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1話

 


 親ガチャ失敗、毒親。

 あまりこのような言葉は使いたくないが、あたしの両親はそれに該当すると思う。

 具体的には兄妹間の差別だ。

 兄はゲームや漫画を昔からたくさん買ってもらえていた。

 一方私はと言うと「あんたは心臓病で金がかかってるから我慢しなさい」と病気を出汁に拒否され続けて来た。

 姉もいるが、姉は事故で亡くなっている。

 1度母親に何故兄だけ贔屓するのか聞いたことがあった。

「あたしたちは兄を恐れているから」だそうだ。本当に?

 当時の両親が30代半頃だろう。

 両親は昭和の人間で、暴力で躾ていた。

 そこに関しては兄も例外ではなく、悪さをすればビンタの嵐を食らっていた。

 父親も柔道の有段者で、兄など簡単に投げ飛ばせていた。

 つまり両親が兄を恐れているは嘘っぱちだろう。

 けど、祖父母は多分本当だ。

 私の実家は山の中で、学校の登下校は親の送迎で通っていた。

 ある日、兄が寝坊した。

 朝ごはんを食べる余裕のなかったあの人のために祖母がおにぎりを用意してくれた。

 その日、家に帰った兄の祖母への第一声が「あのおにぎり洗剤の味がした」

 それを聞いた祖母の肩がビクッと恐怖で震えたことを今でも覚えている。

 祖父はと言うと買い物について行ったことがある。

 そこは車で30分ほどかかるのだが、店に着くなり祖父は何かを探していた。

「お前も探してくれ」

「何を?」

「1万無くなった」

 祖父の見つかったらなにか買ってやるの言葉につき動かされて私もそれを探していた。

 不意に背中を叩かれた。

 振り向くと兄が笑顔で諭吉を持っていたのだ。

 そして店の中へと消えていった。

「お兄ちゃんが盗ったよ」

 祖父に伝えると諦めたようにうなだれた。

 つまり両親は勝てるが祖父母が兄を恐れていたのは本当だろう。

 そんな兄贔屓が続いていたが、高校入学を機に家を出ることを決意。

 親にその気持ちを伝えると、あっさり了承してくれた。

 厄介払いができて嬉しいのだろう。

 ただ、学費と家賃は出してあげるけどそれ以外の生活費は自分でなんとかしなさいとの事。

 将来のためにバイトは経験しておきたかったので私はその条件を呑んだ。

 こうして私の高校生活が始まった。

 と言っても街中の家賃は高く、進ませて貰えた高校は実家から車で片道2時間程度で行き帰りができる場所だった。

 微妙に親から離れきれない距離のため、やるせない気持ちだった。そんな対応だからか、両親のことは既に期待していなかった。

 高校のクラスメイトも見知った顔が多くて新鮮味など感じなかった。

 私が持つ病気はファロー四徴症といったものだ。

 手術は2回ほど経験している。

 一回目はまだ物心がつくまえで、記憶にない。

 2回目は、小学生低学年のときだ。

 その時に病気は良くなり、今ではそこそこ健康だ。

 さて、話は飛ぶが、私は生に関する執着がない。

 誰でも一度は死にたいと思ったことはあるだろう。

 ただそれは一時的な衝動で、実際に自殺を図ろうとする者は少ない。

 否、本当に死ぬ気の人は「死にたい」などと口にせず、行動に移している。

 私は何度か自殺をしようとした。しかし、その勇気が出なかった。

 死ぬのは怖くない。

 むしろこの世界から去れる憧れさえ覚える。

 では何が怖いか。それは死ぬ時に苦しむ痛みだ。

 首吊りも死ぬまで苦しい。

 刃物で自身の身体を切るのも激しい痛みが伴うのが想像できる。

 安楽死も簡単にはさせて貰えない。

 台風後の川に落ちたことがある。故意ではない。事故だ。

 兄貴に暴力を振られ続けてこのまま死ぬんじゃないかと思ったことがある。

 何故あの時死ねなかったのだろうと振り返る。

 まるで神が、私に死ぬなと訴えているかのようだ。

 そうしてズルズル生きてきて気がついたら高校二年生だ。

 私の感覚はズレているのを自覚している。

 交通事故で即死。

 不審者に刃物で刺されて死亡。

 それを可哀想とは思わず、羨ましいと思ってしまう。

 死にたいけど、勇気が出ない。

 それはきっと、この世界での絶望が足りないからと考える。

 もっと私を追いつめて欲しい。

 もっと絶望させて欲しい。

 しかし、それを表に出さず、今日もにこやかに道化を演じている。


千栞(ちひろ)、帰ろ〜」

「うん」

 放課後の教室。

 季節は6月で梅雨時のはずだが、何故かほとんど雨が降らない。

 真夏並の気温とサンサンと照りつける太陽が憎たらしい。

 汗で体がベタベタだ。

 クラスメイトであり親友(相手が勝手に言ってるだけだけど)の森千晶(もりちあき)があたしに声をかける。

 ふわふわで思わず触りたくなる桃色の髪。

 おっとりしたタレ目。

 ふっくらした頬。

 制服を着ていなければ、小学生と間違われてしまうほど小さい背。

 黒曜石を思わせる黒い瞳。

 緩くてふわふわしてるのが印象的な少女だ。

「今日この後予定ある?」

「ごめん今日バイト」

「そっか〜」

 千晶が残念そうに肩をすくめる。

「お姉ちゃんから新作のケーキ試食して欲しいって頼まれてたんだけどなぁ」

「えっ!?ケーキ!?」

 甘いものが好きな人なら誰でもその名を聞くだけでヨダレが出る魅惑なスイーツ。

「バイト行く前に家帰ってシャワー浴びるつもりだったけど、そういうことなら」

 チラチラ。

 と彼女の顔を見てはそらすを繰り返し、ケーキがあるなら家にお邪魔したいアピールを出す。

 え?本音?ケーキだけ頂いてさっさと帰りたい。

「いいよいいよ、おいで〜。お姉ちゃんも親も喜ぶよ〜」

「わー!嬉しい!」

 笑顔で手をパンッと叩き、嬉しさを表現する。

 我ながら道化が上手くなったものだと感心する。

 当然この言葉は嘘っぱちだ。

 森家の人達はとても優しく、とても良い人達でとても温かい。

 だからこそ、嫌なのだ。

 あたしは昔からいじめられて育ってきた。

 その中には良い人を装って近づき、あたしをいじめてきた人間もいる。

 そのせいで優しそうなそうな人達でも、腹の中ではあたしを陥れようと企んでいるんじゃないかと勘ぐってしまう。

 それがとても気持ち悪い。

「お?俺も行っていい?」

「あき君、もちろんだよ〜。これから声かけようと思ってたんだ〜」

 クラスメイトでもあり、千晶の彼氏の菅原章弘(すがわらあきひろ)が便乗する。

 菅原章弘、トゲトゲした栗色の髪。

 自信アリ気な鋭く吊りあがった両の瞳。

 鼻先がシュッとしており、整った顔立ちをした少年だ。

「章弘君も来るの!?千晶良かったね!」

 バシバシと彼女の肩を叩く。

 千晶は照れくさそうに顔を赤くし、髪をくるくるといじっていた。

「あたしは邪魔でしょ?ケーキだけ頂いたら帰るね!」

「そんな〜、気を使わなくてもいいのに〜」

 まだ顔が赤い。

 口ではいて欲しいと言葉にしているが、本音は彼氏・家族と良い時間を提供させて貰えるのが嬉しいのだろう、朱色というか耳まで真っ赤だ。

 ラッキー、早く帰る口実ができたわ。

 こいつは幸せの時間が得られて、あたしは早々に森家から去れる。win-winである。

 なぜ彼らから距離を置きたがるかと言うと、菅原章弘は小学校時代にあたしをいじめていた主犯格だ。

 小学生の頃、押し相撲を半強制的に相手にされて、こいつは手ではなく、あたしの身体を押したのだ。

 結果、あたしは少し吹き飛ばされて、図工の時間で作った1人のクラスメイトの粘土作品を壊してしまったのだ。

 彼の作品は、これ本当に小学生が作ったの!?と彼の手先の器用さを知らない人からすると、「いやいや、そんなご冗談を」と疑いの目を向けるほどの出来栄えだった。

 具体的には鎧兜。

 粘土で甲冑を作ってしまっていたのだ。

 その兜の象徴とも呼べる角が折れてしまったのだ。

 もちろん彼は激怒。

 菅原章弘に掴み掛ったが、奴は「力加減はしたのに大袈裟に後ろに飛んで行ったのはこいつ」と、罪を擦り付けたのだ。

 あたしは突然の裏切りに反論できず頭が真っ白だった。

「俺も見てた」

「私も」

 次々にクラスメイトが指をさしてあたしを悪人にする。

 その異常な光景についには耐えきれず、教室を飛び出してしまったのだ。

 そこからだ、菅原章弘がいじめの味を覚えたのは。

 こいつの両親は学力を重きに置いている。

 テストの点数が悪いと、人通りの少ない場所に連行されてストレス発散の道具にされていた。

 両親や担任に助けを求めることも頭がよぎったが、あいつらも普段からあたしの事を虐待しており、担任も押し相撲の件で完全にあたしが悪いと思い込んでいたため、相手にされなかった。

 田舎の中の学校だが、広い地域ではあったため、小学校は各所に点在されていたが、中学・高校はひとつずつと極端だった。

 千晶とは中学校で出会った。

 たまたま隣の席になり、名前が似てるとの事で、彼女が積極的にあたしに声をかけてきていた。

 正直、既に他人が嫌いになっていたので鬱陶しいかった。

 しかも、菅原章弘はそんな彼女に一目惚れ。

 小学校時代にいじめられていたあたしを助けてくれた恩人と事実をねじ曲げて、千晶にアタックしていた。

 積極的な対応、小学生の頃から良い人アピールで、コロッと千晶が落ちるのには時間はかからなかった。

 そしてあたしたちは仲良し3人組と、学校内で認知されてしまい、高校でもその認識は変わらなかった。

 あーあ、ホントに最悪。

 昔からそうだ。あたしは自分の気持ちを主張するのが苦手だった。

 思ってもないことに頷き、思ってもないことに同意する。

 嫌だという言葉は、自分の心の中の檻に閉じ込めてきた。

 それはとても辛く、きついことだ。

 ただ、あたしにとってそれは当たり前のことで、辛いという感覚は既に麻痺していた。

 そんな時出会ったのがアニメだ。

 え?話が飛躍してる?

 いいから聞きなさい。

 アニメの中の辛い過去を背負ったキャラクターは、主人公に救われることが多い。

 あたしはそれに憧れていた。

 いつか、あたしの心の痛みを理解して救ってくれる人が現れるかもしれない。

 現実では決してありえないことだ。

 ただあたしは思う。

 あたしが自殺出来ないのは心のどこかで、誰かが救いの手を差し伸べてくれるんじゃないかと期待しているのだと。


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