トライアングルレッスンU〜アプリ編〜
「う〜ん...これはイマイチだなぁ...」
ゆいことの待ち合わせ場所、おれとひろしが小洒落たカフェに到着すると、オープンテラスの席に陣取ったゆいこがスマホを操作しながら大きめの独り言を呟いていた。
「なにしてんの」
声をかけつつ、ゆいこの肩越しにスマホの画面を覗き込んだ。
「ひゃぁ!た、たくみ!おどかさないでよぉ!」
ゆいこがスマホを取り落とし自分の耳を押さえて飛び上がった。
「ゆいこ、お待たせ」
ひろしが穏やかに言ってちゃっかりゆいこの隣に腰を下ろす。
「なにこれ、着せ替えゲーム?」
ゆいこが放り投げたスマホを拾って画面を確認すると、そこには見慣れない制服を着たゆいこの写真が写っていた。
「うん、いろんな学校の制服だったり、スーツとかドレスとか、いろんな格好を試せる着せ替えアプリだよ!ねぇ!2人も撮らせて?いろんな格好させてみたい!」
ゆいこが目をキラキラと輝かせて俺とひろしを見る。
なぁんでだよ!と抵抗を試みるも、ゆいこが有無を言わせずにカメラを向ける。
3D加工になるらしく、ゆいこに指図されるがまま横を向いたり上を向いたりを繰り返す。
「よし!できたっ!じゃぁ....まずはたくみ!....う〜んとぉ....やっぱり警察官なんてどう!?」
ゆいこが嬉しそうに言いながらスマホを操作する。
「お前って、制服フェチだったっけ?」
「まぁ、普段は見られない格好だし、わからなくはないけど....」
楽しそうにニヤニヤするゆいこを見ながら、思わずひろしと顔を見合わせた。
「できた!いいじゃん!見て見て、たくみ!警察官の制服似合ってるよ!カッコいい!!」
ゆいこが俺の顔の前にスマホを突き出してくる。
そのテンションの高さに若干引きながら、画面に映し出されている警察官の制服を身に纏った俺の姿を確認した。
「スクショ撮って送るね!」
「いや...別にいらない...」
「ひろしはねぇ!あ!わかった!パイロットがいい!」
俺の言葉なんておかまないなしに、ゆいこの携帯がパシャリと音を立てた。
「ひろし、見て!パイロットひろし!やだぁ!カッコいいよ!!ひろし、将来はパイロットになってね!」
「....ゆいこがそう言うならなってもいいけど。ちょっと貸して」
ひろしがゆいこからスマホを受け取り慣れた手つきで操作し始める。
そしてそのまま無言でおれにそれを差し出した。
「え、なにひろし、見せてよ!」
騒ぐゆいこからスマホの画面を隠すようにおれはそれを見つめた。
そこには看護師の白衣姿のゆいこ。
思わずひろしと顔を見合わせてニヤリとする。
スマホを受け取り、今度はゆいこCAの制服へとチェンジさせる。
「あ、これもいいな」
ひろしもニヤリと笑った。
「ゆいこ、このアプリ後で教えて」
「もぉ、なによぉ、2人して!スマホ返してよぉ!」
喚くゆいこを傍目に、ひろしと男にしかわからない目配せを交わし合った。