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(19)ギルドに来るのは2回目です。

「あれ? 君は?」


 ローザと一緒にギルドに入ると、シルバーグレイの髪の長身の男性が振り返る。


 メタルプレートの簡素な鎧を身につけた、彫の深い顔立ちには見覚えがある。この街に着いた時に、ギルドまで案内してもらった男性だ。


「おはよう。昨日ぶりだね」

「あ、え、えっと……お、おはよう、ございます……」


 にこやかに笑いかけてきた男性に、ゆめはとっさに会釈を返す。


「あら。二人とも、もう面識があるのね」

「ああ、昨日の巡回の時に城門でね。ピアンタから引き継いで、ギルドまで案内したんだ」


 ローザの言葉にうなずきつつ、男性が答える。


「そうだったのね。なら、ちょうどよかったわ」


 そう言って男性に一歩近づくと、ローザはゆめを振り返る。


「ユメ、紹介するわね。こちらは、オリヴァー・ビアンコさん。この街には自警団があるんだけど、そこの団長さんなの」

「ほかにやる人が誰もいないから、とりあえず俺が団長やっているだけだけどね」


 ローザの紹介に男性——オリヴァーは苦笑まじりに重ねる。


「ま、俺のことは気軽にオリヴァーって呼んでくれ。ギルドや街中、城門でも会う機会はあるだろうし、あらためてよろしく」


 オリヴァーはそう続けると、すっと手を差し出してくる。そろそろとゆめはオリヴァーを見上げる。

 人好きのする笑顔のオリヴァーを見て、ゆめは反射的に視線を落とす。


「ゆめ、顔が真っ赤なのー」

「うー、イケメンって慣れてないから……」


 頭の上からのぞき込むミントに小声で返して、そっと深呼吸をする。気合を入れて顔を上げれば、オリヴァーと正面から目があった。


「えと、その、あの……。こちらこそ……よろしく、お願いします……」


 ゆるゆると視線を落としながら、オリヴァーと握手をする。


「あの……すみません。オリヴァーさんと目も合わしたくないってわけじゃないんです。ただ、イケメンな方との接し方がわからなくて……。今までの生活圏内にいなかったから」


 そこまで言うと、視線を戻してオリヴァーを見上げる。


「えっと、ユメ・キウリっていいます。昨日は、ありがとうございました!」


 手を離し、がば、と勢いよく頭を下げるゆめに、オリヴァーはまゆをハの字にして笑う。


「いや、困っている人を助けるのも、自警団の仕事だから。ユメも気にしないで」

「そうよ。それに、オリヴァーはこの街の相談役でもあるの。どんな些細な相談ごとにも乗ってくれるから、ユメも困ったことがあれば、じゃんじゃんオリヴァーを頼るといいわ。もちろん、私やピアンタもね」


 オリヴァーとローザの言葉に、ゆめはそろりと顔をあげる。


「すみません、ありがとうございます」


 笑顔の二人に少しだけほほを赤く染めて、ゆめはまた下を向く。


「それにしても、門番のアルベロから聞いてたけど、本当に俺たちの言葉がわかるんだな」

「はい。えっと、ミント……妖精のおかけで」

「なるほど。妖精、ね」


 オリヴァーの視線が、一瞬だけゆめの頭の上に注がれた気がした。


「あれ? みなさん、おそろいでどうしたんですか? それに、あなたは昨日の!」


 しかしそれを確かめる間もなく、別の声が届く。


 オリヴァーの後ろをのぞき込めば、大きな木箱を抱えた少女が近づいてくる。

 ハーフアップにした髪からは、尖った耳がのぞく。


 そこにいたのは、昨日ギルドで案内をしてくれた少女だった。


「やあ、ヴィオラ。これは、受付の方まで運べばいいかな?」


 振り返ったオリヴァーは少女が抱えていた荷物を取ると、そのまま受付まで運んでいく。


「はい、ありがとうございます!」


 その背中にお礼を告げると、少女はゆめとローザの元にやってくる。


「こんにちは。昨日一日過ごしてみて、こちらの世界はいかがでしたか?」

「景色もキレイで、料理もおいしくて! 薬草集めもミントのおかげでさくさく進んだし、久しぶりにこんなに自然を満喫しました!」

「こちらの世界を楽しんでいただけたようで、安心しました。……あれ? いつの間に、こちらの言葉がわかるようになったんですか?」


 興奮気味なゆめの様子に、にこやかに返したところで、はた、と気づいて目を丸くする。


「えっと、妖精と友達になりまして。あの、そんなことよりも、昨日はお世話になりました! 私、ユメ・キウリっていいます」

「妖精と? それは、すばらしいですね! 私は、当ギルドの迷い人課所属の、ヴィオラと申します。ギルドに来た際は気軽にお声がけください」


 少女——ヴィオラはそう言うと、ぺこりとおじぎをする。ゆめも同じように会釈を返す。


「それで、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「今日はユメの身分証の仮発行をお願いできるかしら」


 ヴィオラの問いかけにはローザが答える。ちらりとゆめに目配せをしてくる。


「あ、これですね」


 ゆめは肩に提げていたカバンから紙を一枚取り出す。


「よろしくお願いします!」


 今朝、コミュニティ―で必要事項を記載してきたその紙をヴィオラに手渡す。

 ヴィオラはゆめから書類を受け取ると、さっと確認する。


「はい、確かに。細かい確認はあとで、魔道具を使ってきちんと確認しますが、承りました。ただ、すみません。発行まで少し時間がかかってしまうかもしれないです……」


 書類から顔をあげたヴィオラは申し訳なさそうにそう伝える。


「あら、そうなの? そういえば、今日はいつもに増して、ギルド内がバタバタしているわね」


 ヴィオラの言葉に、ローザはあらためてギルド内を見回す。

 そのすぐ近くをギルドの職員らしき制服姿の女性が慌ただしく横切っていく。


「昨日の夜に、見慣れない魔獣がこの街の近くに現れたらしく、現在、調査中でして。迷い人課の私も駆り出されている次第なんです」

「その関係で、自警団にも要請が出てて、俺もギルドで聞き込みしてたんだ」


 荷物を届けて戻ってきたオリヴァーもそう続ける。


「そうだったのね」


 ヴィオラとオリヴァーの話に、ローザはまゆを寄せる。


「あの、でも、本日中にはお渡しできると思いますので!」

「ああ、それはとりあえず発行さえしてくれれば、大丈夫よ。……それにしても、今日もユメに森での薬草採取をお願いしようとしていたのだけれど、変えたほうがいいかしら」


 慌てた様子のヴィオラにそう返すと、小首をかしげる。


「なるほど、そういうことでしたか。そうですね、今日はやめておいたほうが無難かもしれません。今まで魔獣による人や動物への被害報告はありませんし、多くの魔獣の出身地でもある魔王国との和平条約もあるので危険はないとは思うのですが、一応……」

「そうよね……」


 ヴィオラの返答にローザは困ったように、ほほに手を添える。


「えっと、それじゃ、今日は何をしましょう?」

「キアロの畑はまだ時期じゃないし、チェレステの工房とは調整中だし、他にないわけではないけれど……」


 ローザを見上げたゆめに、悩ましげに考えこむ。


「それなら、俺が一緒に森に行こうか?」


 三人の様子を見て、オリヴァーが提案してくる。


「他にないわけではないって言うけど、急に別の仕事ってなるとそれを手配するローザも大変だろう? それに、もともと森には調査で向かうつもりだったしね」

「なるほど! オリヴァーさんが一緒なら、安心ですね!」


 その提案にヴィオラは、ぽん、と手を叩くと大きく頷く。


「いや、オリヴァーさんのお手をわずらわせるわけには……」

「あら、いいじゃない」


 たじろぐゆめに、ローザはにっこりと笑いかける。


「この街で暮らすなら、オリヴァーとは仲良くなっていたほうがいいわ。会う機会も多いだろうし」


 結局は、ローザに押し切られて、本日の薬草採取はオリヴァーと行くことになった。

 薬草採取とあわせてキノコの採取も依頼され、サンドイッチの詰まったカゴバッグを受け取ると、オリヴァーとともに森に向かった。

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