(8)ほかにも別の世界から来た人たちがいるみたいです。
「……え?」
ここにきて突然の英語に、ゆめは目を丸くする。
「ぴぴぽぴぴぴぴぴ? ぽぽぽぽぴぴぽぽぽぴぴぴぽぴぴぽぽぽぴぽぴぽぴぴぴぴぽぽぴぽぴぴぽぴぽぴぽぽぴぽぴぴぽぽぴぴぴぽぴぽぴぽぽぴぴぽぴ?」
驚いて固まるゆめに、眼鏡の少女はそうこぼして首を傾げる。今度は別の言語で話す。
ニイハオ、qわえsz、ーーーー ・ー・ー・ ー・ー・ ・・ー・ ー・・・。
次々に言葉を変えて、少女はゆめに話しかけてくる。
「わー、最初のでいいです! えっと、First、First、OK!」
ゆめが慌ててそう返すと、少女はにっこりと笑う。
「アイブ、ゴット、イット。ユー、アー、フローム、アース」
「YES、YES!」
少女に地球からやってきたか聞かれて、ゆめはうなずく。ゆめの返答に女性は机の引き出しを開けて、何かを探し始めた。
真面目に仕事を始めた少女に、男性は声をかける。
「ぴぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぴ、ぴぴぽぴぴぽぽぴぽぽぴぽぽぽぴぽぽぴぽぴぽぽぽぴぴぴぽぴぽぴぴ」
引き出しの中のものをひっくり返しながら、少女は男性に言葉を返す。
「ぴぽぽぴぽぴぽぽぽぴぴぴぽぽぴぽぴぴぽぽぽぴぴぽぽぽぴぽぴぽぴぽぴ!」
少女の言葉を受け、男性は今度はゆめを見る。
「ぴぽぴぽぽぽぽぴぽぴぴぽぽぴぽ、ぴぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぴぴぴぽぴ」
「あ、ありがとうございました!」
言葉はあいかわらずわからないものの、どこかに行きそうな雰囲気の男性に、ゆめはばっとおじぎをしてお礼を言う。
男性は気しないでとでも言うように笑うと、部屋を出た。ゆめは軽く会釈して男性を見送る。
「ぴぴぽぴぴぴぴぽぴぽぽぴぴぴぽぴぽぴぽ!」
その背後で少女が声をあげる。顔を向ければ、引き出しの中から何かを引っ張り出すところだった。書類や本などをがっと端に追いやり、空いたスペースにそれを置く。
「プリーズ、テイク、ア、シート」
指を揃えて机の前に置かれたイスを示し、少女が着席をすすめる。
「えっと、OK」
ゆめはうなずき、席に着く。バッグは膝の上に乗せておく。
机の上に置かれていたのは、パンプレットみたいな小冊子だった。表紙の部分にはENGLISHの表記があり、『Welcome to ◆∮≡・♭。⇔』と書かれている。
「レット、ミー、イントロデュース、アゲイン」
少女の声にゆめは顔をあげる。ゆめと視線があうと少女はにっこりと笑う。
「マイ、ネーム、イズ、◉≧∫。アイム、イン、チャージ、オブ、★∮§#★∮≧⁂→、セクション、イン、ディス、ギルド、サンキュー」
「えっと、Thank you very much」
あらためて少女が自己紹介をする。一部聞き取れない言葉はあったものの、やはりこの少女はギルドの職員のようだった。
「アイル、エクスプレーン」
少女はゆめが見やすいようにパンフレットの向きを変え、表紙を開く。
「ディス、タウン、イズ、◆∮≡・♭。⇔、ロケイティド、アット、ザ、イーストターンエンド、オブ、‡∟。∟$▱・∂。$⁂≒」
「はあ、なるほど」
少女がカタコトの英語で説明してくれる。やっぱり国や街の名前はわからなかったが、とりあえずここは東の外れにあるらしいことは判明した。
「ディス、シティー、イズ、オン、ザ、ボーダー、アンド、イッツ、ビジテッド、バイ、ピープル、ライク、ユー、フローム、タイム、トュー、タイム」
「へー、そうなんですね。えっと、Is that so」
少女の言葉から察するに、どうやらここは世界の境界にあるらしい。ゆめと同じく別の世界から来ている人もいるようだ。それがわかり、ゆめは今までの周囲の反応に納得する。
「プリーズ、シー、ディス、ブロージャー」
少女はパンフレットを閉じるとゆめに手渡してくる。
「ありがとうございます。Thank you」
お礼を告げつつ、それを受け取る。ぱらぱらとめくってみると、写真やイラストはあるものの、全文が英語で表記されている。
「……あとでスマホで訳せるかな。あ、でもここじゃ電波なかった」
パンフレットを見てそうこぼしつつ、まあ、なんとかなるかとバッグの中にしまう。
「ゼン、レット、ミー、ガイド、ユー」
どこかへ案内してくれるらしい少女はそう言って、机の端に追いやったメモ帳を手に取る。ペンを持つと何か書きつける。
「それは? What is that?」
「イット、イズ、ア、マジックツール、フォー、トランスミッション。オールライト、レッツ、ゴー」
ゆめの問いかけに少女はそう答える。詳細はわからないが、何かを伝えるツールではあるようだ。
少女はペンを置くと机の前に出てくる。ゆめが席を立つのを待ってから、ドアに手をかける。ゆめが後ろまでやってきたのを確認すると、ドアを開けて部屋を出た。
ギルドを出て、少女に案内されるまま大通りを歩いていく。
「ウィー、アー、ゴーイング、トュー、イントロデュース、ユー、トュー、ザ、コミュニティ、オブ、アース」
「なるほど、地球のコミュニティーですか。えっと、That‘s right」
歩きながら少女が伝えた内容にあいづちを打つ。途中何度か道を曲がりながら先を進む。
「そういえば、どうして英語を話せるんですか? えーと、How do you speak einglish?」
「マイ、マザーズ、フレンズ、アー、フローム、バリアス、カントリーズ、アンド、フローム、オール、オーバー、ザ、ワールド」
ゆめが聞けば、そう言って少女が振り返る。
「ザ、マザー、フー、スピークス、イン、ザ、ランゲージ、オブ、イーチ、リージョン、イズ、クール。アイ、ロングド、フォー、サッチ、ア、マザー」
そこまで言うと小さくはにかむ。
「アイ、アム、スティール、スタディーング」
少女がカタコトながらも英語を話せるのは、母親の影響もあるらしい。照れながらも、素直に母親に憧れていると話す少女にゆめは深く感心する。
「わー、素敵ですね。えーと、It's so good!」
ゆめの返しに、少女が一瞬言葉を詰まらせる。ば、と視線をそらして前を向いた。
「ヒア、イット、イズ」
「あ、待ってください!」
急に先導する少女がスピードを上げたので、慌ててゆめも後に続く。
細い路地を抜け、エバーグリーンのトンネルを抜ける。そのまましばらく進んでいくと、一軒の家が見えた。
レンガの壁は一面がアイビーグリーンの蔦に覆われ、窓辺には白い花が飾られている。
少女は真っ直ぐその家に向かう。家の前まで行くと、とんとん、とドアをノックした。
「ぴぴぴぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぽぴぽぽぽ、◉≧∫ぽぴぽぴぴぽぽぴぴぴぽぴ」
ドア越しに少女が名乗ると、ややあってからドアが開く。
「ぴぴぽぽぽぴぴぽぴぽぽぴぽぴぴぽぴ」
そう言ってドアを開けたのは、モデル張りに背が高く、スタイルの良い女性だった。カールがかった長いボルドーの髪は、首横の低い位置で一つにまとめている。
女性は少女の後ろにいたゆめを見る。
「ぴぴぴぽぽぽぴぴぴぴぴぴぽぴぽぽぽぽぴぴぴぽぴぽぽぴぴぽぴぽぽぽぽぴぽぴぽぽぴぽぽぽぴぴぴぴぴぴ?」
「ぴぴぴぽぽぽぴぽぴぽぴぴぽぽぴぴぴぽぴ!」
少女の返答を聞いた女性は、ゆめと視線を合わせると、にこりと笑いかけてくる。
「welcome, nice to meet you」
流暢な英語でそう言うと、手を差し出してきた。