっちだった。

 親は兄と姉を可愛がり、何も取り柄のないあたしはいつも蚊帳の外。

 兄はあたしを見下していた。

 けど、姉はあたしをちゃんと1人の家族として接してくれていた。

 いつしかあたしは姉の金魚のフンになっていた。

 その様子に気がついた両親は姉とあたしを引き裂こうとした。

「いい加減にしろ!出来損ない!これ以上、(まい)に付きまとうなら、どうなっても知らねぇぞ!」

 父親が怒鳴り、あたしは炎天下の夏の外に1人、家を追い出された。

 その日はポケットに忍ばせておいた姉の小遣いの1部でスーパーでスポーツドリンクを買ってどうにか凌いでいた。

 なぜあたしが姉の小遣いを持っていたのかって?姉はあたしに少しお金を恵んでくれていたのだ。

 夕方家に帰ると両親があたしに怒鳴った。

「あんたのせいよ!」

「お前が、お前さえいなければ!」

 状況が理解できなかった。

「お巡りさん、こいつです!こいつが舞を殺したんです!」

 父親が警察官にあたしを犯人呼ばわりした。

 頭が真っ白になった。

 お姉ちゃんが死んだ……?

 あたしのせいで……?

 状況が未だ飲み込めずにいたが、唯一の味方だった姉が死んでしまったことはわかった。

「ひとまず、娘さんにお話を伺います」

 警官は落ち着いた面持ちであたしをパトカーへと連れ込んだ。

 頭が真っ白で、顔面が蒼白していたのは何となく覚えている。

「君は今日なぜ、一人で外に出てたの?」

「両親に追い出されました」

「それはどうして?」

「お姉ちゃんに付きまとうから」

「どうしてお姉さんについて回ってたの?」

「あたしを唯一家族だって言ってくれたから」

 嗚咽と涙がボロボロこぼれた。

 車内のシートがあたしの涙でシミを作る。

 黒いシートで目には見えていなかったが、涙はシートに吸い取られていたから何となく感じていた。警官が重い口を開ける。

「お姉さんはね、今日君を探し回って交通事故に巻き込まれたんだ」

 残酷、けれど、誰かが伝えなければならなかった真実を告げられた。

「ぇ?」

 あたしにできる精一杯の返事だった。

 あたしのせい?

 あたしがお姉ちゃんを殺した……?

「お巡りさん」

「何かな?」

 優しさが声質と笑顔で伝わった。

「あたしを捕まえてください。お姉ちゃんを殺したのは、あたしです」

「それは出来ないよ」

「どうじででずか!?」

 涙と鼻水で呂律が上手く回らなかったが、どうにか訴えた。

「君は被害者だ」

「被害者……?姉を殺したのに?」

「違う。お姉さんを殺したのは君じゃない。不幸な事故だったんだ」

「事故……」

「そう。そして、その事故が起きて、結果的にお姉さんを殺したのは君の両親だ」

「どうしてそうなるんですか?」

 ずずっと鼻水をすする音が車内に響く。

「君は両親に家を追い出されたんだろう?そして君を探しにお姉さんは外に出た。そして車に轢かれた。君は全然悪くない。むしろ捕まえられるのは君たちの両親だ」

 そこからは早かった。

 両親が刑務所に入れられたが、何故か母だけが、すぐ出てきた。

 あたしは法律に詳しくないから事情は分からないけど、上手く抜け穴を見つけたらしい。

 そうして、あたしと兄、母親の3人生活が始まった。

 生活環境自体はあまり変化がなかった。姉と兄贔屓が、兄贔屓に変わっただけだ。

 けど、あたしの胸には希望があった。

 あの時対応してくれた警察官の方に憧れを抱いていた。

 あたしもあんなふうに本当に困ってる人を助けられる人間になりたい。

 そう夢が宿っていた。

 だからあたしは、その時はまだ完全に人間嫌いではなかった。

 だいくんと出会ったのは、そのすぐ後だった。

 その年の冬休み、あたしの家は本当に山の中で、家屋が数件あり、村というか集落だった。

 あたしは家のすぐ裏でソリで滑ってはまたのぼって滑る。を繰り返して遊んでいた。

「あ!ようやく同い年の子みっけ!」

 ソリを引いて雪が積もった小さな丘で遊ぶこと数時間、男の子の声が聞こえた。

「あなたは?」

 キョトンと尋ねる。

「俺は菅原大樹。母ちゃんの実家がこの辺りで、おじいちゃんおばあちゃん、若くても、母ちゃんくらいの人ばかりだったから、俺と同じ歳くらいの子、探してたんだ」

「そうなんだ」

 元気いいなぁ。第一印象はそれだった。

「それで君の名前は?」

「あたしは和倉千栞」

「へぇー。ちーちゃんって呼んでいい?」

 あだ名をつけられたのは初めてで嬉しかった。

「それじゃあ、あたしはだいくんって呼ぶ」

「おう!よろしくな!」

 そうしてこの頃から2、3年は約束は特にしてなかったけど、夏休み冬休みは二人で丘の上で遊んでいた。

 あたしの幼いけど、キラキラと宝石のように輝く楽しい思い出。

 けど、小学生5年生くらいからだいくんは顔を見せなくなった。

 あたしが虐められるようになったのはそのすぐ後だった。

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