(23)そういえばお昼ごはんがありません。
「ほれ、着いたぞ」
森の中を風のように駆け抜けて、目的地には早々に到着した。
「よ、と」
アオが足を止めると、オリヴァーは、たん、と飛び降りる。
背を低くしたアオの背中から降りようとしたゆめに、はい、と手を差し出す。
「あ、ありがとうございます」
思った以上に高さに一人では降りられなかったゆめは、遠慮がちにオリヴァーの手を取る。
ゆっくりと地面に降り立った。
「あっちにキノコがあるのー」
アオからゆめの頭の上に戻ってきたミントが、少し離れた木の根元を指し示す。
「えっと、じゃあ、さっそく集めてきますね!」
「俺も手伝うよ」
「ありがとうございます」
たどり着いた場所で、ミントに案内されるままキノコや薬草を集めていく。その場での採取が終わると、アオにまたがって、また次のポイントに向かう。
それを何度か繰り返し、アオのスピードにも慣れてきたころ。ゆめとオリヴァーを背中に乗せたまま、道の途中で不意にアオが立ち止まる。
「どうしたの? アオ」
「……腹が減ったな」
不思議に思ってゆめが聞けば、ぽつりとアオがこぼす。
「たしかに、お腹空いてきたかも」
「ぺこぺこなのー」
自分のお腹に触れてゆめも同意すると、アオの頭の上でミントが力なくふせる。
「もう、お昼を過ぎたくらいか?」
木々の合間から空を見上げたオリヴァーの言葉に、ゆめも顔をあげる。
折り重なるエバーグリーンの葉の向こうから差し込む日差しは、少し傾きかけている。
「そういえば、昼ごはんはどうするつもりだったんだ? ローザからもらったサンドイッチは、アオが食べてしまっただろう?」
オリヴァーがそう言うと、はっとなってゆめは空になったカゴバッグを見る。そこにはサンドイッチにかけられていた布がたたまれて置いてあるだけだった。
「……考えて、なかったです」
視線を落とすと、ばつが悪そうに返す。
「ごはん、ないのー!?」
真っ先に反応したのは、ミントだった。ゆめを振り返って悲壮感たっぷりに声をあげると、ふらふらと頭の上にやってくる。
「ごはんー、ごはんー。おなか、ぺこぺこなのー!」
抗議するように、くいくい、とゆめの髪の毛をひっぱりだす。
「わー、わー、ごめんて。つい、うっかり……」
そう言ってうなだれたゆめは、そっとエコバッグの中をのぞく。
キノコはたくさん集めたが、火がないから調理はできない。それとも、生でも食べられるだろうか。
「ちなみに、このキノコって……」
「オススメはしないな。そのまま食べると、人によっては腹をくだすこともあるし」
「それは……やめときます」
オリヴァーに言われて、エコバッグをのぞいていた顔をそっとあげる。一人ならまだしも、オリヴァーもアオもいる中で、そんな無茶はできない。
「じゃあ、どうしましょう?」
幸い、森の中だから果実もあるだろう。けれど、それだけではお腹を満たすまでにはいかない。
「……うむ。要するに食べるものが、あればいいんだな」
悩むゆめに、アオはそう言うと、だん、と一気に踏み込む。
「どこに行くの?」
「まあ、任せておけ」
ゆめの問いかけにそれだけ返すと、さらにスピードを上げて再び駆け出した。
エバーグリーン、フォレストグリーン、スプルース、流れる緑をぐんぐん追い越していく。
風になって森を駆け抜けていくと、ふ、と強い日差しが差し込んできた。
いつの間にか森を抜けた先。目の前に飛び込んだのは、サンドベージュの砂浜と、アクアマリンにきらめく海。雲ひとつないスカイブルーの空。
ゆめが最初に訪れたのとは違う、海の風景。
「わあ……!」
ゆめは広がる海を見渡して感嘆の声をもらす。こちらの海は波がおだやかで、色が濃い。
「ほれ、着いたぞ」
アオは海の近くで止まると身を低くする。
「こっちにも、海があるんですね」
先に降りたオリヴァーの手を借りて、ゆめは砂浜に足をつける。
「ここは半島の中にあるからね。三方を海に囲まれているんだ」
「そうだったんですね」
うなずきながらも、ゆめは周囲を見回す。
天頂から少し傾いた太陽が、おだやかな波間を白く照らしている。ゆるゆると揺らぐ碧色の海はとても静かだ。
「ここなら、いくらでも魚が獲れるだろう」
「確かに。この海はとくに種類も豊富だし」
アオの言葉に、オリヴァーも同意する。
「なるほど。果実やキノコよりもお腹にたまりそうですしね」
「お魚、食べるのー!」
納得したゆめの頭の上で、ミントがうれしそうな声をあげる。
「あ、でもどうやって獲りましょう。道具も何もないですが」
「魔法でできないこともないけど、ここは波も穏やかだし、直接潜って獲ってくるよ」
「よし、任せておけ」
メタルプレートの鎧を外そうとしたオリヴァーの横をアオが駆け抜ける。そのまま海に飛び込んだ。
ざぷん、と大きく高く水しぶきがはねる。
「わあ……」
「きらきらなのー!」
はねあがったしずくが、陽光をあびてきらきらと輝く。スカイブルーの空には、小さな虹がかかる。
そのしずくが土砂降りの雨のごとく、どっと押し寄せてきた。
「わあ!」
「ざあざあなのー」
「風よ」
降りしきる海水の雨に向けてオリヴァーが手をかざす。ゆめたちの周りに薄く膜がはられたかのように、雨が避けていく。そのおかげでずぶ濡れにならずにすんだ。
「ありがとうございます。そうだ、それよりアオは?」
オリヴァーにお礼を言いつつ、海を見る。
ざば、と海からアオが早々に出てきたところだった。
「アオ! 急に飛び込むからびっくりしたよ! ……てか、魚、おっきい!」
アオはくわえていた魚をどすん、と砂浜の上におろす。
「ほれ、これでも食べるがよい」




