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ギガンティア大陸戦記  作者: 葉月麗雄
第三章 ロマリア帝国事件編
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約束 前編

「ソレーヌ。。またいつか会えるかな?」


「もちろんだよ。約束する」


「絶対だよ」


「うん、ミリアムも元気でね」


朝の光が窓から差し込み、部屋の中を明るく照らし出すとその眩しさでソレーヌは目を覚ました。


「夢か。。」


不思議な感覚だった。

まるで子供の頃に戻っていたような。


「子供の頃の夢。。ミリアム、結局あれから一度も会わなかったな。今頃どうしているんだろう」


ミリアム・ヴェルッティ。

ソレーヌがセリアの村に来る前に住んでいた村の幼馴染であった。

特別仲が良かったという訳ではなかったが、それでもよく遊んでいたのは記憶にある。


「しかし子供の頃の夢を見るなんて何かの予兆かな。嫌な予兆じゃなければいいけどな」


キルス歴一〇九五年も十一月に入っていた。

セリアたちが帝国首都ハーフェンの騎士学校を卒業し、フェルデンに着任してから二ヶ月が経過し、初めは不慣れな仕事に戸惑っていたメンバーたちもようやく慣れてきてジュディとエミリアの警官姿もサマになってきている。


セリアとソレーヌは役所での仕事を着実にこなす事によって徐々に頭角をあらわし始めて来ていたし、ユリアはすっかり子供たちに人気の教員となっていた。

そして新たに仲間に加わったオリビアは初めての下界に触れて好奇心旺盛であった。

役所の仕事も飲み込みが早くすぐに順応していった。


ナディアは他のメンバーに影響されてか、それまで護身用程度にしか習った事のない剣術を覚えたいとジュディやエミリアに志願して本格的に剣術の訓練を始めていた。

この訓練にはオリビアも参加していたが、流石にオスカーが認めただけあって、その実力はジュディやエミリアたちの予想を上回るものであった。


「オリビア、君はどうやってそれだけの剣術を身に付けたんだ?」


ジュディの問いに「私は。。」とそこまで言ってオリビアはモニカとの約束を思い出し、慌てて誤魔化した。


「私の家は父が公爵の地位で、幼少の頃から実力のある騎士や剣士を招いて剣術の手ほどきを受ける事ができたので、そのお陰で今こうして力をつける事が出来たんです。家の事はあまり話すつもりも無かったんで、何かお気を煩わすような点があったらお許し下さい」


実際オリビアの父親は帝国でも元老とも言える家柄であるワーグナー家で、フリードリヒ家に継ぐ公爵の地位にあったのでシュタインベルク伯爵とも旧知の仲であったし、その縁でオスカーの従者になれたのだ。

まあ、その剣術の手ほどきを受けた剣士がオスカーである事だけは伏せたが。


「なるほどな。ワーグナー家といえば国の元老って言われている家柄だからな。いや、気を煩わすとかそんなんじゃないんだ。単純にそれだけの剣術をどうやって身につけたのか興味があっただけだ。こちらこそ何か気を悪くしたらすまなかった」


(ふう。。何とか誤魔化せたかな)


オリビアはほっと胸を撫で下ろした。


街並みはすっかり秋の季節であったが、フェルデンはクーロンアイとお酒以外にはこれと言った観光スポットや綺麗な紅葉が見られるような公園も少なく、それらを見たいのであれば北部にあるハルバッハが国内では有名である。


標高二千メートル級の山々に囲まれ、湖と川が流れるのどかな風景がハルバッハ最大の魅力であったが、この戦時下に地元の住人以外でそんな風景を楽しむような事が出来るとすれば、皇帝ルーファスしか存在しなかった。


当然、そんな風景には程遠いフェルデンの役所でセリアはこの日も朝から役所仕事に従事していた。

しかし、この日はいつもと様子が違うソレーヌが気になりセリアが声をかけた。


「どうしたソレーヌ?今日は何だかあまり元気がないように見えるが」


セリアに声を掛けられてソレーヌは昨夜の夢の事を話した。


「お前と会う前に住んでいた街でよく遊んでいた友達の夢でね。懐かしい一方で妙にリアルな夢だったから何事も無ければいいなと考えていたのさ」


「そうか、昔の友人が今どこで何をしているのかは気になるだろう。いつか再会出来るといいな」


セリアはそう言ってソレーヌの肩をポンと叩いた。

フェルデンはロマリア帝国の交通の要である事はすでに承知の事だが、それ故に各都市から色んな物資や人々が通り抜けるため、その検問の量も半端なく多い。

そうした検問にどれだけの人員を割くかを割り振りするのはソレーヌの仕事であった。


クーロンアイ(九龍眼)はこのフェルデンを始点とする帝国各都市を結ぶ主要道路の名称である。

この主要道路を通り帝国内の各都市に向かったり他の都市からフェルデンに帰ってこられるため、その始点であるフェルデンは重要都市として交易も盛んであった。


「六つの関所に配置する人員だけでも各関所につき十名は欲しい。それくらい常備配置させていないと、不正を発見しても強行突破されたら手も足も出ないからな」


このフェルデン在中兵士は五百人なので、そこからクーロンアイの六箇所ある関所に十名ずつ計六十人を割くというのはかなりの人員であるが、クーロンアイは警備が甘いと噂が経てば犯罪者がそれを逃すはずがない。


逃走中の犯罪者や盗品が簡単に通り抜けられるとなればそれこそ犯罪が横行する事になりかねず、人手をかけてもここは抑えるべきだというソレーヌの主張が認められて従来の関所一ヶ所に警備兵二名から十名へと増員された。


これにより、不正が発覚しても警備兵十名を蹴散らすほどの剣術の腕か振り切るほど逃げ足が速くない限りはまず逃げられなくなり、クーロンアイの検問は厳しいと帝国全土に知らしめる事となっていった。


タスタニア王国と交戦中とはいえ、セリアたちが着任したこの二ヶ月は平穏な日々が続き、人々の表情にも緊迫したものは見えなかった。

だが、そんな平穏な日々を一変させる事件が起こる。

ロマリア帝国の歴史に「ドナウゼン事件」と記録された事件である。

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