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(7)どうやらギルドに来たようです。

 がたごとと車体を揺らして馬車が通り過ぎる。ただ、荷を引く馬は足が八本ある。

 別の馬車が横を抜ける。その馬車を引いているのは、ダチョウをさらに一回り大きくしたような鳥だ。

 にぎやかな大通りを男性と並んで歩いていく。


 街道から続くモルタルで塗装された大通りには、コルクやパールグレイの石畳が敷き詰められる。ゆめは落ち着きなくきょろきょろと首を巡らせる。


「わー、あそこって酒場かな。昼間からすっごいにぎやか! あ、あっちは道具屋さん! ポーションとかって本当にあるのかな」


 興奮気味なゆめに男性は小さく笑い、ゆめのペースにあわせてゆっくり道をゆく。

 時折道の先を示して男性は何か話しかけてくる。それにゆめは適当なあいづちを打つ。街並みを観察するのに忙しく、ついつい生返事になってしまうものの、男性は気にする様子はない。


 大通りの両脇には、シャモアやエクルベージュなどのレンガで作られた建築物がぴっちりと隙間なく並ぶ。通りを囲う家々は色の違いはあるものの画一的で、統一感がある。

 そのどの家も窓の外にも、色とりどりの花が飾られている。


「はー、すっごい……」


 妙に角張った建物を見上げる。バーントシェンナの屋根が陽の光を受けて白く縁取られている。

 通りを見学しながら歩いていると、ひときわ大きな建物が目についた。


「あれは?」

「ぴぴぽぴぴぴぴぴぽぴぴぴぴぽぴぽぽぽぽぴぽぴぽぽぽぽぴぽぴぴぽぽぽぴぽぽぽぽぴぽぽぽぴぴ」

「えーと、はあ」


 ゆめの視線に気がついたのか、男性が何か教えてくれたが言葉がわからない。ゆめはあいまいにうなずくと、見えてきた建物を観察する。


 高さはほかの建築物とそう変わりはないが、横幅が広い。素焼き瓦の屋根は、少し前に出っ張った入り口部分だけ丸みを帯びている。


「えー、なんだろう」


 ほかの店とは違い、イラストの看板はなく、入り口の上にプレートが掲げられている。そこに文字が刻まれているが、ゆめには読めなかった。

建物までたどり着くと、入り口の段差を前に男性が手を差し出してくる。


「あ、ありがとうございます……」


 遠慮がちにその手を取り、小さな段差を上がる。

 ゆめが上まで来ると、男性は木製のドアを開ける。そのドアを押さえながら、ゆめを中にうながす。


「すみません、ありがとうございます」


 重ねてお礼を言って、中に入る。オーク材の床を踏みしめ、顔をあげる。


「わー」


 その光景に思わず声が漏れる。

 建物の中はがらんと広い。正面奥にはカウンターがあり、その奥には事務所のような空間が広がる。カウンターの上にはプレートが提げてあり、長い列ができている場所もある。

 壁際には掲示板が設置され、何色かの紙が貼られていた。


「もしかして、ギルドってところかな」


 興味津々で周りを見るゆめを優しく見守っていた男性は、ギルドの左奥を指し示すとゆっくり歩いていく。ゆめもその後を追う。

 その間も男性は様々な人に話しかけられては言葉を交わしていく。その様子を横目で見ながら、あらためて建物の中を見回す。


 ギルドの内部は三分の一が酒場となっているようで、騒がしい声がここまで届く。

 カウンターの中の事務所も慌ただしく、ばたばたと走り回る人が見える。


「わー、すごい」


 きょろきょろと周りを見回しながら、ギルドの端までたどり着く。そこには上へ続く階段がある。

 差し出された男性の手にそっと自分の手を添えて、階段を上っていく。


 一階と違い、二階は途端に閑散としている。一つのドアを指さして先導する男性を追いかけ、ゆめも廊下を歩いていく。

 目的のドアの前にたどり着くと、軽くノックをして押し開ける。


「おー」


 窓から白い光が差し込む室内は明るく、ヘーゼルブラウンの木材で揃えられた調度品はつややかだ。

 壁際にびっしりと並ぶ本棚には本が積み上げられ、時々書類がはみ出ている。


 部屋の中心には机とイスが置かれている。机にも書類や本やメモ帳など様々なものが積み上げられ、そこに埋もれるように少女が伏せっていた。


 男性は静かに寝息を立てる少女の肩を、とんとん、と叩くと声をかける。しかし少女は起きる気配がない。

 何度目かの呼びかけで、少女ははっとなって立ち上がる。


「▱∬$*ぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽ、ぴぽぴぴぽぴぴぽぴぽ、ぴぴぽぴぽぴぽぴぴぽぴぽぽぴぽぴぽぴぴぽぽぴぴぴぽぴ!」


 反射的にびしっと背筋を伸ばし、敬礼する。

 少女は机の上から細い銀のフレームの丸いメガネを探し出すとそれをかける。


「ぴぴぽぴぴ、ぴぴぽぴぴぴぴぴ? ≧$∂⁂ぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽ?」


 目の前にいた男性を見て目をぱちぱちさせた。

 雑然と物があふれる部屋で居眠りをしていたのは、細いストライプ柄のネイビーの制服に身を包んだ、高校生くらいの少女だった。

 ハーフアップにしたセミロングのキャメルの髪の間から、とがった耳がのぞく。


 少女はごまかすように一つ咳払いをする。


「ぽぴぽぽぽ、ぽぴぽぽぽぴぽぽぽぴぴぽぽぴぴぴぴぴぽぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぴぽぽぴぴぴぴぽぴ。ぽぴぽぴぽぴぽぽぴぽぽぴぴぴぴぽぽぴぴぽぽぴぽぴぽぴぴぽぽぴぴぽぴぽぽぽぴぽぴぽぽ?」


 少女の言葉に男性はうなずいて言葉を返す。


「ぴぴぽぴぴぴぴぽぴぴ、ぽぴぽぽぽぽぴぴぴぴぽぴぽぽぽぽぽぴぴぴぴぽぴぴぽぴぽぴぽぽぴぽぽぴぽぴぴぴぴぽぽぽぴぴぽぽぴぽぴぴぽぽぽぽぴぽぴぽぴぴ」


 そう言うと、ゆめがいる自分の後ろに視線を動かす。


「ぽぴぽぽぽぽぴぴぴぴぽぴぽぽぽ?」


 少女は机から身を乗り出すと男性の後ろを見る。自分を凝視するゆめと目があった。

 きらきらと目を輝かせるゆめに、少女が首を傾げる。


「エルフだ……!」


 少女を見つめてゆめがこぼすと、なんとなく察したのか男性を見上げる。


「ぴぽぽぴぽぴぴぽぴぽぽぴぽぽぴぴぽぴぽぽぴぽぴぴ、★∮§#★∮≧⁂→ぽぴぽぴぴぽぽぴぴぴぽぴぽぴぽぽ?」


 少女が聞けば、男性は大きくうなずく。男性の反応に、ぱっと少女の顔が華やぐ。


「ぴぴぽぽぴぽぴぴぽぽぽぴぴぽぴぴぽぴぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぽぴぽ、ぴぴぽぴぽぴぴぴぴぽぽぽぽぴぽぽぽぴぽぽぽぽ!」


 少女はゆめをのぞきこむ。にっこりと笑いかける。


「ウェルカム、トュー、◆∮≡・♭。⇔!」


 カタコトの英語で話しかけてきた。

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