表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

僕は店のおやっさんと喧嘩してバイクで飛び出したのさ

 ──2019年。夏。この20年でどんどん温暖化が進んだと言われているが、今年は別格だった。各地は例年を遥に超える気温の上昇を記録し、熱中症で倒れる人や亡くなってしまう人が後を絶たなかった。それだけではなく、連日の猛暑により体調を崩す人やソレをキッカケに発生してしまうヒューマンエラーもまた多発していた。業種に関わらず例年を超える事例を受けて世間では『夏休み導入運動』なるものが行われ、会社組織と労働組合による話し合いや協議が連日開かれた。

 

 最も……個人経営の小さな工場や商店などには関係ない話ではあるのだが。


「タツヤぁ! 手前ェ俺の店潰す気かこの野郎!」


 怒号が響くこの工場は「バイク・ノリ」という名前のバイクショップである。個人経営ではあるが地元のライダーに留まらず県外からも噂を聞きつけて客がやってくるという、俗に言う『知る人ぞ知る名店』というヤツだった。

 しかし、その割には従業員は少ないらしい。工具片手にバイクを弄る青年と、そんな青年の方を向いて怒声を浴びせる男の二人しか見えない。



 タツヤと呼ばれた青年は作業していた手を止めて、怒鳴り散らす初老の男──フミノリの下へと歩いて行く。

 フミノリの前にタツヤが立ち、口を開く。

 

「……なんスか?」


 その声色には微かにイラ立ちが見えた。それを受けてフミノリも更に熱くなる。


「なんすかじゃねんだよ! お前ェ今月何度目だ!? 何回こんなくだらねえ凡ミス繰り返しゃ気が済むんだ!?」


 イラ立ちを隠そうともせず、タツヤは答えた。


「いや、だから。その凡ミスがどれかって聞いてるんスけど」

「どれだぁ!? 見りゃわかるだろうがボケナス!! タイヤ! お前これ逆じゃねえか! 素人でもわかるように矢印書かれてるっつーのによ!」


 そう言われ、先程自分が取り付けたバイクの前輪を注視する。


「は? ……あーホントだわ。すんません。すぐ直しますんで」


 そのまま作業に取り掛かろうとするタツヤの肩をフミノリが掴む。


「おい、待て。なあ? なんか言うことあるんじゃねえか?」


 振り返りもせずタツヤは返す。


「……謝ったじゃないスか」


 その態度、声色が気に障ったらしく、フミノリはますますヒートアップする。


「あァ? 謝っただあ? お前なぁ……! 今月入って! 何回! 凡ミスやらかしてんだ!? って聞いてんだよ!! なあ!? 謝ったとかどうとかじゃねんだよ! 何回だって、聞いてるんだよタコ!!!」

「……さあ? いちいち数えてないんで。もういいスか? 時間の無駄なんで。俺は早くコレ直したいんスよ」

「ふざけんなよクソガキ……! そもそも手前ェが」

「俺がなんだよ? なぁ?」

「あ!?」


 今度は、タツヤの方が怒りを露わにした。作業をしようとしていた手を止め、フミノリの方へ顔を向ける。


「さっきから黙って聞いてりゃよお……。いい気になりやがってクソジジイ……!」

「なにぃ!?」

「このクソ暑いっつってる世の中で! 冷房の一つも導入しねえで! 挙句に休みも寄越さねえで! 毎日ッ残業残業で! そりゃあ仕事にも身が入らねえよ!!! この7年! ずっと我慢してきたけどよ!!! このご時世で今時残業代も付かねえボーナスも出ねえ、挙句に休みも寄越さねえなんて会社がどこにあるんだよ!? なぁ!?」


 タツヤは溜まりに溜まっていた怒りをぶつける。しかしフミノリも負けじと返す。工場の外の蝉の声が聞こえない程両者の声は大きく、工場の外の気温を超える程の熱量で互いに罵声を浴びせ合う。


「人聞き悪ィこと言うな、残業代なら付けてるじゃねえか! ボーナスだってもうちっと仕事が入りゃ出してやれるんだよ! 手前ェは忙しいって言うかもしれねえがな! そりゃあ手前ェの効率が悪りぃだけだろう!! ホントならもっと仕事入れられるんだよ!!! それを手前ェのこと棚に上げといて、言うに事欠いてこの俺に向かってクソジジイだと……?!」

「残業代なんてついてねえじゃねえか! デタラメ言ってんじゃねえ! 明細に穴開くほど見つめたって書いてやしねえ!!!」

「つけてあるんだようるせえな!!!」

「じゃあどこに書いてあんのか言ってみろや! 明細ならここにあるからよぉ!」

「んなもん一々書かねえっつってんだよバカ野郎! 見りゃわかるだろうが!」

「なにいきなり開き直ってんだボケジジイ! いい加減にしろ!!!」

「いい加減にするのは手前ェだクソガキ!!!」

「ふざけんなよ……! やってられっかこんなトコ……!」

 

 激しい口論の末。タツヤは工具をその場に放り、着ていたツナギの上を脱ぎ始めて自分のバイクの方へ歩いて行く。


 その背中にフミノリからの怒声が叩きつけられる。







「おうおう出て行け出て行け! 明日っからもう来なくていい!」






 タツヤは、頭の中が真っ白になった。激しい怒りから頭に血が上り、怒気のみが支配していた脳が冷えていくのがわかる。そして、思考が纏まらなくなり……。

 タツヤは無言で自分のバイクに跨ると、工場を。自分の元・職場を後にした。






 そこから先、どこをどう走ったのかは覚えてなかった。ただ、闇雲にバイクを走らせていた。気が付くと辺りはすっかり暗くなっており、いつの間にか街灯も無い道に迷い込んでしまっていたらしい。彼は自分が今どこにいるのかがわからなくなってしまっていた。


「マジかよ……。この歳で、しかも地元で……迷子って……」


 誰に言うでもなく呟く。なんとか知ってる道に出ようとバイクをUターンさせようとしたとき。


「あ」


 エンジンが止まった。


「嘘だろ……?! こんなとこで……。勘弁してくれよ全く……!」


 セルを回してみるも掛かる気配はなく、しかし電気系統に異常がないのがわかった。ガス欠を疑い、リザーブに切り替えて難を逃れようとしたが……既に切り替えられていた。つまり、完全なガス欠。バイクを押していく以外に方法がない状態だった。


「ありえねぇ……。サイテーだ…………!」


 キーを捻って電気を消し、バイクから降りて押し始める。押して初めて分かったが、どうやらここは軽い上り坂らしい。よって、バイクの重さが少し増した状態での移動。日が沈んだ夜とは言え、熱をたっぷり吸収したアスファルトはまだ暖かい。下からの暖気、ヘルメットに籠った熱気、重いバイクを押すことによる疲労、連日の仕事の疲れからくる虚脱感。それら全てがタツヤの敵となり、その身体に襲い掛かった。そして、そんなタツヤにとって。たった今視界に入って来た自動販売機は、まるで砂漠のオアシスのようだった。







「……ぷはっ! あ゛~~~ッ! 生き返るゥ~~~~!!!」


 自販機で買ったコーラを、ぐいと飲んで一息つく。よく冷えた炭酸が身体に染み渡るようだった。

 しかし、事態はなにも変わっていない。依然バイクはガス欠であり、自分が今どこにいるのかはわからない。携帯で地図を出してみようとしたが、どこかに落とした、或いは置いてきたのだろうか……ポケットの中には入っていなかった。で、あるならば。やはり歩き続けるしか無く、その結論に至ったタツヤは名残惜しそうにコーラの缶をくずかごに入れると、再びバイクを押し始めた。







 しばらくして。どこか、見覚えのあるような場所に着いた。暗くてよくわからないが、子供の頃に来たことがある気がする。バイクのスタンドを立て、辺りを見回してみる。具体的な場所まではわからないが間違いない。タツヤはこの場所に来たことがある。それを確信した。

 その理由は────彼の目の前。古ぼけた『ガード下』にあった。昼間であってもどこか不気味な雰囲気を持つであろうこのガード下を、子供の頃の自分はたしかこう呼んでいたはずである。


 『妖怪トンネル』と。


 詳細は覚えていないが……。子供の頃『夜中の2時49分に通り抜けると不思議なことが起こる』と聞かされたような記憶がある。

 誰からの情報なのか、そもそもいつぐらいの話なのかもわからないが。それでも、今自分がいる場所の手掛かりにはなるだろう。改めて『妖怪トンネル』を観察する。そして、ふと。なんの気なしに、自分の左手の時計を見る。


「2時47分……」


 今はそれどころでは無いのはわかっている。それでも。気になってしまう。その『不思議なこと』とはなんなのか。いや、起こるはずはないのだ。科学的に考えれば。ありえない。だが。だからこそ、好奇心が。噂の正体を見てみたいという気持ちが生まれてくる。

 結果、タツヤは『妖怪トンネル』を通り抜けてみることにした。噂が嘘であっても『進路方向がたまたまこっちだった』と自分に言い訳するために、愛車も一緒に通り抜ける。


 時計を見る。49分。今だ。そう意を決して、トンネルを通り抜けていく。


 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。と構えてみるも、なにかが起こる気配は無い。しかし、噂は『通り抜けると』である。通ってる最中は何もないのかもしれない。期待、失望、安堵が入り混じった複雑な感情で歩き続ける。そして────ガード下を遂に通り抜けた。


 




 特に変わった様子は見受けられなかった。やはり、所詮噂は噂。と思い直し、再び帰るための知恵を絞る。辺りを見回し、見覚えのあるものは無いか。或いは今いる場所の手掛かりはないか探す。


 特に見当たらず、俯きがちにバイクを押し始める。状況はなにも変わらない。相変わらず街灯は無いし、人通りも無い。これではいつ帰れるのやら。そう考えていると。ふと、視界の端で何かを捉えた。選挙ポスターだ。なにかが引っかかる。なんだろう。その違和感の正体を探るため、近寄って見てみる。

 気が付いた。名前もキャッチコピーも、なんだかフォントが古いのだ。まるで自分が子供の頃に見たポスターのようだった。


「うぅわ……だっせえ……。ウケ狙いかよ」


 タツヤはそこまで言ってから気付く。古いのはフォントだけではないことに。そこに写る男の顔。今じゃもう見ることの叶わない人間だったからだ。


「……そりゃあフォントも古いか。この人も、もう随分前に亡くなったもんなあ……」


 そう言ってタツヤはその場を去る。再び、動かぬ鉄の塊と化した相棒との二人旅を始める。見覚えあるようでないような景色を眺めながら、両腕にかかる重さに耐える。気のせいか、少し涼しくなってきたような気がする。何故だろうか。特に風が冷たいわけでもないし、先程自分がいたところとの違いといえば『妖怪トンネル』を挟んで道が反対側になったというだけだ。


 もしかしてこれが噂の正体だとでもいうのだろうか。だとすれば随分と限定的で、(ささ)やかなものだ。今の自分のような状況でもない限り気付けやしない。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』と言うやつだろうか……。少々残念なような、むしろありがたいというべきか……。まあとにかく、これで少しだけ負担が減った。と、タツヤはほんの少しだけ喜ぶ。


「ついでに今いる場所も教えてくれればもっとよかったんだけどな~」


 と、上を見ながらぼやいた。


 そのとき気付いた。満天の星空に。いつ振りだろうか、こんなに綺麗な空を眺めたのは。


「うおっ!? すっげ!!!」


 思わずバイクを押す手を止める。スタンドを立て、ヘルメットを脱ぎ、改めて空を見上げる。


「ここ20年で空気が汚れたとかなんとか言われているみてーだけどよ……。信じらンねえな……。十分綺麗じゃねえか」


 そう言ってその場に座り込む。一気に疲労が溢れて身体を睡魔が支配する。身を任せてそのまま大の字になって寝転がり、腕を頭の後ろで組んで枕代わりにする。


「この星空の下でひと眠りってのもいいかもな……。また明日。明るくなってから歩くとするかぁ……。」


 大きな欠伸をして目を閉じる。タツヤはすぐに眠りに落ちた。その時だった。




 満天の星空の中、白く尾を引く流れ星があった。
















 ────翌朝。明るく顔を照らして来る太陽の光が眩しくて目が覚める。一瞬、自分が何故こんな所にいるのかわからなくなるが、すぐに思い出す。起き上がって欠伸を一つ。立ち上がって背伸びを一つして、息を吐く。身体も目覚めたようだ。


「さて、と。行きますか……」


 誰に言うでもなく呟いて、バイクを押し始める。腕時計を見ながら考える。いつもなら支度をして食事を摂り、着替えて家を出る頃だろう。が、生憎今日はその必要は無い。なぜならば


「ついに無職か~。なんだかな~。スッキリしたような、そうじゃないような……」

 

 つい先日、クビを言い渡されたからだ。もうあの暑苦しく、薄汚い工場に慌てて行く必要も無いのだ。


「……けっ。上等だっつーの。二度と行くか。あんなクソ会社」


 内心は穏やかではない。昨日の怒りを思い出して心は乱れてるし、そもそも再就職のことも考えねばならない。そんな状況で楽観視できるほどの度胸は、タツヤには無かった。


 とにかく、早く帰ろう。そう思ってバイクを押し始めた、その時。一台の車がこちらに向かって来た。反射的に顔を向ける。視界に入ってきたのは……。


「……っ! マジ!?」


 丁度自分が生まれたのと同じ頃に販売された、有名なスポーツカーだった。タツヤ自身も一時期憧れていたが、人気車両ゆえに値段はどんどん高騰していき、18歳やそこらのこどもには手の届かないシロモノになっていた。そんな憧れの車が、まるで新車の様な()良い状態で走ってきたのだ。驚きを隠そうともせず見ていると、その車がハザードランプを点けて近くに止まった。


「よう、バイクのにーちゃん!」


 中から降りてきたのは自分よりも背の高い──歳は自分より上に見える──がっしりとした男だった。


「あ、どうも。これスゴイっスね!? いくらしたんスか!?」


 幼い頃に憧れた車を前にして興奮を抑えられぬタツヤは、近寄ってしげしげと眺める。その様子を見て男はまんざらでもない表情で答えた。


「お!? わかるかい? 限定モデルだからよ……諸々で大体600くらいかな?」

「600!? やっぱいい値段しますね~!!!」

「おうよ! でもよ、手前ェの欲しいモンくらいよぉ、金に糸目付けねえでどーん! といきてえのが男ってもんじゃねえか!? 俺はそう思うぜ!」


 中古車として考えれば法外な値段と言ってもいい。が、中には1000万円近くにまで高騰してしまってる個体も存在することを考えると、新車並みの状態で新車価格とほぼ同じ()なのはむしろお買い得とさえ言える。



「いや~! いいっスねえ! 尊敬っス!!! 俺も欲しかったんスけどね~……。やっぱ厳しいっス……!」

「落ち込むこと無えよ。お前さんの相棒だって十分いいじゃねえか。俺ぁ二輪には明るくねえからよくわかんねえけどよ。イカしてるぜ、そいつ!」


 唐突に愛車を誉められ、少々照れた面持ちでタツヤも答える。


「へへっ。ありがとうございます! そうなんス! 確かにこのクルマには憧れましたし、今も憧れてますけど、俺にはコイツがいますから!」


 そう言って、改めて自分の相棒に視線を移す。そして、どこか誇らしそうな顔持ちになる。男はそんなタツヤを見て自然と顔が綻んでいた。


「朝から気持ちのいいにーちゃんだぜ! ところでこんなところでなにやってたんだ? 旅行か?」

「え!?」


 痛い所を突かれた。正直に話すかどうか迷ったが。ここは同じ趣味を持つ者同士、ということで正直に話してみることにした。と、言っても。わざわざ迷子になったことまでは言わない。ただ、ガス欠になるのに気付かないほどイライラした気持ちで走り回ってたことを正直に話してみた。


「そうか……。そりゃあ災難だったなぁにーちゃん」

「ええ……。まあ、自業自得ってヤツかもしれませんね。むしゃくしゃしてる状態で暴走行為してたんです。……事故ってないだけラッキーだった、って今は思います」

「ま……そうだな。うん。怪我してねーんならまだいいやな。で? どうするんだ? この炎天下の中、そいつ押して行くのかい?」


 言われて改めて空を見る。日もまだ低い。午前中特有の強すぎない日差しと、そよ風が気持ちいい。これぐらいならなんとかなるだろう。


「はい! 昨日よりは涼しいし、午前中の内になんとかスタンド探してみます」

「……そうか? 昨日とそんな変わらねェ気がするが……、大丈夫か? こっから一番近いスタンドでも、その状態なら1時間近くかかると思うぞ? お前さんさえ良ければ、俺の車に乗ってガソリン買ってここに戻ってくればいいんじゃねえか? 携行缶だって貸してやるし」

「え!? いや、そんな、悪いですよ!」

クルマ(コイツ)が繋いだ縁だ。良いってことよ。乗んな。」

 

 思わぬ事態になったがタツヤはこの好意に甘えることにし、愛車を路肩に停めて助手席に乗り込む。意外なカタチで『憧れのクルマに乗る』という夢も達成されたことになる。ガソリンスタンドには20分程でたどり着いた。





 借りた携行缶にレギュラーガソリンを5L程入れてもらう。それで十分だろうし、財布の中も少し寂しかったからだ。だが……。


「ありがとうございました。では5Lですので495円になります。」

「え!?」

「はい?」

「……いえ、なんでもないです」


 予想以上に安かったので思わず声を出して驚いてしまう。1L当たりの値段表示を見ると…………99円とあった。


「……やっす……」


 タツヤの記憶が正しければ、この10年、100円代を下回ったことはない筈だし、特にここ5年間なんて150円近くを行ったり来たりしていた筈だった。それが、随分と安くなってしまったものである。無論、悪いことではないが。しかし、まるで夢の中のような話である。『ひと昔前のようなデザインの選挙ポスター』『幼い頃自分が憧れた、新車のようなスポーツカー』『ありえないほど安いガソリン料金』……。全部『妖怪トンネル』を通り抜けてから起こっていることだ……。そして、思い出す。噂を。


『夜中の2時49分に通り抜けると不思議なことが起こる』


 自分は昨日。通り抜けた。指定の場所を指定の時間に。そんなことを考えていたが、男に呼ばれ現実に引き戻される。携行缶を持って再び助手席に座る。なにか、嫌な予感がした。



 道中のラジオで聞くCMも、有り得ない程安い価格の物品の宣伝や、今や流行らぬ商品の宣伝ばかりだった。



 二人は先程の場所に戻り、タツヤのバイクにガソリンを入れていた。ガソリンを入れ終わるかどうかというタイミングで、タツヤは意を決して男に聞いてみた。


「すんません。今って西暦何年でしたっけ……?」

「ん? なんだぁ? 急に?」

「いえ、すいません。なんか、急に気になっちゃって」

「いや、いいけどよ」


 この後、男は特に気にもせず。当たり前のことを言った。それだけだ。しかし、タツヤにとっては違った。耳を疑い、否定したかった。しかし、先程のスタンドを出る瞬間に視界に入ってきた広告や看板。ラジオで流れるCMで、心のどこかで。もしや、と思ってしまっていた。だからこそ。男の一言は。タツヤに重く響いた。
















「今は西暦1999年。来年にはいよいよ2000年(ミレニアム)だ。世間じゃあ大騒ぎだぜ? 色々とな」















 どうやら、噂は本当だったようだ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ