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(16)これが異世界版のハンバーガーセット(自作)です。

「ここはね、グランマのお気に入りの場所の一つでもあるんだけど、この街のオススメの観光スポットでもあるの」


 見晴らし台のようになっている坂道の先、眼下には明かりの灯る街並みが広がる。

 太陽が沈んだインディゴの空には、ちかちかと星が瞬いている。小さく、波音が聞こえた。


「昼間の景色もキレイなのよ? 街の向こう、森の先に海があるんだけど、天気がいいと、よく見えるの」


 ローザは高台に出ると、落下防止用に立てられた柵の前にあるベンチに座る。


「ユメも、早くこっちにいらっしゃい」

「あ、はい!」


 声をかけられて、ベンチに駆け寄ると隣に腰かける。


「このベンチはね、グランマと私の特等席だったの」


 ローザはそう言うと、持っていたジュースを慎重にベンチに置く。


「それじゃあ、さっそく作りましょうか」

「作る?」


 聞き返しながら、ゆめは持っていた紙袋をベンチに下ろす。


 ローザは魔法で出した水で軽く手を洗うと、パンの入った紙袋からバンズを取り出す。ゆめも水を分けてもらって手を洗ってから、同じようにバンズを取る。


「まず、これをだいたい半分くらいで割ってね。本当はナイフでもあればよかったんだけど、まあ、手でも大丈夫」

「はあ、こうですかね」


 言われるまま半分くらいにバンズを割る。その間に、ハンバーグステーキ、レタスとトマトを乗せる。ここまでくれば何を作ろうとしていたのか、ゆめにもさすがにわかった。


「ハンバーガーだ!」

「ええ、グランマ直伝のハンバーガーよ。……と言っても、全部屋台で買ったものだけれどね」


 仕上げに、とローザは懐から出した小瓶のソースをかけて、バンズで挟む。ゆめのハンバーガーにもソースをかける。かすかにニンニクの香りがした。


「おいしそうなのー」


 頭の上から声がして顔をあげる。オレンジジュースを飲み干したミントが、紙コップを揺らしながら目を輝かせてハンバーガーを見つめている。


「……すみません。ミントの分にもう一つずつもらっていいですか?」

「これを渡してあげて」

「わーい、ありがとうなのー」


 ローザが答えた途端、ぱっと手元からハンバーガーが消えた。入れ替わるように出現した紙コップに、目を丸くする。


 その反応にゆめはミントを見上げる。ミントはハンバーガーを体いっぱいに抱え込み、バンズからはみ出た肉に、かぷり、とかぶりついている。


「おいしいのー」

「わあ! すみません、ありがとうございます!」


 すでに食べ始めているミントに、ゆめはあわててローザにお礼を告げる。


「気にしないで。もともとそのつもりだったし」


 ローザは二つ目のバンズに手を伸ばすと、空になった紙袋の中にコップを入れる。


「ポテトとジュースもあるから、一緒にどうぞ」

「ありがとうございます。ポテトはまだ、ミントの分もあるからね」

「わーい、食べるのー」


 別の袋からゆめがポテトフライを取り出すや、ミントのそばにぱっと移動する。ポテトの入ったカップがミントの前で、ふわふわと浮かんでいる。


「どっちもおいしいのー」


 ミントは宙に浮かせたカップから器用にポテトを抜き取り、ハンバーガーと交互に食べ始めた。


「すごい! 何それ!」

「どっちもは持てないのー。でもどっちも食べたいのー。だから、がんばるのー」


 驚いて尋ねたゆめに、ミントはバーガーとポテトを食べながら返す。夢中に食べるその顔は幸せそうだ。


 ゆめにはよくわからなかったが、きっとこれもミントの魔法の力によるものなのだろう。

 そう結論づけると、いただきます、と、自分も持ったままになっていたハンバーガーにかぶりつく。


 その途端。口の中にじゅわーっと肉汁が溢れてくる。コショウの効いたハンバーグと、ローザが後がけしたニンニク風味のソースが合わさって、がつんとした香りが鼻を抜ける。


 シャキシャキとしたレタスと、ジューシーなトマトがよくなじみ、ボリューミーなハンバーグの重たさも気にならない。

 何より、肉の味が濃い。


「すごい! おいしい!」


 興奮気味にゆめが声をあげる。お腹が空きすぎていたことを抜きにしても、今まで食べた中で一番おいしいハンバーガーだった。


「でしょう? マイアーレ・ロッソの生乳で作ったチーズと合わせてもおいしいのよ? 今日は売り切れていたから、できなかったけど」

「そのチーズバーガー、絶対、おいしいやつじゃないですか。残念です。……あ、ポテトもおいしい」


 ローザがハンバーガーを食べながらそう話すと、ゆめは肩を落としてポテトを口に運ぶ。かりっほくっとして、ほどよい塩気とオリーブの香りが広がるポテトに、すぐに気分は上昇した。


「オレンジジュースも、すっごい濃厚でおいしいですね!」


 そのままジュースを一口飲めば、さわやかなオレンジが肉やポテトの油を流していく。買ってから時間が経っているにもかかわらず、氷の溶けたオレンジジュースはまったく薄まった気配はない。


「あー、おいしいー」


 しみじみとおいしさを噛みしめていると、ふふ、と笑う声が聞こえてくる。


「気に入ってもらえて、よかったわ」

「はい! とってもおいしいです!」


 笑顔のローザにそう返すと、また、がぶり、とバーガーにかぶりつく。

 肉汁たっぷりのバーガーと、かりっとした塩味のポテト、みずみずしいオレンジジュースは、無限に食べ続けていられそうだ。


 夜の涼やかな空気の中、ローザとの会話も楽しみつつ、にぎやかな時間が過ぎていく。

 全部食べ終わってひと息つくと、ローザに先導されて地球コミュニティのホームでもある、一軒家まで戻った。

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