(21)森で魔獣(?)に会いました。
エバーグリーンの森の中をオリヴァーに先導されて、そろそろと歩いていく。
慎重に森を進んでいくと、道をふさぐようにアイスブルーの巨大な毛玉が転がっているのが見えた。
「なにこれ、なのー」
その毛玉の周りを興味津々な様子で、ミントがくるくると飛んでいる。
何周かしたあとで、何か引っ掛かるものを感じたのか、不思議そうに首をかしげた。
「これは、生き物……でしょうか?」
ゆめも好奇心が抑えられずに、オリヴァーの後ろから顔を出して、毛玉を観察する。巨大な毛玉は、よく見ると呼吸しているかのように、かすかに上部が動いている。
ただの塊だと思っていたそれは、つややかな毛並みのもふもふの塊だった。
アイスブルーの毛並みは、光の当たり具合によっては、白にも銀にも色を変える。
「わあ、すごい、キレイ……」
「危ないかもしれないから、それ以上は近づかないほうがいい」
さらに近づいて謎の毛玉に手を振れようとしたゆめを、オリヴァーが制止する。
その直後に、ごるるるる、という音が地の底から響き、空気を震わせる。
「すごい音なのー」
あまりの爆音にミントは両耳を押さえてゆめの頭の上の定位置まで戻ってくる。
その間も絶えず、ぐごごごごご、ごるるるるる、と地鳴りのような音がする。
「俺が様子を見てこよう」
オリヴァーは毛玉を凝視したままそう言うと、右手に持った剣をすっと構えなおす。
ゆめを背中にかばいつつ、一歩、足を踏み出した。
『……へ……』
その時、頭の中に何かが聞こえてきた。オリヴァーは立ち止まると振り返る。
「何か言ったか?」
「いえ。オリヴァーさんじゃないんですか?」
二人して首をかしげていると、あ、とミントが声をあげる。
「ミント、どうかした?」
「思い出したのー。あのねー」
『はら……へ……た……』
ミントが答えようとしたのと同じタイミングで、息も絶え絶えな声が頭の中に響く。
ついでに、ごごごごごご、と、はい寄るような音も。
思わず、オリヴァーと顔を見合わせる。
ゆめは後ろから、どうやら生き物っぽい、もふもふの塊をのぞきこむ。
少し考えるように上を向くと、そっと前に出る。
「ユメ!」
慌てて止めるオリヴァーに、ゆめは振り返ると困り顔で笑う。
「えっと。たぶん、この子、大丈夫だと思います。あ、すみません。サンドイッチの入ったカゴバッグをもらってもいいですか?」
ゆめの言葉にオリヴァーはいぶかしげにまゆを寄せつつ、カゴバッグに視線を落とす。
「……いや、これは、俺が渡そう」
そう言うと、もふもふに近づいて、持っていたカゴバッグを置く。
ゆめもオリヴァーのあとに続いて、もふもふのそばまで行くと、その場にしゃがむ。
「どうぞ。足りないかも、しれないけど」
ゆめが声をかければ、毛玉の一部がぴくぴくと動き、顔をあげる。ぴん、と三角の耳がたったその顔は、犬のようにも狼のようにも見えるが、別の動物のようにも見える。
ゆっくりとまばたきをしたあとで、アーモンド型のインディゴブルーの瞳が、ゆめを捉える。
「……これが、魔獣ですか?」
まっすぐに自分を見つめるインディゴブルーの瞳に、ゆめはオリヴァーを見上げる。
オリヴァーは警戒したまま、探るように目を細める。
「いや。こんな魔獣は図鑑でも見たことがないな。フェンリルやシルバーウルフにも似ているけど、顔つきが違うし……」
ややあってから、ゆめの言葉にそう返すと首を振る。
魔獣は丸めていた身体をそろりと起こす。立ち上がったその体は、中型トラックほどの大きさがあった。
「わあ。すごい、おっきい」
その姿に、思わずゆめがこぼした横で、魔獣は、ぐい、と大きく伸びをする。
なめらかな毛並みは、太陽の光を反射させて、きらきらときらめく。
やわらかなリーフグリーンの木漏れ日が差し込む中、魔獣の周りに星のような光が舞う。
ゆらゆらとゆったりと揺れるふさふさの長いしっぽから、星が降る。
ほんの少し動いただけなのに、その魔獣の周りだけ、空気が変わったかのような気がした。
首を伸ばし、くんくんとカゴバッグの匂いをかぐ。かぶせてあった布を鼻先で器用に取る。中のサンドイッチを食べはじめた。
はじめは少しずつ食べていたが、次第に食べるスピードが上がってくる。
カゴバッグの中に詰め込まれていたサンドイッチはまたたく間に消えていく。すべて食べ終わると、満足げに口の周りをなめて、鼻先でカゴバッグを押して、前に出す。
「うむ。量はちと少ないが、うまかった。礼を言うぞ。人間」
頭の中ではなく直接告げられた言葉に、ゆめはオリヴァーと顔を合わせる。
「魔獣って、言葉もしゃべれるんですか?」
「いや、いるにはいるけど、このタイプの魔獣では話を聞かないな。それこそ、上位魔獣じゃないと……」
オリヴァーはそう言うと、眉間のしわを深くする。
「ちがうのー。まじゅうじゃないのー」
ゆめとオリヴァーのやりとりに抗議するように、ミントがゆめの頭をぺちぺち叩いて主張する。
「何か知ってるの? ミント」
ゆめが聞けば、ミントはこくこくと大きくうなずく。
「ミントと、ちがうけど同じなのー。たくさん力を持ったようせいが、せいじゅうになったのー」




