(6)ようやく街に到着しました。
「えっと……」
差し出された手と、柔和に笑う男性の顔を交互に見る。
「ぴぴぴぴぽぴぽぴぴぽぴぽぽぽ≧$∂⁂・〓*※⌘。ぴぴぴぴぽぽぴぴぴぽぽぴぽぽぴぽぽぽぴぴぴぴぽぴぽぽぽぴぽぴぴぽぴぴぽぽぽぽぴぽぴぽぽぽぴぴぴぽぽぽぽぴぽぴぽぽぽぴぽぽぽぴぽぴぴぴぴぴぽぴぽぽぴぽぴぴぽぴぴぽぴぴぽぽぴぽぴぽぴぽぽぽ」
そんなゆめに女性がそう話しかけてくる。その雰囲気からして、どうやら男性の紹介をしてくれているらしい。
「はあ、なるほど?」
ひとまずうなずき、あらためて差し出された男性の手を見る。少し悩んでから遠慮がちに手を握る。
「えーと、よろしく、お願いします……」
ゆめの握手に男性は一瞬目を丸くしたものの、すぐに笑顔になる。
「ぴぴぽぴぽぴぴぴぽぴぽぽぽぽぴぽぴぽ!」
明るくそう言うと、がっと手を握り返してくる。
「えっと、あの……」
そわそわしながらゆめが女性を見ると、女性は列から離れるところだった。
「え? どこか行くんですか?」
そのまま列の進行方向とは反対側に歩き出した女性をゆめは慌てて止める。
「イケメンさんと二人とかほんと無理なんで、一緒にいてほしいんですけど」
男性の手がぱっと離れると、女性に駆け寄る。振り返った女性はゆめの不安そうな表情を見て、安心させるようににっこりと笑う。
「ぴぽぽぽぽぴぴぴぽぴぽぽぽぽぽぴぴぴぽぽぽぽ」
ばん、と背中を叩かれた。
「わわ」
よろけかけたゆめを支えると、女性は男性をあごで差す。
「ぴぽぽぴぽぽぽぴぽぽぽぴぽぽぴぽぴぴぽぽぴぴぽぴぴぽぽぴぽぽぽぽ、ぴぴぽぴぽぽぴぽぴぽぴぴぽぽぴぴぽぽぽぽぴぽぴぴぽぽぴぽぴぽぽぴぽぴぴぽぽぴぴぽぴぴぽぴぽぽぽぽぴぽぽぽぽぽ」
女性の言葉に、男性は頬をかいて眉をハの字にして笑う。
「ぴぽぽぴぴぴぽぴぴ、ぴぴぴぴぽぽぴぴぽぽぽぽぴぽぴぽぴぴぽぽぽぽぴぴぽぽぽぽぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぽぴぴぽぽぴぴぽぴぴぽぽぴぽぽぴぽぴぴぽぴぴ」
「はあ」
二人のやりとりはわからなかったが、なんとなく大丈夫と言っているような気がする。ゆめはとりあえず、あいまいにうなずいておいた。
「ぴぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぴ、ぴぽぽぴぽぴぽぽぽぴぴぴぽぴぽぴぴ」
女性は男性に対して何か言ったあと、腰のあたりをばん、と叩く。
「ぴぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぴぴぴぽぴ」
それだけ言うと背を向ける。
「あの、ありがとうございました!」
引き止められないことがわかると、ゆめは去っていく女性の背中にそう投げかける。
女性は少しだけ振り返ると、片手をあげて手を振った。ゆめも女性に手を振りかえす。
「ぴぴぴぽぴぴぴぴぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぴ、ぽぴぴぴぴぴぽぽぴぽぴぽぽ」
しばらくその背中を見送っていると、男性が話しかけてくる。その声に視線をあげて、男性を見る。
「えっと……」
真っ直ぐ目があって落ち着かない様子のゆめに、男性はにっこりと笑う。
指先をそろえて、すっと道の先を示すと、そっとゆめの手を引く。ゆめが列から抜けると、今度は手を添えるかたちに変える。
「あの、みなさん、並んでるんですが……」
そのまま列の先へと導く男性に慌てて声をかける。
ゆめの声に視線を落とした男性は、笑顔でグッドサインを作る。明るく何か話しかけてきたが、内容はわからない。
そのまま男性は、ゆめを先へとうながす。
「えー……。うーん、いいのかなぁ。……まあ、いいってことか」
男性を見上げれば、柔和な笑顔を返される。
少し悩んだのち、ゆめはゆっくりと歩き出す。男性は手を離し、ゆめの半歩前を先導するように歩いていく。
街へと入る門へ向かう途中にも、男性はいろいろな人に声をかけられては、言葉を交わしていく。なんとなくゆめの話題に触れていそうな時は会釈だけ返す。
そうこうしているうちに、列の先頭までたどり着いた。
「わー」
観音開きの門扉の向こうにのぞく景色に、ゆめは思わず感嘆の声を漏らす。
アーチ状にくり抜かれた入り口の先に石畳の大通りが続く。その両脇には隙間なくレンガ造りの建物が立ち並ぶ。
「ぴぴぽぽぴ、≧$∂⁂ぴぴぽぴぽぽぽぽぴぽぽぴぽぴぽぽ」
そこに誰かが話しかけてきた。
「ぽぴぴぴぴぽぴぴ、*∮♭⇔」
聞こえてきた声に男性も声を返す。
そろりと男性の影からのぞきこめば、誰かがこちらに近づいてくる。
「ぽぴぽぴぽ? ぴぴぴぽぽぽぴぽぽぽぴぴぴぴぴぴぽぴぴぽぽぽぴぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽ?」
ゆめに気づいた声の主は首を傾げると男性を見る。
ゆめはその顔を凝視した。
「オオカミだ……!」
そこにいたのは、軍服を着崩した大柄なオオカミだった。二本足でどしりと立つ姿は大きく、長身の男性と並んでもオオカミのほうが、背が高い。
「ぽぴぽぴぽぴぴぽぴぽぽぽぽぴぽぽぽぽ、★∮§#★∮≧⁂→ぽぴぽぽ」
ゆめの話す言葉を聞いて何かを察したのかオオカミ兵がそう言うと、男性もうなずく。
その場で言葉を交わすとオオカミ兵が背を向ける。門の脇にある検問所に向かう。
「えっと」
戸惑いがちに見上げたゆめに男性は笑いかける。手招きをするとオオカミ兵を追いかけた。ゆめもバッグを肩にかけ直すと、そろそろとその後を追う。
検問所まで着くとオオカミ兵は中から書類を取り、男性と簡単なやり取りだけを行う。何か話しながら書類に書き込むと、すぐに門は通された。
開けっ放しになっているスチールグレイの扉をくぐり、アーチ状にかたどられた壁の隙間を進む。
トンネルのようなそこをくぐり抜けると、視界がぱっと開ける。
不意に訪れたまぶしさに、ゆめは手をかざして前を向く。
「わー」
目の前の光景に、思わず感嘆の息をもらす。
石畳が敷き詰められた大通りにはたくさんの人が行き交う。街道を行く人たちと同様に多種多様な人種があふれ、言葉わからないもののにぎやかな喧騒に包まれている。
整然と並ぶレンガ造りの街並みは明るく、店先には時折、お酒や宝石、防具や武具を模したようなイラストが描かれた看板がかかる。
「ファンタジーだ!」
通りを見回し、興奮気味にゆめが言う。
そんなゆめに笑顔をこぼし、男性は大きく手を広げる。
「ぴぴぽぽぴぴぴぴぴぴぴぴぽ、◆∮≡・♭。⇔ぽ」