ロビーとソフィア
「今日もたんまり頂くとするか」
「こちらの仕入れた情報通り、輸送部隊が出て来たな」
「ソフィアの情報網はさすがだな」
この二人は山賊のリーダーで、一人はロズヴィータ・フォン・ライストナーといい、通称ロビーと呼ばれている。
歳は十九歳。
女性だが、自分を「オレ」と言い、見た目も金髪のショートカットにブラウンの瞳でボーイッシュであった。
もう一人がソフィア・フォン・フィーメル。
ロビーや部下たちからはソフィアと呼ばれ、歳はロビーと同じ十九歳。
グレーの髪にブルーの瞳。
ロビーがボーイッシュなのと反対にソフィアは山賊とは思えない可愛らしい女性であった。
二人は元々現在ティファが着任しているベンタインの貧しい農家の出身であった。
幼少の頃にロビーとソフィアの親が畑でとれた僅かばかりの小麦を領主に収める時に度々顔を合わせてそれがきっかけで知り合い仲良くなっていった。
タスタニアにはオルジュのように発展している地域もあるが、ベンタインのような田舎街ではまだまだ人々の暮らしは楽とは言えず、ロビーとソフィアはそんな暮らしから脱出して生きるために剣術を身につけ、その腕で最初は山賊たちが奪った武器・食糧を横取りしていたのだが、その内に彼女たちに従う者が一人、二人とついてくるようになり、今は三十人の部下を率いる山賊の頭領となっていた。
ただロビーとソフィアにも信念があり、旅人や弱い立場の者は絶対に襲わないという事であった。
それは自身が貧しい農家の出身で弱い立場の人たちの境遇をよくわかっており、国の物資がそういった貧しい人たちに向けられずに軍に流れている事を知っていたからである。
これは後年判明した事だが、ベンタインが貧しい訳ではなく国王シュミットの目の届かないところで悪事を働いている一部役人が税金の横領をしていた仕業であった。
その役人たちは処罰され、横領されていた余剰の税金は街の人たちの元に戻るのだが、それは先の話。
この時点でそんな事は一般の庶民は知る良しもなかった。
「悪い奴らが悪事で手にした物資を横取りするのに何の遠慮もいらない」
そのような理由から彼女たち率いる山賊は常に軍の補給物資を狙ってその収穫で生計を立てていたのである。
ソフィアは情報収集が得意で独自の情報網を持っており、ベンタインからブラウゼンにいつ輸送部隊が往来するのかその情報を確実に掴んでいた。
ソフィアの情報網はベンタインとブラウゼンを往来する旅人や商人であった。
特に商人は貴重な情報を持っているので、そういった人たちに金品を支払い情報と交換していた。
ロビーとソフィアの二人は商人からの情報通り、この日に輸送部隊が出発する事を事前に掴んでおり、平地の茂みに部下たちを潜ませて輸送部隊が目の前まで来ると、側面から一斉に襲い掛かった。
「山賊が出たぞ!」
前方からの声にティファも素早く反応した。
「予想通り。これで迂回路を回った本隊は無事にブラウゼンに辿り着ける」
ティファは相手が独自の情報網を持っていると予想してそれを逆手に取り、あらかじめこの日に輸送部隊がアンダーラインを出発するという偽情報を流して、山賊の目をアンダーラインに向けさせ、本隊を迂回路からブラウゼンに向かわせたのだ。
結果、山賊は偽情報に引っかかり、囮部隊を襲って来た。
ティファは山賊たちが平野に伏せて襲ってくる一部始終を目撃して退却してくる囮部隊と共にベンタインに帰還した。
「なんだこりゃ?空っぽじゃねえか」
積み荷の中身を見て山賊たちが驚きの声を上げた。
「ちくしょう。やられたという事か」
ロビーが悔しさの余り積み荷を蹴り倒した。
「私の情報が間違っていたのか。。」
ソフィアは初めこそショックを受けていたが、すぐに気持ちを切り替えた。
「ロビー、どうやら相手にはこちらが情報網を敷いているのを逆利用して偽の情報をリークする奴がいるらしいな」
ソフィアは拳を握りしめた。
「私の情報収集力が勝るか、相手の情報操作が勝るか勝負というわけか。。面白い」
「ソフィア?」
ロビーは普段は物静かなソフィアがこれほど悔しがり、そして目をギラギラさせているのをコンビを組んで以来初めて見た。
「これは売られた喧嘩だ。買ってやる」
一方、ベンタインに戻ったティファたちは次の作戦を思案していた。
「さて、これで騙されたと知った山賊たちは次にどう出てくるか。こちらが偽の情報を流した事にも気がつくだろうし」
「前にも申し上げましたが、今日のところは一時凌ぎに過ぎません。次は確実に山賊を仕留める作戦を立てて頂かないと」
「そうだね」
ティファはまた顎に手を当てて考えていた。
「次は偽情報じゃなくあえて本当の情報を流して、その上で山賊たちをこちらの狙った地点に誘い出して殲滅する」
「あえて本当の情報を流すのですか?」
「一度偽情報に引っかかった山賊たちは疑心暗鬼に囚われて、その情報を鵜呑みにせず真意を確認しようとするだろうね」
輸送部隊の部隊長は口には出さなかったが、内心不審に感じていた。
どうしてすぐに山賊を撃退しなかったのか。
偽の情報を流して囮部隊を狙わせて、本隊はその間に迂回路を通って無事にブラウゼンに到着した。
それは良い事なのだが、抜本的な解決策ではない。
だが部隊長の疑問はやがて納得するしないは別にして解消される事となった。
「部隊長に再確認したいんだけど、山賊たちは今まで軍の補給部隊以外を襲った事はないんだよね」
「はい、襲われるのはいつも我が軍の補給部隊だけで、旅人やザラメス自由都市に行き来する商人の荷物が襲われたという報告はこれまでありません」
「わかった、ありがとう。それで一つ頼みがあるんだ。抵抗せずに逃げていく山賊たちは追わなくていい事と、腕利きというリーダー二人を殺さず捕らえて欲しいんだ」
「殺さず捕らえる?なぜですか?」
「それほど腕利きなら味方につければ役に立つし、生き残って逃げた山賊たちもリーダーが捕らえられればもう二度と輸送部隊を襲うこともないだろうからね」
「そうは申しましても、山賊のリーダーをどう使うのですか?」
「まあ、そこは私に任せて、みんなはそれぞれ配置について指示した通りに動いて」
「わかりました。では早速」
ティファは腕利きという山賊のリーダー二人を仲間に加えるつもりだったのだ。
ティファはブラウゼンで病気が蔓延し、病人が数多く出ているため、至急薬と食料を届けるようにという偽の情報を流した。
「いかにも緊急性が必要と思われる状況なら補給物資は運ばざるを得ないですからね。それを狙って来たところを一網打尽にするという事でよろしいでしょうか」
「山賊たちもそう思ってくれたらいいんだけどね」
「どういう事ですか?」
「人は自分の望むものを信用する。だから餌を撒いたらすぐ近くに落とし穴を掘っておくって事」
「は。。はあ。。」
それがユリウス・カエサルの言葉である事は部隊長も知っているが、餌を撒いたらすぐ近くに落とし穴とはどういう事なのかまで理解出来なかった。




