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1.1 転校生の案内係になった件

 ……気まずい。

 今、俺は転校生の宮代白音(みやしろしらね)と下校している。

 宮代は人見知りが激しいのか、会話はおろか目を合わせることさえできない。

 一方、俺も所謂コミュ障を患っているし、そもそも女子(しかもちょっと可愛い)と一緒に下校だとか妄想でしかしたことない。

 そんな俺たちだから、二人の間にはとにかく気まずい沈黙が流れていた。

 にも関わらず何故、別々で帰らないかというとキッカケは二十分ほど前に遡る。

 ………………

 …………

 ……

(わらび)、宮代のことちょっと送ってやってくれ。」

 ……は?

 こいつ今なんて言いやがった? 送ってやれっていいましたかこいつ? 

「……いやいや、なんでっすか!?」

「いやーほら、やっぱ宮代も転校してきて心細いだろうし。慣れない土地だろうし。」

「や、それはそうかもしれないですけど……。今の時代スマホで道とかも分かりますし……。」

 そう、インターネットが普及した昨今。道案内や暇つぶし、連絡手段や寂しい時のおしゃべりAIまで、なんでもスマホで完結する。

 今更、道案内だとかを人力でする必要も無いだろう。

「まぁまぁ、お前も転校生の女の子と一緒に帰れる青春イベント、いつも妄想してんだろ?」

 こいつほんとに教師か!? いやしてるけどもさ、男子高校生なんかみんなそんなもんだろうけどさ! 妄想指摘されるの結構メンタル的にきついからやめてほしい。

「だとしても、それ俺じゃなくて他の人……例えば鶴嶋(つるしま)とかに頼めば良くないですか? 同性の方が何かと楽でしょ。」

「まぁ言ってることは最もなんだがな、今この場にいるのはお前しかいねえし。それに、お前も嵐山(らんざん)とかとしか話してるとこ見ねえしな。せっかく隣になったんだし仲良くしとけよ。」

 この先生(こいつ)……。無理矢理にでも案内係押し付けるつもりだな……。

 しかし、学校生活を気にかけるだけなら、わざわざ送らせることをゴリ押す必要は無い。

 ある種、クラスメイトなどビジネスパートナーのようなもので、学校を出れば赤の他人に過ぎなくなる。それにも関わらず、家まで送らせる理由はあるのだろうか。

「……まぁ、友達作りのキッカケにしたいのかもしれないですけど、別に家まで送る必要まではなくないですか? 別に友達なんかプライベートで関わらなくても出来ますよ。」

「はっはっはっ、面白いこと言うじゃねえか。そういうのは、友達を作ってから言うんだな!」

 これ訴えれば勝てんじゃねえの? ほんとに教師かよこいつまじで。

「さっき、お家の方から連絡があってな。本当は迎えに来たかったらしいんだが、急用で来れなくなったらしい。なんでも、宮代は|ドがつくほどの方向音痴・・・・・・・・・・・らしくてな。マップみても目的地とは真逆のとこに行くことも珍しくないらしい。」

「ははっ、まさかそんな訳……。」

 有り得ないよな? という確認も兼ねて宮代の方へと視線をやると。

「~~~~っ!!」

 湯気が出そうなほど顔を紅潮させ、震えていた。

 え、まじで? そんなことある?

「や、いやちょ、じゃあ今朝の登校はどうしたんですか!?」

「そこは車で送ってもらったらしい。」

「いやいやいや! じゃあ前の学校ではどうしてたんですか!? 毎回送迎してもらってたんですか……?」

「あー、なんでも一回自分の足で行けりゃ記憶を頼りに行けるらしいんだけどな。今朝はドタバタしてて仕方なく送ってもらったらしい。だから帰りさえどうにかなれば今後は大丈夫だろうってさ。……つーか俺じゃなくて本人に聞け。」

 たしかに。それはそう。

 でもさ? 見てよ、宮代泣きそうなくらい顔赤くしてるし、そうじゃなくてもまともに会話できる自信ないし。

 しかしこの流れは……。

「……断れない流れじゃないっすか。」

「じゃあ頼んだ! またな!」

 それだけ言い残し、担任はまた教室を去っていった。

 あいつ、まじで今日何かしらの不運に見舞われてくれねえかな。ここまで強烈な教員は初めて見た。

「……。」

 チラッと、宮代の方に視線をやると、向こうも未だに赤みの残る顔で、どこか涙を浮かべた目でこちらの様子を伺っていた。

「……あー、まぁなんつーか、俺で良かったら送るからとりあえず帰る……か?」

 コクっと小さく頷き、宮代は荷物をまとめはじめた。

 ………………

 …………

 ……

 そして今に至る。

 というか、今考えてみれば俺じゃなくて先生が送ればよかったんじゃないんですかねぇ……。

 チラッと宮代の方を見るも、相変わらず俯いていて表情は伺えない。なんなら隣というかやや後ろから着いてくるようにとぼとぼ歩いている。

 ……まぁ一緒に帰ってるというか、一人と一人がたまたま下校方向同じってだけって考えればそんなに気まずくもないか。

 そもそも普段一人行動が多いし、そう考えてみればこの状況も普段とさして変わらないように思える。というか実際二人の間に言葉もなければやや距離を離して歩いているし。


 ………………。

 いや無理ですわやっぱ気まずい。

 一人と一人での下校と思考の舵を切ってみたはいいものの、十数分も歩いているとやはり気になってくる。

 よく漫画なんかであればここからドキドキ☆ハプニングみたいなこともあるだろうが、これは現実。そんな青春の風とは程遠い無言のぎこちない雰囲気だけが漂っている。

「……ん、というか……あー、えっと宮代の家ってどこら辺なんだ?」

 異様な出来事のために失念していたが、そもそも宮代が極度の方向音痴ということでこの気まずい下校となっている。そのため、行先は宮代の家付近となるのだが、普通にいつも通りの帰り道を歩いてしまっていた。

「すまん、普通に自分家の方向歩いてた。住所どの辺とか家の近く何あるとか聞いていいか?」

「あえっと……。」

 急に話しかけられ、ビクッと肩を震わせる宮代の姿は、気弱な雰囲気も合わさり小動物を彷彿とさせられた。

 小さくあたふたしながらも、鞄からスマホを取り出し、画面をこちらに向けてくる。どうやら流石に新居の住所は覚えているらしい。

「んー……ん?」

「あの……なにか……?」

「んや……あー……。ほんとにここ?」

「え、あ……はい。」

 訝しむような怯えるような目でこちらを見つめてくるが恐らく俺も同じ目をしている。

「家……割と近所だ。」

「え……!?」

 なんと宮代の家は俺の家から徒歩で行ける距離であった。というかほぼお隣さんレベル。

 そのため、いつも通りの帰路についても問題は無い。……が、ここでもう一つ新たな問題が。

「……この辺、うちの学校からはまぁまぁ離れてるからまだ割とかかるんだけど……。」

 大丈夫? という視線を向けると、宮代はビクッと身体を震わせた。

 学校から出て十数分、にも関わらずこの重い空気なのにこれがまだまだ続くと思うと気が思いやられる。

 そんな心の内を察したのか、ややしどろもどろではあるが宮代は口を開いた。

「あのえと……や、やっぱりご迷惑ですよ、ね。あ、あの、すみません、全然、その、その辺で迎えとか、待つ、ので……。」

「や……迎えって、それどんくらい待つんだよ……。」

「……。」

 問いかけに対し、宮代は俯き口を(つぐ)む。

 家の人の急用とやらで迎えに来ることが出来ないとのことだったし、どのくらい待つのかも分からない。最悪、日が暮れるまで慣れない場所で時間を潰さなければならないかもしれない。常人でも堪えるシチュエーションだが、人見知りと方向音痴のコンボ属性を備えた宮代にはだいぶかなりキツいのではないだろうか。

「……んや、まぁ別に普通に方向同じだし、なんも迷惑かかってねえから、大丈夫だ。」

「え、でも……。」

「いいんだよ、つか変に置いて帰る方が後味悪い、まだ寒いし。」

「……そう、ですか。」

 言ったきり、また俯き沈黙が走る。

 あ、あれー? もしかして一緒にいるのが嫌だっただけの可能性ある? 僕なにかミスっちゃいました?

 冷や汗ダラダラにどうしようか悩んでいると、ふいに宮代はこちらをチラッと見上げてきた。

「その……、ありがとう、ござい、ます。」

「え、あ……おう。」

 ……やっぱ、ちょっと顔整ってるんだよなぁ……。

 上目遣いでビクビクしながらもお礼を述べる宮代の姿に、少しばかりドキッとしてしまう。

 なんかこれラノベで見た事ある展開かも。いい雰囲気なのかも。

 チラチラと表情を伺う宮代と、面食らって動けずにいる俺。その辺の青春ラブコメならフラグビンビンな状況だ。

「……まぁ、帰るか。」

 悲しいかな、結局は現実。人見知りの転校生と陰キャ男子高校生の間に青い春の風は吹かない。

 言葉にコクンと頷いた宮代を後目に前を向き直す。

 また僅かに開いた距離と、言葉の発されない沈黙。春先のまだ冷たい風に身震いしつつ再び帰路についた。

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