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what それを知ったら殺される

作者:

「ありがとうございました〜!」

汗まみれの配達員から受け取ったのはフリマアプリで購入した例のブツだ。


なにかしら含みがある言い方をしたのはいいが別にたいそうなものではない。

高評価の多かった出品者から彼女に頼んで購入してもらった新品のスマホだ。

なぜ彼女に代わりに購入してもらったのかというと単純明快。俺がスマホを失くしてしまったからだ。


「あーやっと届いた」

失くしたというと語弊があるな。

俺が失くしもののドジっ子みたいになる前に訂正しておくと、「盗まれた」が正しい。

あの日彼女とのデート帰りに電車でスマホを握りしめてうたた寝をしていた俺もいけなかったんだが、そんな俺の手からスマホを抜き取り奪い去っていった輩がいるらしい。

気づいた時にはもう手遅れ。

急いで最寄り駅の交番に駆け込んだが更に手遅れ。

スマホ程度盗まれたところで動かないのがこの国の警察だ。


「あ〜そうなんですね〜。被害届出しますか〜?」

出すに決まってんだろ!と、怒鳴り散らかしたかったがそこまでの度胸は俺にはなく

「お、お願いします…」

それにしたって実際に事件が起きているにも関わらずそれ相応の対応をしない警察が「税金泥棒」と言われてしまうのは仕方のないことだ。

まぁ今回は「税金泥棒」ではなく「携帯泥棒」だけどな。



ということで早速届いたスマホを開封といこうか。

今回買ったのは俺が盗まれたスマホと同機種の最新スマホ。その値段なんと約20万円。彼女が10%クーポンとポイントを使ってくれて結局19万5千円だったか?

トータル約39万5千円の出費。

借金はないもののあれこれ使うのに取っておいた貯金がほぼぶっ飛んだ。

「ぜってぇ犯人ゆるさねぇ…」

と、嘆いたところでスマホが戻ってくるわけでもなく今後も確実に見つからないだろう…

あのスマホは今頃それこそフリマアプリとかに流されてるんだろうな…

とりあえずはガムテープを剥がすことから始めよう…


ビリビリと音をたてて開けたはいいものの

二重にガムテープで段ボールの封を閉じてあった。

こんな時は中身を傷つけないようカッターの方が手っ取り早いがカッターが俺の家にはない。

基本的になにも無い部屋。だから家デートする時はいつも彼女の家。彼女の家にはなんでも揃っている。

カッターもあればハサミもある。このような段ボールに梱包された郵便物など容易に開封することができるのだが…俺の家にはなにもないので、俺の手を汚すしかない。


もう無理矢理開封したところでようやく中身の顔が見えた。

「戻ってきてくれたんだね…スマホちゃん…」

段ボールから取り出し、プチプチに包まれたスマホを手に取る。


実は今回買ったスマホは新古品で外箱などに入っていないスマホ本体のみのもの。新品ではないが状態も良さそうだったし、なにより俺が盗まれたスマホは限定モデルで希少だったために新品で同機種のものが全く出回っていなかった。だから新品ではないが出品者の評価も高かったのでこいつを買った、というわけだ。


そういえば盗まれたスマホ…若干だが傷が付いていた。

あれは彼女と喧嘩した日。喧嘩というか一方的に怒られた日。デートの約束の時間から遅刻してしまった俺に待っていたのはプンプンと怒る彼女の姿だった。

「すまん…」

謝ったのも束の間

「どうして君ってそうなのかな?」

「これにはわけがあって…」

「どんなわけがあるっていうの?」

「すみません…」

実は泣いている少年や困っている老人がいたわけではなく単純に寝坊してしまった。

言い訳を考えていると彼女の後ろから便所に急いでいるのか会社に呼び出され焦っているのかはわからないが並々ならぬ顔で走ってくるサラリーマンが彼女にボコっとぶつかり倒れそうになった彼女を守ろうと焦り持っていたスマホから手を離しガッと彼女を掴むとその時にはスマホは地面に落ちていた。

ぶつかっていった男は謝りもせずどこか彼方へと走り去っていった。

最新機種、しかも限定モデルを買ったばかりだということをしっていた彼女も、俺も、コンクリートの地面に落ちているスマホを見つめた。そのあとゆっくりとお互いの顔を見て、俺の目からぽつり、と、涙がこぼれ落ちた。


この時傷がついてしまったため、盗まれてしまったスマホには申し訳ないが、正直綺麗になって帰ってくると考えると嬉しかったのもある。盗まれたスマホはもう帰ってこないが…


だから実はワクワクしながら先ほどから届いたスマホを開封している。やはり新しいものは良い。新古品だけど。


ガッチリとプチプチで包装されたスマホとようやくご対面である。走馬灯のようにこれまでの軌跡を思い返しながらようやく届いてから10分ほどでのご対面である。


全ての邪魔な緩衝材を外し終え、いざ手に持ってみる。

手に馴染む。盗まれたスマホと同じスマホだからとても手に馴染む。手に馴染みすぎていると言っても過言ではない。


このザラザラ感もとても心地良く手触りがいい。

そしてこっちのザラザラ感も盗まれたスマホをとても再現している。


「ん?ザラザラ感…?」


おかしい。なにかがおかしい。

盗まれたスマホを新品で手に取った時にはないこの感触。

どこかで体験したことのある感触。

そうあの時だ。俺が地面に落ちているスマホを手に取った時と同じ感触。頬に伝う涙をソっと彼女が拭ってくれた時に手に伝わっていた時の感触。


それと同じなのだ。

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