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ギガンティア大陸戦記  作者: 葉月麗雄
第一部 第一章 士官学校時代編
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旧友との再会

キルス歴一〇九五年の八月末にティファとシャローラが士官学校を卒業する日がやってきた。

ティファの通っている士官学校は三年単位で卒業は春の部は三月末、秋の部は八月末の二つに分かれていて、ティファとシャローラは秋の部で三年間戦略・戦術を学んだ。

見送りに来たレジーナが「私も早くティファやシャローラと同じ舞台で仕事がしたい」と言うとティファは「私たちはひと足先に卒業するけど、レジーナも将来国の中枢を担っていけるだけの実力があるからお互い一緒に仕事ができる日まで頑張ろう」と声をかけた。


ティファとシャローラは軍の命令による配属先も決まり、ティファはオルジュの隣街であるベンタインに、シャローラはオルジュ宮殿での活動となり、二人は別々の配属となった。


「シャローラ、離れ離れになるけどいずれ私たちもブラウゼン要塞に配属されで戦争に行く事になると思う。本意じゃないけどさ。。それまでは与えられた職務を精一杯こなすように頑張ろう」


「うん、私も頑張るからティファも元気でね。いつか絶対一緒に仕事しよう」


ティファとシャローラは握手をしてお互いの健闘を称え合い、それぞれ別の街で与えられた職務に全うする事となった。


ティファにはもう一人ひと足に学校を中退して国の要人となったパトリシア・フォン・シュトリツェルという同い年の同級生がいた。

彼女の父レオポルトは現在のタスタニア国王シュテファン・フォン・シュミットの盟友で共にタスタニアを建国してきた人物であったが、三年前に病に倒れ帰らぬ人となってしまう。


パトリシアは父の後を継いでシュミット国王の要請もあり、学校をわずか半年足らずで中退して国王の側近の一人として宮廷で働く事になったのでなかなか会えなくなってしまい、いつかパトリシアとも一緒に仕事が出来ればいいなと考えていた。

それから数日後、ティファがベンタインに行く前日久しぶりにパトリシアと会える事になり、待ち合わせ場所のオルジュのコーヒーハウスへと向かった。

二人が会うのはほぼ一年ぶりであった。


「パトリシア、久しぶり」


「ティファも久しぶり」


パトリシア・フォン・シュトリツェルはティファの騎士学校の同級生で、父はシュミット国王の盟友でありタスタニア王国建国に携わって多大な功績を残したレオポルトである。

シュミット国王は三年前レオポルトが病に倒れて帰らぬ人となった時には「これからロマリア帝国との戦いも本格化し、お前と国をもっとより良く強くしていこうとしていた矢先になぜこんな事になった」と嘆き悲しんだが、レオポルトが最後にシュミットに「娘をよろしく頼む」と託し、シュミットも「お前の娘は必ず自分が守る」と約束した事もあり、当時十六歳で学校に入学して間もなかったパトリシアを自分の側に置くようにしたのだ。


理由は盟友に頼まれたからだけではなく、レオポルトから「パトリシアには幼少の頃から自分の考えやこれからやろうとしていた事を話している。お前の側に置いておけばまだまだ経験不足はあるがいずれ自分の代わりになってくれるだろう」と言われたからでもある。

妻であるヨハンナは大らかな性格ではあったが、政務をこなすには不向きと判断して娘のパトリシアを推薦したのだ。


パトリシアは中退してしまったためティファたちとは半年たらずの学友であったが、お互いその能力を認め合った仲でティファが卒業して少尉として首都オルジュの隣の都市、ベンタインへ派遣される前に久しぶりにオルジュの街中のコーヒーハウスで再会したのである

ティファはこれから出向するという事もあり軍服を着ていたが、パトリシアは休暇だったので私服で青いワンピース姿であった。


「パトリシア、そのワンピースなかなか似合ってて素敵だよ」


「そうかしら?ティファも少尉の軍服とベレー帽がなかなか似合ってるよ」


「そう?どうもこの軍服っていうのが窮屈な感じがしてね。。苦手と言うか息苦しいというか」


「学生時代から制服が苦手だって言ってたもんね、まあ職務上公式の制服だし窮屈だろうけど仕方ない物だよね」


「職務上の制服が軍服となるとやっぱり軍の所属になるんだなってあらためて実感するよ。私も農民の出身だから気軽に着れる軽装の方が自分には合ってるし好きだな」


「私もそうだよ、今は国の人間だから制服を着てるけどやっぱり気軽な服装がいいよね」


ニ人は他愛のない話しで時間の経つのを忘れて楽しいひと時を過ごした。


「ベンタインへ行ったらすぐ隣はブラウゼンだよ。もし帝国軍がブラウゼンを陥落させたら真っ先に狙われる都市であるだけに危険だね」


「そうだね。そんな事になったらどうしよう?って考える事もあるけど、とりあえずまだ何も起こってないからね、起こりそうな状況になってから考えてもいいんじゃないかな」


「ティファはそう言いながらしっかり考えてるからなあ」


「あはは、それは買いかぶりすぎ」


ティファはしばらく雑談した後、パトリシアに仕事の事を尋ねた。


「ねえ、パトリシアはいま宮廷でどんな事をしているの?話せないなら話さなくてもいいけど」


「機密事項は話さないから大丈夫だよ。今は主に国王の付き人として書類の準備や次々に入ってくる情報の整理みたいな仕事が主だね。父は国の中枢を担っていたけど、私はまだまだ経験もないし言われた事をこなすだけで精一杯だよ」


「国王ってどんな人なの?」


「国と国民の事を考えてくれる人ではあるね、人の意見にも耳を貸すしその点ではさすが国王になるだけの大人物だと思う。ただ父がいなくなってから相談相手がいなくて困っているような場面を何度も見たな。そんな時にやっぱりフランカ様は凄いなって思う。私じゃまた役不足なんだろうな」


王妃フランカ・フォン・シュミットはシュミット国王の正室で王子と王女二人の子供が居る。

シュミット国王は正室以外に側室を何人も抱えるのが普通であったこの時代の王族では珍しく、フランカ王妃以外の妻を持たなかった。

フランカ王妃はとても気さくでパトリシアにもよく声をかけてくれる人柄であった。


「フランカ王妃は素晴らしい人だと聞いているけど、私も一度お会いしてみたいな。そんな機会ないだろうけど」


ティファは話しに聞いているだけでフランカ王妃とは無論シュミット国王にも直接会った事はない。

ティファは一番気になる戦争についても聞いてみた。


「ロマリア帝国との戦争については未だに膠着状態を脱出出来ないのかな?」


「正直言って先は見えない感じだね。ブラウゼンではレオニードという将が軍を率いているけど、正直戦術面では良く言っても中程度。現状を打破出来る実力があるとは言い難いって国王もおっしゃってたから厳しいんじゃないかな」


「そうか。。パトリシアの言う通り、私もこのまま昇進していけばいつか前線で戦うことになるだろうな。。出来れば戦争をやめる方法を模索したいんだけど、それには少なくてもタスタニアとロマリア帝国が五分五分以上の立場にならないと難しいよね。帝国最大の要塞都市、ルンベルクを陥落させればあるいは事態は変わるかもしれないけど。。」


そう話しながらティファはふと子供の頃の事を思い出していた。

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