3、経験は馬鹿をも賢くする
資格を取って都内の大学を卒業し、晴れて私は衛生士としての第一歩を踏み出す時がきた。
卒業証書を持った私は、お世話になった教室におじぎをして廊下に出ようとした時だった。
「スーズメ、何しているの?」
トイレから戻ってきた同級生の百合子が私に声をかけてきた。
「百合子……」
「教室におじぎをして、もしかして最後のお別れっていうヤツ?」
百合子は顔をニヤつかせながら、私に言ってきた。
「なんていうか、今日でこの教室とお別れとなったとたん、寂しくなって……」
「そうなんだ」
「スズメは4月からどうするの?」
「私は知り合いの小児歯科で働こうと思っているの」
「それでラバーダム防湿の実習を熱心にやっていたんだね」
「うん、子供の虫歯治療には必要不可欠だから」
「あとさ、他にもレストレイナー(体を覆うネット)の使い方も覚えていたよね」
「うん、泣き暴れる子供もいるからね」
「子供って歯医者を怖がるからね。私も小さいころ小児歯科でレストレイナー(体を覆うネット)をかけられた記憶があったよ」
「あれってトラウマになるみたいだしね。だから、助手をやっていた時には子供に安心させるように話をかけていたの」
「うちは一般歯科だから、その点気楽と言えば気楽だけど、たまにクレーマーがいるから困っちゃうのよね」
「あ、それうちもある。ちなみ百合子の実家ではラバーダムをやっているの?」
「必要によってはね。小さい子供がやってきたら、やるかもしれない」
「そうなんだね。百合子はこのあとまっすぐ家に帰るの?」
「うん、何も予定もないし。スズメはどうするの?」
「私は寄り道して帰ろうかなって思っている」
「どこに立ち寄るの?」
「わからないけど、本屋さんかな」
「もしかして、ファッション雑誌を見るの?」
「ううん、参考書かな」
「スズメ、真面目過ぎ。小学生みたく漫画とか雑誌を立ち読みしたっていいじゃん」
「そうしたいけど、衛生士になったら覚えることがたくさんあるの」
「確かにそうだけど、それじゃつまんない」
百合子は不満そうな顔をして私に言ってきた。
「じゃあさ、最後だから学食で甘いものを食べようか。私がおごるから」
「うん」
学食へ入ってみると、卒業式のせいか見事に空席が目立っていた。
「百合子、何を食べる?」
「私は抹茶のババロアとオレンジジュースかな。スズメは?」
「私はコーヒーゼリーにする」
「おお! 大人だ」
「そんなことないよ」
私は食券を買ったあと一枚を百合子に渡して、注文したものをトレイに載せて空いている席に座った。
「スズメ、本当にいいの?」
百合子は少し遠慮がちに私に聞いた。
「うん、今日卒業式だし。それに百合子とはしばらく会えなくなると思うから……」
「なんで?」
「だって、百合子の実家って山梨なんでしょ?」
「違うよ。私の実家、稲城市になったよ」
「稲城市って東京の?」
「そうだよ」
「いつ、引っ越したの?」
「私がこの学校にかよっている時」
「荷物はどうしたの?」
「両親と姉さんにやってもらった」
「平気だったの?」
「何が?」
「何がって、見られて困るものってなかったの?」
「それなら、全部寮に持ってきたから問題ないよ」
「そうだったんだね。一つ気になったけど、患者さんはどうしたの?」
私は気になって百合子に聞き出した。
「患者って言うと?」
「今まで受け持っていた患者さん」
「それなら、他の歯医者さんに紹介したよ」
「あと、引っ越してから患者さん来ているの?」
「うん、さすが東京だけあって毎日予約が殺到しているよ」
「そうなんだね」
「母さんが言うには夕方になると、仕事帰りのサラリーマンがやってくるみたいなの」
「そういうの多いよね」
「その点、私の所は親子連れが多いかな」
「小児歯科だと、そうなるよね」
百合子は苦笑いをしながら答えていた。
学食を出て数分、私と百合子は歩いて御茶ノ水駅へ向かい、そこからJR中央線に乗って新宿駅へと向かっていった。
「じゃあ、私は小田急だから。百合子は京王なんでしょ?」
「うん」
私は一人寂しく電車に乗って、退屈そうに窓の景色を眺めていた。
その数分後、ついに寝てしまった。
深い眠りに入った瞬間、目が覚めたら新百合ヶ丘駅に着いていた。
私は降りるなり各駅停車に乗り換えて、隣の柿生駅まで向かい、そこからバスに乗って帰ることにした。
家に戻ると誰もいなかったので、私は普段着に着替えて夏子さんがいる診療所まで向かった。
「あれ、スズメちゃん、もう戻ってきたの?」
「先生はいますか?」
私は近くいた先輩に夏子さんを呼ぶようにお願いをした。
「先生ってどの先生?」
あ、そうだった。ここは夏子さん以外に、もう一人先生がいたんだった。
「あの、蓑蛾先生をお願いします」
「ちょっと待ってね」
先輩はそう言って、夏子さんを呼んできた。
「ずいぶんと早いじゃない」
夏子さんは意外そうな顔をして、戻りの早い私を見て驚いた反応していた。
「特に予定がなかったので、戻ってきました」
「そうなんだね」
「それより、資格を取りましたよ」
「お、やったじゃん! それじゃ、今から衛生士のお仕事をやってみようか」
「いいのですか?」
私は少しだけテンションが上がってしまった。
「って言いたいところなんだけど、悪いけど今日のところは助手のお仕事をやってくれる?」
「わかりました」
それを聞いた私は少しだけテンションが下がってしまった。
「その代わり、明日からお願いするから」
「ありがとうございます」
私はそう言って、ロッカーで制服とエプロンに着替えて、手を洗って消毒したあと、マスクと手袋をして現場に入ることにした。
卒業式から戻ってきたばかりだったので、私的には正直助かっていた。
本心としては、家でじっとしていればよかったと後悔していた。
それもそのはずだった。その日も泣き暴れている男の子に当たってしまったので、琴音ちゃんの時と同様に椅子に座って話をすることにしたが、私の話を聞く前に逃げる態勢に入ってしまった。
「ねえ、ちょっとだけお話をしようか」
「うん」
「お姉ちゃんの名前は紅蜂スズメ。坊やのお名前は?」
「僕は臼井たける」
「たけるくんは今何歳?」
「6歳」
「6歳と言ったら、今年小学校に入るの?」
たける君は黙って首を縦に振った。
「そう。小学校に入るってことは、もうお兄さんじゃない。お兄さんになる人が名前呼ばれて逃げたり、大声で泣いていたらかっこ悪いよ。たけるくんは好きな女の子いる?」
「まだいない……」
「そうなんだ。でもかわいい女の子と仲良くなりたいでしょ?」
「うん……」
「でもね、今のたけるくんを見たら、女の子は嫌がっちゃうよ。それでもいいの?」
「いやだ」
「でしょ? だったら一緒に頑張ろうよ」
「うん……」
「じゃあ、行こうか」
「どこへ?」
「ベッドへ」
「もしかして嫌?」
「うん」
「今、お姉ちゃんと約束したじゃない」
「でも、ちょっと怖い……」
「何が?」
「歯医者の音……」
「あの音いやだよね。お姉ちゃんも嫌いだよ。でも、お姉ちゃんにはもっと嫌いなものがあるの」
「何?」
「たけるくんが歯医者を怖がって逃げること。ねえ、選んで欲しいんだけど、このまま逃げて何も食べられないでいるか、今ちょっとだけ我慢して甘いものをたくさん食べられるようになるか」
たけるくんは少し考えた。
「どうする? 今逃げたら女の子に嫌われるよ。お姉ちゃんなら、たけるくんのことを嫌いになっちゃうかも」
「僕、頑張って受けるよ」
たけるくんは自分から進んで治療のベッドに進んだ。
「もう、怖くないよね?」
「うん」
たけるくんは少し緊張気味で私に返事をした。
「これも必要ないよね」
私もレストレイナー(体を覆うネット)を見せながらたけるくんに確認をした。
「うん」
「じゃあ、ちょっと他のお姉ちゃんと代わるから、少しだけ待っていてくれる?」
私は夏子さんを呼んだあと、他の患者さんの案内をしたり、器具の洗浄などをしていた。
その日も業務を終えた私は、夏子さんと一緒に家に向かう途中のことだった。
「今日卒業式だったのに、来てもらってごめんね」
「いえ、私も退屈だったので……」
「今夜はごちそうにするから」
「なら、私も手伝います」
「スズメちゃんは休んでいてよ」
「うん……」
「今日面白い番組があるから、それでも見ていてちょうだい」
玄関のドアを開けるなり、私は自分の部屋にあるベッドで横になってしまった。
「スズメちゃん、もしかして疲れた?」
「いえ、大丈夫です」
夏子さんはエプロン姿で、顔をニヤつかせながら私に言ってきた。
本当に疲れた。このまま寝ちゃおうかな。
その時だった。私は風呂に入っていないことに気がついて先に入らせてもらうことにした。
「夏子さん、申し訳ないのですが、先にお風呂に入らせてもらっていいですか?」
「いいわよ。私、その間にご飯の準備を進めるから」
湯船に入った瞬間、急に眠気が襲ってきた。まるでマッサージをされているような気分だった。
ウトウトしそうになったので、私はすぐにあがって部屋着姿になって、ドライヤーで髪の毛を乾かしたあと台所へ向かった。
「やっぱ、私も手伝います」
「いいよ、もうじき終わるから。それよりテレビでも見ていたら?」
夏子さんはそう言って居間にあるテレビのスイッチを入れて適当にチャンネルを変え始めた。
「これなんかいいんじゃない?」
夏子さんは歌番組を見るなり歌い始めた。
「夏子さん、やっぱ私も手伝いますよ」
「本当にいいんだよ」
そう言いながら台所へ戻って行った。
そこまでかたくなに断る理由がよくわからなかった。仕方がないので私は歌番組を見ることにしたが、歌手なんて知らなかったので、正直上の空もいいところだった。
「ごはん、出来たよ」
食卓へ行くと見事にごちそうが並べられていた。
「夏子さん、今日はなんの日ですか?」
「知らないの?」
「はい……」
「今日はスズメちゃんの卒業式だったじゃない」
「あ、そうだった」
「じゃあ、乾杯しようか」
夏子さんはそう言って私のコップにジュースを入れた。
「それじゃ、スズメちゃんの卒業と就職を祝ってかんぱーい!」
そのあと、ちらし寿司や鶏のから揚げなどを食べていった。
食べ終えて食器を片付け終えたあと、夏子さんはソファのあるテーブルに私を呼んだ。
「スズメちゃん、ちょっとだけいい?」
「なんですか?」
「ちょっと渡したいものがあるの」
夏子さんはみかんの絵柄のついたオレンジ色の小さな手提げ袋を用意した。
「この袋は?」
「中に箱があるでしょ? それを取り出してみてよ」
私は言われるまま箱を取り出したあと、リボンをほどいて、そうっと包装紙をゆっくりとはがしてみた。
そのあと箱のふたをゆっくり開けてみると、オレンジ色の最新のスマホが出てきた。
「夏子さん、これは?」
「卒業と就職祝い。もしかして嫌だった?」
「そんなことありません。とてもうれしいです」
「ちょっと電源を入れてみてよ」
私は少し緊張しながら電源を入れてみた。すると、画面にはミカンのロゴが表示されて、そのあとにパスコードの設定を済ませたら、アイコンがずらりと出てきた。
「夏子さん、アイコンがずらりと出てきましたよ」
「これで、普通に使えるわよ」
「ありがとうございます」
「ちょっと待って、これもあったんだ」
夏子さんは私からスマホを取り上げて、慣れた手つきで保護フィルムを画面に貼って、そのあと黄色い手帳型のケースをはめ込んで渡した。
「このほうが持ち運びが楽だと思うよ」
「ありがとうございます」
「スズメちゃん、明日から衛生士としてよろしくね」
「はい、頑張ります」
「あ、そうそう。スズメちゃんには明日からラバーダム防湿の準備をやってもらおうかな」
「私がですか?」
「衛生士になって最初のお仕事だよ。それともやりたくない?」
「そんなことありません」
「もう助手じゃないんだし、雑務だけというわけにはいかないでしょ?」
「うん……」
「なら、少しずつやってもらおうかな」
「わかりました」
「じゃあ、そろそろ寝なさい」
「お休みなさい」
翌朝、私は夏子さんと一緒に診療所へ向かおうとした時だった。
「スズメー!」
後ろを振り向いたら、游子と凛子さんがいた。
「游子、今から出勤?」
「そうだよ。スズメは?」
「私も」
「偶然だね。小児歯科のお仕事慣れた?」
「まあ、少しだけ。今日から衛生士としてのお仕事が始まるんだよ」
「私も今日から小児科医師として最初のお仕事が始まる。ちょっとだけ緊張してきたよ」
「緊張しないで、リラックスしようか」
「そうだね」
游子は私に言われるまま深呼吸をしてみた。
「どう? リラックス出来た?」
「ううん、変わらない」
「困ったわね」
私は首をかしげながら考え込んだ。
「2人とも早くしないと遅刻するわよ」
夏子さんが、私と游子に急ぐように促したので、急ぎ足で診療所へと向かった。
着替えを済ませてマスクと手袋を持って現場へ向かおうとした瞬間だった。
「紅蜂さん、マスクと手袋は?」
夏子さんからいきなりダメ出しがきた。
「すみません、今着用します」
私はあわててマスクをつけて手袋をはめた。
「私が渡した紙をちゃんと読んでくれた?」
「はい、読みました」
「じゃあ、なんて書いてあったか言ってごらんなさい」
夏子さんは厳しい目つきで私に言ってきた。
「マスクと手袋も制服の一部なので、きちんと着用していないと患者に近寄ることも、現場に立ち入ることも禁止にする……」
「そう書いてあったはずでしょ? なんでマスクも手袋もしないの?」
「中に入ってから着けようと思いました」
「なんで、ここで着けないの?」
「なんでって言われても……、理由はありません……」
「理由がないってことは、私に逆らっているわけ?」
「そんなことありません」
「なら、なんでマスクと手袋を着けないで現場に入ろうとしたのか言ってごらんなさい」
夏子さんの口調はだんだんと荒くなってきた。
「……」
「何か返事が出来ない理由でもあるの?」
「特にありません……」
「蓑蛾先生、この辺にしてあげてください」
別の先生が助け舟に入ってきた。
「紅蜂さんがマスクも手袋も着用せずに現場に入ろうとしたので、注意を促しました」
「先生がおっしゃっていることは完全にパワハラになります」
「しかし、紅蜂さんはもう衛生士なんですよ。歯科助手ならまだしも、衛生士になった以上、もう少し現場の状況を把握してもらわないと困ります。それにここは医療現場なので、手洗いと消毒をして、マスクと手袋の着用の上、衛生第一で務めてもらうのが当たり前なんです」
「先生がおっしゃっていることは、ごもっともです。しかし、それと同時に部下へのパワハラも禁止です。パワハラは精神的に大きなダメージを与えてしまいます。ただでさえ『いじめ』や『パワハラ』が大きな社会問題となっているので、その辺はきちんと自覚をしてください」
「わかりました。言動には充分気を付けます」
夏子さんはすっかり肩を落としてしまった。
「それと紅蜂さん、蓑蛾先生もおっしゃっていたように、ここは医療現場なので、マスクと手袋の着用は当然の義務です。それにあなたは衛生士なので、それくらいのことはきちんと自覚してください」
「わかりました。次から気をつけます……」
「それと、これは私の独り言だから無理して聞かなくてもいいけど、よその歯科医院で1人の衛生士がマスクと手袋を着用せずに患者の治療に立ち合ったら、その患者さんの体内に雑菌が侵入し、入院沙汰になった上、患者さんの家族が衛生士を相手に慰謝料を求める裁判を起こしたの」
私はそれを聞いて恐怖を感じてしまい、何も言えなくなってしまった。
「じゃあ、そろそろ時間だし、現場に入りましょうか。嫌な話はここで終わり」
もう一人の医師はそう言って、そのまま現場に入ってしまった。
私が患者を迎える準備をしているころ、游子は小児科医師として最初の仕事を始めようとしていた。
游子は空色のワンピースの上に白衣を着て、水色のマスクを着けて診察室で患者さんが来るのを待っていた。
「凛子さん、患者さん来ませんよー」
「ここでは院長と呼びなさい。それにこの時間はいつも暇だから、待っている間に待合室の掃除でもしてちょうだい」
游子は奥の部屋から自在ぼうきとチリトリを取り出して、待合室の掃除をやり始めた。
「院長、こういうのって普通助手の人にやらせるんでしょ?」
「医師だって掃除をするのよ。つべこべ言わずにさっさとやりなさい」
游子は凛子さんに言われるまま、床掃除をやり始めた。
やり始めてから10分、掃除が全部終わったので、診察室の中へ戻ろうとしたら凛子さんが再び声をかけた。
「院長、なんですか?」
「悪いけど、いらない個人情報が溜まっているから、シュレッダーで破棄してくれる?」
「わかりました」
游子は凛子さんから受け取った大量の古い個人情報を抱えて、シュレッダーの場所まで持って行き、1人黙々とやり始めた。
その時だった。熱にうなされた1人の男の子を連れてきた母親がやってきた。
「どうされましたか?」
受付にいた看護師さんが、親子連れに近寄って声をかけた。
「息子が今朝から高熱を出しているんです」
「熱は何度ありますか?」
「自宅で測ったら37.8度ありました」
「保険証はお持ちですか?」
母親はそう言って受付の人に保険証を渡して、待合室で雑誌を読んで待つことにした。
游子は少し退屈そうな顔をして診察室に戻ろうとしたら、受付の人が「先生、患者さんを中に入れてあげてください」と言ってきた。
游子は待合室に行って、熱を出している男の子に近寄って「辛そうですね、ちょっと診察室に入ってもらえますか?」と言って中に通した。
「診察する前に確認をしたいのですが、お子さんは何かアレルギーをお持ちですか?」
「あの、熱と何か関係があるのですか?」
母親は不思議そうな顔をして游子に聞き返した。
「実は万が一のことを考えて、手袋を着用させて頂きたいと思っています」
「わかりました。一応アレルギーは大丈夫です」
「ありがとうございます」
游子はそう言って、薄手のゴム手袋をはめて、男の子の顔やのどを触り始めた。
「のどの痛みはありますか?」
「特にないです」
「わかりました」
「お口の中を見たいから、ちょっとだけ『あーん』してもらっていいかな」
游子は舌圧子(舌を抑える銀色のヘラ)と懐中電灯で喉の中を見た。
「喉は特に異常はなかったですね。では、お腹を調べるのでお洋服をめくってもらっていいかな?」
さらに游子は聴診器で胸やお腹、背中に当てて呼吸の音を聞いてみた。
「こちらもきれいな音でしたので問題ありません。一応お薬を出しておきますね」
「え、薬を出すの?」
男の子は少し不安そうな顔をして游子に聞き出した。
「そうだよ。お薬を飲まないと、お外で遊べないよ」
「うん……」
「大丈夫だよ。苦いお薬は出さないから」
「本当に?」
「あー、この顔ってお姉ちゃんを信じてないでしょ? へこんじゃうなあ」
「本当に苦い薬を出さない?」
「出さないから大丈夫よ。その代わり飲みやすい甘いお薬を出しておくから」
「うん、わかった……」
「一応、お子さんが飲みやすいようにオレンジの風味をきかせた液体タイプのお薬を出しておきます」
「ありがとうございます」
「ただ一つだけ注意がありますが、見た目はジュースとそっくりなので、必要以上は与えないように気を付けてください」
「わかりました」
母親は游子の説明に相づちを打ちながら返事をしていた。
「それでは、受付で処方箋を受け取ってからお帰りになってください」
「ありがとうございます」
男の子は母親と一緒に診察室をあとにした。
再び游子に退屈が訪れたので、こっそり待合室でアニメのDVDを見ようとした時だった。
「蛇川先生、随分と退屈そうだね。患者さんのデータ整理は終わったの?」
その時、後ろから凛子さんがナマハゲのように怖い顔をして、游子に声をかけてきた。
「院長、今やります」
游子はあわてて、診察室へ戻って患者さんのデータを整理し始めた。
「それが終わったら、診察室と待合室の掃除をお願いね」
「わかりました」
パソコンによる入力作業が終わって、游子は再び自在ぼうきとチリトリを持って診察室と待合室の掃除をしようとした時だった。
「よかったら、私も手伝いましょうか」
1人の看護師がほうきとチリトリを持って、游子のところへやってきた。
「じゃあ、受付の掃除をやってもらえますか?」
その時だった、またしても凛子さんの雷が飛んできた。
「蛇川先生、これはあなたのお仕事なんだから、ご自分でやってもらえますか? あなたもお手伝いは結構なので、ご自分のお仕事をやってもらえる?」
看護師さんは奥へ行って診察で使った器具を洗ったり、備品の整理をやり始めた。
掃除が終わって、診察室に戻ろうとした時だった。
受付に患者がやってきて、1人は母親と一緒、もう1人はおばあさんと一緒だった。
おばあさんと一緒にやってきた男の子は礼儀正しく診察を受けていたが、問題は母親と一緒にやってきた6歳の男の子だった。やんちゃ坊主なのか非常に口が悪かった。
「お姉ちゃん、これ何かのコスプレなの?」
男の子の第一声はこれだった。
「コスプレじゃなくて制服よ!」
「お姉ちゃん、ブラとパンツは何色なの?」
「ねえ坊や、風邪ひいているみたいだし、注射をうっておきましょうか」
我慢の限界がきて、游子は注射器を取り出して男の子に見せた。
「注射はやだよー」
男の子は注射器を見るなり急に怯えてしまった。
「だったら大人しくしましょうね」
游子が注意した直後、母親も男の子の頭を強く叩いて謝ってきた。
「本当に申し訳ございません。あとでよく言い聞かせておきます」
「お母ちゃん、なんで謝っているの?」
「あんたがお姉ちゃんに失礼なことを言ったからでしょ? 早く謝りなさい!」
男の子は母親に叱られたあと、「ごめんなさい」と游子に一言謝った。
「それで、今日はどうされましたか?」
少し落ち着いたあと、母親に男の子の症状を聞いた。
「実は、昨日から咳が出始めるようになりました」
「ちなみに熱はありますか?」
「熱は今朝測りましたら、37.5度ありました」
「少しあるのですね。わかりました」
游子はそれをパソコンのキーボードで入力し始めていった。
「喉を見ますので、『あーん』してくれる?」
游子はさっきと同様に懐中電灯と舌圧子(舌を抑える銀色のヘラ)を使って喉を調べた。
「ちょっと赤くなっていますね。では、お腹を調べるから洋服を上にめくってくれる?」
男の子が胸が見える位置までめくり始めたので、游子は聴診器で胸やお腹、背中に当てて呼吸の音を確かめた。
「呼吸の音は特に問題ございません。一応解熱剤と咳止め、抗生物質を出しておきますね」
「あの先生、お薬はどういうのが出ますか?」
母親が疑問に感じたような顔をして聞き出した。
「あ、ごめんなさい。解熱剤と抗生物質は錠剤になっているので、朝と晩に飲んでください。咳止めは飲みやすい液体タイプにしておきました。こちらは朝、昼、晩の3回飲んでください。ただ甘味があって、見た目はジュースとそっくりなので、指示された量以外はお飲みならないように気を付けてください」
「わかりました、ありがとうございます」
「あと、これは余計なお世話かもしれませんが、出来たらお子さんにマスクを着用して頂けると助かります」
「わかりました、それでは失礼いたします」
母親は少しだけ不機嫌な表情になって、診察室をあとにした。
一段落が着いた時、凛子さんが声をかけてきたので、また叱られると思って游子はとっさに身構えをしてしまった。
「蛇川先生、どうしたの?」
「また院長に叱られると思って……」
「何か悪いことでもしたの?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
「じゃあ、なんで身構えをしたの?」
「なんていうか、その……、一種の条件反射っていうか……」
「患者さんに迷惑をかけたわけじゃないんだし、そういう反応はやめたほうがいいわよ」
「わかりました、気をつけます」
「それで、そろそろお昼休みなんだけど、一度家に戻って何か食べようか?」
「そうですね」
游子と凛子さんは一度診療所を離れて、家に戻ることにした。
その頃、私は患者さんの対応に追われていて、てんてこ舞いの状態になっていた。
今日に限って治療の予約が殺到していたので、よその歯科医院から応援が来てくれた。
さらに治療を拒む男の子の絶叫サラウンドを聞かされる羽目になってしまった。説得する余裕なんかないので、問答無用でレストレイナー(体を覆うネット)で固定して動けなくした。
「泣いている困ったちゃんには、少しの間ミノムシになってもらうね」
それでも男の子は絶叫を上げていたが、少したって泣き疲れたのか大人しくなっていた。
落ち着いたころを見計らって、私は男の子の口に脱脂綿に着けた麻酔薬を歯茎に塗ってラバーダムの準備を始めた。
「お口の中にバイ菌が入らないように、ゴムのマスクをしてもらうよ」
「えー、それやだよー」
「でも、そうしないと虫歯も治せないし、おうちに帰っても何も食べられないよ」
「それはもっと嫌だ」
「でしょ? だったら少しの間我慢できるよね?」
「うん……」
男の子は渋々返事をして口を開けて待っていた。
「ちょっと大きく開け過ぎかな。少しだけ小さくしてくれる?」
男の子がちょうどいい大きさに口を開けてくれたので、私はクランプ(歯に固定する金属のリング)とゴムのシート、金属のフレームを一つにしたのを男の子の歯に固定して閉じられないようにした。
セットが完了したところで、夏子さんを呼んで治療をお願いすることにした。
「蓑蛾先生、いいですか?」
「少しだけ待ってくれる? すぐ終わるから」
夏子さんは忙しそうな声で私に言ってきた。
「もう少ししたら、先生が来るから待ってくれる?」
男の子は首を縦に振って返事をした。
数分が経って、夏子さんが疲れきった体で少しふらつきながら男の子の所にやってきた。
「先生、大丈夫ですか?」
私は心配そうな表情で夏子さんに聞いた。
「これくらい平気よ。この子の治療を終えたら、少し休憩にするから」
その時、応援の先生がやってきた。
「私、ちょうど区切りよく終わったので、こちらに着きます。蓑蛾先生は奥で休んでいてください」
若い女性がしっかりとした口調で夏子さんに休憩を取らせて、代わりに男の子の治療に当たった。
「おやおやあ、ミノムシの格好しているけど、もしかして泣いて暴れていたのかな?」
先生は優しい口調で男の子に声をかけた。男の子は何も言わずに首を縦に振って返事をした。
「もしかして、歯医者さん怖い?」
さらに男の子は首を縦に振った。
「怖いよね。でも、怖がったままでいたら大好きなジュースも飲めなくなるし、甘いお菓子も食べられなくなるわよ。だから早く治しておうちに帰ろうね」
先生が優しく言ったあと、男の子の治療が始まった。
「痛くないでしょ?」
先生は終始優しく男の子に声をかけながら治療を続けた。
治療を終えたあと、男の子はケロっとした顔で診察室を出ていった。
その日の診察が全部終わって、応援に来てくれた先生にお礼を言ったあと、みんなで掃除を済ませて帰る準備をしていた時、夏子さんはすっかり疲れきっていて、動く気力さえ失っていたようだった。
「蓑蛾先生、帰りますよ。肩を貸しましょうか」
「いいわよ、それくらい」
夏子さんは診療所の鍵を閉めて私と一緒に外を歩いていたら、目の前にある大きなドラッグストアに立ち寄ろうとした。
「ねえ、お腹がすいたでしょ? 何か食べ物を買って帰ろうか」
「うん」
ドラッグストアに食べ物?私は思わず夏子さんの言葉に耳を疑ってしまった。
中に入ってみると、とてもドラッグストアとは思えないような広さになっていて、化粧品や医療品の他にもシャンプーを始め、お酒やお弁当、ジュース、お菓子、レトルト食品、中には文房具やコピー用紙、DVDや電球などもあったので、ちょっとしたスーパーみたいな空間になっていた。
夏子さんは買い物かごを持って、お菓子やパン、お酒などを次々と入れていった。
「夏子さん、驚きました。ここってドラッグストアっていうより、ちょっとしたスーパーみたいな感じになっていますね」
「そうでしょ? しかもけっこう遅くまでやっているから、残業になっても立ち寄れるんだよ」
「一つ気になりましたけど、歯医者さんにも残業ってあるのですか?」
「そりゃあ、あるわよ。治療費の集計したり、患者さんのデータを整理するお仕事が。あと、翌日の診察の準備をすることもあるわよ」
「そうなんですね」
「もう少し慣れたら、スズメちゃんにも残業を引き受けてもらおうかな」
「えー!」
「何その反応」
「だって、帰りが遅くなりそうだから」
「徒歩で移動できる距離なんだから、それくらい我慢しなさい。たたで残業とは言わないから」
「うん……」
「他の人は近くても自転車、遠くから来た人は電車とバスで来ているんだから、それに比べたらスズメちゃんなんかマシな方だよ」
「そうですよね……。でも、私お金の計算苦手なので……」
「それは大丈夫。私か事務の人が引き受けるから」
「それを聞いて安心しました」
「お金の計算ってプレッシャーを感じるよね」
「はい……」
「暗い話はこの辺にして、食べたいものがあったら遠慮なしにカゴに入れてね」
「ありがとう」
私はおにぎりやお茶、お菓子などをカゴに入れ始めた。
「お金、少し出しましょうか」
「子供がそんなことを気にしたらだめ。ここは全部私が出すから」
夏子さんはそう言ってレジへ持って行き、クレジットカードで精算を済ませたあと、レジ袋に品物を詰めて家に向かった。
家に入るなり、私は部屋着姿になって食卓に買ってきた食べ物を広げ始めた。
「じゃあ、食べましょうか」
「夏子さん、ごちそうさまです」
「気にしないで食べましょ」
「いただきまーす」
「たまには、こういう食事もいいよね」
「はい」
「まるで隣に住んでいる誰かさんと同じみたい」
夏子さんがそう言った直後、隣では凛子さんがコンビニ弁当を食べながら大きなくしゃみをしていた。
「凛子さん、風邪でも引いたの?」
游子が少し心配そうな顔で聞いてきた。
「ううん、そんなことない。きっと誰かが私のウワサをしているのよ」
凛子さんはそう言って、弁当を食べ続けた。
そのころ私はというと、食事を終えてペットボトルのお茶を飲みながらくつろいでいた。
「夏子さん、疲れているところ悪いんだけど、少しだけいいですか?」
私は少し言いづらそうな顔をして夏子さんに話かけてみた。
「スズメちゃん、深刻な顔をしてどうしたの?」
「実は私からの提案で、診察室に音楽を流してみたいと思っているのです」
「いいんじゃない。そのほうがお互いリラックスできると思うしね。それで、どんな音楽を流してみたいの?」
「子供が好きそうな音楽を流してみたいと思いました」
「それを具体的に聞かせてほしいの」
「アニメの曲とかどうですか?」
「アニメの曲ね……。うちにはないよ」
「では、オルゴールみたいな曲はありますか?」
「それもない。っていうかオルゴールを流したら眠くなりそう」
「それは言えてる……。あと有線放送はどうですか?」
「有線放送ねえ……。うち入っていないんだよ」
話は再び振り出しに戻って、2人で考え込んでしまった。
「明日、スズメちゃんがいいと思った曲をダウンロードしたり、CDを経費から落として買っていいから。じゃあ、私そろそろ寝るね」
夏子さんはそう言い残して、ベッドで寝てしまった。
翌日、業務を終えた私は、みんなが帰ったあと事務所にあるパソコンを使ってオンラインショップで小さい子どもにも受けそうなCDを何枚か探してみた。
「よさそうなCD、見つかった?」
夏子さんは疲れきった顔をして私に声をかけてきた。
「はい。これでいいのか分からないので、一度夏子さんに見てほしいと思いました」
夏子さんは横からパソコンの画面を覗き込んで、表示されている品物を確認した。
「これでいいんじゃない?」
「そうですね。ただ、一つ気になったのはここってCDプレーヤーがありませんよ」
「だったら、パソコンにコピーして、ハードディスクで再生する?」
「お仕事で使うパソコンをこんな使い方をして大丈夫なんですか?」
「だって、仕方がないでしょ?」
「そうですよね……」
「だからと言って新しいプレイヤーを買えるほど、うちは余裕じゃないから」
夏子さんはため息交じりに私に言ってきた。
「そうですよね」
「あ、待てよ。うちに使わなくなった携帯用のCDプレイヤーがあるから、それを持ってこよう」
夏子さんは何かを思い出したかのように独り言を呟き始めた。
「家にあるのですか?」
「あるわよ」
「明日、用意してくれますか?」
「ただ、プレイヤーを用意しても肝心なCDが無ければ……」
「そうですよね。今、発注すれば明後日の昼頃に到着すると思います」
「わかった」
「支払いは代金引換でいいですよね?」
「いいよ。じゃあ、着替えて帰ろうか」
私と夏子さんは更衣室で着替えを済ませたあと、そのまま歩いて家に帰ることにした。
明後日の夕方になって、患者さんの人数が落ち着いたころ、私と夏子さんは事務所に設置した携帯用のCDプレイヤーで届いたCDを1枚開封して音楽を聞いてみた。
「この曲ならいけそうだね」
夏子さんは「ジブリのオーケストラ」と書かれたCDを聞きながら賛成してくれた。
「じゃあ、明日から診察室にこの音楽を流そうか」
「そうですね」
最後の患者さんを見送ったあと、事務所に置いてあるCDをみんなが物珍しそうに手に取って眺めていた。
「子供が好みそうな音楽をそろえてみたの」
夏子さんは疲れきった顔をしながら、みんなに説明をした。
「みんな、少しだけいい? 実は明日からこのCDを流して業務を行おうと思っているの。子供たちが好きそうな音楽を流してリラックスさせる作戦。どうかな?」
みんなは顔を見合わせながら、何かを相談するような眼差しでいた。
「このCDを一日中流す感じですか?」
1人の衛生士が確認をとるような感じで夏子さんに聞いてきた。
「いくらなんでも限界があるから、せいぜい流せても1枚か2枚かな。あとは演奏時間にもよるよ」
「わかりました。あと、音源はどこから出すのですか?」
「受付にあるオーディオケーブルからつなげるよ。だから受付の人が音楽を担当してくれる?」
「わかりました」
「言っておくけど、かけている曲が飽きたからと言って自分のCDを持ってきてかけないでね」
「院長、私だって馬鹿じゃないんだから、それくらいわかりますよ」
夏子さんはそれを聞いて苦笑いをしていた。
「みんなも疲れたでしょうから、そろそろ引き上げようか」
「お疲れ様でした」
「紅蜂さん、悪いけどあなただけは残ってくれる?」
みんが帰ったあと私だけ残されたので、何かを言われる覚悟を決めていた。
「一緒に帰ろうか」
「そういうことでしたのね」
私は胸をなでおろして安心した。
「スズメちゃん、どうしたの?」
「また叱られるのかと思いました」
「何か大きな失敗でもしたの?」
「ううん、そんなことはありません」
「だったら、なんでそんな表情をしたの?」
「私だけ残されたから、悪い方向へと考えてしまったのです」
「家が一緒なのに、別々に帰ったらおかしいじゃん」
「確かに……」
「今日は疲れたから晩御飯の準備、手伝ってくれる?」
「いいですよ」
「じゃあ、よろしくね」
家に戻って部屋着姿になった私は、夏子さんと一緒に晩御飯の準備を手伝うことにした。
「明日から、あの音楽をかけてお仕事なんですね」
「スズメちゃん、もしかして嫌だった?」
「そんなことありません。ああいう音楽、私も好きですから」
「でしょ? へたなクラシック音楽を流したって、逆効果になるだけと思うの」
「そうなんですか?」
「私の大学時代の友人が親の歯科医院で、ベートーヴェンやモーツァルト、チャイコフスキーの曲を診察室で流したとたん、患者が減って廃業になったと言っていたみたいなんだって」
「それって、本当なんですか?」
「うん、ある患者が言うには『聞いていて眠くなった』とか『たいくつな音楽で嫌になった』っていう声があとを絶たなくなったんだって」
「やっぱ患者さんのニーズに答える必要があるのですね」
「スズメちゃん、そこなの。いいところに目をつけたわね。これからは歯医者を怖がる子供たちのために安心して受けられる治療が必要だと思うの」
夏子さんは顔にご飯粒を着けながら力強く言ってきた。
「あの、どうでもいいけど、顔にご飯粒が着いていますよ」
「あ、いけない」
夏子さんは私に言われて、あわててご飯粒を取って口の中に入れてしまった。
食器を片付けて洗い終えたあと、夏子さんは風呂に入ってしまった。
私が部屋で歯科治療のテキストを広げて勉強し始めてから30分、夏子さんが私の部屋に入って後ろからテキストを取り上げた。
「お風呂が空いたわよ。あと、家では勉強をしない!」
「でも……」
「でももへったくれもない! こういう本は職場だけにしなさい!」
「はーい」
「ちょっと入ってきます」
私は夏子さんに言われて、すぐに風呂に入ることにした。
一日の疲れが取れていく。なんだか気持ちがいい。
風呂から上がってパジャマに着替えた瞬間、そのままベッドで寝てしまった。
4話へ続く