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ギガンティア大陸戦記  作者: 葉月麗雄
第三章 ロマリア帝国事件編

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狂気

部屋の中に無造作に積み上げられた遺体が数体。

みんなネープ民族の若い女性である。

心臓に杭を打たれて、そこからの大量出血が絶命の要因であった。


「若い女の血は新鮮さが第一。カランドロ、次の生贄を早く持ってきてちょうだい」


カランドロは怪訝な表情を浮かべながらも「かしこまりました」と返答する。


「街の人口が増えればそれだけお前たちの懐が肥える。私はその中で生贄となるネープ民族の女がいればそれでいい。悪い話じゃないでしょ?」


「それはそうでございますが、このギアラエ鉱山都市近隣においてもネープ民族の女性もだんだんと少なくなってきております故、少し自重頂けるとありがたいのですが」


「お前は私に美の追求を抑えろと言うのか?」


「いえ、決してそのような。。」


「ならば良い。生贄などドナウゼン全域から拐ってくればいい。人口は増えているんだろ?ネープ民族の女が調達困難ってなら他の民族の若い女でも構わないよ。ファビアンからも頼まれているしな、それくらいは認めてやる」


簡単に言ってくれるが、確かにこのギアラエ都市内の人口は増加しているが、ネープ民族女性の数は全体の十分の一にも満たない。結局は近隣から拐って来るしかないのだが、それにも限界と言うものがある。


他民族の女性となれば全体の半数はいるが、若いとなるとさらに半分以下にまで減る。

だが、それをこの目の前の怪物じみた女に言おうものなら自分の首は胴体から離れるであろう。


「仰せの通りに」


とだけ返事を返してカランドロは部屋から出た。

部屋中に充満している血の匂いに我慢の限界が来たからである。

カランドロから見ればファビアンは気性は荒いが、自分を気分良くさせてくれるおだて言葉や美辞麗句で持ち上げておけば逆鱗に触れる事はまずない。


しかしこの女は何を考えているのか読めないし、美辞麗句を並べたところで当然だと言わんばかりに機嫌が悪くなる。

ファビアンよりも遥かに扱い難く、それだけに恐ろしい存在であった。


「いくら人口が増えているとは言え、こんな事を続けられては、いずれ街から女がいなくなってしまうしハーフェンからも怪しまれる。。」


とは言え女はファビアンの娘である。

それも父親以上に恐ろしい。

カランドロは触らぬ神に祟りなしとばかりに余計な事を考えるのをやめる事にした。


「いずれこの街を捨てて逃げる事になるだろう。それまで稼げるだけ稼いでおくか」


ミリアムはカランドロが自分の青い瞳を見て採用を即決したのを勘づいていた。

だがその理由までは知るよしもなかった。


「まずは街の中とファビアンがどこにいるのかを調べなくては」


周りはみんな自分を監視している。

ミリアムはそう直感していたので、言動には細心の注意を払うようにしていた。

この時代、ロマリア帝国では敵討ちは正当な理由があれば認められていた。

その代わり返り討ちにあっても文句は言えず、危険な事は間違いなかった。


ミリアムはたとて差し違えてもファビアンを倒すつもりでいた。

それには情報収集が必要である。

ミリアムは宿舎に百人以上いる労働者たちから、信用出来そうな人物を探し出して情報を聞き出せないか試みようと考えた。


ファビアンは低賃金で重労働を課している人たちから搾り取った金で豪遊していた。

宝石を散りばめた剣、数十カラットはあろうかというダイヤの首飾り。

高級ワインを水のように飲み、労働者には粗末な食事しか与えず自分は高級料理三昧であった。


「カランドロ、今日の採掘場の成果は?」


「はい。金は予定よりも上回っており、その他の鉱石も上々でございます。が、下等な人種どもを昼夜を問わず労働させていますゆえ、疲労から倒れる者も続出しており、これが続けば採掘量が予定通りにいかなくなる危惧もございます」


「何と脆い者どもよ。使い物にならなくなった奴は収容所にでも放り込んでおけ。代わりはいくらでもいる」


「御意」


「のう、カランドロよ。神とやらが本当におるのなら、我らはこうして椅子に座りワインを飲みながらルーファス法から逃げてきた奴らを低賃金で労働させて金儲けなど許されぬであろう。だが現実はどうだ?この世はな、支配する者とされる者の二択しかないのだ」 


「人間の中には支配する者、或いは救いの手を差し伸べてくれる者を神と呼ぶ者もおります。また、支配されている方が楽だという者もおります。そのような輩からして見れば県令はまさしく神という事になりましょう」


「お前は酒を旨く飲ませるコツを心得ているようだな」


「ここにいる労働者どもの扱いなどスープを作る食材と同じでございます。食材をスープが取れれるまで煮込み、取れれば捨てる。それと同じで利用出来るうちは利用し、使えなくなれば捨てる。それだけでございます」


「違いない。我々のためにせいぜい美味いスープを沢山作ってもらうとしよう。労働者どもの顔がみな金に見えるわ」


ファビアンとカランドロの笑い声が部屋中に響き渡るが、ファビアンはすぐに真顔に戻る。


「ところで、カランドロ。娘はどんな様子だ?」


「相変わらず若い女の血を浴びていれば自身の若さを保てると考えているようです。正直私にはついていけないものがございます」


「そうか。。あいつの狂人めいた趣向には私もついていけぬものがある」


「このままではいずれ街中の女性がいなくなってしまいます。いかが致しましょうか」


「あれは私の過ちから生まれたようなものだからな。。その負い目がある以上、私からは何も言えぬ」


カランドロは意外であった。

役人時代から凶暴で名の通った男にも弱みがあったとは。


「街中の女がいなくなるまでやられては流石にまずい。今のうちに稼げるだけ稼いだら折を見てここを脱出し、タスタニアにでも逃走する」


「お嬢様はいかが致します?」


「この街を丸ごとくれてやる。あとはどうしようがあいつの勝手だ。我々の罪もまとめて背負ってくれればよいのだがな」


カランドロ同様にファビアンも稼げるだけ稼いだら逃亡しようと考えていた。

生贄を欲する娘にこれ以上付き合わされてはたまらないと考えていたからだ。

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