2、郷に入っては郷に従え
「私、隣だから何かあったら声をかけてね」
私がそう言ってドアチャイムを鳴らした瞬間だった。
ドアがガチャっと開いて中から茶色いショートヘアの綺麗な女性が出てきたので、私はとっさに「こんにちは、今日からここでお世話になります、紅蜂スズメと申します。これ、つまらないものですが、よかったら召し上がってください」と言って、空港のロビーで買った手土産を居候先の人に渡した。
「なに子供がしょうもない気遣いしているのよ。子供は子供らしく手ぶらで来ていいんだからね。私は蓑蛾夏子。あんたこの制服って、もしかして害虫くノ一部隊にいた?」
「はい……」
「やっぱりね。私も昔はあんたの所に所属していたんだよ」
「そうなんですか?」
「私、蛾なの。あんた、名前からしてスズメバチでしょ?」
「はい、そうです」
「あ、玄関だと近所から苦情が来るから中に入ってよ」
「おじゃまします」
「スズメちゃん、挨拶が間違っているわよ」
「え?」
「『え?』じゃないでしょ? 今日からここがあなたの家になるんだから『ただいま』でしょ?」
「た、ただいま」
「おかえりなさい」
私がちょっと恥ずかしそうに言ったら、夏子さんはにこやかな表情で出迎えてくれた。
中へ入ってみると、綺麗に片付けられていた。
「すごく綺麗な部屋で驚きました」
「もしかして、実際の所は散らかし放題のきたない部屋だと思っていたでしょ?」
「そんなこと思っていません」
「正直に言ってちょうだい」
「思っていました……」
「正直でよろしい」
「それでスズメちゃんのお部屋なんだけど、奥に一つ余っているから、そこを使ってくれる?」
私は案内された部屋にリュックとキャリーバッグを置いて居間に戻った。
「一つ気になったけど、いつまで制服姿でいるの? いい加減パジャマか部屋着になったら? 着替えないなら私が脱がすわよ」
さらに夏子さんは意地悪そうな顔で私に言ったあと、手をワシワシさせて、私が着ている制服を脱がそうとしていた。
「夏子さん、何をするのですか?」
「脱がないなら私が脱がすわよ」
「これは私の大切な思い出なんです」
「だったら早く着替えてきなさいよ。ここはあなたの部隊の宿舎じゃないんだから」
「わかりました。今着替えてきます」
私は自分の部屋に行って、キャリーバッグから黄色いパジャマを取り出して着替え始めた。
「こっちの方が落ち着くでしょ?」
夏子さんは顔をにこやかにして私に言ってきた。
「まだ慣れないことだらけだけど、これは少しずつ慣らしていけばいいから」
「わかりました」
「ねえ、長旅で疲れたでしょ? これを食べてくつろいでくれる?」
夏子さんは台所へ行ってカップケーキと紅茶を用意して、私の前に置いた。
「ずいぶんと可愛らしいケーキですね」
私は思わずビックリしてしまった。
「もしかして嫌だった?」
「そんなことありません。とてもかわいいデザインでしたので、驚いていただけです」
私はそう言って、スプーンでケーキを一口食べてみた。すると甘さが口の中に広がってきたので、続けて二口、三口と口の中に入れ込んだ。
「このケーキ、本当に美味しいです」
「気に入ってもらえて何よりだよ」
夏子さんは私が食べている姿を見て、終始にこやかな顔でいた。
「ごちそうさまでした」
私が立ち上がって、食器と空容器を片付けようとしたら、夏子さんが「あ、このままでいいよ。あとで適当にやっておくから」と言って、流しに持って行った。
「全部任せてしまって、すみません」
「気にしないで。スズメちゃんは疲れているんだから」
「はい……」
「それより今夜なんだけど、ベッドがまだないから、しばらくは来客用の布団で寝てくれる?」
「わかりました」
夏子さんは客間の押し入れから布団を取り出して、私の部屋に運んで敷き始めたので、私も手伝おうとした。
「あ、スズメちゃんは何もしなくていいよ」
夏子さんは旅館の中居みたく、手際よく一瞬にしてシーツと掛け布団をかけて、最後に枕を載せた。
「これで、完成ね」
「うわー、すごい! ありがとうございます」
私は嬉しさのあまり、歓声をあげてしまった。
「スズメちゃん大げさよ。さ、今夜は遅いし、寝ましょうか」
「はい、おやすみなさい」
夏子さんは部屋の明かりを消して静かにドアを閉めて、いなくなってしまった。
翌朝、太陽の光とともに私は目が覚めてしまった。
枕元の腕時計で時間を確認したら朝の7時。私はショートパンツとチュニック姿になって布団とシーツをたたんだあと、居間に向かった。
「おはようございます」
「スズメちゃん、おはよう。もしかして起こしちゃった?」
「太陽の光で目が覚めました」
「そうなんだね」
「いい匂いですね」
「今、朝ご飯を作っていたところなの。スズメちゃんも一緒に食べる?」
「何を作っていたのですか?」
「ジャーン!」
テーブルの上にはスクランブルエッグにベーコン、野菜サラダ、トースト、オレンジュースが並べられていた。
「うわー、おいしそう! これ、全部夏子さんが作ったのですか?」
「そうよ」
「ホテルの朝食みたいです」
「すずめちゃん、ちょっと大げさよ。じゃあ、食べようか」
私は椅子に座って、夏子さんと一緒に食べ始めた。
「スズメちゃん、パンに何をつける?」
「じゃあ、いちごジャムをお願いします」
夏子さんは焼きたてのトーストにいちごジャムをつけて私に差し出した。
「ありがとうございます」
甘い!一口かじった瞬間、私はパンといちごジャムの甘さに感動してしまい、一瞬に食べ尽くしてしまった。
「もう一枚食べる?」
「はい!」
「今度は何をつける?」
「今度はりんごジャムをお願いします」
夏子さんがパンにりんごジャムをつけている間、私はドレッシングのかかった野菜サラダやスクランブルエッグ、そして塩のかかったベーコンを食べ始めた。どれもみんな美味しかったので、お皿の上は空になってしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
夏子さんはそのまま、食器を下げて洗い始めたので、私も手伝うことにした。
「何かお手伝いしますよ」
「そう? じゃあ、私が洗った食器を拭いてくれる?」
「わかりました」
私は夏子さんが洗った食器を乾いた布きんで拭き取っていった。
「これで最後よ」
私は最後の一枚を拭き取ったあと、食器棚にしまった。
「終わりました」
「ありがとう」
「夏子さん、これからお仕事なんですか?」
「そうよ」
「なんのお仕事をされているのですか?」
「私? 小児歯科の医師。簡単に言えば子供用の歯医者さんなんだよ」
「そうなんですね。あの、よかったら私も働かせてもらえますか?」
「私の職場で?」
夏子さんの表情は急に曇り始めた。
「無理ですか?」
「そうさせてあげたいのは山々なんだけど、今日のところは家にいてくれる? 予備の玄関の鍵を渡しておくから、外に出たかったらこれで閉めてくれる?」
「わかりました」
「じゃあ、この件は今夜ゆっくり話そうか」
「はい」
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
夏子さんはそう言ったあと、仕事に行ってしまった。
部屋で1人になった私は特にやることがなかったので、テレビを見ようとした時だった。
玄関のドアが開いたので、私はてっきり夏子さんが戻ってきたのかと思って玄関に向かってみたら游子がやってきた。
「来ちゃった」
「游子、ここはもう宿舎じゃないんだよ。勝手に入ったらダメじゃない」
「来ない方がよかった?」
「そうじゃないけど……」
「迷惑だった?」
「とにかく中に入ってよ」
「お邪魔します。うわー、綺麗な部屋だねー」
「ここの人、綺麗好きみたいだから」
「そうなんだ。私の部屋、散らかし放題だよ」
「まさか、游子まで散らかしているんじゃないでしょうね?」
「そんなことないわよ」
「朝から私に掃除を任せて出かけていったよ」
「それは、ちょっとひどいね。片付け手伝おうか」
「いいの!?」
「うん、ちょうど退屈だったし」
「じゃあ、頼むよ」
游子は藁にすがる思いで私に頼んできた。
「じゃあ、行こうか」
その時だった。私が游子と一緒に玄関を出ようとした瞬間、ドアチャイムが鳴り、モニター越しには宅配業者が映っていた。
私は宅配業者を中に入れて引っ越し荷物を受け取ったあと、自分の部屋に置いて游子の部屋に向かった。
中に入ってみると見事な散らかし放題。私は言葉を失って、この光景をしばらく見ていた。
「とにかく片付けよう」
私はそう言って游子と一緒に散らかした荷物の片付けを始めた。
ここの人って、普段から片付けをやっているのかしら? 私は思わず口に出しそうな気分になった。
まずは足元に散らかっている雑誌や洋服、下着の片付けから始めることになり、私が雑誌、游子が下着や洋服の片付けを担当することにした。
そのあと掃除機をかけたり、食器洗い、洗濯、ゴミをまとめるなどして、終わったのが3時近くになっていた。
「ふう、つかれたー」
ソファに座り込んだ私の第一声がそれだった。
「私もー」
游子もぐったりした顔して一言呟いた。
「そういえば、昼ご飯まだだった。私、一度戻って何か食べてくるよ」
「ちょっと待って。私のご飯は?」
游子は不安そうな顔をして私に言ってきた。
「冷蔵庫の中は?」
私は游子に冷蔵庫の中を確認するように言ってみた。すると冷蔵庫の扉を開けた瞬間、サンドイッチが載せてあるお皿とペットボトルのオレンジジュースがあった。しかも、付箋に<お昼にお腹がすいたら、これを食べてね>と丸い文字で書かれたメッセージもあった。
「よかったじゃない」
「うん!」
「私、お昼を食べたらこの近所を歩いてみるよ」
「じゃあ、私も」
「食べ終わったら、私の部屋に来てくれる?」
「うん、わかった」
私は一度戻って食事をすることにした。夏子さん、何を用意してくれたのかな。そう思って台所へ行ってみると、フライドポテトにウインナー、おにぎり2個がラップに包まれていたので、私はテレビを見ながら食べることにした。
しかし、これと言って面白そうな番組は何一つなかった。
口直しに天然水を一口飲んだあと、私は游子がやってこないことに疑問に感じてしまい、隣の部屋に行ってみた。
ドアを開けて靴を脱いで中に入ってみると、気持ちよさそうに寝ていたので、私はそのまま寝かせて1人で近所を歩くことにした。
夕暮れ時なのか、近所のおばさんたちがスーパーのレジ袋を持って家に向かっている姿を見かけた。私はそのままバス道路沿いを歩こうとしたその時だった。
「スズメ、私を置いてどこへ行こうとしたの?」
後ろから游子が駆け足で私のところにやってきた。
「ちょっとこの辺だけど……。でも、游子が気持ちよさそうに寝ていたから……」
「だったら、起こしてくれたっていいじゃない」
「疲れていたみたいだったし、起こしたら悪いかなと思ったから……」
「だって一緒に行くって約束してたじゃない」
「ごめんごめん。じゃあ、行こうか」
私は游子を連れて、改めて歩くことにした。
「ねえ、どこへ行く? 私、お金持っていないよ」
游子は私にぼやくような感じで言ってきた。
「もしかして全部使ったの?」
「ううん、部屋に置いてきた」
「じゃあ、一度戻る?」
「そうしたいけど、時間なくなるから」
「そうよね。じゃあ、お出かけは明日にしようか」
その日の私たちは家に戻って休むことにした。
あれから1時間、私は1人退屈そうに居間にあるテレビをつけて、適当にチャンネルを変えていた。
しかし、これと言って面白そうな番組はなかった。
たまにはニュースを見よう。そう思って私は公共チャンネルに変えて見ることにした。
入ってきたニュースを見ていたら、政治家の汚職事件、殺人事件の裁判、そして交通事故の話題が流れてきた。
私があくびをしながらチャンネルを変えようとした瞬間だった。ニュースキャスターから医療現場の不祥事の話題が出てきて、それと同時に私の眠気が一気に吹き飛んでしまった。
それも大学病院の歯科病棟で健康な歯を削ったという情報が入り、その日に謝罪会見が開かれていた。
マスコミの前で頭を下げるほど責任が重たいんだな。私もこうならないように気をつけよう。
そのあと天気予報を見て、適当にチャンネルを変えていた時だった。
玄関のドアが開いたので、私は音の聞こえる方に目を向けると、夏子さんが疲れきった顔をして戻ってきた。
「お疲れ様です」
「ただいまー、今食事の準備をするね」
「私も手伝います」
「ううん、大丈夫よ。気にしないでテレビを見ていてちょうだい」
「でも、疲れきっていますよ」
「本当に大丈夫だから。それに今日は助っ人もいるし」
「助っ人?」
「そう、助っ人が」
私が頭にクエスチョンマークを浮かべながら呟いていたら、またしてもドアが開く音がした。
「ヤッホー、来たよー」
白と黒のストレートヘアの綺麗な女の人が部屋の中に入ってきた。
「失礼ですが、あなたは?」
私は少し緊張した表情で聞き出した。
「私?」
「はい……」
「私は隣に住んでいる蚊取凛子よ。よろしくね」
凛子さんはノリノリな感じで私に挨拶をしてきた。
「私は紅蜂スズメです。昨日からここに居候しています」
「あなたがスズメちゃん?」
「はい、そうですが……」
「ってことは昼間、私の部屋の掃除を手伝ってくれた人?」
「はい……」
「さっき、游子ちゃんに片付けをお願いしておいたんだけど、あの子1人でここまで綺麗になるとは思ってもいなかったから、誰かに手伝ってもらったかと聞き出したところ、『スズメちゃんに手伝ってもらった』と言っていたの。スズメちゃんがあなただとは知らなかったわ」
「正直、いい加減にやっていたので……」
「そんなことないわ。とても綺麗だったので驚いたよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「あ、そうそう。これからお食事の準備をするから、出来上がるまでの間、隣の部屋で游子ちゃんと一緒にゲーム機で遊びながら待ってくれる?」
「わかりました」
「ごめんね」
凛子さんはエプロン姿になって、私を玄関まで追い立てた。
隣の部屋に行くと游子が玄関で私を待ち構えるなり、私の手を引いてゲーム機のある部屋に連れて行った。
「待っていたよ。早く対戦しよ」
「う、うん」
游子は格闘ゲームのソフトを起動して、私にコントローラーを渡して一緒にプレイすることにした。
「私、格闘ゲームって初めて」
「本当に? 実は私もなの。ちょっと説明書見ようか」
説明書を読み始めてから10分、中身を理解したところで再びスタートした。
「ねえ、これって実戦に使えたら気持ちよく勝てるんじゃない?」
游子は真顔で私に呟くように言ってきた。
「確かにそうだけど……、私たちの部隊、解散したしね」
「隊長の新居ってどこだっけ?」
「あざみ野」
「まさかとは思うけど、隊長の家に行くの?」
「行かないわよ。いくら私でも新婚生活を邪魔するほどバカじゃないから」
「それならいいんだけど……」
内心、私は游子なら行きかねないと思っていた。
「そういえばスズメは隊長の新婚生活って気にならない?」
「まったく気にならないと言ったら嘘になるけど……」
「って言うことは少しは気になるってこと?」
「まあ、多少はね。だからと言って隊長の家には行かないわよ」
「私、隊長の家に行くなんて言ってないわよ」
游子はあわてて否定した。
「私にそういう質問を投げるってことは、本当は隊長の家に行きたいんでしょ? 正直に言いなさい」
「はい……」
「行かないほうがいいよ。間違いなく隊長に煙たがれるから」
私は控えめな感じで忠告をした。
「そうよね。マルクスさんとの幸せな時間を邪魔したら悪いよね。だったら電話なら問題ないよね」
「游子、あんた何もわかっていない。もし、ここで隊長に電話をしたらどうなる?」
「懐かしがる」
「別れたばかりで、なんで懐かしがるのよ」
「それもそうか」
「そもそも電話番号知っているの?」
「聞いていなかった」
「隊長がなんで私たちに新居の住所や電話番号を教えなかったかわかる?」
「個人情報だから?」
「それもあるけど、隊長が私たちに教えなかったのは誰にも邪魔されたくないからなのよ。今は2人だけの時間を大切にしてあげようよ」
「そうだよね」
「落ち着いたら、隊長から声をかけてくると思うよ。それに私たちだって新しい生活を始めたばかりなんだし、落ち着かないのはお互い様だと思うの。それまで待とうよ。みんなこの近くに住んでいるわけなんだし、その気になればいつでも会えるんだから」
「わかった、それまで待つよ」
「そうしよ」
「うん」
游子が納得したところで、再びゲームが始まった。
「ねえ、そういえば隊長のワンピース姿、綺麗だったよね」
私はふと何かを思いだしたかのように話題をふった。
「スズメ、隊長のワンピース、気になるの?」
「ちょっとね。なんていうか、すごく大人びた感じがして綺麗だったから」
「そうだよね。制服を着ていた時は鬼に見えたけど、ワンピースを着た途端、急におしとやかに見えたよね」
「游子はいつも隊長に叱られていたよね」
「もう、それを言わないでよ」
その時だった。玄関のドアが開き、凛子さんの姿が見えた。
「2人とも、そろそろ食事の時間だよ」
「ありがとうございます。今、片付けますね」
「あ、そのままでいいよ。あとで、游子ちゃんと対戦をするから。スズメちゃんもやる?」
「食事が終わって時間があまったらやらせていただきます」
私は控えめな感じで返事をした。
再び自分の部屋に戻り、食卓へ向かったら豪華なごちそうが並べられていた。
「うわー、すごーい!」
私は思わず声に出してしまった。
「一生懸命作った甲斐があったよ」
夏子さんはエプロン姿で自慢げに答えた。
「私も少しは手伝ったじゃない」
「あ、そうだったわね。お皿とお箸を並べたのと、お鍋に水を入れたところがね」
「ひっどーい! 夏子が私を戦力外にしたからじゃない」
「料理経験ゼロの人に任せられないからね。普段からコンビニ弁用やレトルト食品ばかり食べているからでしょ。悔しかったら料理教室へ行ってきたら?」
「言われなくてもそうするわよ」
「じゃあ、気を取り直して乾杯にしましょうか。スズメちゃんと游子ちゃんは未成年だからジュースで我慢してね」
夏子さんはそう言って、目の前のオレンジュースを私と游子のコップに注いだ。
「私たちはビールにする?」
凛子さんはそう言って、缶ビールを夏子さんに勧めようとした。
「そうしたいのは山々だけど明日も仕事だし、このあとも食器洗いもあるからジュースにするよ」
「あの、洗い物は私たちがやりますよ」
「いいの、今日の主役は食べる方専門にして」
「わかりました」
私が洗い物を引き受けようとしたら、夏子さんは遠慮がちに断ってきた。
「では、一日遅れですが、紅蜂スズメちゃんと蛇川游子ちゃんの歓迎を祝して、かんぱーい!」
夏子さんが乾杯の音頭をとったあと、いっせいに飲んで食べる始末。目の前のちらし寿司や鶏肉のから揚げ、ポテトサラダなどを食べつくしていった。
さらに食後のデザートに、いちごのショートケーキが出てきた。
ケーキが出るなら、もう少し控えめにしておけばよかった。しかし、後悔しても始まらないので頑張ってケーキを食べることにした。”甘いものは別腹”と言うように、ケーキを食べはじめた途端入ってしまい、気がついたら全部食べ終えてしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
私は満足した顔で夏子さんにお礼を言った。
食器を洗い終えて一休みをした時、夏子さんと凛子さんは、真顔になって私と游子をソファのあるテーブルへ案内した。
「スズメちゃん、游子ちゃん、少しだけいいかな」
夏子さんは真剣な眼差しで私と游子に目を向けて話を始めた。
「スズメちゃんは歯医者さん、游子ちゃんは小児科医院で働きたいというのは間違いないよね?」
「はい、間違いありません」
私は緊張した表情で答えた。
「游子ちゃんはどうなの? 小児科医院で何をやってみたいの?」
「医師です」
「スズメちゃんと游子ちゃんにハッキリ言うね。私たちのお仕事は遊びじゃないの。『ごっこ遊び』の延長線という考えを持っているなら、その考えを捨てたほうがいいわ」
「そんなことはありません」
「では、スズメちゃんに聞くけど、歯医者さんで何をやってみたいの?」
「衛生士です」
「本当に?」
「将来的には医師の資格も取ってみたいです」
「歯科医師や衛生士ってどんな仕事かわかっているの? さっきも言ったように『ごっこ遊び』のようにはいかないんだよ」
夏子さんは厳しい表情で私に言ってきた。
「わかっています」
「歯科助手と違って、資格も必要なんだよ」
「はい」
「本当わかっているの?」
「正直わかっていません。ですから、これからたくさん勉強して資格を取ります」
「言っておくけど、衛生士の資格はそんなに甘くはないよ。それとうちは小児歯科だから患者さんは全員子供だけで、大人と違って泣き暴れる子もいるんだよ。そういう子を相手にお仕事出来る?」
「はい、その覚悟は出来ています」
「本当に覚悟は出来ているの?」
夏子さんは少し心配そうな表情で私に聞いてきた。
「はい……」
「なら、最初はアルバイトで助手からやってみようか。話はそのあと。それでいい?」
「わかりました」
「明日、私と一緒に行くから今日は早く寝なさい」
その一方で游子も凛子さんから厳しいことを言われていた。
「游子ちゃん、診療所がどういう場所かわかっている?」
「はい」
「遊ぶところじゃないんだよ。大人の患者さんと違って、とてもシビアなんだよ」
「わかっています」
「本当に?」
「はい……」
游子は自信なさげな感じで返事をした。
「けがをしたから絆創膏を貼って終わりじゃないんだよ。大きなけがをした人もやってくるの。そういう人たちに大きな病院を紹介することもあるんだよ。時には救急車やドクターカーを手配することもあるんだよ。他にも風邪を引いたり、高熱を出して苦しんでいたら、聴診器で胸を当てたり、ライトで喉を見て、その患者さんにふさわしい薬を処方しなくちゃいけないの。出来る?」
「はい」
「なら、游子ちゃんには大学に行って資格を取ってもらおうかな。話はそのあと」
游子は凛子さんの厳しい言葉に圧倒され、ただただ「はい」と短く返事をしてばかりだった。
「大学は来年の春に行ってもらうから、それまでは私の診療所でアルバイトをしてもらおうかな」
「アルバイト?」
「中を掃除してもらったり、患者さんを診察室へ案内してもらえればいいから。他にも電話で診察の予約を申し込んできた患者さんを対応してもらったり、個人情報のデータ入力もやってもらおうかな」
「わかりました」
「じゃあ、明日から私と一緒に働いてもうよ。それと、うちの診療所の休診日は日曜日と祝日だから。あと私が学者会に参加する時には臨時の休診日にする。他に質問は?」
「特にありません」
「じゃあ、明日からよろしくね」
「はい」
こうして私と游子は夏子さんと凛子さんの厳しい言葉を聞かされ、明日から診療所でアルバイトをすることになった。
翌日、私は夏子さんと一緒に、そして游子は凛子さんと一緒にそれぞれの診療所へと向かった。
入口には<エンゼル小児歯科医院>と青いポップな文字で書かれた看板があった。
「こっちの出入口は患者さん用、私たちスタッフはこっちの裏口から出入りする感じになるから」
夏子さんはそう言って私を裏口にあるドアへ連れて行った。
裏の出入口は表と違って、小さな手動式のドアになっていた。
夏子さんはショルダーバッグから鍵を取り出してドアを開けたあと、私を中へ案内した。
「ここが私たちが使うロッカー。ちょっと狭いけど我慢して使ってくれる?」
「あの、私はどのロッカーを使えばいいのですか?」
「空いているロッカーって言いたいけど、どれが空いているかわからないのよね」
夏子さんはブツブツと言いながら、空いているロッカーを探した。
「あ、ここ空いている。スズメちゃん、悪いけどここを使って」
「あの鍵は?」
「ドアに刺さっているでしょ?」
「はい」
「それと今日から着てもらう制服とエプロン。あと靴なんだけど、足のサイズはどれくらい?」
「私は23cmです」
「了解!」
夏子さんはそう言って、2階の倉庫部屋に行って靴を用意してきた。
「じゃあ、早く着替えてちょうだい。ここ時間が経つと混み始めるから」
「わかりました」
私は夏子さんから渡されたワンピースの形をした水色の制服と白いフリルのついたエプロンを着用したあと、貸与された靴に履き替えて、夏子さんの所に行った。
「着替えてきました」
「似合っているじゃない。かわいいよ」
「ありがとうございます」
私は少し照れた顔をしながら返事をした。
「このあとみんなが来たら朝礼を始めるから、それまでこの注意書きを読んでもらおうかな」
「わかりました」
私は夏子さんに言われた通り、注意書きを読むことにした。そこには<1,当医院ではマスクも手袋も制服の一部として考えている。よってこれらのものをきちんと着用してない人は患者様に近寄ることも、現場に立ち入ることも禁止にする。 2,当医院では医療機関であるともにサービス業でもある。よってピアスや指輪などの装飾品、ネイルチップやマニキュア、必要以上のメイク(つけまつげ、カラコンなど)は禁止とし、見かけ次第注意又は帰宅を促すこともある。 3,髪の毛の長い人は患者様の顔にかからないように束ねて頂く。 4,これは当医院に限らず他でも該当することだが、無断での遅刻、欠勤、早退はすべて禁止とし、見かけた際には何らかの処罰を与える。 5,目標を持たない人、現状維持のままでいる人は当医院には必要としない。 6,勤務中の私語やスマートホンの使用は原則禁止とする。見かけた場合、厳しく注意をさせてもらうが、もし注意しても改善できない場合は帰宅を促すか、昼休み又は帰宅時間までスマートホンを一時預かりをさせて頂くこともある。この注意書きの内容、またはそれ以外のことで質問や意見があったら、院長の蓑蛾まで尋ねてほしい。ただし、不満はいっさい受け付けない。 以上>
この内容を読み終えた瞬間、私は現実の厳しさを知ってしまった。
「読み終えた?」
「はい、一通り読ませていただきました」
「ちゃんと理解出来たかな」
「理解出来たというより、厳しい内容ばかりで驚きました」
「これが現実なのよ。『ごっこ遊び』ならここまで厳しいことを言わない。でも、私たちは患者様からお代をちょうだいして虫歯の治療をやらせてもらっているから、いい加減な気持ちで現場の中をウロウロされては困るの」
「心得ています」
「それと、ここではスズメちゃんのことは『紅蜂さん』って呼ばせてもらうから、そのつもりでいるように」
「……」
「紅蜂さん、返事は?」
「はい、すみません」
「ここはおうちじゃないの。家にいる時と同じ接し方でいると、他の人に示しがつかなくなるから厳しく接するよ。だから、そのつもりでいてちょうだい」
「わかりました」
現場にいる夏子さんは、家にいる時とは完全に別人のようになっていた。
「これから現場の中を簡単に説明するから来てくれる?」
「はい」
私はノートと筆記用具を持って夏子さんと一緒に現場の中を歩くことにした。
「紅蜂さんのお仕事はこのドアから患者さんの名前を呼んだあと、中へ通して診察ベッドまで案内して、エプロンをつけるところまでやってくれる?」
「先生、質問いいですか?」
「何?」
「逃げようとしたり、泣き暴れている患者さんがいたらどうしたらいいのですか?」
「その場合、私か他の人に言ってくれる? すぐに対応するから」
「わかりました」
「あの、紙コップの準備はいいのですか?」
「そうだった。それも紅蜂さんにやってもらおうかな。それ以外として空いている時間に器具の洗浄と消毒をやってもらうよ」
「わかりました」
「あとは実際患者さんが来た時に、私たちがやるところをきちんと見てちょうだい」
「はい」
私は夏子さんに言われたことをノートに記録していった。
再び控室に戻った時にはみんなが制服に着替えて待っていたので、夏子さんはみんなの前で朝礼を始めることにした。
「ええ、今日から助手のアルバイトで入った紅蜂スズメさんだ。彼女は将来ここで衛生士になることを希望しているので、来年春から私が推薦した大学へ行って勉強してもらうことになる。最初はわからないことだらけで、みんなに迷惑をかけるかもしれないが、ここはみんなでフォローしてもらいたい。では、みんなの前で自己紹介を」
「今日から歯科助手として入りました、紅蜂スズメです。正直、このお仕事をするのは初めてなので、皆さんにはご迷惑をおかけしますが、何卒厳しいご指導のほどよろしくお願い申し上げます」
私がおじぎをした瞬間、みんなから拍手された。
「そろそろ診察開始時間だ。今日も一日元気よく患者様を迎え入れて頑張りましょう」
みんながそれぞれ自分の配置についた時、夏子さんは私に手を洗わせたあと、備品置き場に連れていき、ラテックスグローブを用意して渡した。
「この手袋のはめ方は知っている?」
「いえ」
「指をしぼめて入れると綺麗にはめられるから」
私は夏子さんに言われた通りに手袋をはめたら綺麗に入った。
「先生、指先まで綺麗に入りました」
「なら反対の手もやってみようか」
すると反対の手も綺麗に入った。
「それとマスクは3色あって、水色と黄色、ピンクがあるけど、どれか好きなのを選んでちょうだい」
「では、黄色をお願いします」
「わかった」
私は渡された黄色いマスクをかけたあと、先輩と一緒に受付にいることにした。
「紅蜂さん、最初の患者さんを呼んでくれる?」
先輩に言われて私は待合室に行って、最初の患者さんの名前を呼ぶことにした。
「池端琴音ちゃーん」
琴音ちゃんは私に呼ばれて逃げようとしたので、捕まえて診察室へ連れて行くことにした。
「いや、放して!」
「やーだよ。ちゃんと虫歯を治すまでは」
「お願い、放して!」
仕方がないので、私は琴音ちゃんを降ろして、空いている椅子に座らせて話すことにした。
「琴音ちゃん、正直に言って。今歯が痛いでしょ?」
「い、痛くない……」
「本当に? お姉ちゃんの目を見て正直に言ってくれる?」
琴音ちゃんはゆっくりと私の方に目を向けた。
「いい子ね。じゃあ、もう一度正直に話してもらおうか。琴音ちゃんは歯が痛いんだよね?」
今度は私の顔を見ながらゆっくりと首を縦に振った。
「琴音ちゃんは、甘いお菓子やジュースが大好きだよね?」
「うん、好きだよ」
「でもね、虫歯を治さないと大好きなお菓子も食べられないし、ジュースも飲めなくなるんだよ。それでもいいの?」
「いやだ」
「そうだよね。だったら頑張って虫歯を治して、また甘いお菓子を食べようよ」
「うん」
琴音ちゃんは私に言われて大人しくベッドに座って、治療を受けられる態勢に入った。
「お姉ちゃんが一緒だから平気だよ」
私はそう言って、琴音ちゃんの手を優しく包みこむような感じで握ることにした。
「紅蜂さん、悪いんだけど、次の患者さんを中に入れてあげてくれる?」
「琴音ちゃん、ごめんね。ちょっとだけ待ってくれる?」
私は夏子さんに言われて、待合室に行って次の患者さんを呼んだ。
次の患者さんは比較的大人しい男の子だった。
男の子は一言「お願いします」とボソっと言っただけで、何も言わず診察室の中に入った。見た目は小学校2年生くらいで、ポーカーフェイスだったので、正直何を考えているのかわからなった。
「えーっと、ここに座ってくれる?」
男の子は無言のまま座って私にエプロンをかけられて、治療を受ける態勢になった。
「痛いところってある?」
私は緊張した状態で声をかけてみた。
「お姉ちゃん、もしかして緊張してる?」
「ううん、そんなことないよ」
まさか、男の子に気にかけられるなんて思わなかった。
「あ、そうそう。学校の歯科検診で虫歯が見つかったんだよ」
男の子はそう言って、歯科検診の紙を私に見せた。
「じゃあ、ちょっと先生を呼んでくるから待っていてくれる?」
「どのくらい待てばいいの?」
「もしかして、このあとお友達と遊ぶ約束があるの?」
「ううん、ないよ。友達の誘いなら断ってきたから」
「そうなんだ」
夏子さんは琴音ちゃんの治療を担当しているから、私は他の先生を呼んで、男の子の治療をお願いした。
治療ベッドは3つ、しかし先生は2人。どうしたらいい?
私は夏子さんに確認をとることにした。
「先生、すみません。次の患者さんを呼んでもいいですか?」
「そうしたいけど、両方ふさがっているから、少し待ってもらう形になるかなあ」
「わかりました」
「紅蜂さん、よかったら休憩してくれる?」
「私、琴音ちゃんの手を握っています」
「どうして?」
「もしかしたら、怖がっているかもしれないから」
「そっか、そうしてくれる?」
「わかりました」
私が短く返事したあと、夏子さんは治療を続けた。
「よし、ゴムのマスクを外すよ」
夏子さんはそう言ってラバーダムシートを外して、簡単なかみ合わせをしたあと、うがいをやらせて終わりにした。
「琴音ちゃん、よく頑張ったね」
私はそう言ってキャラクターシールを一枚渡して待合室に戻した。
その後も患者さんの案内をしたり、次の診察の準備をするなど作業を進めていたら、終わったのが夜の7時近くになっていた。
最後の患者さんを見送ったあと、私はゴミの片付けをやったり、診察室の中をほうきやモップできれいにしていった。
「紅蜂さん、まだマスクと手袋をしているの?」
先輩が顔をにこやかにして私に声をかけてきた。
「忘れていました」
「使ったマスクと手袋は不衛生だから、ちゃんとゴミ袋に入れてね」
私は先輩に言われたあと、使ったマスクと手袋をゴミ袋に入れた直後のことだった。
よく見たら他の人たちはすでにロッカーで着替え始めていた。
私も着替え終えて家に帰ろうとした時、夏子さんが声をかけてきたので、一緒に帰ることにした。
「あの、先に帰って平気なんですか?」
「うん、経理の人はその日の治療費の計算をしなくちゃいけないから、最後まで残らないといけないの」
「そうなんですね」
「それでは、お先に失礼します」
夏子さんが経理の人に挨拶をしたあと、私も続いて挨拶をして出ていくことにした。
帰り道、夏子さんは疲れていたのか、ほとんど無口のままだった。
「先生、お疲れ様です」
「スズメちゃん、もう外なんだから、普通に『夏子』って呼んでもいいんだよ」
「わかりました」
「スズメちゃん、初めてのお仕事どうだった?」
「慣れないことだらけで、とても大変でした」
「これが『お金をもらう』ってことなの。誰かに感謝をされて、初めてお金がもらえるんだよ。でもね、それは決して簡単なことではないの。失敗をすれば患者さんの家族から雷を受けるし、場合によっては逃げられることもあるんだよ。それを毎日繰り返していって、人間は大きく成長していくの。スズメちゃんは今日が初日だし、体力だけでなく、精神面でも疲れているはずだから、今夜は早く寝てちょうだい」
「わかりました」
私は疲れた表情で夏子さんに返事をした。
「あと一つ気になったけど、いつも歯医者を怖がる琴音ちゃんに安心させたって凄いね」
「そんなことありません」
「そんなことあるわよ。あの子、いつも怖がって泣き暴れていたんだよ。それを大人しくさせたってすごいよ」
「私ならこういう言い方をされたいと思ったことを口にしただけです」
「スズメちゃん、やっぱこの仕事向いているかもしれないよ。だから明日も頑張ろうよ」
「はい!」
私は夏子さんに褒められて少しうれしくなって、思わず照れてしまった。
家に戻った私は食事と風呂を済ませて寝ようとした時だった。
「スズメちゃん、ちょっとだけいい?」
夏子さんはソファでコーヒーを飲みながら私に声をかけてきた。
「夏子さん、なんですか?」
「疲れているところ申し訳ないんだけど、少しだけ時間をもらえないかな」
「どうしたのですか?」
私は夏子さんが真剣な表情をしていたので、少しだけ緊張してしまった。
「明日も怖がっていたり、泣いている子供がいたら、話し相手になってほしいの」
「今日の琴音ちゃんのようにですか?」
「そう、壁に立てかけてあるレストレイナーというネットがあるんだけど、あれをセットするのに正直時間と労力がかかってしまうの。だから、明日もお願いしていい?」
「それは構いませんが……、出来たら椅子があったほうが助かります」
「椅子ならいくつか余っているはずだから、それを用意するわね」
「ありがとうございます」
「それともう一つ、お願いがあるんだけど、いいかな」
「実は不要になった患者さんの個人情報が大量にあるから、それをシュレッダーで破棄してほしいの」
「わかりました」
「何か質問ある?」
「明日、怖がっている子供が私の話を聞いても大人しくならない時は、どうしたらいいのですか?」
「その時は私に言ってくれる? 他のスタッフと一緒にレストレイナーの準備をするから」
「わかりました」
「他に質問はある?」
「いえ、ありません」
「明日も早いし、今日はゆっくり寝なさい」
「わかりました、おやすみなさい」
翌朝、私は昨日と同様、夏子さんと一緒に診療所へ向かい、ロッカーで着替えを済ませて、歯科助手のお仕事をすることになった。
おとなしい子供、泣き暴れる子供などを相手に仕事をこなしていった。
そして忘れてはならないのが、衛生士としての勉強。仕事の休憩時間や家に帰ったあと、空いている時間を利用して勉強を進めていった。
話は5年後へと進む。
3話へと続く。